閻魔の息子

亜坊 ひろ

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第1章【閻魔の息子・輪廻】

【閻魔の息子】4

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 「実は…。私の職を輪廻に譲ろうと思っていました。そしてその為に下界へと」

 「なんと、下界落ちの修行をさせるというのか?」

 「はい、輪廻ももう一人前、自分の進まなければならない道はわかっていると」

「ほぉ…」

 初めは驚いたような顔の黄泉だったが、閻魔の動揺を直ぐに感じとった。

 「他に誰か話したのか?」

 「い、いいえ、ババ様以外は。」

 「ふーん、そうかえ…」

 暫く沈黙が続いた後、黄泉が切り出す。

 「なにを考えとる、閻魔。まさか、あの女が関わっておるのか?」

 「いいえ、そんな事など決してありません」

 「当たり前じゃ、お前達を捨てて、下界に身を投じた女などもってのほか。人間界のどこがいいのかわしにはさっぱりわからん」

 「…。いや、あれは事故で…」

 「なにが事故じゃ!賄いの証言では、生身で自分から身を投げたと聞いたぞ。かばうのもいい加減にせい!」

 「…」

 「ま、生身だからのぅ、帰生穴(きしょうけつ)は魂だけしか通れん、生身で落ちたら最後、生身から魂だけ引き離され、天魔界と人間界の間をさまよい、運よく転生出来たとしても、今の人間界に居るなどわからんからのぅ」

 「ええ…。私にも見当がつきません」

 「ふむ…。幻魔にはなんと言うのじゃ」

 「はあ、父上にはこの後に話そうと思っておりましたが」

 「…。下界落ちに何を求める、閻魔」

 閻魔の目付きが変わる。

 「私もこの生業を父上から継ぎもう幾年、そろそろ輪廻にも人間の死とは何であるかを、自分の目で確かめさそうと」

 「ほぅ、その考えた末が下界落ちか…。ま、お前も、幻魔のバカ同様、温室育ちだったからのぅ。輪廻の方が骨があると思っていたが、あやつもそんな歳か…。わしは反対せんよ、ただ…」

 「ただ?何ですかババ様」

 「人間は弱い、その弱さにあやつがどこまで耐えられるか、その弱さに打ち勝つことができれば一人前じゃて。この生業に情けは無用じゃからのぅ」

 「ありがとうございます。おババ様」

 「うむ、幻魔のバカにはわしから言っておく、ちょうど小遣いも無いのでな、せびってくるかのぅ」

 お互いの笑顔の中にも閻魔にはやはり妻のことが気になっていた。

続く

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