消えない思い

樹木緑

文字の大きさ
上 下
137 / 201

第137話 矢野先輩の手紙

しおりを挟む
僕は矢野先輩の手紙を一通り読んでしまって、
天井を見上げ、フ~っと一息ついた。

そしてクスクスと笑った。

とりあえずは生きてる!
元気でやってそうで良かった。
でも、授業のノートのコピーを送るってどういうこと?
僕にはチンプンカンプンなのに!
それにその他は一言も無いなんて!
ま、矢野先輩らしくって面白いけど!

でもそっか~
こんな勉強してるんだ~
凄いな全部英語で……
あ、アメリカの大学なんだから、当たり前か~

僕は矢野先輩の手紙を丁寧に折りたたむと、
元の封筒に戻して、カバンの中に入れた。

そして描きかけのキャンバスをそのままにして、
カバンを取って体育館へと向かった。

矢野先輩の手紙を読んだ?それともこれって見た?後は、
無性に佐々木先輩に会いたかった。

一度先輩と肌を合わせて大胆になったのか、
僕は思考さえも今まで恥ずかしくて、
考えたことも無かったことを考えるようになった。

実を言うと、クリスマスに佐々木先輩との
初体験をして以来、
先輩と会う時は何時もドキドキで2度目は何時?
もしかして春休み?等と思っていた。

でも矢野先輩の失踪?騒ぎでその思いもどこかへ行ってしまい、
少し落ち着いてきた今は、
凄く佐々木先輩と肌を合わせたくてたまらなかった。
先輩のあの痺れるような匂いと、
熱い肌が恋しかった。

先輩がそこに居ると思うと、
僕の体や精神は、まるで磁石で引かれるかのように
先輩に引き寄せられた。

僕は、同じ校舎内に佐々木先輩が居る事にワクワクしながら
体育館へと急いだ。

体育館まで行くと、奥野さんも覗きに来ていた。

「あ、赤城君!
もう佐々木先輩にはあったんでしょう?
さっき体育館横切った時、佐々木先輩が居たからびっくりしたよ!」

「はい、先輩には先ほどあったのですが、
でも奥野さん、聞いてください!
矢野先輩から手紙が来たんです!」

奥野さんの顔が急にパ~ッと明るくなった。

「そうなの?
先輩何て?
今どこに居るの?」

「そんなに一気に質問されても答えられませんよ~」

「あ、ごめん、ごめん。
ついつい興奮しちゃって」

「で? 矢野先輩なんだって?」

「え~っと、何処に居るのかは相変わらず分からないんですけど、
とりあえずは生きてるみたい。
でも、手紙の内容が全部授業で取ったノートなんですよ。
全部英語で、僕分かりません!
でも凄く矢野先輩らしくって、
離れていてもやっぱり矢野先輩は矢野先輩だなって……
なんだか安心しました」

そう言って僕はクスクスと笑った。

「あ、赤城君、いいね。
表情が柔らかくなったよ!」

「え? 僕ってそんな硬くなってましたか?」

「うん、な~んか笑って無かったって言うか……
ほっぺの筋肉が引きつってたって言うか……
でも今は良い顔してるよ!」

そう奥野さんに指摘されて、少しずつ前に進んでいるようで
僕は少しうれしかった。

ピピーッというホイッスルの音で、休憩の時間になったようだ。

「あ、ほら、休憩の時間になったみたい。
でも、佐々木先輩、後輩に囲まれてるね」

「そうですね~
今日はもう話すことは無理かな?」

「う~ん、どうだろう?
もう少し待ってみたら?
皆も落ち着いたら先輩から離れるんじゃない?」

そう話してるとき、青木君がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。

「あ、青木君、お疲れ様です。
新しいクラスはどうですか?」

「いや~ 要の様な可愛い子がいないからがっくりだよ
皆、脳みそが筋肉で出来たような奴ばっかでさ~」

そう言いながら、青木君は汗を拭いた。

「何ですか? その脳みそが筋肉って……
凄い表現ですね~」

「分かるだろう? 
もう、戦う男ってやつらばっか?
考える前に体が動くって言うか……」

「あ、でも、そう言うのが必要な時ってあるじゃないですか!
車に引かれそうになった人を助けるとか!」

「そんないいもんじゃないよ。 
どっちかって言うと、動物的……猛進型?
お前ら、イノシシか?って。
ちっとは頭使えよ!ってな感じ」

青木君がそう言うと奥野さんも束さず、

「あんたもその一人ね」

と言って、青木君をからかってた。

「だが、今日は残念だったな。
折角佐々木先輩来てるのに、囲まれてしまったな」

「そうなのよね~
私達も今そう言う風に話してたのよ~」

僕はもう一度佐々木先輩の方を見て、
離れてくれそうもない人だかりを横目に、

「残念だけど、今日はもう帰ります。
残っていても、もう話せそうもないし……
帰る準備をしてきたから部室に戻るのもアレだし……」

「え~ ほんとに帰っちゃうの?
あとちょっと待てば先輩、解放されるかもだよ?」

「うん、でも練習の邪魔もしたくないし……
顔を見ながら少し話せればって来てみたんですが、
今日は諦めます。
バレー部の皆も僕と同じような気持ちだと思うし、
僕の方が先輩とは会う機会が多いから……」

