消えない思い

樹木緑

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第111話 2学期

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時は移り変わって、
外界はすっかり秋の気配と化していた。

登下校では、矢野先輩の早朝課題とクラブ引退の為、
友達の少ない僕は、すっかり一人登下校となり、
2学期から、なんだか物足りないスタートを切っていた。

街路樹も紅葉にかわり、
冬がもうすぐ来るのかと思うと、
少し憂鬱な気分にもなった。

学園では卒業前の3年生の最終行事、
文化祭の準備が行われていた。

それと同時進行の様に、
生徒会執行部の総入れ替えもあった。
少し前に生徒会の選挙があり、
新しく生徒会役員が発足された。

新しい生徒会は、
文化祭が初めての仕事になり、
佐々木先輩の率いる生徒会は、
文化祭を通して引継ぎを行い、
これが最後の仕事になる。

新しく会長になった2年生の先輩の事は
良く知らなかったけど、
佐々木先輩が後押しをしていたので、
きっと素晴らしい生徒会長になるだろう。

僕と佐々木先輩の仲は良好で、
あまり学校で接点の無い僕達は、
佐々木先輩のいつもの行動力で、
一番最初に連れて行かれた
階段の下で相変らわず密会を繰り返していた。

殆どが、僕が廊下を歩いている時に、
先輩に階段下に引き込まれるという具合だったけど、
何時、誰にみられて、
何を言われるかヒヤヒヤの連続だったけど、
今の所全ては順調だった。

でも、本当にどうやってタイミング良く、
僕が階段の所を通る時に、
先輩がそこに居るのか
何時も不思議でたまらなかった。

「文化祭の準備はどうだ?」

「楽しいですよ。
中学校とはやっぱり違いますよね。
何でも本格的だし、
放課後皆で残って準備するのも
初めての経験です~」

「お前のクラスは何するんだったっけ?」

「映画鑑賞ですよ!」

「映画鑑賞か?
もうどの映画を上映するか
決まってるのか?」

「まだなんですけど、
何作かリストが上がっていて、
半分はお父さんが出てるものなんです。

お父さん、今から張り切って
文化祭に来るって、
もう僕、今からハラハラ、ドキドキですよ!」

「ハハハ、お前の親父、面白いもんな。
でも、変装してくるんだろ?」

「それはそうですけど、
結構体育祭の時に注目を浴びた人なので、
今から心配で、心配で……
それに、両親の時から居る先生たちも居るから、
もしバレちゃったりしたらと思うと……
体育祭の時と違って、
文化祭って人と触れ合うことが断然多いし……
もし勘の良い人が居たら、絶対怪しまれますよ~
それに映研の人たちって
出演者に対してもオタクな人多いし、
もしかしたら変装してても、
見破られてしまうかもだし……」

僕が興奮して話し出すと、
先輩は決まって微笑みながら、
僕の髪に指を絡ませたり、
頬を撫でたりしてくる。

「先輩、聞いてる?」

「ハハハ、聞いてるよ。
お前が凄く可愛く話すから、
お前に触れずにはいられないよ」

基本的に先輩は僕の話を聞くことが
好きみたいだけど、
何時も僕のどこかに触れているので、
時としては、
聞いてるのか、触れたいだけなのか分からない。

「先輩のクラスは
ホストクラブでしたよね?
良く学校が許しましたよね」

そう言いながらも、
僕は少しだけ先輩のホスト姿に興味があった。

きっと凄くカッコいいに違いない。
でもその反面、
沢山の女の子達が群がる姿を想像して、
面白くないとも感じる。

僕は最近ちょっとヤキモチ焼きだと自分で自覚している。

「まあ、ホストクラブと言っても、
基本はカフェだからな。
そこにホストの格好をした男子が
接客するってだけで……」

「衣装はやっぱり先輩のクラスの
女子が縫うんですか?」

誰かが先輩の衣装を縫うってだけで
凄く嫌だ。
先輩を好きな誰かの気持ちが入った物を
先輩が着るなんて考えただけでもムッとしてしまう。
じゃあ、僕が縫えって言われても出来ないんだけど……
やっぱり嫌なものは嫌だ!
きっと沢山の女子がその特権を取り合ったに違いない。

「らしいけどな、
この間なんか採寸させろって
ベタベタと触りまくられて……」

ほら! やっぱり!
女子ってこういう時、凄く積極的になるんだよ!
それに文化祭! あわよくば!って思ってる人多い!
それに、後夜祭もあるし……
僕はそんな公に先輩のパートナーになれないし、
先輩は大丈夫、心配するなって言ってくれるけど、
考えれば、考えるだけキリキリとしてくる。

「そう言えば、俺の衣装については女子たち、
優香と一悶着起こしてたな~」

「長瀬先輩とですか? 
確か同じクラスですよね?」

「そうだな。一応な」

そう言って先輩は少し面倒くさそうな顔をした。

「長瀬先輩か~
きっと長瀬先輩も先輩の衣装
作りたかったかもですね」

「あれはダメだよ。
根っからの箱入りお嬢だからな。
料理、裁縫、掃除……
基本的な家庭科ももってからっきしだからな」

「は~ そう言う女子も居るんですね。
でも、長瀬先輩の家柄を聞くと納得はしますね。
でも、彼女の家とは大丈夫ですか?
ちゃんとやれてますか?」

「ちゃんとやれてるかってお前、
俺と優香の事くっつけたいのか、
それとも俺の事心配してるのか?」

「そりゃあ、心配ですよ!
僕、明日の見出しに高校生遺体で発見なんて
イヤですからね!」

僕が本気で心配してるのに当の本人はというと、
僕が心配してあげるのが嬉しいらしくて、
ニヤニヤとしながら僕を見ていた。
僕に嫉妬されるのも凄く好きみたいだ。

「長瀬先輩には、
まだ僕の事はバレていませんよね?」

「う~ん、
なんか感付いてはいるみたいだが、
確信はもってなさそうだな」

「ねえ、もし僕のことバレちゃったら、
僕ってどうなりますか?」

「そりゃあ、全力で潰しにかかるだろうな」

「ひ~ それって僕、
命の保証ありますか?」

「ハハハ、そんなに心配するな!
お前の事は俺が全力を掛けて、
命がけで守るよ」

「え~ 信頼できますか?」

「お前、言うようになったな!」

そう言って先輩は僕の鼻を摘んで、
そのままキスをした。

んん~ 

「しぇんぱい~
息ができましぇ~ん」

声にならないような声で
僕がそう言うと、
先輩はハハハと笑って、
僕の唇をペロリと舐めて、
赤くなった鼻先にキスをした。

そして僕の頭をクシャクシャとすると、

「ランチの時間にまたな。
ランチは屋上でな」

そう言って先輩は辺りをちょっと見回して、
誰も居ないことを確認した後、先に教室に戻って行った。

時間を少し見計らって、
時間差で出ていくと、
僕は何処からか視線を感じた。

ハッとして辺りを見回したけど、
感じた視線の先には、
もう誰も居なかった。




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