喫茶月影の幸せひと皿

小坂みかん

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第5話 星空風フルーツパンチ

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 いらっしゃいませ、と店主が声をかけても、その小柄な若い女性はぼんやりと立ち尽くしたままだった。心配そうに表情を曇らせると、店主は女性と視線を合わせたまま小首を傾げた。
「お客様? どうかなさいましたか?」
「あっ、いえっ、ちょっと感動していました」
 女性はビクリと身じろぐと、苦笑いを浮かべてそう答えた。きょとんとした顔で目をパチクリさせる店主に、女性――日向子ひなこは続けて言った。
「ネットの口コミっていうか、噂を見て来たんですけど――」
「噂?」
 オウムのように返しながら、店主は日向子を窓側の席に案内した。すると奥のほうでスパゲティを食べていた初老の男性が、顔を上げて驚嘆した。
「何だい、マスター。〈お食事ナビ〉にでも広告を出したのかい? それとも〈グルメレポ〉にでも評判が載ったのかい?」
「何ですか、それは?」
 困惑する店主に、男性に代わって日向子が椅子に腰を掛けながら答えた。
「飲食店の店舗情報やお客さんからの口コミが閲覧できるネットサイトですよ」
「へえ、そんなのがあるんですか……?」
 もったりとした口調でそう返しながら首を傾げた店主の頭上には、目に見えないハテナがたくさん浮いているんだろうなと日向子は思った。この様子だと、店主はきっとネットというものの存在自体をよく理解していないのだろう。
 店主は気を取り直すと、噂について再度日向子に尋ねた。すると日向子は表情もなく、淡々とした口調で答えた。
「飲食店としての口コミではないですよ。おまじないの方法っていうか、都市伝説みたいな噂です。――賀珠沼町かづぬまちょうっていうところの七曲りの交差点に行くと、どうしても叶えたい願いが叶うとか。変な色をした三つ編みの女性が怪しい食べ物を勧めてくるんだけど、それを食べると驚くようなことが起きるとか」
「変な色……!?」
 店主が愕然とすると、日向子も顔をしかめた。
「全然変じゃないじゃんねえ! 私、あまり詳しくないからアレだけど、それってたしかアッシュ系っていう色でしょう? 今、すごく流行ってるらしいじゃん! それに、店主さん、めっちゃ似合ってて可愛いのに。失礼しちゃうったら!」
 まるで自分のことのように腹を立てる日向子の様子につかの間ぽかんとしたあと、店主はみるみる頬を染めあげて茹でダコのように真っ赤になった。それを見た男性がクックとおかしそうに腹を抱えて笑った。他のお客もクスクスと笑っていて、日向子も一気に恥ずかしさを覚えた。
「あああ、何ていうかすみません! いろいろとごめんなさい!」
「いえ、お気になさらないで。私の髪、生成りの麻布の色によく例えられるんですけれど、今ではそんなハイカラな言い方をするんですね。格好良くて、嬉しいわ」
「や、あの、本当にすみません……」
「いいえぇ。ここはいっときの安らぎを提供する喫茶店ですから、堅苦しいことはお考えにならないで。言葉遣いも何もかも、お楽なように自由になさってくださいな。――お水、お持ちいたしますね」
 店主は優しく微笑みかけたが、日向子はあわあわと取り乱したままだった。水の入ったグラスを手に店主が戻ってきても、日向子は耳の先まで顔を真っ赤にして縮こまっていた。目の前に差し出された水を飲み干してようやく、日向子は落ち着きを取り戻した。
 店主は水差しも持ってきていて、日向子が空にしたグラスに水を注ぎ直した。律儀に感謝する日向子に笑いかけると、店主はグラスと水差しをテーブルに置いて日向子の向かい側の席に腰を下ろした。
「お客様はどうして、噂を目にしたんですか?」
 店主がそう尋ねると、日向子は一瞬硬直した。そしてみるみる表情を失い、何もない暗い目で抑揚もなく返した。
「心がポッキリと折れそうだったんです。だから、藁をも掴む思いで神頼み的なことをしてみようかなって思って。それでいろいろなキーワードでネット検索をかけて、偶然このお店のことを知ったんです」
「そうだったんですか」
「はい。聞いたことのない町名だったから、ルート検索とかもめっちゃ調べまくって。うちから行ける範囲だったから、半信半疑だったけど、じゃあ行ってみようかなと思って。――だから、眉つばだと思っていたのに本当にお店が存在したから、驚きを通り越して感動したんです」
 日向子は小さく笑ったが、それはどことなく皮肉っぽい笑みだった。神頼みをしてみようと思ったとか店への行き方を調べまくったと言うわりには、半ば諦めているようにも見えた。それに感動したと言ってはいるものの、来店時の日向子の様子は、ジーンと来るものがあるとか感慨深いとか、そういうようには見えなかった。
