神楽鈴の巫女

ゆずさくら

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磁器人形

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 割れたことが別の人形に感知され、目が光った。
 光った目の人形にコントロールされた破片は、かなえに向けて飛ばされる。
「!」
 晶紀はかなえの肩を掴み、体を入れ替えるように回り込む。
 霊力を防御に全振りすれば、防げるかも…… 晶紀は背中に意識を集めた。
 見えない何かに弾かれるように、破片が逸れていく
 かなえの視界にも、磁器の欠片が一つ、通り過ぎて行った。
「なに? 今の…… もしかして」
 かなえに寄りかかってくる晶紀の背中に、磁器の欠片が突き立っていた。
「ひとつだけ、くらっちゃった」
「待って、今抜くから」
 と手を伸ばす。
「抜けないから!」
 晶紀はかなえの手を取った。  
「普通じゃ抜けないの。だからこのままでいい」
 白い体操着に赤く血がにじんでくる。
「こいつらどうすれば」
 手足は曲げれないが、体全体を揺すって打撃を繰り出してくる。
 避けれないものではないが、放ってもおけない。
 かなえの肩を借りて人形のいない方へ逃げる。
「磁器の人形は割れると、残っている人形の目が光って、破片を飛ばしてくる。だから同時に倒すしかない」
「同時って言ったって、こんなに沢山」
「私の神楽鈴の剣なら、伸ばせばなんとかなるかも」
 晶紀は腰のホルスターから神楽鈴を抜く。そして、左右に手を広げて光る剣を伸ばす。
 構えた姿勢から神楽鈴の光る剣の部分が伸びる。
 二倍、三倍、と伸びたところで急に剣が元の大きさに戻ってしまう。
「ど、どうしたの?」
「……」
 晶紀の背中にささった磁器の欠片から体を守るため、霊力が一定量使われている。しかし、神楽鈴の光る剣にも霊力を使う。剣を伸ばすことで体を守れなくなると、体の痛みで神楽鈴の剣に霊力を集中することが難しくなるのだ。
 それは言葉にしなかったが、かなえは理解したようだった。
「判った。じゃあ、こうしよう。まず晶紀が磁器の人形を割る。目が光る人形を見つけたら、それに近い方が目の光った人形を倒す。それを繰り返す」
「そんなことが」
「さっきだって、破片が飛んでくるまでは間があった。連中の真ん中に入って、素早く動けば出来るよ」
「……」
「出来る。ってかやる。やってやる」
「……うん。やろう」
 晶紀も覚悟を決めてうなずいた。
 かなえの肩から離れ、自分の力だけで立つと、背中の痛みが全身に走る。しかし、耐えられない痛みではない。晶紀は思った。人形達が分散する方向に動いていたら、大変だったが、集まってきているので遠い場所の人形までなら何とかなる。
 かなえが位置に着いたらしく、声を出す。
「いいわよ!」
 晶紀は無言で神楽鈴の、光る剣を振りかざす。
 そして、一閃。
 磁器の人形にひびが入り、別の人形の目が光る。ちょうどかなえが捉えるに絶好の位置の人形だった。
 とびかかるようなスピードで移動すると強烈な打突が人形を貫く。
 晶紀の壊した人形の破片は、力なくその場に落ちていく。
「晶紀、そこ!」
 かなえはそう言うと同時に、竹刀で人形を示していた。晶紀もほぼ同時にその人形を識別して、かなえに習った足捌きで移動する。
 痛みで一瞬、神楽鈴の剣が消えかかる。
「!」
 かなえの壊した人形の破片が一斉にかなえの方を向いた。
 気力を振り絞って神楽鈴の剣を戻し、目の光った人形を破壊する。
 破片はかなえに向かってくることなく、真下に落下した。
「大丈夫?」
「そっちっ」
 かなえは晶紀が言う前に、目が光った人形を認識して移動していた。
