神楽鈴の巫女

ゆずさくら

文字の大きさ
上 下
11 / 73
神楽鈴の巫女

11

しおりを挟む


 知世は、学園の門を通った時、少し前を山口が歩いているのに気づいた。
「山口さん!」
 山口は声に反応して立ち止まったが、振り返らなかった。
 知世が急いで追い付く。
「……」
 ハッとして声が出なかった。
「どうかしたか?」
 山口は気になったように前髪を整える。
「……おはようございます」
「おはよう」
 知世は晶紀が言っていた言葉を思い出した。『隠れている方の目にあざがあった』今、後ろから追い付いた時、ふと横顔を見た時に、それに気づいてしまったのだ。
「昨日は早退してらっしゃいましたけど……」
 と言いかけた時に
「いいたくない」
 と山口に遮られてしまった。知世は
「あ、ごめんなさい。実は私と晶紀さんも体調を崩して早退していたのです。晶紀さんは学校に泊まったと聞きました」
「えっ? そんなに具合が悪いなら病院じゃないのか」
「それはそうなのですが、保健室の佐倉先生が観てくださるということだったので」
 知世は山口の手首を見て、そこにもあざのように痕があるのに気づく。
「ふ、ふうん、そうなんだ。で、知世は具合良くなったのか」
 山口も視線に気づいたのか袖を引っ張る。
「ありがとうございます。私はすっかり元気になりました」
「良かった。じゃあ、晶紀の様子を見に保健室に寄って行こう」
 校舎に入ると二人は教室に向かわず、直接保健室に向かった。
「失礼します。宝仙寺ですが、入ってもよろしいですか?」
 知世が扉の前で声を掛けるが、中からは声がしない。
「返事がありませんね」
「鍵はあいてるのか?」
 知世が扉に手をかけると、動く。鍵はかかっていないようだ。
「保健室なんだから気にしないでいいんじゃないか? 開けにくいなら、開けてやるよ」
 と言って、
「入りますよ~」
 と言いながら山口が扉を開け、入っていく。
 知世も周りを見ながら、
「失礼します」
 と大きな声で言いながら中に入る。
「どこにもいませんわ」
「鞄もない」



「なんでついてくるんだよ」
「少しでも良くなるように傍にいた方がいいと思ってな」
 佐倉はそう言って晶紀の腰に手を回した。
「恋人みたいに腰に手を回してくるなって」
「何度も言うておろうが。これは触診なのじゃ」
「触診触診って、シャワー浴びてる時もそんなことしてくるから、遅れちゃったんだぞ」
 晶紀は制服を着ているのに、胸を腕で隠すように上げた。
 佐倉がその様子を見て言う。
「年齢的にはもう少し膨らんでいた記憶があるんじゃが」
「お前のデカパイ基準で、他人の胸を語るんじゃないよ」
 佐倉は自分の胸を見るように下を見て、言う。
「わしもコンプレックスを克服できたのはここ最近だ」
「だからって、小さいほうのコンプレックスを刺激してくるなよ」
「揉んだ方が大きくなると言うぞ」
 晶紀の頬が熱くなってくる。
 佐倉の手を身をよじって避ける。
「間に合ってるから、ここで触ってこようとするな」
「おぬしに早く元気になって欲しいからな」
「もう元気になってるよ」
 佐倉は首を横に振る。
「若いから気付かんだけじゃ」
 すると、廊下の角から二人の生徒が現れる。山口と知世だった。
「晶紀」
「晶紀さん!」
 知世は小走りに近づいて、晶紀に抱き着いた。
「良かった、元気になったのですね」
「……」
 打撃による痛みや傷はなんともなかったが、突然、筋肉痛のような疲れが出た。抱き付いてきた知世を支えるように力を入れると、体が痛む。さっきまで佐倉がぴったりと横にいた時は痛みがなかったのに……。晶紀は混乱した。
「う、う、ん。げ、ん、き、だ、よ」
 山口が晶紀の顔を見て言う。
「知世、晶紀が辛そうだぞ」
「えっ?」
 知世が少し下がると、晶紀は苦笑いした。
 佐倉先生があたりに他の生徒がいないのを確かめてから、口を開く。
「晶紀はまだ完全には回復していない。筋肉痛のようなものじゃが、注意して負担がかからないようにみてやってくれ」
「はい」
「それと」
 と言って佐倉が晶紀と知世を呼ぶ。
 一番背の高い佐倉が屈むようにして三人が顔を近づけると、山口に聞こえないよう小声で言う。
「(昨日の大男の件は誰にも言わないように)」
「(家の者にも伝えてありますわ)」
「(よろしい)」
「じゃあ、天摩のことは頼んだぞ」
 それを聞いて知世も、少し離れていた山口も頷いた。
「はい」
「佐倉は大げさなんだよ」
「そうか? さっき知世に抱き着かれた時に辛そうだったぞ」
「ただの筋肉痛だよ」
 そんなことを話しているうち、担任の児玉先生がやってきて佐倉と何か話し始めた。
 晶紀が歩こうと足を出すと、腰のあたりに痛みが走る。思ったより足も上がっていないのか、平らな廊下なのに足を取られてつまずく。
 パッと知世が肩を貸す。晶紀はつらくて知世に頼ってしまう。知世がよろけると、山口が引っ張ってもう一方の肩を貸す。
「……あんな調子です。よろしくお願いします」
「佐倉先生。承知しました」
 児玉先生が三人に言う。
「さあ、教室に入りましょう」
 晶紀がちらっと背後にいる佐倉を見ると、人差し指と中指を伸ばし口元につけ、声を出さずに口を動かしていた。
「?」
 知世は晶紀の様子をみて、佐倉の方を振り返ったが、やさしく微笑み、手を振っているだけだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

