62 / 73
磁器人形
19
しおりを挟む晶紀が退院したのは、翌朝だった。
晶紀と知世、佐倉の三人は病院からそのまま学校に向かった。
退院手続きの関係で、晶紀と知世は三時間目と四時間目の間の休み時間に教室に入った。
「知世、晶紀、二人とも大丈夫」
とかなえが言う。
晶紀は軽くうなずき、知世が椅子に座りながら言った。
「私は大丈夫ですわ。晶紀さんが少し体調を崩して入院したんです」
「入院って、こんなに早く退院できるのか?」
晶紀はボディビルダーのようなポーズで自らの健康を無言でアピールする。
「……」
「頭は治ってないみたいだな」
かなえは、机に肘をつき手に顎を乗せながら、そう言った。
晶紀は鞄から出したスマフォとほぼ同じくらいの大きさの機械を、スマフォにつなげる。
「なんだもうバッテリー切れか?」
かなえの声を無視して晶紀はアプリを起動する。
『霊力レーダー』と表示され、画面が真っ黒になる。そして、画面に線が弧を描いて移動するとその軌跡のように光る点が描かれる。
描かれる点はまばらで、一つ一つ小さかった。
「なにそれ?」
かなえが立ち上がって晶紀のスマフォに繋がっている機械の向きを変える。
するとスマフォの画面に光る点が大きな塊になって表示された。
「ねぇ、なんなの、これ」
晶紀がかなえから装置を奪い返して、向きを戻す。
また暗い画面に戻ってしまった。
「無視なの?」
「違うよ」
「じゃあ、なんなの」
「『霊力レーダー』だよ。光る点の集まりで霊力の分布を示しているんだ」
「じゃあ、さっきの大きな塊は?」
「私と知世じゃないかな」
かなえはスマフォの画面を見ながら、装置の向きを変えて確認する。
「ほんとだ…… これが知世で、これが晶紀なんだ。ずいぶんと大きさが違うけど…… あれ?」
かなえが廊下側に装置を向けた時に、強い霊力の反応が現れた。
「これは誰?」
「貸して!」
晶紀はかなえから奪い取るように装置とスマフォを奪い、廊下に向けた。
霊力を示す点が多く表示されているだけでなく、周囲の小さい霊力が集まってきている。そして集まった霊力は、中心のあたりで少しずつ消えている。もしかするとこれは……
霊力レーダーに反応している霊力の塊が移動している先が、教室の扉の外に差し掛かった。
「!」
教室に仲井が入ってくる。
まちがいない。この霊力を集めているのは仲井すずだ。石原美波の時と同じように霊力を集め、そして、どこかに送っているのだ。
「仲井さん」
「すず、昨日はどこ行ったんだ」
晶紀が話しかけようとしたところを、近くにいた小泉が割って入ってしまった。
「べつに」
「すず、最近、授業をさぼりすぎだぞ」
「親みたいなこと言うなよ」
「心配だから言ってるんじゃないか」
「うざいんだよ!」
小泉の頬を叩こうとしたその手を、晶紀が掴んで止める。
「小泉は仲井さんのことを心配してるんだよ」
「痛い……」
「おい、すずが痛いって言ってるだろ」
小泉の肘が晶紀の腹に入った。
「痛っ」
不意を突かれて晶紀はその場にうずくまる。
仲井はうつむくと、妙にピッチの狂った声を張り上げた。
『……うざい。お前たち、消えろ』
その声で空気が震え、景色が震えたように見えた。
「このケロ声……」
手で耳を塞いだ知世は、このピッチがズレたケロ声に聞き覚えがあった。
晶紀が戦っている相手。たしか公文屋とかいう……
「知世、危ない」
かなえがいたはずの場所に、磁器で出来た人形が立っていた。
人形は、体を捻って知世に拳を当てにきた。
晶紀の声に気付き、寸前で人形の攻撃をかわした。
違和感に教室を見回す。
仲井と小泉、晶紀と知世以外のクラスメイトは、すべて磁器で出来た人形に変わっていた。
「この前と同じ!」
「どうなってんだ」
「小泉避けろ!」
晶紀はそう言いながら、教室の扉を閉め、仲井が逃げ出すところを押さえた。
『うざいって言って……』
抜いた神楽鈴を振ると、仲井は言いかけたまま眠ってしまった。
力が抜けて立っていられなくなった体をハグするように抱えて支える。
「晶紀さん、人形がいなくならない」
「この人形たちは、仲井さんが作り出しているわけじゃないんだ。だから仲井さんが寝てしまっても関係ない」
「じゃあ、どうすれば」
「……」
晶紀にその問いの答えはなかった。
「人形たちはとりあえず仲井さんを助ける為に、こっちに向かってくるはずだから、小泉と知世は教室の反対端に逃げて!」
日本人形のような磁器製の人形が、ペンギン歩きのように肩を振りながら晶紀に向かって集まっていく。
小泉と知世は、素早く左右に避けながら人形の間をすり抜け、晶紀と反対側の端に逃げ去った。
「私たちは大丈夫ですわ」
晶紀は仲井の背中に回した手を広げ、神楽鈴に光る剣を作り出した。
