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悪役失恋令嬢は立ち直れない

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 この国、アダルダードでは十五歳になれば各自結婚したい人を選ぶ、自由恋愛が主だ。

 私、レティシア・パールも例外ではなかった。

 十五歳になった春、私は一人の男の子に恋をした。
 その子はレーモン・リース。
 金色の髪を持ち、サファイアの瞳を持った人。一目惚れがどういうことか分かった。

 その人を見ると、胸がきゅうっと締め付けられる。
 気がつけば頭のなかにレーモンの顔が浮かぶ。声は上ずる。

「レティシアといると何だか落ち着くよ」
 思いきってレーモンを昼食に誘ったとき言われたのがこれだ。

 微笑みとともにそう言われたとき、ぱぁぁっと心が晴れてゆくような気分になった。
 とても甘酸っぱくて、楽しい日々。

 それはある日突然終わりを迎えた。

「俺さ、同じクラスのアイラと付き合うことになったんだ」

 その一言だけ。
 目の前がフリーズしたような感覚。
 ただ、終わったということだけが分かった。
 その後もレーモンは何か言っていたような気がするが、分からない。

 それから私は抜け殻のようになった。

 食事も喉を通らない。ただレーモンが私を見てくれるという幻想を抱いていた。
 そんなあるときだ。

「こんなところではしたないよ、レーモン」
「いいよ、誰も見てないから」

 二人のキスシーンを目撃してしまった。
 豪奢な校舎裏での出来事。息を飲む音は夏の風にかき消された。

 私の心は完全に割られた。

 次の日学校に行くと、私はまずアイラの万年筆を使い物にならなくした。
 アイラは「誰か踏んじゃったのかな?」なんて言って笑う。惨めな私とは対象的な存在だった。

 次の日、アイラの刺繍を木っ端微塵に切り裂いた。
 アイラはまだ笑っている。悲劇のヒロインぶらないことが、私の心をさらに追い込んだ。

 次の日も、次の日も私は嫌がらせを続けた。
 アイラはずっとニコニコ笑う。
 耐えられなくなって、私は彼女の胸ぐらを掴んで叫んだ。

「どうしてあんたはいっつもニコニコ笑ってんのよ!」
「え、何のこと?」
「あんたの万年筆を折ったのも、あんたの刺繍をボロボロにしたのだって、全部私なのよ! なのにどうして、どうしてあんたは」

 言葉が途切れる。涙がとめどなく溢れ出したからだ。
 栗色のボブヘアを揺らすアイラは、くりっとした目で私を見つめる。

「お前だったのか」
 その声にハッとした。
 それは私が好きなレーモンのものだった。

「愛してるの」
 ぽつりと言葉が零れる。
 その言葉は空気に流れるまま、レーモンはアイラを抱きしめた。
 二人は愛の言葉を囁き、私から遠ざかった。

 そして、私は現在学園で悪役令嬢と呼ばれている。
 私はどこで間違えてしまったのだろう。
 万年筆のカケラをハンカチにくるみなおし、私は誰かに問うた。
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