白姫さまの征服譚。

潤ナナ

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第二章 三節。

第75話 白ちゃんと竜帝聖女白姫。

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◇◇◇

 冬至の本日は白姫様の生誕日。

 街の皆が楽しみ喜ぶように、それ以上に楽しみ浮かれたいのが本人。


 早朝、南門前広場に大きな鉄板三枚と大量の薪。そして、グランディスボアが二頭、下処理が終わった状態で置いてあった。お手紙付きで。

『皆様で、召し上がって下さい。出来るだけたくさんの方に行き渡りますように。(白ユリマーク)』
 今日のこの日、こう言ったプレゼントにお手紙を添えて、お世話になったあの人、恋い焦がれる君に渡す。とのが、慣習になった切欠。それが、帝国皇帝であったミセリコルディアの偉業の一つ。とされる事案である。
 偉業とは思えないが………。



 夜も明けきれぬ朝と言うには烏滸がましい時間、

(ゆっくり。そうそう、止め!そのまま待ってて、)
『了解だ。我、白姫さま。』
 長いロープの先にお土産プレゼントをぶら下げ、ペーターとやって来たミセリコルディア。

「どうしたの?ペーターが、『白姫』だなんて。」
『ああ、我も考えたのだ、あるじと呼ぶのは、なんと言うか、少々違うのでは?と。雪が降っておろう?雪を見て。ああ貴女のようだ、と思ったのだ。だからそう呼んだ。他の人間のようではあるが、その、親しみを込めたくなったのだ。』
「そう。わたし、ペーター大好きよ?」
 古竜の黒い鱗に紅が差した気がした。

 お土産を広場中央に置き、ふと南門の方を見る。
 目があった。門兵様達と、

「何やってんだい、白ちゃん?―――(あ、染めて無い!)陛下。おはようございます。」
「あ、え?ああ、おはよお。そのぉ、皆にはナイショだ!」
「はぁ、内密に?」
「うむ、街の皆にプレゼントを置いて行く。(何故、隠密行動がバレた!?)その、其方らも相伴に預かれ、良いな。」
「はっ!?はい。」
 バレ無い訳は無かった。いくら黒竜だから暗闇に紛れられない程の巨体で、尚且つ翼をバタバタさせていれば、バレるのだ。
 用は終わった。とばかりに北へと帰るミセリコルディアを見ながら思う。完璧な人間などいない。

「だって、薪があって鉄板があるのに台座が無いんだよぉー白ちゃん。しっかたねぇなぁ。おーいお前らぁー工事用の煉瓦持ってこーい。釜戸作んぞぉー。」
「「「「「おおーっ!」」」」」

 結局、夜勤だった兵士さん達、焼き肉当番になった。
 更に問題は、「味無し焼き肉」であること。串系露店の店主数名が、タレの提供、近所の商店は塩と香辛料を提供と言う事態になっていた。
 どんなもんか様子を見に来た朝食前のミセリは、慌てて謝って、各店主には保証金として、煉瓦を組んで焼き肉の焼き方を行っていた兵には超過分を即金で支払った。
 これにより、街娘の白ちゃんは、公然の秘密から当然、『黙認の秘密』になったと言う。

 まあ、こうなってしまえば、足りない分を私費で食材を募り、何時もの肉串屋さんにタレを作って貰い、この催し物の影響を受け南門近辺で売上の半減する露店出店店主を交え大々的に行った。行う状況になって行った。

「へ、陛下!」
「お義姉様!」

「あ、エリィ!いや、い、今わたしは『白ちゃん』ですぅー!!!」
―――――陛下、苦しいです!誤魔化しも言い訳ももう無理があります。しかし、超デカい!!!!!

「エリィ、、、お、お貴族様もどうぞぉー。」
「お義姉様、お手伝い致します。ほら、ゴーティエ!薪、薪買って来て。」プルルン。
「え?薪、薪って何処で買うんだ?」
「おぉい。南門のあっちの廃材、使っちまうから、運ぶの手伝え。えーとぉ、ゴーティエ?」
「ええ、私?あ、はい。」
 食材は昼前には捌けた。一応食べられ無い部位は別けたつもりのミセリであったが、串系露店さんが別けて各々貰い受け、骨については、均等に袋詰めし、売ることになった。
 部位によっては良いスープが取れるのだ。相場の半値で、あっという間に無くなった。
 売上は陛下か白ちゃんにと皆が言うので一旦受け取った。

 そして、皆で後片付けだ。炭や灰を運ぶ台車を近所の商店主が持って来て、箒、ちり取りなども持ち込んで、掃除を始めた。
 竃の火が急に無くなるとやはり、そこは冬。誰かが、「うぅぅ、寒いなぁー」と言った。

「なら、焚き火だな!」
 と言う訳で、門兵達は、皆が焚き火に当たれるよう、形を円形に組直した。
 一基残した竃は、煮炊きしたり、先の鉄板使って焼き物が出来るようにしていた。

 こうなると、あちこちで宴会を始める人達、…………は、既に朝の時点でいた。………再開したようで、賑やかさは変わらない。
「白ちゃん万歳だな。」「ああ、白ちゃん万歳!」「違う違う、陛下だろ?」「こぉーか?白ちゃん陛下、万歳。」「おおー、それそれ。」
―――――――白ちゃんんーーバンザアアアァァァーーーイィィィ!!!!!白ちゃん、バンザアアアァァァーーーイィィィ!!!!!

