消えない思い

樹木緑

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第37話 疑惑

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空は真っ黒な雲で覆われ、遠くからは雷なりの音がする。
ピカッと光って僕は数を数えた。
1、2、3、4、5、6
ゴロ・ゴロ・ゴロと、遠くからまだ小さい音がする。
光った時から雷の音がするまでの時間差を考えると、雷はまだ遠くらしい。
僕は空を見上げて、雨が降る前に学校への道を急いだ。

公園まで差し掛かった時に、いつもの様に見知った後姿を見かけたので、元気よく先輩の元まで走って行った。

「先パ~イ!おはようございます!今日は雨になりそうですね。急いだほうが良いですよ。」
僕は少し上気した頬を手で仰ぎながら先輩に挨拶をした。
「あ、要君、おはよう。本当に一雨来そうだよね。最近はすっかり暑くなって来てるしね。体育祭が終われば衣替えだからそれまでの我慢だね。」
「本当に暑くなって来ましたよね。それにもう直ぐ梅雨に入るせいか、この頃雨も多いですよね。」
「そうだね~。体育祭はちゃんと晴れてくれれば良いけどね~。」
「僕、梅雨って嫌なんです~。空気はジトジトしてるし、汗は体に巻きついてるし、もう気持ち悪くって…」
その時、稲妻がカッと光って、物凄い音と共に地が震えた。
「ヒャ~、先輩、近いです!近いです。早く学校行かないと頭に落ちますよ~!」
先輩はそんな僕を見て、クスクスクスと笑っていたけど、僕はソワソワと落ち着きを無くした。
自慢ではないが、僕は小さい時から雷が大嫌いだ。
特に何かを経験した訳ではないが、もし自分に落ちたらと思うと、それだけで恐怖がこみ上げる。
本当に梅雨は僕にとっては苦手なシーズンだった。

「あ、先輩、ほら校門が見えて来ましたよ。走りましょう!」
そう言って僕は小走りで走り出した。
「要君、老体に鞭打たないでよ~。」
そう言って先輩が後を追って来たけど、僕は校門で急に立ち止まった。
「どうしたの?急に立ち止まって?」
後ろからハ~ハ~と苦しそうについてきた先輩が、僕の背後から校門の方を見据えて、
「あ、なんだ、裕也か。おはよう、もう朝練は済んだのかい?いや~朝一番で走ると、さすがにきついね~」
と呑気に朝の挨拶をしている。
「ちょっといいか?コイツにちょっと用があるんだ。」
佐々木先輩は親指をクイッと立てて僕に向けてそう言うと、僕の腕を掴んで、グイっと自分の方に寄せた。
矢野先輩が「は?」と言う様な顔をして、僕の方を見たので、僕はちょっと顔をしかめて肩をすくめてみせた。

佐々木先輩がグイグイ僕を引っ張るので、「あ、佐々木先輩、ちょっと…」と言いかけたけど、先輩はそんな事はお構いなく、
「浩二、ごめん。」と言って、どんどん僕を引っ張って行った。
僕は佐々木先輩の強引さに押されながら、「あ、矢野先輩、ごめんなさい!また放課後~~~。」と仕方なく手を振った。
そんな僕達を、矢野先輩はあっけに取られた目で見ていた。

佐々木先輩は朝練の後、もう誰も居なくなった体育館の裏に僕を連れて行き、そこに腰を下ろした。
立っている僕を見上げて、「まあ、すわれよ、HRまではまだ少し時間あるし。浩二と登校して来たって事は、日直では無いんだろ?」と聞いて来た。
僕は不貞腐れながら、
「日直では有りませんが、これって横暴すぎますよ。矢野先輩に失礼じゃないですか。」と言いながら佐々木先輩の隣に座った。
「で?用とは日曜日の事ですよね?」

僕は何故か分からないけど、佐々木先輩とは最初から腹を割って話すことが出来た。
その為、すっかりと可愛くない僕が出来上がっていた。

「あのさ…」
「何ですか?日曜日の事では無いんですか?」
「お前さ…」

珍しく先輩が言い渋っている。

「何をいまさら勿体ぶってるんですか?言いたいことがあるのであれば、どうぞ。」
そう言って僕は先輩の前に手の平を差し出した。
そして先輩は、突拍子も無い事を尋ね始めた。

「お前、俺に何か感じたことは無いか?」
は?何その質問!と思いながら、
「何かというと?」と尋ねると、
「ほら、運命を感じたとか、カッコイイとか、忘れられないとか…」と返って来た。
僕は、何言ってるの?この人?と更に思いながら、
「先輩、それ本気で言ってますか?」と聞き返した。

そして、僕はため息をつきながら、先輩の顔を呆れたように見上げた。

「そこだ!」

先輩はそう叫んで、僕の頬を鷲掴みにして、
「俺の目を良く見ろ。」
と僕の顔を先輩の顔に近付けた。

「にゃ、にゃんれしゅか~」
声にならに声で先輩の方を睨みつけた。
「しぇんぱい、いっらい、にゃにししゃいんでしゅか~?」
先輩が僕の頬を両手の平でウニウニとかき回して遊んでいる。
「いらいれすってば~」
先輩はプッと笑って、
「お前、こうすると面白い顔になるな?」
とふざけ気味になって来たので、僕はムッとして、
先輩の両腕を掴んで離そうとしたけど、ピクリともしなかった。

そんな僕に堪忍したのか、先輩は僕の頬から両手を離して
「俺の目を見てくれ。」
と繰り返し尋ねるので、ヒリヒリとし出した頬をさすりながら、先輩の目を見つめた。
「で?次は?」とぶっきらぼうに尋ねる僕に先輩は、
「お前、何か感じるか?」
と、又尋ねてきた。
「え~?感じるかって、何を?先輩の目の感想ですか?」
「お前、バカか?」
「は~?訳が分から無いのは先輩じゃないですか?目を見て何を感じろと言うんですか?」
「じゃ、俺を見て何か感じないか?」
僕は増々訳が分からなくなった。
首を傾げて考えていると、
「俺を見てドキドキとしたりしないか?」とまたまた訳の分からないことを尋ねて来る。
「え~、先輩にですか?」
「ああ、だから聞いただろ?なにか運命とか、ドキドキとか、そういった類の、感じたりしなかったか?」
結構真剣な顔で聞いて来るので、本当にまじめに聞いてるんだ~と不思議に思った。

でも何故?

「え~、何故先輩に運命を感じるんですか?先輩は僕に運命を感じたとでもいうんですか?」
そう聞き返すと、今度は僕の頬を優しく撫でて、
「どうだろうな。」と一言。
僕はそんな先輩の行為に少しドキッとして先輩に触られた頬が熱くなった。

「やっぱりこの匂いが…」
先輩はそう一言言うと、僕の頬から手を離して、
「お前、全然何も気付かないのか?感じないのか?」
と立ち上がった。

「あの…僕、先輩に何か気を持たせるような態度でも取ったのでしょうか?もしそうでしたら僕…」そう言いかけると、
「いや、分からないなら良いよ。ま、いずれ分かるさ。今はわからなくてもな。」
先輩はそう言って、手を振り、
「日曜は良いよ。浩二のバースデーに付き合ってやりな。じゃ、もうHR始まるから俺は行くな。お前も早く行った方が良いぞ。」
と言って、ポケットに手を突っ込んで、背を丸くした後、サッサと自分の教室へと去って行った。

そんな先輩の背中を見送っていたら、何だか急に胸が苦しくなった。
そしてなぜか先輩と、もっとバカみたいに話をしていたいと思った。

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