龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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「翠! 翠! こっちよ!」

セシルは大声を上げなから僕の手を引いた。

「ちょ……ちょっと待ってよ。

僕、リュックが重くて早く走れないんだけど……

それにセシルは荷物はないの?!」

そう尋ねると彼女は手をパーンと叩いて、

「そうよ! 私、ストレージを持ってるのよ!」

そう言って手を目の前に翳し、

「ストレージ」

そう言うと、

“フォン”

と音を立てて目の前に小さな空間が出て来た。

僕が

”?“ 

とした様な顔をすると、

「これがストレージよ!

空間に物を保管しておける袋が出来るの!

此処に入れておけば重さも感じないし、
食べ物を入れておいても腐らないのよ!

魔法の一種なんだけど、
皆んなが出来るわけじゃないのよ!」

そう言って鼻高々とした。

「へ~ 凄いね……

それどうやってやるの?!

僕にも出来るかな?!

僕も少しは魔法が使えるんだ!」

そう言うと、彼女は

「うーん、

空間に袋がある様な感じで思い浮かべてストレージって言うんだけど、
さっきも言った様に難しい魔法だからみんなが持てる訳じゃないのよ?

貴方には無理だと思うけど~」

揶揄った様にそう言うと、僕は

「ストレージ!」

そう言って目の前に手をかざすと、

セシルと同じ様に

“フォン”

と音がして小さな空間が広がった。

「あ、出来ちゃった」

僕がそう言ってセシルの方を見ると、
セシルは顎が外れた様にして僕の方を見ていた。

「此処に僕のリュックを入れればいいの?」

そう尋ねると、セシルは口をポカンと開けたままコクコクと頷いた。

僕がそそくさとリュックをその中に入れると、
目の前に空いていた小さな穴が閉じた。

セシルはがっかりした様にすると、

「もしかして貴方って大魔法使いとか?

正体を隠して山奥に住んでたの?」

そう言うふうに言うと、
僕を上目遣いで見た。

彼女の感の鋭さに少しドキッとした僕は、

「ほ、ほら、早くギルドだっけ?に行こうよ!

もう目と鼻の先なんでしょ?

この後は宿も取らなくちゃいけないし、
暗くなる前に行かないと!」

そう言うと、セシルも慌てた様にして、

「そ……そうね!」

そう言ってまた僕の手を取った。

「あ、あのさ、手を繋がなくてもちゃんと走れるよ?

それに僕の方が年上なんだけど……」

そう言うと、セシルは繋いだ手を見て、

「う~ん、貴方見てると何故か母性本能がくすぐるのよね!

何だか危なっかしいと言うか、
守ってあげなくちゃって言うか……」

そう言うと、

「まあ良いじゃない!

減る物でも無いし!」

そう言うと、僕の手を取ったまま走り出した。

ハッキリ言ってきっと僕の方がセシルよりも早く走れるけど、
僕はセシルに手を引かれたままギルドまで走って行った。

セシルは

「頼もう!」

そう言ってバーンとドアを開けると、
ギルドにいた人達が一斉に僕達の方を見た。

セシルは僕達の方を見た人達に向い、

「皆様ご機嫌様!」

そう言うと、皆の視線も気にせずにズンズン受け付けまで歩いて行った。

僕はペコペコとしながら皆の間を縫う様にセシルに着いて行くと、
受け付けに立っていた人にペコっと頭を下げた。

セシルはそんな僕の肩をポンと叩くと、

「彼の名は翠よ!

冒険者登録をお願いしたいの!