「ホントに良いのか?
じゃあ、佐々木先輩にお前が立ち寄った事だけは
伝えておくな」

「青木君、ありがとうございます。
じゃあ、また明日!」

そう言って僕は奥野さんと青木君に挨拶をして帰路に就いた。

校門を潜って、河川敷をトボトボと歩いていると、
後ろから

「要ー!」

と僕を呼ぶ声がしたので振り向くと、
佐々木先輩が僕を追いかけて自転車でやってきているのが見えた。

「お前な~、少しは忍耐して俺を待ってろよ!
青木に聞いてすぐさま追いかけて来たよ!」

「先輩! 練習は良いんですか?」

「ああ、俺が出来る事はもう全部やったから、
後は見学をするか、帰るかの2択だったから
お前を追って来たよ」

「先輩、嬉しいです~
僕、凄く先輩に会いたくて、会いたくて、
凄く顔を見て話がしたかったんです~」

「お前、大分元気が戻って来たよな」

「はい、これも一重に先輩のサポートのおかげです!
最近は心に余裕が出来たせいか、
前とは違った意味で先輩と一緒に居たくて……
先輩との時間が足りなくて……」

「ハハハ、もう少ししたら車の免許が取れるんだよ。
取れたら少し遠出しような。
夏休みに入ったら二人だけでまた旅行もしたいし」

「そう言えば、教習所に通ってるって言ってましたよね。
それにもう直ぐ先輩の誕生日も来るじゃないですか!
一緒にお祝いしましょうね!」

佐々木先輩の誕生日は4月30日なので、数週間後には先輩は19歳になる。

「なあ、浩二の手紙には何が書いてあったか……
聞いても良いか?」

先輩が子犬の様な目をして尋ねてきたので僕は少しおかしかった。
僕は先輩をちょっとからかってやろうと思い、
目を伏せて、ちょっと目をウルウルとして見せた。

「……」

「もしかしてまだアプローチとか……してるのか?」

僕は少し上目使いに先輩を見上げて、

「本当に知りたいんですか?
後悔するかもしれませんよ?
僕は構いませんが、
本当に先輩が知りたいんであれば……」

そう言うと、カバンをゴソゴソとし始めた。

隣からは先輩の緊張と言うか、
ソワソワというか、
落ち着きを無くした感じが手に取るように伝わって来た。

「凄く矢野先輩らしくって……」

そう言って僕は佐々木先輩に封筒を渡した。
渡しながらも、僕は笑いをこらえるのに必死だった。

先輩は緊張を飲み込んだようにして手紙を開いた。

そしてワナワナとし始めて、

「お・ま・え~!!!!!」

と叫んだ。

僕は手を叩いて笑いながら、

「ハハハハハハ! 引っ掛かった、や~い!」

と走って先輩から逃げた。

「お前の足で俺から逃げれると思うなよ!」

そう言うと、先輩は自転車に飛び乗って僕を追いかけて来た。

逃げるまでも無く、直ぐに先輩に捕まった僕は、

「降参! 降参!」

と言って立ち止まった。
そして先輩に向かってヒヒヒと笑った後、

「先輩、公園まで後ろに乗せてってくださいよ!」

そう言って、ヒョイと自転車の後ろに立った。

「お前~
警察見かけたらすぐに降りろよ?」

先輩はそう言うと、
颯爽と自転車を漕ぎだした。
先輩の広い肩に手を置くと、先輩の熱が手のひらに伝わって来た。
先輩の熱を感じる手で僕はギュッと先輩の肩を掴んだ。

そして先輩の背中に寄り掛かると、
その大きな背中を胸に感じた。
また少し伸びた先輩の髪が風に揺れ、
僕の頬に触れて少しくすぐったかった。
そして先輩からは、いつもの甘い癖になるような匂いがフワリと漂っていた。

全てを剥した先輩の肌に直に触れたことがあるのに、
この時は先輩の甘い香りに包まれて、
初めて先輩に触れたみたいに僕の心臓はドキドキとしていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

処理中です...