白姫さまの征服譚。

潤ナナ

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第一章 二節。

第33話 聖女白姫による処断。その1。

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 ◇◇◇

 紅月ルージュの31日。長距離用の四頭立ての馬車。
 あまり羽振りの良く無い、と言う評判である『ル・ソワレ伯爵家』の馬車にしては随分と豪華だ。
 馬車は、祭りで賑わう街中を抜けて、昼過ぎにやっと目的地である皇城に着いた。

 建国祭の日の皇城のパーティーは、デビュタントを兼ねて居るのだと訊いている。

 ドレスの少女二人とそれに続く侍女が三人、皇宮をシズシズ歩く。
 城の侍従に案内され、通された客間。ここを自由に使って下さい。と言うことだ。

「さて、確認ですわ。わたくし達は午後5時を越えて、それから会場に入ることになります。
 その後、公爵家が一名、侯爵家三名この後、伯爵家が続いて、パーティー会場に入場します。王国の基準で考えますと今回の公爵令嬢の家格は従三位。侯爵は四位と五位です。
 さて、我々が偽装している伯爵家ですが、意外と家格が高いらしく、正六位です。つまり、五番目以降直ぐに皇帝陛下の拝謁を賜ります。それからが、わたくし達の戦闘状況となりますの。。。
 それと、もう一つ。いいえ、二つ…………。」


 ◇◇◇

 会場に入った。ローズ=マリーの懐中時計は五時五分。ミリディアとアーデの身長は、各々、152と157センチメートル。我等をエスコートする役ローズは170センチはある。
 完璧だ。ローズは完璧な男装のご令嬢然とした格好のタキシードの良く似合う美少年だ。
 ミリディアもだが、アデルハイト、アーデも透明感のある美少女である。
 そんな二人を美貌な美少年が一人でエスコートしているのだから、目立っても仕様が無い。会場内の空気が感嘆のため息で埋め尽くされたのだった。

 ローズを挟んで歩く、アーデは薄緑のドレス、ミリディアは空色だ。デビュタントする令嬢達に共通しているのは白い手袋をしていることである。勿論ミリディアもアーデも白手袋だ。そして、帝国に留学しているルーセル殿下、ベルナールも予想の通り、会場に居た。

 そんなミリディア達に気が付いたであろう隣国の王子。「リコリー!」と言う声が、会場に木霊する。


 皇帝陛下の御前だ、全て揃った。カーテシーをしたミリディアは言う。

「お初に、、、いいえ、幾度もお目文字しております。ミセリコルディア、ソレイユ公爵家が一人娘ミセリコルディアでございます。」

「ソレイユ公爵の、だと?そんなはずは……。」
 瞠目した皇帝クレマン五世陛下である。驚愕している顔は隠せ無い。それはそうだ。死んだ筈の人間が目の前に居るのだから…………。

「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。本日は、願いの儀があり、まかり越しました。
 父であるソレイユ公爵を殺害した者共を処断致したく、こうして、自らまかり越しましたの。現ソレイユ公の爵位詐称及び、その任命者に神の鉄槌を!その為にわたくし自らが登城した次第でございますの。」
 と言い、

「かぜの聖霊さんわたしの声を伝えてっ」
 陛下の御前である壇上から「ビシィ」っと一人の男を見据えて、言い放った。会場全体にミリディアの声が通り渡る。

「我が宿願、公爵を詐称するそこな男。正々堂々受けなさい。決闘ですの。シャルル叔父様。シャルル・アルチュール・ド・ソレイユ元子爵!」


「おぅ、お、お前はお前は誰か?誰なのだ!」
「あら?お忘れですの。貴方の姪、ミセリコルディアですわ。」

「だが、だがあの日、あの時確かに…。」
「殺しておりませんでしたの。」

「そ、そこの女!貴様こそミセリコルディアを語る、ふととき者であろう!?」
「いいや、彼女は、リコリー。本物の聖女ミセリコルディア、その人ですよ?公爵閣下。」
「こ、これは、王国の王子。ルーセル殿下ぁ。ミセリが本物ですと?」

「はい、閣下。それと、皇帝陛下もお訊き下さい。」
ルーセルは、語るのだった。

「今から八年前、我が国の辺境伯領に現れた少女が、彼女です。かなり酷い見にあったようで、最も親しくしていた侍女が目の前で、惨殺されたのですから、無理もありません。すっかり金の御髪《おぐし》が、真っ白になってしまわれたようなのです。
 私共の調べでは、そこの公爵、現在ソレイユ公を名乗る男性が、公爵家に乗り込み前公爵並び、公爵令嬢を害すが為。その際、子ども部屋に居た侍女ローゼリア嬢を殺害、一人娘のミセリコルディア嬢も害しようとしたものの令嬢本人は殺害出来ずと、まぁ、こうして生きて居たのです。私は嬉しい。
彼女は、我が国の辺境伯家の養女として、名をリコリー・ブランシュ・シュヴァリエ・ド・ベルジュに変えたのです。記憶を失くし右腕を失くし、芽月プールジョンのあの日、ベルジュ辺境伯領に転移したのですよ?凄い魔法使いですよね六歳であった彼女ミセリコルディア様は……。
 因みに彼女、ある功績を立てまして、我が国で、『騎士シュヴァリエ』の称号を賜って居るのですよ? とある麻薬絡み、でね。『天使の卵』と言う麻薬なのですが、公爵はお知りではありませんか?帝都にも蔓延している麻薬、『天使の卵』を!」
「殿下、語り過ぎです!」

「だ、だが、だが、ミセリはこの私が………麻薬、何のことだか私がわ、分かる訳が無い、無いではないか。」

「うっせぇーおっさんだなぁ。ミリディアぁーって良い?あのおっさん、ミリディアの髪、真っ白にしたおっさんなんだろ?まぁ、あたしは、この髪綺麗で好きなんだけどもさー。」

「あら、アーデ。言葉遣いが、なっておりませんよ。もう少し淑女レディとしての自覚をお持ちになられた方がよろしくてよ?」
「では、陛下、決闘を申し込み致しますわ。」
 ミリディアの投げた、左の手袋は放物線を描き、シャルルの顔に当たった。
―――当然、ではあるのだが、パーティー会場はこの事態に対処すべく、動ける者も無く只々、ことの成り行きを見守ることこそが、出来うることなのであった。

 会場内のざわめきは、何時しか静寂へと推移していたのである。
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