そして私とのパーティー登録もお願い!」

そう元気良く言って、

“ほら、身分証を出しなさいよ”

そう僕に囁いて脇腹を突いた。

受付にいた人も、

「それでは翠さん、
此処に翠さんの身分証を翳してください」

そう言って又魔道具を出して来た。

この世界は割と色んな魔道具で管理されているらしい。

僕は

「は……はい!」

と吃りながら身分証をかざすと、

“ピッ”

と魔道具から音がして、
魔道具が光出した。

まだ魔道具になれない僕は未だ驚かされる。

魔道具が光った所で、

「それではこちらに翠さんの血液を一滴落としてください」

そう言って小さなナイフを渡された。

「へっ? 血液? 自分を切るんですか?!」

驚いてそう言うと、
ギルドにいた人達が笑い出した。

それに少しムッとしたセシルは、

「大丈夫よ、こうするの!」

そう言って僕の手を取ると、

“ピッ”

と指先をそのナイフで刺した。

僕の指からは血が滲んで、
魔道具の上にポトっと一滴だけ血が滴った。

セシルが持っていたハンカチで切った部分をグルグル巻きにすると、
魔道具が更に光出して、
底の部分からヒュっとカードが出て来た。

僕が、

「オオオオオ~!」

と驚いて反応すると、
又ギルドの中にいた人達が笑い出した。

中には、

「君、そんな若造はほっといて俺たちのパーティーに来ないか?」

と声を掛ける者も出始めた。

僕はセシルを見ると、

“君、パーティーに誘ってくれる人も居るじゃん!”

そう囁くと、

“彼らは冷やかしで言ってるの!

本当にパーティーに加えようとは思って無いわよ!

ホイホイ付いて行ったらそれこそピンチの時に魔獣のベイトにされるのがオチよ!”

そう言うと、魔道具から出て来たカードを魔道具から引き抜くと、
自分のカードと合わせて、

「パーティー登録よろしくお願いします」

と受け付けの人に差し出していた。

受け付けの人がそれを受け取り又魔道具に翳すと、
シュッとカードにパーティーメンバーとしてお互いの名が書き足された。

受け付けの人はそれを渡すと、

「はい、これで全て終了です。

お二人とも掲示板に張り出されているクエストから
パーティーのレベルに合った依頼を探してこちらに依頼書を持って来られると
その依頼をお受けすることができますよ。

そう言われたので、

「あの……どうやってレベルは分かるのでしょうか?!」

そう尋ねると、

「鑑定魔法はお持ちでは…無いですよね?」

そう尋ねられたので、

「鑑定魔法…ですか?」

そう尋ね返した。

“もしかしてセシルがさっき言った様に
レベルを見る様な感じで想像すれば出てくるのかな?”

そう思い、レベルが目の前に出てくるのを想像して

「鑑定」

と言うと、目の前に

“ヒュン”

と四角い画面が出て来た。

そこには、

“名: 翠・シュレード 人間族 男 13歳
職業: プリースト (聖龍の後継者)
レベル:1

HP: 148
MP: 260

スキル:##########

属性付与: “聖龍の寵愛”

とあった。

僕が

“うーん、レベル1のプリーストか……”

と呟くと、セシルがバッと両手で僕の口を塞いだ。

そして辺りを見回すと、

“バカ! 自分の能力は隠しておきなさいよ!

それよりも、貴方自分を鑑定できるの?!”

そう言って僕の耳元に囁いた。

”う~ん、これが鑑定だって言うんだったら……“

そう囁くと、

”それでどんなことが出て来たの?“

と尋ねて来た。

僕はセシルをじっと見ると、

”何よ? 私に隠し事はなしよ!

もう貴方の事だったら何を聞いても驚かないから!“

セシルはそう囁くと、僕の耳たぶを引っ張った。

”痛いよ! 痛いよ!

隠し事とかそんなんじゃ無いんだけど……“

そう言うと、

”じゃあ何よ?!

私には言えないって言うの?!“

とセシルは更に耳を引っ張った。

”取り敢えずここでは……“

そう囁くと、

”じゃあ、これから宿へ行って
明日また此処に戻ってクエストを受けるわよ!“

彼女はそう言うと、受付から冒険者登録カードを受け取り、
また僕の手を引いてそそくさとギルドから出て行った。

「取り敢えずは今夜泊まる所を探すわよ!」

セシルはそう言うと、

「ほら、地図を貸して!」

そう言って手を差し出した。

「あ、ちょっと待って! 地図だったらストレージに入れたんだけど、
どうやって取り出したら……」

そう言って眉を歪めた。

「そんなの簡単よ!

ストレージが使える人は同時にインベントリも使えるの!

