閻魔の息子

亜坊 ひろ

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第1章【閻魔の息子・輪廻】

【閻魔の息子】16

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 医者が不思議そうに輪廻に問いかける。

 「君、名前わかる?自分の名前?」

 「えーと…なんだっけ?“死神なんか言ってたな…“」

 「大変だ!記憶喪失だ。頭を強く打ち過ぎて一時的に記憶が失われたんだ」

 医者の言葉に裕子も不安を隠せない。

 「記憶喪失!?お兄ちゃーん!え~ん!」

 すると裕子の声を聞きつけてもう一人の人物が。

 「記憶喪失ですと?本当ですかな先生」

 「おたくは?」

 おもむろに男は背広から手帳らしきものを差し出す。

 「本上署の越知です。」

 「刑事さん?」

 「ええ、彼のバイト先の店長から彼の身寄りを探して欲しいと頼まれましてね」

 「白井さんですね」

 「はい、白井さんとは昔ながらの知人でしてね。なんと言うか…腐れ縁ですな」

 「で?妹さんを」

 「そうなんです。慎二君は一人暮らしで、普段から身寄りはいないと言っていたそうですが、彼は元々一人っ子で幼い時に父親に先絶たれ、母親と二人暮らしのおり母親が再婚、その時父親の連れの一人娘が裕子さんでした」

 「すると義理の妹さん?」

 「そうです、その後親子4人の生活が始まったのですが、再婚した父親が不慮の事故で他界…」

 越知の説明に先程まで泣いていた裕子が口をひらく。

 「いいですよ刑事さん、本当の事を言って下さっても。事業に失敗してお金に困って自殺したんです」

 「すまないね裕子ちゃん。まあ借金は父親の保険金で返済出来たけれども、その後の生活は悪くなるばかり…、母親も昼夜問わず働いたけれど、疲労がもとで病気になり、5年前に他界。妹さんはその時父親方の親戚に引き取られ、彼は高校へ行かず働いて彼女に少しながら仕送りしていたんだそうだ」

 「私はそれを昨日叔母から…お兄ちゃんから口止めされていたと。そうしたら今度はお兄ちゃんが事故で危篤だって聞かされて…慌てて来たんです。でも良かった…命が助かって…」

 安堵する裕子とは対象的にうかぬ顔の越知。

 「うーん、助かったことはいいんだが…記憶喪失じゃな~身元確認が…」

 すると澄んだ瞳で力強く答える裕子。

 「大丈夫です、記憶が無くても間違いなくお兄ちゃんです。今度は私がお兄ちゃんを助ける番です。兄妹二人で生きて行きます」

 「学校はどうするんだい?確か君は私立高校だろ?女学校だよね?」

 「辞めるつもりです。こちらの普通高校に通ってお兄ちゃんと二人で暮らします」

続く

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