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第190話 巡る思い
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先輩が去った後のドアを見つめながら
僕は一瞬トリップしていた。
え? え? ごめんって……
ごめんって一体どういう意味のごめんなの?
いきなりやって来た事?
僕にいきなり抱き着いた事?
僕を迎えに来れなかった事?
先輩が僕の帰りを待たずに結婚した事?
分からない!
分る筈がない!
僕は先輩の7年間を全然知らない。
先輩の今の本当の心さえ全く分からない!
予期もしなかった再会から、
こんな言い残しなんて
最初からヘビーすぎる。
でも、番の解消は言わなかったな……
それを言われるものだとばかり思っていたのに……
もしかして言えなかったとか……?
そもそも僕達が番になった事先輩はちゃんと覚えてるのかな?
もしかしたら、それさえも忘れているかもしれない?
イヤイヤ、それは無いだろう。
僕には先輩の考えている事が全く分からなかった。
それに加え、チキンな僕は、
先輩に聞かなければいけない事の
一つも聞くことが出来なかった。
恐らく先輩も……
でも先輩の態度から、
陽一の事がバレているようなそぶりは一つも無かった。
これからはもっと陽一の身辺は
更に気を張って気を付けなければいけない。
そう言えば食事に誘いたいっていってたな……
本当に連絡くるのかな?
もしかして単なる社交辞令?
それよりも、今日の事、
矢野先輩に言った方が良いのかな?
僕は先輩の去ったドアに鍵を掛け、
明日の準備をすると会場を後にした。
個展があってる間はお母さんが陽一のお迎えをしてくれる。
時間を見ると、もう既に10時になっていた。
流石にこの時間になると電車も空いているけど、
サラリーマン風な人が多い。
中には眠ってる人もいるけど、
ちゃんと自分の駅で起きれるのかな?
と心配になった。
きっと残業が続いて疲れているのだろう。
僕は心の中でお疲れ様ですと言った。
そう言えば先輩……
自分の事サラリーマンって……
良く考えてみると、
いくら下済み時代って言っても
サラリーマンって言うのは変じゃない?
先輩のお父さんと何かあったのかな?
もしかして今の奥さんと結婚するときに何かが?
跡は継いで無いのかな?
でもどうして?
僕が逃げ出してなかったら、
彼女の位置は僕の物だったのに……
あんなに政治家になりたいって言ってたのに……
もしそうじゃ無かったら僕があの時身を引いた事は全て……
まだはっきりとしていないことを
グダグダと考えては自己嫌悪に陥りを繰り返しながら、
僕は家に着いた。
家に帰ると、お母さんがまだ起きて僕を待っていてくれた。
「お帰り、お疲れ様。
陽ちゃんはもう寝ちゃったよ。
ご飯はチンするだけだから……
顔色悪いけど、大丈夫?
初めての個展で疲れた?」
「いや、個展は楽しかったよ。
学ぶことが一杯で、
沢山の人と話すのも楽しかったし……
でも……」
僕は佐々木先輩の事をお母さんに話そうか迷った。
「でも、どうしたの?
要がこういう時って、
何かあった時だよね?
言ってごらん。
聞いてあげるから。
話すだけでもだいぶ楽になるよ?」
お母さんの言葉に、僕は話してみようと思った。
「実はね、
広告を見て個展が僕の事だと分かった佐々木先輩が
今日の閉館間際にやってきてくれたんだ……」
「そうか……
おそかれ、早かれ要がこっちに戻ってきている事は
分かるとは思っていたけど、
意外と早かったね」
「うん、で、告白すると、
少し前も駅で先輩を見かけてるんだ……」
「駅で?」
「うん、先輩の匂いがして……
そっと後を追ったんだ……
僕、先輩は先輩の父親の助手または自身の政界進出で
忙しくして、移動も運転手付きの車って思ってたから
電車での移動って言うのが凄く違和感で……」
「それで?」
「先輩の左の薬指に指輪があって……」
「え? 佐々木君、結婚してたの?」
「そうとしか考えられないでしょう?
先輩の陰になってたから最初は分からなかったんだけど、
先輩と一緒に赤ちゃんを抱いた女の人が一緒に居て……
おむつバッグを肩にかけてて、
彼女の背に手を回して支えて、
幸せそうに微笑みながら話してたんだよ?
それってどっからどう見ても、
買い物に出た奥さんと落ち合って一緒に帰ってる図だよね?」
「まあ、一見した感じではそうだとも取れるけど、
もしかしたら、知り合いだった可能性もあるよ?
