消えない思い

樹木緑

文字の大きさ
上 下
27 / 201

第27話 ゴールデンウィーク3

しおりを挟む
僕達は芝生の上に寝転がって満天の星を見ていた。
そしてもちろん横には、僕と一緒に先輩も寝転んでいる。
今は二日目の夜。

二日目は、最初の計画通り、僕達はまったり、ゆったりと一日を過ごした。
朝は日が出る前から起き、デッキに出て、ソファーに腰かけた。
朝の空気が冷たくて、火照った頬を覚ましてくれる。
ブルっと身震いをして、ソファーに掛けてあったブランケットを肩に掛けた。
昨夜は、先輩が隣で寝ていると思うと、緊張して一睡もできなかった。
そしてずっと考えていた…先輩の涙の訳を…

恐らく僕は、先輩の涙の意味を知っている。

カチッとドアの開く音がして、「あ、要君、ここに居たんだ…」そう言いながら、
重そうな瞼を開けたり閉じたりしがら先輩が僕の所にやって来た。
寝ぼけ声で「ちょっと詰めて…」と言って端っこに追いやった僕の隣に先輩が座り、僕のブランケットの中に割り込んでくる。
「寒いね~」と言いながら、先輩は僕の膝に頬を落としてまた瞼を閉じた。
「先輩?」僕が呼び掛けると、
「ん~?」と眠たそうな返事が返ってくる。
「眠るんだったらベッドの上が良いですよ?」僕がそう問いかけると、
「だって、要君居ないんだもん。部屋の空気が寒い…」先輩はそう言って僕の手を取って、自分の頬にあてがった。
「は~すごく暖かい…」
僕はそっと先輩の手に僕の手を添えて、
「先輩って結構甘えん坊なんですね。」と言うと、
「人肌って気持ちいいね。」と先輩が答えた。
「ねえ要君知ってた?肌と肌の触れ合いってね、メンタルにも良いんだってよ。愛する人と肌と肌で触れ合えたら、それってどんな感じなんだろうね…」
そう言って先輩は静かになった。
「先輩?」
「………」
「先輩?寝ちゃったの?」
「………」
返事が無い。どうやら又眠りに落ちたようだ。
僕は薄暗くなった東の空を見上げた。
薄っすらと地平線がオレンジの線を描く。
もう直ぐ夜が明ける…僕はそう思いながら、朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸った。

下を見ると、先輩が気持ち良さそうにス~ス~と眠っている。
僕は片方の手で先輩の頬に触れたまま、先輩が眠っているのを良い事に、もう一方で先輩の髪を掻き撫でていた。
先輩がとても愛おしかった。
涙が出そうな程に先輩が愛おしかった。
地平線に目を戻すと、弧を描いた地平線からは、ゆっくりと太陽が昇って来ていた。
僕は何も考える事が出来ずに、その光景を見ていた。
太陽が上がるに従って、太陽の光が段々と先輩の顔を照らして行く。
その眩しさに顔を歪めて先輩が目を覚ました。
そして僕は慌てて先輩の髪を掻き撫でていた手を引っ込めた。

まだ目を開けたり、閉じたりして目を覚そうとしている先輩に、「先輩、朝ですよ。」と言って話しかけた。
目をショボショボと瞬きした後、先輩はファ~と欠伸をしてその場に立って伸びをした。
先輩は辺りをキョロキョロろ見回して、
「あれ?僕、何時の間にここに来たの?」ととぼけている。
どうやら先輩は寝ぼけてここまで来たようだ。
「先パ~イ、寝ボケてたんですか?もう僕のブランケットをグイグイと引っ張って大変だったんですよ~膝には寝転がってくるし、押しても、押しても戻ってくるし、僕、足が痺れて、痺れて!」と膝をさすりながら、口をとがらしておとぼけてみた。
「ごめん、ごめ~ん!何だか、気持ちいいな~とは思ってたんだよ。とても良い夢見心地でね~」と先輩は言って笑っていた。
僕はからかって、「先輩、お母さ~んって寝言、言ってましたよ。」と言ってプッと笑った。
先輩は苦笑いしながらデッキフェンスまで歩いて行くと、フェンスを掴んで遠くを見た後、僕の方を振り向きにっこりと笑って、
「要君、この景色見てよ!凄いと思わない?」と、そう言った。
僕には、朝日を浴びて少しキラキラとした先輩の顔の方が凄く眩しかった。

僕がまだボーっとソファーに座っている間に、先輩が熱いコーヒーを入れて持ってきてくれた。
「山根さんが丁度来たところだから、直ぐに朝食にありつけるよ。」そう言いながら僕にカップを渡して、先輩はコーヒーを一口飲んだ。
デッキのフェンスにもたれてコーヒーを飲む先輩の姿はとても奇麗だった。
「先輩、そうしていると、凄く奇麗です…」
僕は思っている事が不意に口から出てハッとした。
先輩は目を見開いて、「ハハハありがとう。僕はどっちかって言うと、カッコイイの方が良いかも?」と言って笑っていた。
僕は苦笑いしながら、「そうですね、先輩、凄くカッコイイです!」と付け加えた。
先輩は、「ハハ、とりあえずは言っておこうかなって感じ?」と笑いながら、
「要君、こっちに来てごらんよ。景色が凄くきれいだよ。僕はこの景色を君に見せたかったんだ。」そう言って先輩が僕の手を引いた。

デッキから目の前に広がる景色は遠くまで続く渓谷で、雨に濡れたような緑色は、濃い部分と薄い部分をあちらこちらに散りばめて、これでもかというくらい何処までも、何処までも続いていた。
そして地平線をくっきりっと映し出した、青い空と白い雲のコントラストはその美しさを一層引き立てていた。

その光景を見て僕が「ずっとこうして居たいな…」と呟くと、
「そうだね、このまま時が止まってくれたら良いね。」と先輩が答えた。
そして阿蘇の壮大な景色を目の前に、僕は静かに目を閉じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

螺旋の中の欠片

琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

処理中です...