 もう一度、店主は「そうだったんですか」と返した。先ほどよりもゆったりとした、相手のことを思いやるような口調だ。すると、日向子は申し訳なさそうに眉毛をハの字にした。
「あの、ここって喫茶店だから飲食物以外の注文ってできないですよね?」
「え、ええ。基本的には、そうですね……」
 店主は困って日向子と同じような表情を浮かべた。そして小首を傾げて日向子を見つめると、控えめに尋ねた。
「ちなみに、何を注文しようとなさったんですか?」
 日向子は居心地が悪そうにもじもじとすると、恥ずかしそうに下を向いてポツリと答えた。
「網です。本当はタモみたいなのがいいんですけど。茶こしとか粉ふるいとか、そういうのだったら喫茶店でも入手できるかなって。物理的におまじないグッズとしてでもいいし、魔法みたいな感じで精神的なものでもいいから」
「網? なんでまた、そんなものを?」
 日向子は淀んだ瞳で眉根を寄せた。その暗いまなこの奥のほうには、小さいながらも火傷しそうなほどの熱を帯びた光が灯っていた。
「もううんざりなんですよ……! こぼれ落ちたり、失ったりするのは……!」

 これまでの日向子の人生を言葉に表すとするならば、「こぼれ落ち、失う」のひと言につきた。
 たとえば、コツコツと積み上げてきた努力の成果が、ある日突然他人に奪われるのだ。しかもひどいことに、〈努力をしたという過程〉までもが他人のものとなってしまうのだとか。幼いころからそのようなことばかりが続いたため、日向子は〈報われる喜び〉を噛み締めたことはなかったという。また、得られたはずの喜びや自信が手の内から何度もこぼれ落ち失われていくことで、「努力をしてもしかたがない」という悲嘆が日向子の心に塗りつけられた。それでも、日向子は前を向き続けた。よく言えば根気がよく、悪く言うなら諦めの悪いのが日向子だったからだ。
 それでもやはり、日向子は傷ついていた。そんな日向子を癒やしたのはアニメだった。しかもそれは、日向子にとって単に「のめり込むほど面白いもの」というだけではなかった。お話を作り出す原作者や脚本家はまるで神様のように感じたし、それを動画へと作り変えるアニメーターは魔法使いなのではないかと思った。キャラクターに声でもって魂を吹き込む声優や俳優、世界観を如実に再現した主題歌を歌う歌手には感嘆しきりだった。――私も彼らのような、人を笑顔で元気にすることができるすごい表現者クリエイターになりたい。そう強く心に思いを抱いた日向子は、自分が一番得意だった歌でその世界に携わりたいと思った。
 すっかり努力が苦手になっていた日向子だったが、夢を諦めずに叶えていくためにもと根気よく歌の勉強を続けた。おかげで、音楽大学の声楽科に受かることができた。いつもよその家の子と比べてばかりで褒めてくれたことなど一度もない母が泣いて喜んでくれたのが、日向子には嬉しくてしかたがなかった。初めて、「報われたかも?」と思えた瞬間だった。だが、ここでもやはり日向子の身に〈失う〉が起こった。
「日向子さん、あなた、本当にやる気があるの? ちゃんとピアノの音、聞いてる? 全然ピッチが合っていないわよ!」
 ある日のレッスン中、日向子は師匠にそう怒られた。もちろんしっかりと練習はしてきたし、やる気は十二分にある。それなのに、正しい音を発声することが全くできなかった。
 前日まではこんなことは起こっていなかった。日向子はパニックになりながら、大粒の涙を浮かべて師匠に訴えた。
「話し声は聞こえています。でも、ピアノの音と自分の歌声だけがちゃんと聞こえません……!」
 日向子は師匠の勧めで耳鼻科で診察を受けた。結果、耳管開放症と診断された。耳の奥にある耳管というところに異常が発生し、ぼんやりと反響したようにしか音が聞こえなくなるという病気なのだとか。しかも日向子の場合は、ストレスなどの精神的なものが原因かもしれないという。医者からは「うちで処方する薬で様子を見て、それでも改善しないようなら精神科で診てもらったほうがいい」と言われてしまった。――日向子の家はごく一般的だった。なので、日向子の家にとって私立音大の学費は家計を苦しめる最大の要因だった。それでも母は日向子をその大学に通わせたいと思ってくれていたので、日向子は大学に通うことができていた。それでも苦しい状況であることに変わりがなかったので、日向子は奨学金を借りバイトをしながら大学に通った。そういう状態にあったので、もしかしたら「お金と時間を無駄にはできない」と自身を律しすぎていたのかもしれない。そのせいで、大切な〈音〉を聞こうと集中すればするほど、それだけ・・が聞こえなくなってしまうのだろう。
 病院から帰ってきた日向子は悲嘆に暮れながら、寮の練習室でピアノをポーンと鳴らした。やはり、音はきちんと聞こえない。音が耳に届く前に、霧となって消えていってしまう。まるで、水の奥深くに潜って外の音を聞いているような感じだ。
(嗚呼、嗚呼。音が、私からこぼれ落ちていく。私は歌も失うのか……!)
