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第一話
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「気持ちが悪い髪」
「まだ17才だってのに、なんであんなに白髪があるの」
「右半分は真っ白じゃないの」
舞踏会の隅でアンナは両手を握りしめて立ち尽くしていた。どこへも行く気がしなくて、一歩でも足を歩み出す気にもなれなかった。そこにいる人々が皆、自らの容姿を気味悪がり、嫌がっていることが、はっきりとわかっていた。
まぶしすぎるシャンデリアはアンナの右半分の白髪を照らし、キラキラと光を反射させている。もう半分の左側は真っ黒なために、つややかに光を吸収している。
大広間の真ん中で楽器が演奏され始めて、ワルツが始まる。男性は女性をエスコートして、女性は男性に誘われたくてうずうずとしている。その様子をアンナは冷ややかに眺めていることしかできなかった。
そんなアンナのところへ金髪の美少女が、コツコツとヒールの足音を立てながらやってきた。
「きっと今日も、誰も踊ってくださらないんだわ」
「うふふ、可哀そうに」
令嬢たちは自分達より下の存在がいる事に安堵して、堂々としていられた。たとえその令嬢達も誘いを受けられなかったとしても、アンナよりはマシだと思い、アンナを見下すことで、まだ自分は大丈夫だと、彼女たちは暗示をかけているのだ。
でも今日は違っていた。
突然アンナを見下す令嬢達を押しのけて少女は、やってきた。彼女はここにいる誰よりも美しかった。にっこりと優しい笑顔を向けると、アンナの手を握りしめた。
「あんな子達が言うこと気にしちゃだめよ。アンナ」
「ありがとう。キャロル」
キャロルは悲しそうに目を細めて、同情の視線を向けると、優しくアンナのことを抱きしめた。
「私に優しくしてくれるのは、キャロルだけね」
「もちろんよ。だって私達従妹でしょ」
抱きしめる事をやめると、キャロルはアンナの頬にキスをして、それから別れ惜しそうに大広間の中心へと戻って行った。
「またね。帰るとき、一緒にね」
「キャロル、ったらなんて優しいのかしら」
「流石よね。才色兼備って彼女のことを言うんだわ」
人々は隔てなく人へ優しくするキャロルのことを女神のように思っていた。今現在キャロルは公爵との婚約が決まっていて、本当に優秀で美しい女性だという話であった。
そして今日は重要なイベントがあった。そのためアンナは一層憂鬱だった。
「聞いた?ルーク様がお戻りになったんですって」
「ずっと留学なさっていたんでしょう?」
令嬢たちは扇子をパタパタと顔の前で風を起こし、火照る顔の熱を冷ましていた。きっと大広間の中心にはそのルークがいるのであろう。
「婚約者いらっしゃるのかしら」
「そりゃあ、いるんじゃ、ないの?」
「でもルーク様は王子って言っても、第五王子でいらっしゃるし。王妃さまが産んだわけではないでしょう?」
「だから、もしかしたら、あるかもしれないって言うことよね」
令嬢たちは奏でられるワルツなんて無視して、とにかくルークが最優先だった。
でもアンナは本当にどうでもよかった。だから、早く終われと念じながら、ただひたすらに心を無にして、黙って立っている。
でも突然目の前に人が立った事でアンナは少しだけ顔を上げた。
「チェスみたいな髪色しているな」
そこに立っていたのは金髪の頭をした一人の青年であった。身長は175ほどで、茶色の髪に頬や鼻の筋にソバカスが散らばっている。目はエメラルドのような緑色だ。鼻筋はスッと高く、女性みたいに睫毛が長いかと思ったら、太目の男っぽい眉毛をしている。
茶色の髪とソバカスから幼さを感じられるけれども、片足重心の立ち方も、雰囲気も大人そのものである。
「なにか?」
男性に話しかけられる場合、大体はアンナのことを批判するのだ。だからアンナはキッと目を細めて、最大限の威嚇をした。
「若白髪か、それとも、ストレスか」
でもその威嚇は全く意味をなさず、不思議そうにアンナの髪を見ているだけだ。それを見て思わずアンナは目を丸くした。それに自らを知らない男がいるということにも驚いた。
ネガティブな噂は伝書鳩よりも人に伝わるのが早い。そのためにアンナと言う名前を知っている人々はとても多かった。
「大丈夫か?ぼーっとして」
唖然とするアンナの目の前で青年は手を上下に振った。
「ルーク殿下、その人には近寄らない方がよろしいかと」
「なぜ?」
「なぜって」
令嬢達や側近がどうにかアンナからルークを引きはがそうとしていた。でもルークは、眉をひそめて立ち尽くすアンナの前髪を耳にかけてやって、顔を覗き込んでいる。
「悪魔だなんだと言っているみたいだけれども、人を髪色だけで差別して罵る、お前たちの方がよっぽど悪魔的だと、僕は思うね」
長かったアンナの前髪を耳にかけてやって、眉毛もはっきりと見えると、ルークは満足げであった。
「また会えるといいね」
周りの令嬢達は口々にアンナへ罵声を浴びせ、または王子を変人だと言って、自身のことを安心させようとしていた。安定の最下位が突然王子に味方されて、ルークは突然最下位の女を気に入った。
それを見ていたキャロルはアンナのことを睨んでいた。その視線は他の令嬢よりも強い妬みであり、目力だけでアンナを殺すことが出来そうである。
