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磁器人形
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しおりを挟む翌日になり、午前中の授業が終わった。
仲井すずの様子はいつも通り『奇行』の『き』の字も感じさせない状態だった。
小泉も、昨日、晶紀達が尾行していたことには気づいてもいない様子だったが、晶紀のことを信じてくれている訳でもなかった。
小泉にとっては、すずが普通に戻っていれば問題がないのだ。呪いの元凶とか、集めた霊力が何に使われているとか、すずや自分に被害が掛からなければ関係ない。利己的なようだが、普通の人であればそう考えても仕方ない、と晶紀は思った。
山口あきなと知世、晶紀の三人はいつものように屋上でお昼ご飯を食べていた。
一番先に食べ終わった山口が言う。
「ああ、午後やだな」
「午後は二時間続けて体育のはずですが……」
「なんだよ、知世、あたしだって体育が嫌な時があるんだよ」
「?」
晶紀も知世も山口の顔を見つめた。
「忘れてんの? 何で二時間続きなのか。体力測定だよ。体力測定!」
「あきななら、それなりに出来んじゃないの」
晶紀が言うと、山口は、自分のお弁当の袋を軽くたたいて音を出し、言った。
「反復横跳びとか、シャトルランとか。なんであんなのすんのか、意味わかんねぇよ」
「まあ、意味は分からないな」
「私も運動が出来る方ではないですが、体力測定の時は、計る側になって色んな人の記録を付けていると結構面白いですわ」
「いやだとも、楽しいとも思わないな。やるのも、記録をつけるのも、いろいろ面倒だし」
晶紀は小学校の頃を思いだしていた。体力測定で、霊力をアシストで使ってしまい、滅茶苦茶な記録を叩きだしてしまった。その後、おばあちゃんが慌てて学校関係者の記憶を消して回ったことがあった。その時叱られて以来、体育では、霊力をつかって運動をアシストしないよう、適当に手を抜くことにしているのだ。
その後はいつものようにおしゃべりをして過ごしたが、着替える必要があるので早めに屋上から教室に戻った。
校庭に集まると、班ごとに記録する方とされる方をローテーションするように指示された。
晶紀と知世は同じ班で、山口は別の班になった。
晶紀達は先にすべての種目をやることになっていた。班の中で、木村かなえが注目されているらしく、種目を移る度、先生たちが一緒に移動してきていた。そもそも剣道の力を買われてこの学校に入っただけはある、と晶紀は思った。
そんなことで先にすべての種目を終えてしまうと、今度は残りの班の記録を付ける役に回った。
他のスポーツは出来るのに、ソフトボール投げだけが妙に変なフォームな生徒がいたり、普段澄ました顔をしている娘が、握力測定の時にものすごい形相になったりして、知世が言っていた意外な面白さを感じていた。
記録係も交代する時間になり、晶紀は記録する為の用紙やボード、ペンなどを仲井に渡した。
仲井は受け取ると、さっそく記録を付けていたが、しばらくして手を上げると体育教師に言った。
「先生、ペンのインクが無くなりました」
その声に、他の記録係の生徒からも同じ声があがった。
体育教師は職員室に近づき、窓から呼びかけた。
「すみません。書けるボールペンをニ、三本、持ってきてくれませんか?」
晶紀は職員室を見たが、木の影になっていて誰と会話したのかまでは分からなかった。
しばらく測定が中断され、校庭はボールペン待ちの状態になった。
校舎から、ドタドタとメガネをかけた教師が手にボールペンを持ってやってきた。児玉先生だった。
手を上げる生徒に、次々とボールペンを渡し、最後に仲井の所にやってきた。
「!」
晶紀は目を見張った。
事務用のボールペンではなくファンシーな『どっこいパンダ』の絵柄のボールペン。
晶紀の頭に『それがのろいのキーだ』という声が響く。
理屈ではない。霊感とか、そう言う類の直感だった。
「あっ、これ私のボールペン!?」
まずい。晶紀は走って仲井にペンが手渡される前に奪おうとした。
しかし、間に合わなかった。
仲井がボールペンに触れると、そこ中心に強い衝撃波が起こった。
水面に波紋が広がるように、校庭の土が巻き上がり、周囲へ飛んでいった。
晶紀は腕を正面で交差させ、衝撃波から顔を守った。
「!?」
衝撃波が収まると、今度は校庭にいた生徒が磁器の人形にすり替わっていた。
人形になっていないのは…… 晶紀は見回した。仲井すず、そのすぐそばで仰向けに倒れている児玉先生、木村かなえ、そして晶紀と知世だった。山口や小泉の姿は見えない。おそらく二人も磁器の人形にすり替わったのだ。
晶紀は精神を集中させ、霊力の流れを見極める。
うっすらと見えてくる流れが、はっきり見えてくる。仲井の体から強い霊力が吹き上がっていき、宙で消失していた。
消えた霊力を受け取っている連中がいる。
晶紀はその先に居る者を思って、宙を睨んだ。
磁器の人形達は、肩をゆするように動き回りながら、かなえ、晶紀、知世の三人に近づいてくる。
「知世、先に逃げて。校舎のあたりまで。振り返らないで」
知世はうなずくと、言われた通り、懸命に走っていく。
「なんだこれ?」
かなえが、晶紀の方を見て言う。
もう何度か『かなえ』の記憶を消している。今回、これだけばっちり見てしまえば、かなえの記憶を消すのも難しいだろう。正直に説明するべきだ。晶紀は決心した。
「多分、仲井さんに掛かっている呪いのせい」
「呪い? 呪いで、皆人形に変わっちゃったの? 皆は生きてるの?」
晶紀は今までで分かっていることを説明する。
「生きてる。それに、皆とこの人形とのつながりは無いの」
「どういうこと」
「人形が破壊されても、すり替わった人間の命に別状はないってこと」
かなえが、体育教師が落とした竹刀を拾い上げると、振り上げた。
「なら、ブッ倒す!」
「だめっ!」
と言う間に、晶紀は走り出していた。
かなえは言葉の意味が分からず、そのまま磁器の人形に竹刀を振り下ろす。
通常、竹刀は何かを壊すためのものではない。竹を八つに割った竹を四つ合わせ、縛っているだけで、中空になっている。何かを叩き壊すためのものではない。つまり、ここにいる固い磁器の人形を割るような『武器』ではないのだ。しかし、かなえの剣道の技術は、竹刀の能力を超えた打撃力を発揮した。
頭頂に振り下ろされた竹刀の打撃で、磁器の人形の全体に亀裂が入った。
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