もし要が赤ちゃん抱っこして座る場所も無く、
電車の立ちっぱなしになってる知人の女性を見たらたらどうする?」
「え……? そうだったら……
荷物を持ってあげて……
ブレーキで倒れないように後ろから支えて……」
「でしょう?
まあ、奥さんって言う可能性もあるけど、
必ずそれが佐々木君の奥さんだとは限らないよ?
指輪をしてるんだったら結婚している確定的な証拠にはなるけど、
まあ、確率は低いけど、
佐々木君、モテるんでしょう?
もしかしたらカモフラージュでしてるって事もあるかもだし……」
「でも……
それに、今日帰り際にごめんって……」
「ん~
そのセリフは気にはなるかもだけど、
分かるのは佐々木くんだけにだよね。
もしかしたら佐々木くんもテンバッテたかもしれないし……
もう一生会えないと思っていた要には会えるわ、
実際に目の前にいて話てるわ、動いてるわ、
もしかしたら佐々木くんの精神状態もパンクしてたかもだし、
自分で言って実際何言ってるのか分かってなかったかもだし、
いろんな事がごっちゃになって言ってるかもだし……
もう、全部ひっくるめてのごめんかもだし……
ここは良い方に考えて、
ポジティブになった者勝ちだよ」
「お母さんって変な所で度胸あるよね」
僕がそう言うと、お母さんは得意げに
「経験値が違うからね」
と一言言った。
確率はあるかもだけど、
お母さんの推理も一理はある。
モヤモヤはするけど、
お母さんの推理にかけてみるべきか?
本当は彼女は知人で、
先輩はカモフラージュの指輪をしてるって……
ちょっと無理がありそうな気はするけど、
探ってみる価値はあるかもしれない……
「それにね……」
「え?」
「運命の番が、
そうも簡単に運命を捨てれるとは思えない。
もう一度考えて……
何故僕達が単なる番では無く、
運命の番と呼ばれるのか。
これは都市伝説でも、噂でもなく、
真実なんだから。
そんなに簡単に捨ててしまえる運命なのだったら、
僕達に運命何ていらない。
そもそも存在している価値が無い!」
そうだ…… 確かにお母さんの言う通りだ……
確かに僕は佐々木先輩から心が離れることが無かった。
どんなに先輩の事を諦めようと思っても、それはかなわなかった。
7年も会っていなかった今でさえも、佐々木先輩が好きで、好きでたまらない。
それは磁石の様に引き合って、
まるで運命にからめとられたように、
こっちに戻ってすぐさまに引き寄せられた。
それは偶然なんかじゃない!
そこには運命の力が働いているはずだ!
僕はお母さんの目を見て頷いた。
「うん、その調子だよ。でも無理はしないで。
気を取り戻したところに水を差したくは無いけど、
もし本当にそれが奥さんだったら迷惑はかけたくないから
それが奥さんだと分かったら、先の事は置いといても一旦は引くように。
その後はその時に考えればいいから!
気落ちしないで!」
「分かってるよ。
僕はもう一度運命を信じてみる!」
「僕も、力の限り精一杯、要を応援するから、
絶対に一人で悩まないでね。
約束だよ?
じゃあ、今日はお父さんは地方ロケでいないから僕はもうベッドに行くね」
「うん、有り難うお母さん。お休み」
そう言って僕はお母さんが作り置きしておいてくれた夕食を温めにキッチンへと行った。
その時、ラインの受信音が鳴った。
ドキッとして心が逸った。
もしかして!?
見てみると、矢野先輩だった。
がっかりと言うと変かもしれないけど、
“なんだ、佐々木先輩じゃなかった……”
そう思ってしまった。
大好きな矢野先輩には変わりないのに、
先輩のメッセージにそう思った事が少し悲しかった。
でもそれだけ僕の頭の中は
佐々木先輩で一杯だった。
矢野先輩のメッセージを開くと、
何の変哲もない業務事項だった。
僕は携帯をテーブルの上に置き、
温まった夕食に手をつけようとした時、
またライン音が鳴った。
先輩忘れ物?
もう年だね~
そう思って開くと、
差出人は佐々木先輩だった。
ドキッとした。
でも今日話をして耐性がついたのか、
お昼の様な緊張は無かった。
それでもドキドキとしながらラインを開くと、
『食事に行く都合の良い日を教えてくれ』
と一言だけ入っていた。
僕は一瞬トリップしていた。
え? え? ごめんって……
ごめんって一体どういう意味のごめんなの?