 日向子は今まで以上に落胆し、泣きはらした。症状が安定するまで休学しようとも思ったが、在籍料を支払える余裕もない。中退してしまったら、きっと復学する日は来ないだろう。――そんな状態でも、日向子は持ち前の根気強さを失わなかった。何故なら、日向子にとって〈表現するということをやめる〉ということは、どだい無理なことだったからだ。
 それからの日向子のレッスンは〈筋肉に音を覚え込ませる〉という作業の繰り返しだった。自分では音が聞こえないので「もう少し高く」「もっと低く」などと師匠に指摘してもらい、それを筋肉の動きとして緻密に体に叩き込むのだ。もちろん、音の高低を示してもらうだけではない。どのようにすればピタリと狙った音を出せるのか、正確な音で歌い上げながら感情もそこに乗せていくにはどうしたらいいのかを、今まで以上に肉体的フィジカルな観点からシステマティックに指導していただいた。おかげで日向子は大学卒業が間近に迫ったころには音を取り戻し、その自信から耳管開放症からも解放された。
 しかし得難いものを得た反面、失ったものもいくつかあった。ひとつは、学ぶ時間である。病気を抱えていても歌えるスキルを身につけるために時間を費やしすぎてしまったため、それ以外の様々なことをあまり学べなかったのだ。
 ふたつめは、家族だった。大学院に進めるほどのお金はないが、歌への学びを深めたいと日向子は思った。大学での勉強を通してオペラやミュージカル、演劇などにも興味を持った日向子は、そういう舞台にも出てみたいと思った。なので地元には戻らず大学の近くで就職をして、働きながら勉学を続け、舞台に立つためのオーディションを受けていくことに決めた。それを両親に報告したところ、母に盛大に罵られた。どうやら母は〈音大で学び、音楽の先生になる〉という夢を若かりしころに抱いていたらしく、日向子が音大に入学したのはその夢を代わりに叶えてくれるからだと思っていたらしい。つまり大学受験に受かった際に母が我がことのように喜び褒めてくれたのは、日向子の頑張りを認めたからではなかった。文字通り〈我がこと〉だったからなのだ。日向子は裏切られただの産まなきゃよかっただのと散々なじられた挙げ句、勘当されて帰る場所を失った。

「そんな感じでこの二十数年、私の手の内から何度も何度も、大切なものがこぼれ落ちていって、そして失われていったんです。それでも、私は諦めが悪いから。この道以外を進むのは、私にとって死ぬことと同じだと、そう強く思うから。だから、これ以上落として無くさないように。落としそうになっても、トラブルとか嫌なことを避けて大事なものだけすくい上げられるように。私はどうしても、網が欲しいんです」
 話し終えた日向子は、口を真一文字に強く結んだ。店主は日向子の身の上話に胸を痛めつつも、ふと疑問に思ったことがひとつあった。つらく苦しくて今すぐにでも状況を変えたいのならば、どうして「夢を叶えたい」と願わないのだろうか。それについて尋ねると、日向子は少しだけ笑顔を見せた。
「だって、夢ってものは自分で叶えなくちゃ意味がないでしょ? 誰のものでもない、自分の夢なんだから。だから、〈夢を叶えるそれ〉は自分でやるからいいんです。でも、それを遂行するにあたって支障がありすぎるほど、何かしらがこぼれ落ちて失っていくから――」
「だから、網が欲しいんですね」
 店主が納得すると、日向子も満足げにうなずいた。
 来店してから今までの日向子の言動を見るに、きっと彼女はもとから感情が豊かでよく心が動くタイプなのだろうと店主は思った。しかしこれまでの不運不幸の連続で、マイナス感情ばかり爆発しやすくなっているのだろう。あの瞳の奥に見えた小さいながらも力強い炎も、「諦めてなるものか」という思いだけで燃えているのではない。激しい怒りが燃え盛っていたのだ。いくらもがいても報われきれないことへの、それを自分でどうにかしたくてもできないことへの激烈な怒りが。
