龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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あの記憶は

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“又クッキー食べてる……”

今の状況にも余り物怖じせず、
父さんは相変わらずクッキを口に放り投げていた。

“そう言えばスーの作ったクッキーも好きだったよな……

最近は全然行ってないみたいだけど……”

思えばいつの頃からだったか余りスーやショウの家に行かなくなっていた。

いや、もしかしたら僕が知らないだけなのかもしれないけど、
少なくとも最近はクッキーやパンを持って帰って来たことがない。

僕はそんな事を考えながら父さんの事をジーッと観察していた。

それにしても、今の父さんは見れば見る程滑稽だ。

最近ご飯を食べてないの?と言う様な勢いでクッキーを食べる姿は
まるでコントロールを知らない子供だ。

そこで僕はフッと思った。

「ねえ父さん?

今の父さんって何歳なの? 未だ子供の年齢なの?」

僕が尋ねると父さんはクッキーをポロッと口から溢した。

「父さん汚いな~

もっと綺麗に食べれないの?

今の父さんは僕のテーブルマナーには凄く厳しかったよ?」

そう言うと、

「あ~翠、お前の世界での私の歳はいくつなんだ?」

父さんはそう尋ねると、
又僕の元へバサっと飛んできて膝の上に着地した。

「え~ 今の父さんの年?

う~ん、何歳だって言ってたっけ?

ちょっと待ってね」

そう言って指を出すと、僕は指を折りながら数え始めた。

「えーっと、僕が5歳くらいの時107、8歳位って言ってたから、
今だと……1…、2…、3…、う~ん、114か115歳くらい?」

そう言うと父さんは項垂れた。

「何? 年寄りすぎてびっくりした?」

僕がクスクスと笑いながらそううと、
父さんはもう一度真剣な顔をして、

「今私に話した事は、
呉々もあいつらいに言うんじゃないぞ」

そう念を押して又テーブルの所まで飛んでいった。

「ねえ、何故彼らに言ったらいけないの?」

そう尋ねると父さんは僕をチラッと見て、

「兎に角何も言うんじゃない」

そう言うと、又クッキーを食べ始めた。

「父さん、そんなにクッキーばかり食べてたらお腹の調子が悪くなるよ?

前に龍の姿でクッキー食べすぎてお腹壊してたでしょ?」

そう言うと、父さんは手に持ったクッキーを目の前に翳して皿に戻した。

僕は子供みたいな父さんにクスッと笑うと真面目な顔をして、

「それよりもさ、彼らに僕のこと言えなかったら何て言えば良いの?

彼らは僕の正体を知りたがってるみたいだけど……

特にマグノリア? 彼女はグイグイくるね~」

そう言うと父さんは大声で

“ハハハ!”

と笑い出した。

僕がポカンとして見ていると、

「お前はジェイドだ。

アイツらが戻って来て何かを聞き出そうとしたら、
お前は自分がジェイドだった事を思い出したって言うんだ。

きっと今頃はその扉の向こうで色々と言い合ってると思うぞ」

そう言うと父さんは扉の方を見た。

「え~ ジェイドになれって、
もし僕が全然知らない事を聞いて来たらどうするの?!」

そう言うと、

「基本的な事は今から覚えろ。

お前の名はジェイド・アーレンハイム。

この国、サンクホルムのただ1人の王子で王の後継者だ。

誕生日は8月18日星数えで670年だ」

父さんがそう言った時、

“あれ?”

と思った。

それは僕と14年くらいしか変わらなかったからだ。

”え? と言うことはこのジェイドって今何歳?!“

そんな事をブツブツと考えていると、
父さんは続けて、

「お前の父の名はランバート・アーレンハイム。

サンクホルムの王だ。

お前の叔父はジューク・アーレンハイム。

お前の父の弟だ。

そしてお前のお気に入りだ。

この国には聖龍の伝説がある。

聖龍の後継者は銀の髪に緑の目をしている。

それがお前だ。

それにお前は聖龍の加護をすでに得ている。

お前には全要素の魔法が使える。

身体強化もできる」

父さんがそう言った後、

「僕、ずっと魔法が使えなかったけど、
最近いろんな魔法が使えるようになった……

それに小さい時から父さんは僕の身体強化の訓練をさせていた……」

僕がそう言うと、

”私がお前の父親の役割をしているのであればそうだろうな“

父さんはそうポツリと言った。

「マグノリアはお前の婚約者だがアーウィンと好き合っておる」

そう続けて言われ、

「えっ?!」

と大きな声を出してしまった。

父さんはニヤッとして僕を見ると、

「そしてダリルとお前も互いに好き合っておるぞ。

だからそこは間違えないようにな。

決してダリルの事を突き飛ばしたりするんじゃないぞ」

父さんがそう言い終わると3人がドアから真剣な顔をして入って来た。

僕と父さんがドアの方へ視線を向けると、

「あら、デューデューはもうクッキーは良いの?」

マグノリアがそう言って先頭を切って僕に向かって歩いて来た。

僕は内心ハラハラとしていた。

“父さんが言うように上手くやれるかな?!”