いきなりやって来た事?
僕にいきなり抱き着いた事?
僕を迎えに来れなかった事?
先輩が僕の帰りを待たずに結婚した事?
分からない!
分る筈がない!
僕は先輩の7年間を全然知らない。
先輩の今の本当の心さえ全く分からない!
予期もしなかった再会から、
こんな言い残しなんて
最初からヘビーすぎる。
でも、番の解消は言わなかったな……
それを言われるものだとばかり思っていたのに……
もしかして言えなかったとか……?
そもそも僕達が番になった事先輩はちゃんと覚えてるのかな?
もしかしたら、それさえも忘れているかもしれない?
イヤイヤ、それは無いだろう。
僕には先輩の考えている事が全く分からなかった。
それに加え、チキンな僕は、
先輩に聞かなければいけない事の
一つも聞くことが出来なかった。
恐らく先輩も……
でも先輩の態度から、
陽一の事がバレているようなそぶりは一つも無かった。
これからはもっと陽一の身辺は
更に気を張って気を付けなければいけない。
そう言えば食事に誘いたいっていってたな……
本当に連絡くるのかな?
もしかして単なる社交辞令?
それよりも、今日の事、
矢野先輩に言った方が良いのかな?
僕は先輩の去ったドアに鍵を掛け、
明日の準備をすると会場を後にした。
個展があってる間はお母さんが陽一のお迎えをしてくれる。
時間を見ると、もう既に10時になっていた。
流石にこの時間になると電車も空いているけど、
サラリーマン風な人が多い。
中には眠ってる人もいるけど、
ちゃんと自分の駅で起きれるのかな?
と心配になった。
きっと残業が続いて疲れているのだろう。
僕は心の中でお疲れ様ですと言った。
そう言えば先輩……
自分の事サラリーマンって……
良く考えてみると、
いくら下済み時代って言っても
サラリーマンって言うのは変じゃない?
先輩のお父さんと何かあったのかな?
もしかして今の奥さんと結婚するときに何かが?
跡は継いで無いのかな?
でもどうして?
僕が逃げ出してなかったら、
彼女の位置は僕の物だったのに……
あんなに政治家になりたいって言ってたのに……
もしそうじゃ無かったら僕があの時身を引いた事は全て……
まだはっきりとしていないことを
グダグダと考えては自己嫌悪に陥りを繰り返しながら、
僕は家に着いた。
家に帰ると、お母さんがまだ起きて僕を待っていてくれた。
「お帰り、お疲れ様。
陽ちゃんはもう寝ちゃったよ。
ご飯はチンするだけだから……
顔色悪いけど、大丈夫?
初めての個展で疲れた?」
「いや、個展は楽しかったよ。
学ぶことが一杯で、
沢山の人と話すのも楽しかったし……
でも……」
僕は佐々木先輩の事をお母さんに話そうか迷った。
「でも、どうしたの?
要がこういう時って、
何かあった時だよね?
言ってごらん。
聞いてあげるから。
話すだけでもだいぶ楽になるよ?」
お母さんの言葉に、僕は話してみようと思った。
「実はね、
広告を見て個展が僕の事だと分かった佐々木先輩が
今日の閉館間際にやってきてくれたんだ……」
「そうか……
おそかれ、早かれ要がこっちに戻ってきている事は
分かるとは思っていたけど、
意外と早かったね」
「うん、で、告白すると、
少し前も駅で先輩を見かけてるんだ……」
「駅で?」
「うん、先輩の匂いがして……
そっと後を追ったんだ……
僕、先輩は先輩の父親の助手または自身の政界進出で
忙しくして、移動も運転手付きの車って思ってたから
電車での移動って言うのが凄く違和感で……」
「それで?」
「先輩の左の薬指に指輪があって……」
「え? 佐々木君、結婚してたの?」
「そうとしか考えられないでしょう?
先輩の陰になってたから最初は分からなかったんだけど、
先輩と一緒に赤ちゃんを抱いた女の人が一緒に居て……
おむつバッグを肩にかけてて、
彼女の背に手を回して支えて、
幸せそうに微笑みながら話してたんだよ?
それってどっからどう見ても、
買い物に出た奥さんと落ち合って一緒に帰ってる図だよね?」
「まあ、一見した感じではそうだとも取れるけど、
もしかしたら、知り合いだった可能性もあるよ?