 かなえの剣は、それが竹刀だとは思えない威力を示し、目の光った人形は、アッという間に亀裂で覆われた。
 晶紀は意識を集中して、次に目が光る人形を察知した。しかし晶紀からは遠い。間に合わない……
「大丈夫!」
 かなえはそう言うと、自ら移動して、目が光った人形を切りつける。破片はまたしてもかなえを捉えることなく、地面に落下した。
「そこっ! お願い!」
 かなえの声に反応して、晶紀は飛ぶように移動し、目の光った人形に向かって神楽鈴を振り下ろす。人形を倒す為、移動する度、踏ん張る度に、背中の痛みが増していった。振り下ろして、人形が砕けた時には、背中の痛みに声をあげていた。
「晶紀ッ、大丈夫?」
 晶紀は天を仰いでいる。
「晶紀ッ!」
 かなえは目が光った人形を見つけた。かなえのスピードを持ってしても間に合わない場所だが、晶紀の位置からなら間に合う。晶紀は高くジャンプして、落ちてくると同時に人形を神楽鈴の剣で串刺しにした。
 晶紀の体に、壊れた人形の欠片が届く寸前、ピタリと止まって落下した。
 晶紀は、狂ったように叫んでいた。
「任せて」
 かなえは十分な時間を残して、次の人形を破壊した。
 次の人形を晶紀が破壊した後、かなえは目が光った人形と、そのすぐ近くにいた人形を『ほぼ同時に』破壊した。
 晶紀は気が遠くなりかけている。それでも目の光った人形を認識し、飛び、破壊した。
 かなえが複数体をほぼ同時に処理することで、一気に人形の破壊スピードが上がったが、弊害が出始めていた。
 竹刀が急速に痛み始めていた。
 かなえの神業のような竹刀捌きで、なんとか人形を破壊出来ていたが、竹をまとめている皮が破れそうになっている。これが切れれば、竹刀は先が開いてしまい、威力が無くなってしまう。
「もう何度も叩けない!」
 晶紀は返事が出来る状態ではなかった。
 やるべき人形の一体一体を順番に破壊する。それ以上のことは出来ない。神楽鈴の、光る剣を維持することすら難しい状態だった。
「後二体!」
 かなえが人形を破壊して、晶紀が次の人形を破壊するため、神楽鈴の剣を振り下ろした。
「ラスト!」
 かなえがそう言うと、晶紀は人形を破壊した位置で膝をついてしまった。
 かなえが近くにいる最後の人形を倒せば終わり。そのはずだった。
 竹刀を振り上げた瞬間、竹をまとめていた皮が切れた。
 振り出された竹刀は、人形を捉えたが、竹刀の先がバラバラになり、人形を破壊することはなかった。
 人形は肩を揺すり、かなえにカウンター・ブローを入れていた。
「!」
 お腹を押さえながら崩れ落ちるかなえ。
 晶紀は状況を把握したが、立ち上がり、人形まで走ってから神楽鈴を振り下ろす前に、後ろの破片に刺されてしまう。
 神楽鈴を片手で振りかぶって、やり投げの要領で神楽鈴を投げる。
 背後の磁器の欠片が、背中を目掛けて飛んできた。
 神楽鈴と破片のどちらが早いかの勝負。
 その時、人形が飛んでくる神楽鈴に気付いたように動きだした。
 晶紀は霊力を使って神楽鈴の周囲の空気を制御して、曲げ、速度を上げる。
 だめだ、思ったより曲がらない…… 晶紀は絶望した。
「だ、め」
 倒れているかなえが、人形の足を引き、神楽鈴の軌道上に引き戻す。
 神楽鈴の光る剣が人形を貫いた。
 磁器の割れ目から光がもれ、人形は砕けてから消えていく。
 もう目を光らせる人形はいない。
 同時に、晶紀の背後に迫っていた欠片も力を失う。
 ほとんどの欠片が地面に落ちていく中……
 一片の欠片が、晶紀の背中に突き刺さっていた。
 学校のグランドに落ちた、すべての磁器の欠片は消えていく。
 しかし、晶紀の背中に突き立った二つの欠片だけは消え去らない。
 晶紀は、そのまま前のめりに倒れると、気を失った。


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