『喪失』

Kooily
ライト文芸
 事故によって両腕を失ったピアニスト、広瀬 亜夢の物語。 ※ライト文芸大賞用に急遽作り始めて、ライト文芸というジャンルがよく分からずに書いたので好み分かれると思います。

落花流水、掬うは散華―歴史に名を残さなかった新選組隊士は、未来から来た少女だった―

ゆーちゃ
ライト文芸
京都旅行中にタイムスリップしてしまった春。 そこで出会ったのは壬生浪士組、のちの新選組だった。 不思議な力のおかげで命拾いはしたものの、行く当てもなければ所持品もない。 あげく剣術経験もないのに隊士にされ、男装して彼らと生活をともにすることに。 現代にいた頃は全く興味もなかったはずが、実際に目にした新選組を、隊士たちを、その歴史から救いたいと思うようになる。 が、春の新選組に関する知識はあまりにも少なく、極端に片寄っていた。 そして、それらを口にすることは―― それでも。 泣いて笑って時に葛藤しながら、己の誠を信じ激動の幕末を新選組とともに生きていく。  * * * * * タイトルは硬いですが、本文は緩いです。 事件等は出来る限り年表に沿い、史実・通説を元に進めていくつもりですが、ストーリー展開上あえて弱い説を採用していたり、勉強不足、都合のよい解釈等をしている場合があります。 どうぞ、フィクションとしてお楽しみ下さい。 この作品は、小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。 「落花流水、掬うは散華 ―閑話集―」も、よろしくお願い致します。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/807996983/195613464 本編では描ききれなかった何でもない日常を、ほのぼの増し増しで書き綴っています。

たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音は忘れない

夕月
ライト文芸
初夏のある日、蓮は詩音という少女と出会う。 人の記憶を思い出ごと失っていくという難病を抱えた彼女は、それでも明るく生きていた。 いつか詩音が蓮のことを忘れる日が来ることを知りながら、蓮は彼女とささやかな日常を過ごす。 だけど、日々失われていく彼女の記憶は、もう数えるほどしか残っていない。 病を抱えながらもいつも明るく振る舞う詩音と、ピアノ男子 蓮との、忘れられない――忘れたくない夏の話。 作中に出てくる病気/病名は、創作です。現実の病気等とは全く異なります。 第6回ライト文芸大賞にて、奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

どん底から始まる恋もあるらしい

りゅう
ライト文芸
高校生だが金髪でピアスを開け、いかにも不良のような態度、風貌をしていた風張透也は、ある日電車で女子高校生に痴漢と勘違いされてしまう。印象最悪、危うく逮捕の状況だったが… そしてそこから透也の周りの関係が変わり始めて…?

新人種の娘

如月あこ
ライト文芸
――「どうして皆、上手に生きてるんだろう」  卑屈な性分の小毬は、ある日、怪我を負った「新人種」の青年を匿うことになる。  新人種は、人に害を成す敵。  匿うことは、犯罪となる。  逃亡、新たな生活、出会い、真実、そして決断。  彼女は何を求め、何を決断するのか。  正義とは、一体何か。  悪とは、一体何か。  小毬という少女が、多くを経験し、成長していく物語。 ※この物語は、当然ながらフィクションです。

◆青海くんを振り向かせたいっ〜水野泉の恋愛事情

青海
ライト文芸
好きで好きで仕方ないのに、わたしには彼のそばにいることしかできない…。

桃と料理人 - 希望が丘駅前商店街 -

鏡野ゆう
ライト文芸
国会議員の重光幸太郎先生の地元にある希望が駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 居酒屋とうてつの千堂嗣治が出会ったのは可愛い顔をしているくせに仕事中毒で女子力皆無の科捜研勤務の西脇桃香だった。 饕餮さんのところの【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』】に出てくる嗣治さんとのお話です。饕餮さんには許可を頂いています。 【本編完結】【番外小話】【小ネタ】 このお話は下記のお話とコラボさせていただいています(^^♪ ・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』 https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/582141697/878154104 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ※小説家になろうでも公開中※

処理中です...