消えない思い

樹木緑

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第101話 夏休み1日目

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僕は、早朝のまだ涼しい時間に
散歩をしてみようと、
公園まで出てきていた。

流石にいつもの様な登校中
と言う様な生徒の数では無かったけど、
あちらこちらから、
チラチラとラジオ体操の声と笑い声が聞こえてきた。

どうやら、小学生の夏休みの課題の一環の様だ。
僕も小学生の時は、
早朝から地域別にグループ分けされた生徒と一緒に、
この公園でラジオ体操をやった。

小さなカードがあり、
ラジオ体操に参加すると、
グループリーダーが印を押してくれた。
それを、夏休みが終わったら
学校へ提出しなければいけなかった。

つい数年前まではやっていたのに、
もうずっと遠い昔のように思えて、
こうやって年を取って行くんだな~
と、しみじみとした。

少し走ってみようと、
河川敷目掛けて走った。
河川敷まで抜けると、
割と走り込んでる人たちが居た。

僕は少しハ~ハ~しながら、
川沿いの所まで降りて行った。

登校中は余り気にかけて見た事は無かったけど、
魚が飛び跳ねたり、アメンボが水上を泳いでいたり、
メダカが戯れていたり、
小さなことに目が移った。

水面に顔を覗かせると、
僕の顔が映った。

それを見ながら、

「ハハ、変な顔」

と呟いて、ここから学校まで走ってみようと思った。

少し準備運動としてストレッチをして、
少しずつ走り出した。

やっぱり、運動は僕には向いていない。
でも、しっかり走り込んだら、
学校までの距離も走れるようになるかもしれない。

そう思いながら、半分来たところで
リタイヤして、少し休んだ。

そしてまた、ゆっくりと走り出して、
学校の門まで来たときには、
歩いて学校まで行くよりも時間がかかってしまった。

きっと、ウサギと亀って
こんな気持ちだったんだろうな
と思いながら、門をくぐると、
もう運動部の人たちはチラホラとやって来ていた。

校舎の外壁に取り付けられた時計を見ると、
もう8時を回って半分経とうとしていた。

帰ろうと向きを変えた時、
青木君が校門から入って来た。

「あ、やっぱりお前だったな」

「おはようございます。
早いですね。
部活ですか?」

「ああ、1年生は色々と準備があるからな。
それより、お前は何してるんだ?
美術部は夏は自主じゃなかったっけ?
それに夏休みは結構バイト入れてただろ?
唯一許可なしでバイトできる時だからな」

「散歩してたらいつの間にか
走って学校まで来てたんですよ!
色々と発見したんですよ!
魚がジャンプしたりとか、
アメンボやメダカがいたりとか!」

青木君は僕の一生懸命に話すさまを見て、

「都会っ子の小学生が
田舎へ遊びに行った時みたいだな」

と言ってプッと笑った。

「え~ 新しい事を発見するって
楽しくないですか?」

「まあ、俺、それは小学生の時に体験したからな。
お前ってどれだけ箱入りなんだよ」

そう言われて、プク~ッとほっぺを膨らました。

「お前、やっぱりそういう顔しても可愛いんだな
おれ、入学した時から、お前の事、可愛いって思ってたんだよ」

そう青木君に言われ、

「そう言えば、入学式の時にも言われましたよね。
あの時は何て失礼な人だろうって思いましたよ!」

そう言うと、青木君も、

「だよな!
何だかもう随分昔みたいに思うけど、
まだ数か月しか経ってないんだよな。
時間が経つのは早いよな~
こうしているうちに先輩達も卒業か!」

と、僕が今朝思っていたような事を言ったので、

「そうなんでよね。
僕も今朝、同じこと考えてましたよ!
時間が過ぎるのは早いってね!」

「ところでお前、俺たちの部室までついて来て、
時間大丈夫なのか?
今日はバイトはないのか?」

そう言われて、初めて青木君について
バレー部の部室前まで来ていた事に気付いた。

「あれ? 僕、話に夢中になって
ここまで来ていたんですね。
バイトは夏休みになってシフトが変わったので
大丈夫なのですが、
なんだか夏休みに友達に会うと、
特別な気がしますね。」