インベントリはね、貴方がストレージに入れた物には
何があるか教えてくれるスペルなの。

それに貴方のストレージの容量も教えてくれるのよ!

だからインベントリって言ってみて!」

彼女かそう言うから、

「インベントリ」

そう言うと、

目の前に又スクリーンが出て来て、
僕のストレージに入っている物のリストが出て来た。

「どう? 見れる?」

そう言って彼女が僕の顔を覗き込んで来た。

「あ……うん……」

僕は上の空で返事をした。

頭の中はストレージの容量に記載されていた

”無限“

に気を取られていた。

僕は慌てて

”地図!“

そう言って地図を取り出すと、
セシルに渡した。

彼女は感心した様に僕を見ると、

「貴方魔法の習得がバカみたいに早いわね」

そう言って地図を見始めた。

もしかしたら小さい頃からずっと毎日欠かさずに訓練して来た
魔力流しのせいかもしれない。

僕はセシルが地図を見ている間、
彼女の鑑定ができるか試してみた。

セシルを見つめ、セシルの鑑定を思い浮かべて

“鑑定”

そう呟くと、彼女の情報が浮かび上がった。

“僕以外の人のものも見えるんだ!”

そう思うと、マジマジと彼女の鑑定に見入った。

“どれどれ……彼女は……

名: セシル・ムーシェ 人間族 女 11歳
職業: 豪商
レベル:1

HP: 98
MP: 0

スキル: ラッキー

属性付与: #######“

”あれ? あの属性付与って……僕みたいに見えなくなってる?

スキルラッキーって本当にラッキーガールだったんだ……

それに……“

そこまで読んだ時、

「え~君11歳?!」

と思わず驚いて大声を出してしまった。

セシルは僕をジロッと見ると、

「貴方、私の鑑定を見たわね!」

そう言いながら彼女がジリジリと近づいて来た。

「あ……いや……」

そうタジタジとしていると、

「まあ良いわ。

宿の場所が分かったから行くわよ!」

そう言うと、僕の手を又取り、
ズンズンと歩き出した。

「セシル……今度は間違えずにちゃんと行けるんだろうね?」

皮肉っぽくそう尋ねると、
彼女はフンと鼻で笑って、

「人はね、失敗しながら学んでいくのよ!」

そう言ってズンズン進んで行った。

でも10分経っても20分経っても宿には辿り着けなかった。

「あら? おかしいわね……」

そう言って彼女は立ち止まると又地図を見始めた。

「ねえ、僕が地図を見るから、もう返してくれない?」

そう言って手を差し出すと、

「分かったわ!」

そう叫んで彼女は僕の手を取ると走り出した。

少し走ると宿はすぐそこにあった。

「ほら見なさいよ!

私の言った通りだったでしょ!」

そうやって意気込んでる割にセシルはゼイゼイと肩で息をして居た。

「君は少し訓練をした方がいいね。

少ししか走って無いのに、
その息切れは何?」

僕が皮肉った様にいうとセシルはそんなことは気にしないとでもいう様に涼しい顔をして、

「ごめん下さ~い!

お部屋空いてますか~」

そう言って宿に入って行った。

受付にはお年寄りが座って居て、

「あんたらは夫婦かい?

部屋は一つしか空いてないけどいいのかい?!」

そう言って鍵を出した。

「え? 夫婦では無いけど、
夫婦でないと泊まれないのですか?!」

僕がそう尋ねるとセシルがサッと僕の前に出て、

「一つの部屋で大丈夫です!」

そう言ったので、

“なんだ、夫婦で無くても泊まれるじゃないか”

そう思っていると、

「一緒でいいなら良かったよ。

今週末に祭りがあるから今週はどこへ行っても部屋は空いてないよ。

丁度キャンセルが出てあんたらはラッキーだったな。

それで何時まで此処には泊まる予定だい?」

お年寄りが尋ねるとセシルが

「そうですねえ~」

と考え込んだ。

僕は

「折角だから祭りまで居る?

僕がお金は出すから!