「陛下ぁー。やっぱり陛下でしたかぁ。」
 見るとそこには紺色の外套を目深に着た市政官が腕を組んで立っている。路面汽車や、それに伴う工事のことで話し合いの場で何度も顔を合わせているので覚えていた。

「スカトロ市政官!」
「人を特殊な性癖持ち見たいに呼ばないで下さい。カストロですカストロ。。。陛下におかれましてはご健勝のこととお喜び申し上げると共にご生誕の日を迎え大変喜ばし、いのですが困ります。」
 臣下の礼を取り跪いた市政官は、ゆっくりと立ち上がる。

「いや、わたしが悪い。皆は責めないでやって欲しい。………」
「誰も住民を咎めたりしません。お祭りですから。私的な行事、催し、大規模な集会について、役所や町政務事務所への届け出と許可が要るのですよ?私が咎めているのは陛下です!」
「は、はぁ。」
「大体ですね、延焼の問題や一番外部からの来訪者の多い南門の、それも真ん前で、多数の人間が塞いだらどうなるか位ぃー分からない訳は無いでしょうに!」
「わ、我こそは帝国皇帝ミセリコルディア一世なるぞぉー!」

「んなこたあー知ってるっつの!」
「す、スカトロ…くん?」
「カストロ!私ゃー言われてますのっ、『陛下がオイタしたら鹿ってね♡』って!」
 凄い剣幕だ。♡?

「だ、誰、に。。。」
「筆頭補佐官で筆頭秘書官のアリエル様♡にっ!」
「その前にスマン、『♡』とは?」
「だ、だって、可憐じゃん。「何処がぁ」……あ、ぅ、髪とか胸?とかぁー、あー好きだなぁーアリエル様!」
――――――――沈黙の大衆。

「では無く、こう言った状態ですと………」
「だけどアリエルってお胸慎ましやかだし、まるでそう生理来る前の少女のようよ?」
「貴女だって、ちょっと前迄、『わたしの寂しいお胸。略してサムネ』とか言ってたでしょうに!好きだったのにお胸。。。」

「お義姉様をいーじーめーるーなーーー!!!」
 ズンズン近づいて来るエレオノール。ズンズンと言うより、『ぶるんっぶるんっ』ではあったのだが、
 一緒について来るゴーティエの視線が上下左右に激しく動き回る様について、「仕方無いよな思春期だもの」と同意している民衆の支持は高い。

「苛めている訳ではありません。……デカッ!あちらを見て下さい。陛下。」
 見ると、南門から南門前駅に向かう通りを確保すべく、騎士団員や警吏が頑張っていた。おそらく逆側もそうなのだ。
「ごめんなさい。。。」
「すみません。」プルン。
「その、スマン。」
 素直に謝る皇帝陛下であった。そしてエレオノール。
 ゴーティエは、一体何に対しての謝罪なのだろう。

「まぁ、楽しかったので、また来年も………。」
 何気にツンデレさんなカストロ市政官である。「良いラードの取れそうなメス豚もいますし、ね。揺れ」と、エレオノールをチラ見して呟いた。

(ひ、ひんぬー好きドSツンデレ!?そして、スカトロさんっ!!!)
「カス市政官、これは勅命ぇーである。」
 南門前広場の焚き火。その後始末と交通の確保を言い付けたミセリコルディアである。


「人間のクズみたいに言わないで下さい。カストロです。。。それと、伝家の宝刀みたいに『勅命』って言うか、『一生のお願い』っての連発するヤツ、知ってます。稚拙な文章書いて、『キャハーおもっしれぇーって自画自賛?』とか言うムカつく自画自賛バカ、こう言うの書くヤツで一人ばっか知ってるんです……その人。これ書いてる人です。
 まぁ、コホンッ。陛下の勅命を賜り、謹んでお受け致します。そして、」
 と、スカ…。カストロ市政官は姿勢を正し、

「ミセリコルディア陛下、ご生誕の日を迎えられ、誠に喜ばしくそして、この善き日に心よりお祝い申し上げます。おめでとうございます。今後も誠心誠意陛下、延いては臣民にこの身を捧げて行く所存でございます。」
 深く頭を下げるのであった。
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