そう言うと、

「バイト無かったら、練習見ていくか?
もう少ししたら、佐々木先輩もくるぞ?」

「お邪魔じゃないですか?」

僕がそう尋ねると、

「天下の佐々木先輩の恋人だぞ?
公には出来ないと言っても、
もっと堂々としてても良いと思うぞ」

そう青木君に誘われたので、
じゃあ少しと、ちょっとだけ、
バレー部の練習を見ていく事にした。

青木君んが着替えるのを待って、
他のバレー部の1年生と一緒に体育館へ行った。

「これ、赤城要。
俺のクラスメイトな。
今日は偶然会って見学に誘ったんだよ」

そう青木君が紹介してくれると、

「よろしく~」

と僕は挨拶をした。

「青木から良く聞いてるよ。
可愛い友達が出来たってそりゃもう、入学した時から
毎日の様にうるさくな。
まあ、今でこそ彼女出来てウホウホな奴だけど、
よろしくな。
でも、初めて近くで見たけど、
本当に男にしては奇麗な顔してるよな」

「あ、お前、要はダメだぞ!
もう恋人居るからな。
殺されたくなけりゃ、遠くから見てるんだな」

とのセリフに、僕は後ろから青木君にケリを入れた。

「イテッ! お前な~
本当の事だろ?」

「え? 何、何?
もう付き合ってる人いるの?
まあ、こんな奇麗な顔してたら、
当たり前か~
俺も彼女欲し~」

「で、誰? 誰?
その付き合ってる人って。
この学校の子?」

「でもさ~
そこまで奇麗な顔してたら、
普通の女子は引くよな~」

「で? 結局は誰なの?」

の友達の反応に青木君は、

「知らない方が身のためだぞ。
本当に殺されるぞ」

と、脅して見せた。

「え~
青木~ お前知ってるんだろう?
そしたら俺たちもいいじゃんかよ!
どんな人?
もしかして、あっち系の人?」

と、どんどん僕の恋人が誰なのか、
話がエスカレートして来た。

でも、そう話をしているうちに、
体育館についてしまったので、
そこまでになってしまった。

まあ、余りそれ以上は詮索してこなかったので
助かったのだけど、
青木君の部活の友達は気さくで、
とても話し易かった。

「じゃあ、要はこのステージの所に座って見学しろよ」

そう言って青木君が僕の場所を確保してくれた。

「2階に行かなくても大丈夫なんですか?
僕、邪魔になりませんか?」

そう聞いてると、

「おはようございま~す」

そう言って、マネージャーの女子がやって来た。

あ~~~ この人は佐々木先輩が好きであろう
あのイチャイチャ、ベタベタのマネージャー!

ムムムとは思ったけど、

「おはようございます。
青木君のクラスメートで赤城と言います。
今日は青木君に誘われて練習の見学に来ました。
邪魔しないようここでじっとしてますね」

そう自己紹介すると、マネージャーも、

「全然大丈夫だよ!
ようこそ。
応援は一杯あった方が皆やる気でるよ!」

と、凄く気さくに話し掛けてくれた。
それでも、2年生、3年生の先輩たちが体育館に入って来た時は、
目ざとく佐々木先輩を見つけて、

「あ、裕也君、おはよう!
今日も頑張ろうね!」

と可愛く声を掛けていた。
でも、確かにこのマネージャーは可愛い。
声や身振りから、
全身で佐々木先輩が好きってわかる。

それは部では公認なのか、
マネージャーと佐々木先輩が一緒に居るところを、
部の皆は

「ピューピュー」

とからかって、マネージャーは

「やあねえ、皆、そんなからかったら、
裕也君に悪いじゃない~」

と、台詞とは裏腹に、そんな悪びれもせず、
また、僕の目から見て、満更でもなさそうな佐々木先輩の
顔を見て、僕はムッとして、胸がモヤモヤとなった。

そんな僕を、青木君だけが、
ちょっとハラハラとしたように見守っていた。







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