白姫さまの征服譚。

潤ナナ

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第一章 一節。

第7話 白姫と王女様。

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◇◇◇

「あのぉ、もし、血濡れ……、リコリー様。」
「…あ、ええーと貴女、確かコリーさん?」
「誰が犬だっ!ゴホンッ。あ、いえ、マリーです。」

「エステバン殿下の侍女の…」
「何処の太陽の子?」
「ラスカル殿下の…」
「それは指定害獣です。前に住んでた鎌倉辺りも結構被害が……。では無く、エステル…ああ、語感的にラスカルっぽいですね。」
「ね?」
 現在、王都下町、職人街に居るリコリー。義手のメンテと外れてしまった剣を修理した帰りなのだが、コリー…、エステル王女のお傍付き侍女マリーが困惑した顔でリコリーに話し掛けている。

「それで、わたしの動向を探りながら尾行して、エステル殿下と下町に来ていた。そう言うことですのね?」
「動向を探るだとか言ってませんししておりません!『お忍び』と言う設定で、動向を探っていたのです。」
「設定、って言っちゃっていますよ?で、はぐれたから探して欲しい、と?そんなに暗器とか持ち歩いて、侍女兼護衛なマリーさんなのに、大失態ですわね。双剣使いですの?」

「なっ何故それをっ!…っと、殿下がこちら方面に来た形跡はあるのですが…見つかりません。」
「では、わたしも探して来ます。―――多分、鍛冶屋に行きたい。ってわたしに着いて来た殿下…ルーセル王子もあちらの通りにいらっしゃると思うので、護衛の方々にお声を掛けますわ。ピカード様もいらっしゃるし…」
「重ね重ねかたじけないっ。」


◇◇◇

「…とか言ってから30分。エステル王女はおりましたが、人拐いに拐われてしまいました。何故こうなったのでしょう。全く、貴女、王女様なのに何呑気に寝ていらっしゃるのでしょう?」
 現在、下町の職人街の奥、おそらく、城郭に程近い倉庫街に居るのであろうリコリーと睡眠中のエステル王女。

「…ん?この香り……『天使の卵』?麻薬ですわね。王女様、射たれましたね。」
「ご明察ぅ。凄いねぇ君、本当に貴族の令嬢?」
「ええ、こう言う麻薬関係、国境警備では知識的に必要でしたので…。ところで貴方…、いいえ、あちらの豚様はどちらの豚様かしら?」

「ご令嬢、挨拶が遅れました。わたくしは、主人の家令を務めさせて頂いておりますジェノ、と申す者です。して、あちらが私の主人……」
コション伯爵」
「誰が豚だっ!!!」
「コルベル伯、ね。豚。」

「豚豚煩いっ。」
「だってぇ、豚臭いものぉー。」

「フンッ、そうやって吠えていろ。久しいな、リコリー嬢。益々お美しくなられて、お父上もさぞ鼻の高いことだろう。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。豚。」

「…、まぁ、今日からこの私がお前の主人となるのだ。残念だが、少し静かにさせて頂こう。ジャノ、『天使』を令嬢に差し上げろ!」
「はい。ではご令嬢、腕をお出し下さいませ。」
「こう、ですか?今日はお注射するので、お風呂は入れませんの?」
「いいえ、お入りになられても差し支えございません。」
 こうして、『天使の卵』と呼ばれる麻薬によって、リコリーの意識は……、(【異物排除】です。)
 実際、『聖女』としての力量はかなりの物…、なのだそうだ。隣国『帝国』の公爵家に現れた稀代の『聖女』ミセリコルディア。
 リコリーのミセリコルディアとしての記憶は、全く戻ってはいない。
 だが、辺境伯領で過ごした七年の中で、リコリーは自分自身の力量を把握出来ている。(お山で食べてはダメなキノコを食べちゃったので…把握出来た。)……完全に、では無いが……。
 只問題がある。

(薬物、排除したのはいいけど、排除先の膀胱が、は、排泄待ち状態ですわ。状況は非常に不味いです。風雲急を告げる的に漏れ、ます。不味いです。限☆界☆突☆破)
 などと悩める乙女、リコリーは、寝た振りしながら樽詰めにされてしまうのだった。

(あ、ああああぁぁあぁーーー!)
―――――ジョォォォーー。。。
 乙女の矜持が崩壊した。

「……おい、ションベン臭くないか?」
「んあ?俺じゃねーぜ?ああ、王女さんか貴族の嬢ちゃんのどっちか、だろ?」
(ああああ、わたしですぅ。。。み、水の聖霊さん、お願い!樽の中をお水で満たしてぇー!)
 現状。
 荷馬車の荷台に並ぶ樽に王女とリコリーは居る。
 馬車の揺れ、振動でお漏らしをしたリコリー。麻薬は体外に排泄された、のだ。確実に!
 樽を水で満たし、尿臭をなるべく薄めて…と考え実行中、と言ったところ。なのだが……。
 荷馬車は市壁に沿い、街の南門に着いた様子。と言うのも門兵らしき者の声が聞こえたのだから、おそらく門であろう。

 万を期した!
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴーっ」
 撲殺しそうな掛け声と共に、迸る水(尿入り)を撒き散らし、リコリーが水産、推参する!
―――――シャキーンッ!!!シュサッ!ズッバーーーン!ジャバジャバァァァァ。。。ジョロロローーー。
  ※義手の仕込み剣で樽を破壊し、中の水をぶちまけた音。

「そこに直れっっっ!犯罪者どもっ。門兵、そこの御者を捕らえよっ!王女殿下拐かしの現行犯ぞ!兵を集めよ!!!」
 水浸しの荷台で大声を上げる白い美少女。水浸しなのは何故か?解らない、が、「王女が拐かされた」と叫んでいることは理解出来た。
 南門は閉鎖され、御者達は捕らえられた。「樽の中に王女が…」と言う少女に従い、樽を開けると第二王女エステルが入っていたのだ。

 夕方の南門は、かなり結構な騒ぎになった。
 当然、侍女のマリー、ルーセル王子一行も駆けつけ、王女殿下の安否と身体状態を調べる段で、リコリーは言ったのだ。

「実は、エステル殿下は麻薬を射たれました。今から排除魔法を使います、残念ながらお身体に吸収されてしまった分は、申し訳ないがどうすることも出来ません。王子、マリーさんすまない。」
 驚愕する侍女マリー。主人を守れ無かったのである。だから……、
(間に合わないっっっ!)
 マリーは、クナイを自身の胸に突き立ててしまったのだった。
(ああー間に合わなかった。。。)

 止めどなくドクドクと流れる血。青から白へと変化して行くマリーの顔。
 夕暮れ時の南門の前で、衆人環視の中リコリーは、『聖女』の力を使うのだった。

 癒しの淡い光が辺りを照らした。
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