祭りなんて見たことないから是非見てみたいんだ!」

そう言うと、

「そうね、貴方が出してくれるんだったら私も文句はないわ!」

そう言ってセシルが微笑んだ。

「じゃあ、一晩朝食付きで25セロン。

6日で150セロンだよ」

そう言われたので内ポケットから150セロンを出して渡した。

ありがとうよ。

ほら、鍵だよ。

部屋は階段を上がった突き当たりだよ。

あんた達はほんといいところに来たよ。

この祭りには王都から皇太子が来るんだよ。

皇族なんて中々拝めないからね」

宿主がそう言いながらガギを渡した。

“へ~ これってセシルのラッキーのせいなんだろうか?”

そう思いながら鍵を受け取った。

部屋へ行くと、大きなベッドが一つ置いてあった。

「わ~ こんな寝床初めて!」

そう言ってベッドにダイブするとセシルが、

「ちょ…ちょっと!

こう言う場合、普通男は床で寝るでしょ!」

と言い始めた。

「え? 床で? どうして?

こんなに立派な寝床があるんだから床で寝る必要なくない?」

そう返すとセシルは頭を抱え込んだ。

「何?  何か問題でもあるの?」

そう尋ねると、

「もう良いわ! そうよね、貴方に尋ねた私がバカだったわ」

そう言って彼女も寝床に座った。

「私はこっちで寝るから貴方はそっちね」

そう言うと彼女は寝床に転がった。

僕もセシルの横に寝転がると、

「この寝床は本当に気持ちいね!

僕は地面の上に獣の毛皮を敷いて寝てたんだよ。

セシルは毎日こんな寝床で寝てたの?」

そう尋ねると、

「そりゃそうよ。

まあ、これよりも立派なベッドだったけどね!」

と自慢げに言った後、

「ハ~全く! 私には心に決めた人がいるのに
何でこんな事に……」

そう言ってうつ伏せになった。

「え? セシルってもう婚約者がいるの?!

父さんが僕の歳になると早い人は結婚するって言ってたんだ」

僕がそう言うとセシルは眉を顰めて、

「婚約者じゃ無いわ!

心に決めた人!

すなわち、好きな人がいるって事!」

そう訂正した。

「そうなんだ! セシルの好きな人は冒険者にならなかったの?」

そう尋ねると、彼女は目を閉じた。

「ねえ、セシルの好きな人は今どこにいるの?

どうして一緒に旅をしないの?

セシルよりも年上なの?

何をしてる人?」

と矢継ぎ早に尋ねると、

「うるさーい! 好きな人って言ったら好きな人なの!」

そう言って僕に枕を投げた。

「ブッフェ、何だよ!

好きな人を聞いただけじゃ無いか!

何でそんなに怒るんだよ」

そう言って枕を投げ返すと、
セシルは受け取った枕を抱え込んで、

「だって分かんないんだもん!」

そう言って枕に顔を埋めた。

「え? 分かんないってどう言う意味?」

彼女の訳のわからない答えに僕は少し困惑した。

「私、好きな人がいる様な気がするの!

でもそれが誰だか分かんないの!!」

そう言って益々僕を困惑させた。

「え~、それって……」

困惑げにそう言いかけると、

「もう良い! 自分でも上手く説明できないんだもん!」

そう言って不貞腐れた。

僕は苦笑いをすると、

「ま…まあそんな恋愛があっても良いんじゃない?」

慰めのつもりで言ったけど、
セシルには届いてない様だった。

「私の事は良いから早く寝ましょう。

明日はギルドへ行って依頼を受けるわよ!」

そう言い終わるや否やセシルはスースーと寝息を立て始めた。

“寝付き早すぎだろ?!

やっぱり未だ子供だな!”

そんな事を思っていると、
どうやら僕も直ぐに眠りに落ちた様だ。

何故なら僕はあの夢の世界にいることに気付いたから。

“今日はお城か……”

窓から外を眺めながらそう呟いた。

“今何時なんだろう……?”

そう思っていると僕の寝室のドアが勢いよくバーンと開いた。

「ジェイド! 私、国へ帰ることになったの」

泣きながらマグノリアが部屋へ入ってきた。








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