神楽鈴の巫女

ゆずさくら

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磁器人形

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 晶紀が退院したのは、翌朝だった。
 晶紀と知世、佐倉の三人は病院からそのまま学校に向かった。
 退院手続きの関係で、晶紀と知世は三時間目と四時間目の間の休み時間に教室に入った。
「知世、晶紀、二人とも大丈夫」
 とかなえが言う。
 晶紀は軽くうなずき、知世が椅子に座りながら言った。
わたくしは大丈夫ですわ。晶紀さんが少し体調を崩して入院したんです」
「入院って、こんなに早く退院できるのか?」
 晶紀はボディビルダーのようなポーズで自らの健康を無言でアピールする。
「……」
「頭は治ってないみたいだな」
 かなえは、机に肘をつき手に顎を乗せながら、そう言った。
 晶紀は鞄から出したスマフォとほぼ同じくらいの大きさの機械を、スマフォにつなげる。
「なんだもうバッテリー切れか?」
 かなえの声を無視して晶紀はアプリを起動する。
 『霊力レーダー』と表示され、画面が真っ黒になる。そして、画面に線が弧を描いて移動するとその軌跡のように光る点が描かれる。
 描かれる点はまばらで、一つ一つ小さかった。
「なにそれ?」
 かなえが立ち上がって晶紀のスマフォに繋がっている機械の向きを変える。
 するとスマフォの画面に光る点が大きな塊になって表示された。
「ねぇ、なんなの、これ」
 晶紀がかなえから装置を奪い返して、向きを戻す。
 また暗い画面に戻ってしまった。
「無視なの?」
「違うよ」
「じゃあ、なんなの」
「『霊力レーダー』だよ。光る点の集まりで霊力の分布を示しているんだ」
「じゃあ、さっきの大きな塊は?」
「私と知世じゃないかな」
 かなえはスマフォの画面を見ながら、装置の向きを変えて確認する。
「ほんとだ…… これが知世で、これが晶紀なんだ。ずいぶんと大きさが違うけど…… あれ?」
 かなえが廊下側に装置を向けた時に、強い霊力の反応が現れた。
「これは誰?」
「貸して!」
 晶紀はかなえから奪い取るように装置とスマフォを奪い、廊下に向けた。
 霊力を示す点が多く表示されているだけでなく、周囲の小さい霊力が集まってきている。そして集まった霊力は、中心のあたりで少しずつ消えている。もしかするとこれは……
 霊力レーダーに反応している霊力の塊が移動している先が、教室の扉の外に差し掛かった。
「!」
 教室に仲井が入ってくる。
 まちがいない。この霊力を集めているのは仲井すずだ。石原美波の時と同じように霊力を集め、そして、どこかに送っているのだ。
「仲井さん」
「すず、昨日はどこ行ったんだ」
 晶紀が話しかけようとしたところを、近くにいた小泉が割って入ってしまった。
「べつに」
「すず、最近、授業をさぼりすぎだぞ」
「親みたいなこと言うなよ」
「心配だから言ってるんじゃないか」
「うざいんだよ!」
 小泉の頬を叩こうとしたその手を、晶紀が掴んで止める。
「小泉は仲井さんのことを心配してるんだよ」
「痛い……」
「おい、すずが痛いって言ってるだろ」
 小泉の肘が晶紀の腹に入った。
「痛っ」
 不意を突かれて晶紀はその場にうずくまる。
 仲井はうつむくと、妙にピッチの狂った声を張り上げた。
『……うざい。お前たち、消えろ』
 その声で空気が震え、景色が震えたように見えた。
「このケロ声……」
 手で耳を塞いだ知世は、このピッチがズレたケロ声に聞き覚えがあった。
 晶紀が戦っている相手。たしか公文屋とかいう……
「知世、危ない」
 かなえがいたはずの場所に、磁器で出来た人形が立っていた。
 人形は、体を捻って知世に拳を当てにきた。
 晶紀の声に気付き、寸前で人形の攻撃をかわした。
 違和感に教室を見回す。
 仲井と小泉、晶紀と知世以外のクラスメイトは、すべて磁器で出来た人形に変わっていた。
「この前と同じ!」
「どうなってんだ」
「小泉避けろ!」
 晶紀はそう言いながら、教室の扉を閉め、仲井が逃げ出すところを押さえた。
『うざいって言って……』
 抜いた神楽鈴を振ると、仲井は言いかけたまま眠ってしまった。
 力が抜けて立っていられなくなった体をハグするように抱えて支える。
「晶紀さん、人形がいなくならない」
「この人形たちは、仲井さんが作り出しているわけじゃないんだ。だから仲井さんが寝てしまっても関係ない」
「じゃあ、どうすれば」
「……」
 晶紀にその問いの答えはなかった。
「人形たちはとりあえず仲井さんを助ける為に、こっちに向かってくるはずだから、小泉と知世は教室の反対端に逃げて!」
 日本人形のような磁器製の人形が、ペンギン歩きのように肩を振りながら晶紀に向かって集まっていく。
 小泉と知世は、素早く左右に避けながら人形の間をすり抜け、晶紀と反対側の端に逃げ去った。
「私たちは大丈夫ですわ」
 晶紀は仲井の背中に回した手を広げ、神楽鈴に光る剣を作り出した。
 このまま剣を振れば、人形は壊れ、破片が飛んでくるだろう。けれど、人形側に向かっているのは仲井さんの体だ。もし、狙って飛んでくるのなら、仲井さんの体を避けるように飛んでくるはずだ。しかし、万一仲井の体に向かって飛んできた場合は……
 人形のヨチヨチ歩きの輪が、どんどん小さくなって、晶紀に近づいてくる。
「晶紀さん!」
「一か八か」
 晶紀は一番近くにいた人形を軽く突いて、小さく壊す。割れた破片が宙に浮き『仲井』を回避して晶紀をねらって飛んできた。
「よし」
 飛んできた破片はもう一度神楽鈴の光る剣で叩き壊し、破片はどこにも刺さらなかった。
 すると、知世が叫ぶ。
「なんか目が光っていました!」
「えっ? どういうこと」
「割れた人形ではなく、別の人形の目が光ったんです」
「……」
 言っている間にも人形は迫ってくる。晶紀は言った。
「どういうことか、もう一度見ていて」
「はい」
 知世が返事をすると同時に、晶紀は別の人形に向かって光る剣を突き立てた。
 小さく、こぶし大の穴が開いた。して割れた破片が仲井を迂回するように飛んでくる。
 大きく弧を描いて飛んでくるため、難なく破片を叩くことが出来る。
「今度は違う人形の目が光っていました。光っているのは、破片が飛んでいる間だけみたいです」
「破片をコントロールしているのかな?」
わたくしもそう思います」
 それが正しければ手はある、と晶紀は思った。仲井を抱えながら、知世たちの方に強引に移動する。
 二つに分断された人形の輪が、再び晶紀を中心にして集まり始める。
「仲井さんを」
 小泉と知世に仲井さんを預けると、神楽鈴を構えた。
 破片を作り出しても、飛ばすことが出来なければいいのだ。
「いけぇ!」
 そう言うと、振り出した神楽鈴の光る剣が、グッと伸びた。
 扇状に横に払うと、人形たちはほぼ同時に破壊された。
 破片は宙に浮くことも、飛んでくることもなく、床に落ちた。
 知世が言った。
「そうか。コントロールする人形が残らなければ、破片も飛んでこない」


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