 店主は悩みに悩んだ。〈強い願い〉を感じたら受けて立つのがこの店の信条なのだが、店で使用している茶こしも粉ふるいも、この町の商店街で仕入れている何の変哲もない物なのだ。だからもちろん、日向子が望むような素晴らしい効果を持っているということはない。一体どうしたら日向子の願いを叶え、怒りから解放してやれるだろうか。本来の日向子を取り戻させることができるのだろうか――。しばらく考え込んだ店主は、あ、と表情を明るくするとポンと手を打ち鳴らした。
「網ではないんですけれども、日向子さんの要望にお答えできそうなものがありました!」
「本当ですか!? じゃあ、それを是非ともお願いします!」
 身を乗り出して懇願する日向子に、店主は自信たっぷりにうなずいた。そして勢いよく立ち上がると、ぴょこぴょこと飛ぶようにカウンターへと戻っていった。

 日向子のもとに戻ってきた店主が運んできたのは、涼やかな透明のボウルだった。中には黒い液体が満たされていた。日向子は豆鉄砲を食らったような表情を浮かべると「イカスミ?」と首をひねった。店主は笑顔で首を横に振ると、日向子の前にボウルを置きながら胸を張って返した。
「フルーツパンチです」
「それにしては黒すぎじゃない!? もはや黒蜜オンリーでしょ!」
 日向子は仰天して目を丸くした。店主は自慢げに胸を張ると、少しばかり鼻息を荒くして頬を上気させた。
「これ、噂の〈怪しい食べ物〉の中でもお気に入りのひとつなんですよ。作り方を聞いたら、きっともっと驚かれると思います。……まずですね、暗黒物質ダークマターと、それからお神酒みきと――」
「ちょっと待って! 暗黒物質って、食べられるの!?」
 店主の言葉を食うように、日向子は素っ頓狂な声を上げた。店主はそれに答えることなく、楽しそうにニコニコと笑いながら話を続けた。

 暗黒物質と、お神酒と蓮の花の蜜を鍋に入れて火にかけて、じっくりコトコトと煮込んでいく。暗黒物質が酒に馴染んで可視化できるようになり、蜜ともしっかりと混ざりあったら、レモンの汁をひと垂らし。粗熱が取れたら、彗星のガスを使って作った炭酸水を割り入れる。――これで、喫茶月影特製のパンチ酒は完成である。
「というわけで、このボウルの中にはまだパンチ酒しか入っていないんです。でもね、星空を映してスプーンでクルクルとかき混ぜてみてください。――あ、雑念を取り払った、澄んだ心で混ぜてくださいね!」
 言われるがまま、日向子はスプーンを持つと深呼吸をひとつした。そして謎の黒い液体にスプーンを差し入れ、何もない空っぽの頭と心でかき混ぜてみるとどうだろう、滑らかに動かすことのできていたスプーンに何かがコツコツと当たるようになったではないか。混ぜる手を止めてみると、ボウルの中に星空ができ上がっていた。
「すごい……。材料が材料なだけに、宇宙ができちゃった……」
「宇宙も人も、同じく無限の可能性を秘めています。だから、このあなたがかき混ぜて作った宇宙はあなた自身でもあるんですよ。そして、そこに浮かぶ星の数々は、あなたに秘められた可能性や得るべきもの、もしくはもう発揮されているもの、得ているものの一部なんです」
「この、きらきらしたのが私自身……? いや、まさかそんな――」
 日向子は苦笑混じりに店主の言葉を否定しようとした。しかし店主は優しくかぶりを振って、それをいさめた。
 心なしか嬉しそうに日向子は小さく微笑むと、フルーツパンチに視線を移して尋ねた。
「これ、もう食べていいんですか?」
「いいですけれど、食べるのはお星様ひとつだけにしてくださいな。この特製フルーツパンチは、人間のかたには少々刺激が強すぎるんです。だから、絶対にこれは手放せないというものだけをお選びになって」
「なんだ、全部は食べたら駄目なんですか。どんな味がするのか、知りたかったな……」
 日向子は、しょんぼりと肩を落とした。だがそれは「それでは〈今から食べるもの以外の可能性〉を得られないではないか」という失望ではなく、単純に食い気からくるもののようだった。
 店主は思わずクスクスと笑みを漏らした。
「いつか、その〈味〉を知る日がやってきますよ。――さあ、どうぞ、ひとつだけ選んでお食べくださいな」
「じゃあ、この中でどんな星がまたたいているのか、まずは確かめないと。ちょっとお行儀悪いですけど……許してちょーうだいなー」