「なんであなたが殿下に話しかけられるわけなの…」
「まだ17才だってのに、なんであんなに白髪があるの」
「右半分は真っ白じゃないの」
舞踏会の隅でアンナは両手を握りしめて立ち尽くしていた。どこへも行く気がしなくて、一歩でも足を歩み出す気にもなれなかった。そこにいる人々が皆、自らの容姿を気味悪がり、嫌がっていることが、はっきりとわかっていた。
まぶしすぎるシャンデリアはアンナの右半分の白髪を照らし、キラキラと光を反射させている。もう半分の左側は真っ黒なために、つややかに光を吸収している。
大広間の真ん中で楽器が演奏され始めて、ワルツが始まる。男性は女性をエスコートして、女性は男性に誘われたくてうずうずとしている。その様子をアンナは冷ややかに眺めていることしかできなかった。
そんなアンナのところへ金髪の美少女が、コツコツとヒールの足音を立てながらやってきた。
「きっと今日も、誰も踊ってくださらないんだわ」
「うふふ、可哀そうに」
令嬢たちは自分達より下の存在がいる事に安堵して、堂々としていられた。たとえその令嬢達も誘いを受けられなかったとしても、アンナよりはマシだと思い、アンナを見下すことで、まだ自分は大丈夫だと、彼女たちは暗示をかけているのだ。
でも今日は違っていた。
突然アンナを見下す令嬢達を押しのけて少女は、やってきた。彼女はここにいる誰よりも美しかった。にっこりと優しい笑顔を向けると、アンナの手を握りしめた。
「あんな子達が言うこと気にしちゃだめよ。アンナ」
「ありがとう。キャロル」
キャロルは悲しそうに目を細めて、同情の視線を向けると、優しくアンナのことを抱きしめた。
「私に優しくしてくれるのは、キャロルだけね」
「もちろんよ。だって私達従妹でしょ」
抱きしめる事をやめると、キャロルはアンナの頬にキスをして、それから別れ惜しそうに大広間の中心へと戻って行った。
「またね。帰るとき、一緒にね」
「キャロル、ったらなんて優しいのかしら」
「流石よね。才色兼備って彼女のことを言うんだわ」
人々は隔てなく人へ優しくするキャロルのことを女神のように思っていた。今現在キャロルは公爵との婚約が決まっていて、本当に優秀で美しい女性だという話であった。
そして今日は重要なイベントがあった。そのためアンナは一層憂鬱だった。
「聞いた?ルーク様がお戻りになったんですって」
「ずっと留学なさっていたんでしょう?」
令嬢たちは扇子をパタパタと顔の前で風を起こし、火照る顔の熱を冷ましていた。きっと大広間の中心にはそのルークがいるのであろう。
「婚約者いらっしゃるのかしら」
「そりゃあ、いるんじゃ、ないの?」
「でもルーク様は王子って言っても、第五王子でいらっしゃるし。王妃さまが産んだわけではないでしょう?」
「だから、もしかしたら、あるかもしれないって言うことよね」
令嬢たちは奏でられるワルツなんて無視して、とにかくルークが最優先だった。
でもアンナは本当にどうでもよかった。だから、早く終われと念じながら、ただひたすらに心を無にして、黙って立っている。
でも突然目の前に人が立った事でアンナは少しだけ顔を上げた。
「チェスみたいな髪色しているな」
そこに立っていたのは金髪の頭をした一人の青年であった。身長は175ほどで、茶色の髪に頬や鼻の筋にソバカスが散らばっている。目はエメラルドのような緑色だ。鼻筋はスッと高く、女性みたいに睫毛が長いかと思ったら、太目の男っぽい眉毛をしている。
茶色の髪とソバカスから幼さを感じられるけれども、片足重心の立ち方も、雰囲気も大人そのものである。
「なにか?」
男性に話しかけられる場合、大体はアンナのことを批判するのだ。だからアンナはキッと目を細めて、最大限の威嚇をした。
「若白髪か、それとも、ストレスか」
でもその威嚇は全く意味をなさず、不思議そうにアンナの髪を見ているだけだ。それを見て思わずアンナは目を丸くした。それに自らを知らない男がいるということにも驚いた。
ネガティブな噂は伝書鳩よりも人に伝わるのが早い。そのためにアンナと言う名前を知っている人々はとても多かった。
「大丈夫か?ぼーっとして」
唖然とするアンナの目の前で青年は手を上下に振った。
「ルーク殿下、その人には近寄らない方がよろしいかと」
「なぜ?」
「なぜって」
令嬢達や側近がどうにかアンナからルークを引きはがそうとしていた。でもルークは、眉をひそめて立ち尽くすアンナの前髪を耳にかけてやって、顔を覗き込んでいる。
「悪魔だなんだと言っているみたいだけれども、人を髪色だけで差別して罵る、お前たちの方がよっぽど悪魔的だと、僕は思うね」
長かったアンナの前髪を耳にかけてやって、眉毛もはっきりと見えると、ルークは満足げであった。
「また会えるといいね」
周りの令嬢達は口々にアンナへ罵声を浴びせ、または王子を変人だと言って、自身のことを安心させようとしていた。安定の最下位が突然王子に味方されて、ルークは突然最下位の女を気に入った。
それを見ていたキャロルはアンナのことを睨んでいた。その視線は他の令嬢よりも強い妬みであり、目力だけでアンナを殺すことが出来そうである。
「なんであなたが殿下に話しかけられるわけなの…」
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