もし要が赤ちゃん抱っこして座る場所も無く、
電車の立ちっぱなしになってる知人の女性を見たらたらどうする?」
「え……? そうだったら……
荷物を持ってあげて……
ブレーキで倒れないように後ろから支えて……」
「でしょう?
まあ、奥さんって言う可能性もあるけど、
必ずそれが佐々木君の奥さんだとは限らないよ?
指輪をしてるんだったら結婚している確定的な証拠にはなるけど、
まあ、確率は低いけど、
佐々木君、モテるんでしょう?
もしかしたらカモフラージュでしてるって事もあるかもだし……」
「でも……
それに、今日帰り際にごめんって……」
「ん~
そのセリフは気にはなるかもだけど、
分かるのは佐々木くんだけにだよね。
もしかしたら佐々木くんもテンバッテたかもしれないし……
もう一生会えないと思っていた要には会えるわ、
実際に目の前にいて話てるわ、動いてるわ、
もしかしたら佐々木くんの精神状態もパンクしてたかもだし、
自分で言って実際何言ってるのか分かってなかったかもだし、
いろんな事がごっちゃになって言ってるかもだし……
もう、全部ひっくるめてのごめんかもだし……
ここは良い方に考えて、
ポジティブになった者勝ちだよ」
「お母さんって変な所で度胸あるよね」
僕がそう言うと、お母さんは得意げに
「経験値が違うからね」
と一言言った。
確率はあるかもだけど、
お母さんの推理も一理はある。
モヤモヤはするけど、
お母さんの推理にかけてみるべきか?
本当は彼女は知人で、
先輩はカモフラージュの指輪をしてるって……
ちょっと無理がありそうな気はするけど、
探ってみる価値はあるかもしれない……
「それにね……」
「え?」
「運命の番が、
そうも簡単に運命を捨てれるとは思えない。
もう一度考えて……
何故僕達が単なる番では無く、
運命の番と呼ばれるのか。
これは都市伝説でも、噂でもなく、
真実なんだから。
そんなに簡単に捨ててしまえる運命なのだったら、
僕達に運命何ていらない。
そもそも存在している価値が無い!」
そうだ…… 確かにお母さんの言う通りだ……
確かに僕は佐々木先輩から心が離れることが無かった。
どんなに先輩の事を諦めようと思っても、それはかなわなかった。
7年も会っていなかった今でさえも、佐々木先輩が好きで、好きでたまらない。
それは磁石の様に引き合って、
まるで運命にからめとられたように、
こっちに戻ってすぐさまに引き寄せられた。
それは偶然なんかじゃない!
そこには運命の力が働いているはずだ!
僕はお母さんの目を見て頷いた。
「うん、その調子だよ。でも無理はしないで。
気を取り戻したところに水を差したくは無いけど、
もし本当にそれが奥さんだったら迷惑はかけたくないから
それが奥さんだと分かったら、先の事は置いといても一旦は引くように。
その後はその時に考えればいいから!
気落ちしないで!」
「分かってるよ。
僕はもう一度運命を信じてみる!」
「僕も、力の限り精一杯、要を応援するから、
絶対に一人で悩まないでね。
約束だよ?
じゃあ、今日はお父さんは地方ロケでいないから僕はもうベッドに行くね」
「うん、有り難うお母さん。お休み」
そう言って僕はお母さんが作り置きしておいてくれた夕食を温めにキッチンへと行った。
その時、ラインの受信音が鳴った。
ドキッとして心が逸った。
もしかして!?
見てみると、矢野先輩だった。
がっかりと言うと変かもしれないけど、
“なんだ、佐々木先輩じゃなかった……”
そう思ってしまった。
大好きな矢野先輩には変わりないのに、
先輩のメッセージにそう思った事が少し悲しかった。
でもそれだけ僕の頭の中は
佐々木先輩で一杯だった。
矢野先輩のメッセージを開くと、
何の変哲もない業務事項だった。
僕は携帯をテーブルの上に置き、
温まった夕食に手をつけようとした時、
またライン音が鳴った。
先輩忘れ物?
もう年だね~
そう思って開くと、
差出人は佐々木先輩だった。
ドキッとした。
でも今日話をして耐性がついたのか、
お昼の様な緊張は無かった。
それでもドキドキとしながらラインを開くと、
『食事に行く都合の良い日を教えてくれ』
と一言だけ入っていた。
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