 日向子は手を揉みウズウズしながら歌うようにそう言うと、スプーンを持ち直してパンチ酒の中を漁った。
 スプーンを再度ゆっくりと動かしてみると、大小さまざまな星が浮き沈みし、暗いボウルの中で赤や青、黄といった彩りを放っていた。日向子はそのひとつひとつを興味深げに眺めていたが、スプーンが重いものを捕えたとたんに目をキラリと光らせた。――それは、月が地球から一番距離が近いときに肉眼で見えるのとちょうど同じくらいと言えばいいのだろうか、大粒のさくらんぼサイズの黄色くて丸いものだった。
「わあ、お月さまみたい! これ、多分、お月さまだよね? 真ん丸で綺麗だなあ。黄桃みたい! 桃みたいに、ジューシーで甘いのかなあ?」
 日向子は好奇心いっぱいの笑顔を浮かべると、それを口に運ぼうとした。店主は驚いて声を上げると、慌てて日向子を呼び止めた。日向子はきょとんとして店主を見つめると、不思議そうに首を傾げた。
「あれ? 食べちゃ駄目でした?」
「いえ、そんなことはないんですけれど、大抵の人が一等星や若い輝きを放つ星を……惑星をお選びになるんです」
「ああ、そっちのほうがパワーがありそうですし、未知の可能性がたくさんっていう雰囲気ですもんね」
「ええ、だから、本当に衛星でいいのかなと、思わず……」
 さしでがましいことをしたと言わんばかりに、店主は申し訳なさそうにうつむいて肩を落とした。日向子はそれを笑い飛ばすと、にっこりと笑って返した。
「だって、これが一番美味しそうだったんですよ。『美味しそう』と感じるってことは、きっとそれが必要だからなんです。……だから、いただきまーす!」
 日向子は迷うことなく、黄色いそれを少しばかりの黒い液体ごと口の中へと運んだ。しかし、もくもくと噛みしめるように顎を動かす日向子の表情は、段々と微妙なものへと変化した。
「見た目の印象と違って、なんか、苦い……」
「溶岩の塊みたいなものですからねえ……」
「あと、ほんのりと甘さを帯びつつも、目がチカチカするような衝撃のあとに心も体もグラグラくるような、そんな気持ちよさと不快感が紙一重な感じでシュワーッと……」
「ああ、それはパンチ酒ですね」
「これがコズミック風味……。私は地球にいながらにして、最後のフロンティアに到達してしまったというのか……」
「あ、お口の中、黒くなっていますよ? お月さまをお食べになったから」
「えええ!? 暗黒物質のせいじゃなくて!? 黄色いものを食べたはずなのに! やっぱり、こんな見た目でも、もとは溶岩――」
 目を白黒とさせ、せわしなく表情を変えながら感想を述べていた日向子だったが、言葉を尻すぼみさせて唐突に押し黙った。どうしたのかと店主が日向子の顔を覗き見ると、日向子は目に涙をみるみると溜めていき、しまいにはそれをボロボロとこぼしながら苦しそうに嗚咽を漏らしだした。
「あらやだ、泣くほどお口に合いませんでした? みなさん、クセになる美味しさだって言ってくださるんですけれど……」
 日向子は首を横に振って〈いな〉を示すと、胸を抑えてうつむいた。そして、絞り出すようにつっかえつっかえ返答した。
「なんか、喉を通って、胃に到達したんだろうなっていう感覚があって……。それから少ししてから、じわじわと胸の奥から熱が……。おかげで体中がポカポカしてるんだけど、胸だけ苦しいくらい熱い……」
「やだ、大丈夫ですか!? お星さま、ひとつしかお食べになっていないのにどうして……」
 うろたえる店主に、日向子はすぐに「大丈夫」とうなずき返した。しかし背中を丸めて縮こまると、つらそうにプルプルと震えだした。もう一度店主が大丈夫かと尋ねると、日向子は吐きだすような勢いで答えた。
「〈優しさが心に染みる〉みたいな、そんな感じ……! すごく、優しいんだよ……!」
 日向子はとうとうテーブルに突っ伏すと、声を上げてワンワンと盛大に泣いた。

 それ以来、日向子は月イチで店に訪れるようになった。
 特製フルーツパンチを食べた翌月に日向子が店主にしたのは、「あのあと受けたオーディションに落ちた」という報告だった。