このまま剣を振れば、人形は壊れ、破片が飛んでくるだろう。けれど、人形側に向かっているのは仲井さんの体だ。もし、狙って飛んでくるのなら、仲井さんの体を避けるように飛んでくるはずだ。しかし、万一仲井の体に向かって飛んできた場合は……
人形のヨチヨチ歩きの輪が、どんどん小さくなって、晶紀に近づいてくる。
「晶紀さん!」
「一か八か」
晶紀は一番近くにいた人形を軽く突いて、小さく壊す。割れた破片が宙に浮き『仲井』を回避して晶紀をねらって飛んできた。
「よし」
飛んできた破片はもう一度神楽鈴の光る剣で叩き壊し、破片はどこにも刺さらなかった。
すると、知世が叫ぶ。
「なんか目が光っていました!」
「えっ? どういうこと」
「割れた人形ではなく、別の人形の目が光ったんです」
「……」
言っている間にも人形は迫ってくる。晶紀は言った。
「どういうことか、もう一度見ていて」
「はい」
知世が返事をすると同時に、晶紀は別の人形に向かって光る剣を突き立てた。
小さく、こぶし大の穴が開いた。して割れた破片が仲井を迂回するように飛んでくる。
大きく弧を描いて飛んでくるため、難なく破片を叩くことが出来る。
「今度は違う人形の目が光っていました。光っているのは、破片が飛んでいる間だけみたいです」
「破片をコントロールしているのかな?」
「私もそう思います」
それが正しければ手はある、と晶紀は思った。仲井を抱えながら、知世たちの方に強引に移動する。
二つに分断された人形の輪が、再び晶紀を中心にして集まり始める。
「仲井さんを」
小泉と知世に仲井さんを預けると、神楽鈴を構えた。
破片を作り出しても、飛ばすことが出来なければいいのだ。
「いけぇ!」
そう言うと、振り出した神楽鈴の光る剣が、グッと伸びた。
扇状に横に払うと、人形たちはほぼ同時に破壊された。
破片は宙に浮くことも、飛んでくることもなく、床に落ちた。
知世が言った。
「そうか。コントロールする人形が残らなければ、破片も飛んでこない」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
天使のお仕事
志波 連
ライト文芸
神の使いとして数百年、天使の中でも特に真面目に仕えてきたと自負するルーカは、ある日重大な使命を授けられた。
「我が意思をまげて人間に伝えた愚かな者たちを呼び戻せ」
神の言葉をまげて伝えるなど、真面目なルーカには信じられないことだ。
そんなことをすれば、もはや天使ではなく堕天使と呼ばれる存在となってしまう。
神の言葉に深々と頭を下げたルーカは、人間の姿となり地上に舞い降りた。
使命を全うしようと意気込むルーカの前に、堕天使となったセントが現れる。
戦争で親を失った子供たちを助けるために手を貸してほしいと懇願するセント。
果たしてルーカは神の使命を全うできるのだろうか。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
新人種の娘
如月あこ
ライト文芸
――「どうして皆、上手に生きてるんだろう」
卑屈な性分の小毬は、ある日、怪我を負った「新人種」の青年を匿うことになる。
新人種は、人に害を成す敵。
匿うことは、犯罪となる。
逃亡、新たな生活、出会い、真実、そして決断。
彼女は何を求め、何を決断するのか。
正義とは、一体何か。
悪とは、一体何か。
小毬という少女が、多くを経験し、成長していく物語。
※この物語は、当然ながらフィクションです。
どん底から始まる恋もあるらしい
りゅう
ライト文芸
高校生だが金髪でピアスを開け、いかにも不良のような態度、風貌をしていた風張透也は、ある日電車で女子高校生に痴漢と勘違いされてしまう。印象最悪、危うく逮捕の状況だったが… そしてそこから透也の周りの関係が変わり始めて…?
桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -
鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。
居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。
饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。
【本編完結】【番外小話】【小ネタ】
このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』
https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
※小説家になろうでも公開中※
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる