白姫さまの征服譚。

潤ナナ

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第二章 二節。

第65話 留学生、竜帝聖女白姫。その1。

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◇◇◇

「ミセリ様。」
「どうしたの?ローズ。」
「はっ。ベルナール様一行が、ここベイルーシュに到着されました。ですが………」
 まあ、驚くであろう。あのベルナールが、子どもを抱っこしているのだから。
 信じられない。達観している風な、クールボーイを気取る彼が、子どもを抱っことか………。

「無理を承知でお願いしたい。このの足を………」
「無理言っちゃダメッス!ベルナール!自分の手だって三ヶ月ッスよ。それもユグドラシルの根元、源でッス!無理な物は無理ッス。」
 薄々感じて居たアデルハイトであった。だから、彼女は強く否定したかった。

「ううん。わたし、治せる。と、思う。今なら出来そうな気がする。。。」
 そう、ミセリコルディアが言うと、彼女の手を中心に光が溢れ出す。色が変わる。炎の赤、日の光の黄色、春草の芽の息吹く緑、美しい秋の黄昏の山吹、澄みわたる空の青、仄か闇き紫、神々しき黄金と白銀、そして、原初たる初まりの清き白。ああ、なんと言うなんと言う暖かい光であろう。
――――――まだ、行っちゃならない。行っちゃいけない。まだまだ早いよぉミセリ!ミセリコルディア。父さんが父さんがいるよぉ!

「―――――んんー。出来た?なんか言った?アーデ。。。」
 見ると、ヴィクトリアの足は、木が芽吹くように小さな葉が見る見る大きくなる様相で、足が生えたのであった。
 皆が皆。「凄い凄い」と言っていた。

「(現代、古ノルド語)ヴィクトリアさん、いい、生えたからと言って、食事を疎かにしては、いけません。無かった物が出来た、と言うことは身体の栄養がかなり少なくなったと言うことです。安心して、運動を怠ってもいけません。今迄みたいにベルナールに抱っこじゃ、ダメよ。分かった?」
「はい。」

「………上手いなあ、ノルド語。僕、追い付くわ。アーデは元々、出来るんだよな?あれ?アーデは………」
「エルフの娘なら、さっき部屋を出ましたよ。」


◇◇◇

 アデルハイトは、泣いていた。


(あたしは、あたしは、ミセリに何が出来るんだよぉ。このままじゃこのままじゃミセリが人の枠を越えてしまう。いいや、もう越えていたんだ。超えていたの、知ってた。知ってたよ?人の枠だなんて、小さな、ホントに小さな枠だって!でも、それでも、ミセリはミセリのままが良いのに!これじゃあ母さんみたいになっちゃう。なっちゃうけん。あ、方言混じった。。。でも、父さんが言った。「幾年かに一度、人の世に起き出るハイエルフがいるんだ。父さんは、その時、お前の母さんに恋をしたんだ。一度っきりの熱い想いと言う物は、本当に儚い夢のようだよ。後悔?まさか……父さんは、ミディーに逢えて良かったんだ。幸せだったんだ。」でも、だからって、それでもミセリは行かないで欲しい………………)

「もう何時まで寝るつもり?ほら、学園、ベイルーシュ学園行くわよ!」
「………んんー。もっとぉもっと強く抱いてぇぇぇ――――(パコーン!)――――痛いッス!っつか、ヒールで殴るって酷いッス。」

「もう、今日は、ベルナールも連れて行くんだから。」
「あ、あの口の悪い野郎!」

「貴女も充分口は悪いわ。」
 階下から、声がする。

「おーい、アーデ、ミセリさぁーん。ベルナールさんが待ってます。急いで。」
「あ、はあーい♡今参りますわ♡コルン様あ♡」


◇◇◇
 ※以下、現代・古ノルド語(大陸東方語)でお喋りです。


「よろしく、私ミセ……ミリディア。貴方も?……は?」
「私か?私は、シルヴァニア王国、第二王子ゴーティエだ。よろしく、ミリディア嬢。ところで、不躾とは思うのだが、年はお幾つなのだ?」

「ええ、やはりこの白髪しらがが気になりますの?」
「いや、その気にされているとは思わなくて、そうでは無く、見た目、大人のようにも見えたが、子どものような表情でもあったので、ちと気になった。」
「左様で、、、17でございます。」

「おお、私と同い年だ。良き友になれよう!」
「王族のお方と懇意になどなりましたら、多数の令嬢のかたきとなりましょう。畏れ多きことでございます。お戯れを……」


◇◇◇

「どうしたんだい。ヴィーちゃん。そんなお顔をして。」


「コルネリウス様、そのうベルナールがいないと、何時もそう言う顔になるんですよぉー。」
 因みに、コルネリウスは古ノルド語を話せる。
 当然、シリル、ジャン=ルー青年は、辛うじて聞き取りが出来るんだよ。程度である。
 そうなると、コルネリウスが話し相手だ。

「じゃ、狩りに行こう!僕、狩りが好きでね。それに、ひょっとしたら、新しいお友達が来るかも、だよ?君は、得意な武器とかあるのかな?」
 すると、まだ覚束無い足取りではあるが、空で得物を回し、得物を脇に抱え構える形を取った。
 目を細めたコルネリウス。

「槍術、………棒術だね!そうか、少しやろうか。」
 そのままヴィクトリアを小脇に抱えると、外へと飛び出して行った。

 城郭の外、少し緑の残る場所から、岩場に移動し、コルネリウスは、『取り敢えず』、今夜の糧を射落とした。
 血抜きや内臓の処理をジャン=ルーに丸投げ。そして、買って来た棒、身長に合った長さ、1、5メートルをヴィクトリアに渡す。自分も同じ長さの棒を持ち構えた。

 様になっている。
―――――カン、カン、と打ち合い始め、その内に、カンカカカカンカン。と速くなって行く。

 と、その時、大きな羽ばたきが聞こえた。「来たようですよ」と言ったコルネリウスの後ろに大きな灰色の鳥、……子竜が、降りて来た。

「相手が、着ましたよ。ヴィーちゃん?」
「だあれ?」
「クロエさん、小さな聖女様です。」
「聖女?」
「そう、貴女の足を元通りにした聖女様の………何でしょう?」
「弟子!」「だ、そうですよ。では、どちらが強いか見ましょう。」
 と言って、自分の持っていた棒を渡す。受け取ったクロエは、下段に構える。「では、始め!」コルネリウスの合図から、幼女対決となった。
 激しく打ち合っているように見えて、その実美しい舞いのようにも見えた。「ほぉー。」感嘆の声を思わず漏らすコルネリウスであったが、
「止め!一度止めて。」
「どうしてです。コリン先生。」
「言わなかった僕が悪いんだ。ヴィーは、病み上がりで本調子では無いんだ。だから、無理をさせる気はなかったんだよ。」
 そうなんですか。と言い掛けたクロエであったが、

「ミセリ様が、危機的状況です。行かなければっ!」
「こらこら。プチで行ったら、いろいろと問題が、あるんですよ?僕が行きます。」
 取り敢えずプチは一旦、人気の無いところへ、ジャン=ルーとシリルは、家へ幼女二人を連れて行くように指示し、ベルーシュ学園に急ぐのだった。


◇◇◇
 ※以下、現代・古ノルド語(大陸東方語)でお喋りです。

「君はどうも、貴族と言うより、王家の臭いがするね。」
「お戯れが、過ぎます殿下。私は只の商家の娘で、大陸東方語を学びたく………」
「いいや、ウソ、だね。君は私と遜色無い程、言葉が使えている。言い回しも流暢だ。」
「か、家庭教師が、こちらの出身で……」

「何を隠す。君はだが私との接触を避けていたであろう。」


「腕を取るのを止めろぉー!」
 右手を掴まれ、反射的、とは言え逆手に捻り上げてしまうミセリコルディアであった。
 未だ義手時代の癖が抜けず、やはり右手を触られることが、コンプレックスであったが所為でやってしまった。

「こ、この、貴様ぁー!」
「あーー。申し訳無い、申し訳無い。この子はウチの娘の友達でねー。ああ、名乗っていないですね。僕の名はコルネリウスと言います。一応、保護者なんだー。僕何かに免じてもお許し頂け無いことは百だって、千だって承知も承知。でも、淑女の手を断りもなく掴むのは、紳士としては如何な物かなぁ?」
 突然現れたコルネリウスが、いきなり、「ポンポン」とミセリコルディアの頭に手を置くので、ミセリは頬を赤らめ、

「コリン様♡」
 と言って「ピト♡」っと、くっ付いた。
 呆気に取られる王子ゴーティエ。

 その頃には、野次馬で大勢に囲まれているミセリコルディアであった。
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