「ワークショップ形式だったんですけど、行ってみたらいわゆる〈お身内〉ばかりで。なので身内外の人は、何をやっても鼻で笑われたんですよ。たとえそれが、どんなに素晴らしい表現をした人であっても」
「あら……。でもそれって、オーディションの意味があるんですか?」
「ねえ? マスターさんもそう思いますよねえ!?」
 心なしかふてくされながら、日向子はスプーンを握りしめた。しかしすぐさま笑顔を浮かべて、楽しそうに話を続けた。
「でも、その〈素晴らしい表現をする人〉とお友達になったんです。まだ駆け出しだけれど、プロの声優さんなんですよ」
「日向子さんの憧れの職業のうちのひとつじゃあないですか」
「そうなんですよ。表現は素晴らしいし、憧れの声優職だし、もう尊敬しきり! 私の歌や演技を気に入ってくれて。褒めてもくれました。それで、『夢を追う者同士、頑張っていこうね』って声をかけてくれて」
 出し抜けに、日向子はニッと笑みを浮かべた。しかし店主が申し訳なさそうな笑顔を浮かべたのを見てすぐに、憮然とした顔をしてテーブルに突っ伏した。
「駄目か。……えっ、ていうか、本当に駄目? 新しく友達ができて嬉しいのに? これ、不合格?」
「合格の際は、レジスターがチンと鳴るんです。それが、お支払い完了の合図です」
 顔を上げた日向子は悔しそうに顔を歪めると、意外と明るい口調で「そっかー! 駄目かあ!」と言いながら再び突っ伏した。――このように毎月何かしらの報告をしにきては、日向子はニッと笑顔を浮かべた。そして沈黙するレジスターに撃ち落とされ、〈とりあえずのお代〉として千円札を毎回律儀に置いていった。
 日向子は報告のたびに、ようやく軌道に乗ったと思ったらあっけなく崩れ去ったとか、せっかく積み上げたものが気づけば他人の手に渡っていたとか、お決まりのパターンで一喜一憂していた。しかし、時折話に登場する〈新しくできた、声優のお友達〉からいい影響を受けているのだろう、日向子の瞳は以前ほどギラギラと怒りで燃えてはいなかった。それでも怒りの炎はしぶとく燃え続け、鎮火するどころか以前のように激しく燃え盛ることもしばしばだった。
 ある日、日向子はいつになくどんよりとした暗い面持ちで店にやってきた。どうしたのかと店主が尋ねると、日向子は無気力な声で小さくポツリと答えた。
「職を失ってしまいました。急な事業転換で人員削減を大幅にするとかで。きちんと業績を上げてはいたんですけど、そういうのは関係なかったみたい」
「それは、堪えますね……」
 表情の動かない日向子の代わりに、店主の眉毛が悲しそうに八の字に動いた。日向子はほんのりと皮肉めいた笑みを浮かべると、ため息混じりにこぼした。
「今回ばかりは努力とか全然関係なくて、本当に運が悪いとしか。ご年配が多くて能力関係なく勤続年数の長い人を大切にする会社だったから、年齢的に転職しやすいだろう若手だけをリストラ対象にしたそうで。――でも急な話だったから、転職活動もままならなくて」
「あら、それじゃあ生活に支障が出てしまいそうですね。大丈夫ですか?」
「あの人が『一緒に住めば金銭的負担も減るから、同棲しないか』って誘ってくれたから、そこは何とかなりそうですけれど」
「あの人って、声優の……?」
「はい。でも、表現関係の活動は、勉強も含めて一旦おあずけですね……。――いつもの、ください。こういうときこそ、しっかり験担ぎしなきゃ」
 そう言って日向子が頼んだのはフルーツパンチだった。もちろんあの特別製のものではなく、ごく普通のシラップと果物で作られたものだ。日向子にとって、ほんのちょっとの〈愚痴混じりの報告〉とたくさんの楽しい雑談をして、そしてレジスターと一騎打ちをして帰るまでに食べる〈験担ぎのフルーツパンチ〉はもはや毎月の癒やしであった。
 しかしこのときを境に、日向子の話は〈愚痴混じりの報告〉ばかりとなった。それどころか「どうせ私なんて」という怨嗟が追加されるようになった。パンチに浸かる黄桃を睨みつけながら、はたまた見つめて泣きそうになりながら「私が食べたはずのお月さまはどこ?」「やっぱりおまじないなんて効き目がなかったんだ」と呟くようにもなった。――残念なことに、フルーツパンチは日向子を全く癒せなくなってしまったのだ。
