陸のくじら侍 -元禄の竜-
元禄時代、江戸に「くじら侍」と呼ばれた男がいた。かつて武士であるにも関わらず鯨漁に没頭し、そして誰も知らない理由で江戸に流れてきた赤銅色の大男――権藤伊佐馬という。海の巨獣との命を削る凄絶な戦いの果てに会得した正確無比な投げ銛術と、苛烈なまでの剛剣の使い手でもある伊佐馬は、南町奉行所の戦闘狂の美貌の同心・青碕伯之進とともに江戸の悪を討ちつつ、日がな一日ずっと釣りをして生きていくだけの暮らしを続けていた……
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アルファポリスの感想欄に、「文字数多過ぎ!」と怒られたのでこちらにて。
『陸のくじら侍』最終話、拝読しました。
読み手にとって馴染みのない鯨漁の風景を克明に描き、またそこで伊佐馬の胆力と技量を見せる筆力には、最早安定感すらあると感嘆です。
ただそれだけに、打ち切りめいた完結がとても残念でした。
伊佐馬の過去が知れて、敵役が明らかになって帰郷を選んで、盛り上がるのはこれから、ここからではないですか。
確かに今後の出来事を憶測する材料は取り揃えられています。でも読者としてはそここそを明示して欲しい。伊佐馬の大立ち回りも、友人として駆けつけてきそうな伯之進の助太刀も、しっかり書き手自身に描いて欲しい。
私見ながら、強く斯様に思う次第なのです。
ただこれは『陸のくじら侍』という作品を、第一話から眺めてきたからこそ生じる感慨であろうとも考えます。
構成を変え、この前日譚に絞って掘り下げて書くのであれば、失意から漂流を始める伊佐馬の背は、十二分な物語となることでありましょう。たとえば『影武者徳川家康』で二郎三郎らが夢破れ、それでも「倖せでしたわ」の言葉で結ばれゆくように。
読者を得心させる形での喪失はなかなかに困難な仕業でしょうけれど、そこは陸さんの手腕に期待ということで。
応募が良い結果となるよう祈っております。
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