閻魔の息子

亜坊 ひろ

文字の大きさ
上 下
28 / 29
第2章【鳥と話す少年】

【閻魔の息子】28

しおりを挟む

 「こちらのワンちゃんは?」

 「あ、こいつこの弁当がありますんで。ほら、お・あ・が・り」

 “カブッ”

 おもむろに弁当じゃなく輪廻の手に噛みついた。

 「!?な、なんで噛むんだ!痛ぇー!」

 「ワンちゃんだって冷めたお弁当より、温かい物の方がいいわよね」

 「ワン!」

 「ひぃ~痛い。このっにゃろー」

 話が尽きぬまま、あっという間に時間が過ぎ、慶太の祖父はとても喜んでいた。

 「ご馳走様でした」

 「慎二さん。また、いらして下さい慶太も喜びます」

 「ええ、また来ます」

 祖父とお手伝いさんに見送られ屋敷を出た。

 「優しい人達ね」

 「ああ、そうだな」

 裏通りを出て、暫くバイクを走らすとまた人だかりに遭遇した。バイクを降りて様子を伺うと。

 「何かあったんですか?」

 「ああ、事故だとよ。暴走族がバイクで転倒したんだと。一人が死んでもう一人が重傷らしい。あそこの一人は何とか巻き込まれないで助かったみたいだがな」

 警察官に事情徴収を受けている男を見ると。

 「!あいつ…」

 「お兄ちゃん、あの人」

 「ああ、わかってる」

 説明している声が聞こえる。

 「本当なんだってば、ヒトシのメットにカラスが飛びついて、それをはらおうとして、あいつバランス崩しちまって」

 「なんかの見間違いじゃないのか?こんな夜にカラスなんて。スピード出し過ぎて操作を誤ったんだろ?詳しい事は署で聞こう」

 「信じてくれよ!」

 警察に連行されていく暴走族。

 「…」

 「罰が当たったんだわ。でも命までは取らなくても…」

 「悪い、裕子。先にタクシーで帰っててくれ、用事思い出しちまった」

 「うん…わかったけど、お兄ちゃんも気をつけてね」

 「ああ、大丈夫」

 「沙羅ちゃんも?」

 「意外と鼻が利くんだよこいつ。いくぞ沙羅」

 「ワン!」

 慌てて屋敷の方へ戻る。

 「どう思う、沙羅」

 「はい、あの話間違いなく…」

 「あのカラスめ」

 バイクを小路に置き、張り込んでは見たものの、一向にカラスが現れる形跡はなかった。

 「リン様、どうするつもりで?」

 「止めるんだ。憎しみの果てに人を殺めるなんて間違ってる」

 「残された人の寂しさを分かっているのは当の本人なのに」

 「ああ、憎しみからは何も生まれない。だから止めるんだ」

続く

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...