 とうとう、日向子の瞳から光が完全に消え失せた。怒りを燃料としていたとはいえ燃え続けることができていた〈心の炎〉も、すっかりと消えて炭すら残っていない状態になってしまったのだ。そして気がつけば、日向子は喫茶月影に来店すること自体をやめてしまったのだった。

 日向子が姿を現さなくなってから二年ほど経ったある日、店主は来訪者を出迎えるなり驚いて目を丸くした。――やってきたお客様は、なんと日向子だった。彼女は不健康なほどに太ってしまっていたが、しかし表情はまるで憑きものがとれたというかのように穏やかだった。
「マスター、やだなあ。そんな驚かないでくださいよ。……水瀬さんも、やっほーでーす!」
 日向子が初来店時にスパゲティを食べていた初老の男性――水瀬は目をしばたかせながら、バタバタと手を振ってくる日向子に手を振り返した。
「日向子さん、失礼だが、君は今、健康なのかい? それとも、不健康なのかい?」
「うーん、健康といえば健康だし、でもとっても不健康ですねえ」
「随分と哲学的な答えだねえ……」
 水瀬が苦笑いを浮かべると、日向子は水瀬に相席を願い出た。水瀬が許可を出すと、日向子は笑顔で彼の向かいに腰を落ち着かせた。
「会社をクビになってから、私ってば愚痴ばかりこぼすようになっていたでしょ? 実はあのころ、これまた不運としかいいようがない、自分ではどうしようにもないトラブルに巻き込まれてたんですよ。トラブルの連続で心がすり減っちゃって、気がつけば家から出られなくなっちゃって。心の元気が完全になくなってしまうと、駄目ですね。体のほうも動かせなくなって、一年くらいほぼ寝たきりでした。食も細くなって食べらんないのに、体を動かせないから太っちゃって太っちゃって」
 とても大変だっただろうことをあっけらかんと話す日向子に、水瀬も店主も困惑した。そんなことはお構いなしとばかりに、日向子は笑顔で明るく話を続けた。
「寝たきりだったときは、そりゃあもう『どうせ私なんて』の極みだったんですけど。少しだけ心に元気が戻った瞬間でもあったのかな、ある日ふと荒れ放題の部屋を見て、『これは、いくらなんでもヤバイな』って思ったんです」
 店主は不思議そうに首を傾げた。何故なら、日向子は同棲していたはずなのだ。水瀬も同じように思ったのか、心配そうに日向子に尋ねた。
「同棲すると言うから、てっきりお付き合いを始めたもんだと思っていたんだが。もしかして、別れてしまったのかい?」
「いいえ、今もちゃんと一緒ですよ! ――臥せってしまった私の面倒を見るのと、自分のやるべきことをやるので精一杯で、彼、部屋の片付けまで手が回らなかったんですよ」
 日向子は慌ててそう答えると、申し訳なさそうに笑って頬をかいた。水瀬は苦笑いを浮かべると、言いづらそうにもったりと返した。
「こう言ってはなんだが、よく彼に見放されなかったねえ……」
 日向子は何度も頷くと、店に来られなかった間のことを話し始めた。

 足の踏み場もないほど散らかった部屋と疲弊した彼を見て「いよいよ、これはまずいぞ」と思った日向子は、ないに等しい体力を振り絞って少しずつ部屋の片づけをしたという。そのときに「この部屋は私の心だ」と思ったのだそうだ。
「私、網が欲しくてこのお店に来ましたけれど。でも、最初から網を持っていたんですよ。心にね。というか、心自体が網だったっていうのかな。――心の中の小さな私は、大きな網の底にいるんです。それで、何度も悲しいことがあって網に大穴が開いちゃって。繕う端から破れていくから、それで余計に悲しくなって足元にある穴しか見なくなっちゃって」
「だから、穴の空いていない新しい網が欲しかったんですね」
「でも心こそが網なんだったら、新しい網というのは手に入らないよなあ」
 店主と水瀬に頷くと、自分が手に入れたのは網ではないと付け足した。網欲しさに来店してフルーツパンチの中のお月さまを食べた日向子が手に入れたのは、何を隠そう〈お月さま〉だったのだ。いつになったらお月さまを手に入れられるのかと落ち込んでいた日向子だったが、日向子はちゃんと、それを食べてすぐに手に入れていたのだ。おまじないはきちんと聞いていたのに、ただそれに気がつかなかっただけなのだ。
「初めてこのお店に来たときにはすでに、私は真っ暗闇の中にいたんです。気がつかないうちに怒りや悲しみが網目よりも大きくなっていて、頭上をすっかり埋めつくしていました。本来だったら、底にいる私が網目よりも大きなものは力の限り網の外に投げ飛ばすんですけれど。投げ飛ばせないほどに押し込められて、そして私には何の光も届かなくなっていたというわけなんです。そんな状態だったら、そりゃあお月さまが昇ってることにも気づかないですよ」
 心を汚く汚していたゴミが現実のものとして溢れかえっていたから、部屋は悲惨な状況となっていたのだろうと日向子は思った。だから、日向子は部屋の中の要らないものを片っ端からゴミ袋に詰めた。それと同時に、心の中の自分の頭上に覆いかぶさっているものを、空いた大穴に落として捨てていった。するとどうだろう、捨てることを繰り返し部屋が綺麗になるにつれ、心の中の雲も晴れていくではないか。部屋の中が軽くなるたびに心も軽くなっていくのを感じた日向子は、無心で片づけに没頭した。
 部屋が清潔感を取り戻すと、心の網の中の不要なものも不思議となくなった。網の底の日向子は戻ってきた明かるさを頼りに、穴を一生懸命繕って塞いだ。
 ひと仕事終えた日向子は「この明かりは何の明かりだろう?」と空を仰ぎ見た。――そこにあったのは、綺麗な真ん丸お月さまだった。
「お月さまはずっと私に寄り添って、『大丈夫だよ』って言ってくれてたんです。血の繋がった家族ですらそんなこと言ってくれなかったし、私のことを捨てたのに。でも網がゴミでいっぱいだったから、その優しい言葉を掬い取れなかった。網の底に押しやられていたから、その声も温かな光も、私にはきちんと届いていなかった。――そこに至るまでにつらいこともたくさんあったけれど、でもそのおかげで気づくことができて、そしてようやく本当の自分と本当の癒やしを得ることができたんです」
 ちなみに、片づけには他にも良いことがあった。日向子が体力を取り戻すのに一役買ったのだ。だが外出したら数日は疲弊して寝込んでしまうそうで、全快したとは言い難いので、それで「健康だけど、不健康」ということらしい。
「あら、だったら焦らず全快なさってからいらしてくださればよろしいのに」
 店主が心配そうに表情を暗くすると、日向子は照れくさそうにもじもじとした。
「陰気が不運不幸を呼び込んでいたんですかね、心の網の中が綺麗になってからはいいことづくめで。……それで、ご報告がありまして。私、このたび結婚することになりました」
 日向子の嬉しい報告に、店主と水瀬は顔を見合わせると嬉しそうに笑いあった。

「家庭に入って、彼を支える側に回るんですか?」
 お祝いにと水瀬が奢ってくれたフルーツパンチを嬉しそうに食べる日向子に、店主はそう尋ねた。すると、日向子は曖昧な返事を返した。不思議そうに首を傾げる店主に、日向子は笑顔で胸を張った。
「月明かりのおかげで行くべき道はよく見えるようになったし、携えてる網も中に詰まっていたものが無くなって軽くなったでしょ? だから私は、どこにだって、何だって、取りに行くことができるんですよ! それこそ、あのとき食べられなかった数々のお星様だって……!」
 そう言う日向子の瞳には、力強い光が戻っていた。以前のような怒りの炎ではなく、希望に満ちた暖かな光だ。前を向く日向子の姿に、店主は安堵するとともに嬉しさで胸をいっぱいにした。
 日向子は照れくさそうに頬をかくと、名前の通りの向日葵のような笑顔をその顔に咲かせた。そしてポツリと付け加えた。
「もちろん、どこに行こうが何をしようが、私を照らし導いてくれるお月さまかれのことは、何よりも大切にするけれどね」
 すると、レジスターが沈黙を破った。念願の音を耳にした日向子は一瞬驚いた表情を浮かべたあと、「祝福の鐘のみたい」と言って再び弾けるように笑ったのだった。
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