ドキドキとして父さんの方を見ると、
父さんは僕の膝の上にゴロンと寝転がった。

「と……」

父さんと言い掛けて、

「デューデュー、クッキーの食べ過ぎ?

眠くなっちゃった?」

と言い直した。

「いや、お前が言ったようにクッキーを食べ過ぎたみたいだ……

少し腹の調子が……」

そう言って父さんは目を閉じた。

僕が父さんのお腹を優しく撫でると、

「おーこれは気持ちが良いな」

父さんはそう言いながらウトウトとして来た。

”じゃあ…“

僕はそう思うと、神経を集中させて掌に魔力を集めた。

掌が金色に光出すと、
僕は掌を父さんのお腹に掲げ回復の魔法をかけた。

「お~ジェイド、回復してくれたのか?

急に腹の調子が良くなったぞ。

未だ未だクッキーが食べれそうだ」

父さんがそう言うと、

「もうダメ!

今度お腹痛いって言ってももう回復してあげないよ!」

僕がそう言うと、

「え? やっぱりジェイド?」

そう言ってマグノリアが僕の顔を覗き込んできた。

”へっ“

と思ってマグノリアを見ると、
彼女の後ろに僕の事を心配そうに見守るダリルが目に入った。

ダリルのそんな顔を見た途端、
なんだか泣きたい気持ちになった。

「ダリル」

そう言うと、僕は自然と手をダリルの方へ向けて差し出していた。

ダリルは躊躇したように

「殿下……?」

そう言うと、ソロリと僕の差し出した手を取った。

僕がダリルの手を掴むと、頭の中がパッと閃いて
急にダリルとの出会いから今までのことが走馬灯のように巡り始めた。

僕はその場で凝固したように固まり
頭の中で繰り広げられる物語を見ていると、

「殿下? ……… ジェイド?」

そう呼ぶダリルの声で感情が高まりそのままダリルにしがみついた。

「ダリル? ダリル?

どうして僕は君の事を忘れていられたんだろう!

こんなに愛してるのに、君のいない世界なんて考えられないのに!

僕はこれまでどうやって生きてこれたんだろう?!

会いたかった! 君の声が聞きたかった!

君にずっと触れたかった!」

そう言って泣きじゃくる僕をマグノリアとアーウィンは呆けたようにして見ていた。

父さんだけが、バサっと飛び上がって又テーブルへ移動すると、
残りのクッキーを食べ始めた。

「ジェイド……? 貴方ジェイドなの?

私達の事、思い出したの?」

マグノリアが訝しげに尋ねると、
僕はマグノリアに向かって頷いた。

「うん、分かる!

マグノリアも、アーウィンも、デューデューも!

そしてダリル…… 皆んな凄く会いたかった!」

そう言って彼の胸に頬擦りすると、
マグノリアが僕をベリっとダリルから引き剥がした。

「ちょっと、ダリルの事大好きなのは分かるけど、
それは大袈裟じゃない?」

マグノリアが仁王立ちで腕を組みそう僕を睨むと、
僕はそんなマグノリアに抱きついた。

「マグノリア! 君にも会いたかった!」

そう言ってギュッと彼女を抱きしめると、
マグノリアは

”ヒイ!!“

と言う様な顔ををして棒立ちになった。

僕は大笑いで

「そうか、そうだよね。

やっぱり君はマグノリアだよね」

そう言って溢れ出る涙を拭いアーウィンに飛びつくと、

「アーウィン! 僕の唯一無二の親友!

僕達は小さな頃からずっと一緒だったよね」

そう言って頬擦りをすると、
マグノリアが又僕をベリっとアーウィンから引き離した。

「ちょっと、貴方やっぱり変よ?

この感動の仕方は何?!

もう何年も会っていなかった家族か友みたいに……

私達毎日の様に会ってるし、
昨夜も遅くまでゲームをしてたでしょ?」

マグノリアが嫌味の様に言ってもそれも耳触りが良く心地良かった。

又みんなに会えたことが嬉しかった。

僕はダリルの手を取った途端思い出した。

僕がジェイドだった事を。

どう言う経緯で僕が翠になったのか分からないけど、
でも確かに僕は以前ジェイドだった。

彼らとの出会いから今までの過ごした日々、
ダリルと愛し合った日々やいろんな事が一斉にドッと蘇って来た。

でも完全にジェイドだった時の事を思い出したわけではない。

僕はデューデューの方を見ると、

「デューデュー!」

そう言ってクッキーを食べるデューデューの所まで駆けて行き、
思いっきりデューデューを抱きしめた。

「君だったんだね!

デューデュー、大好き!」

そう言って父さんに抱きつくと、

「苦しい! お前は少し落ち着け!

せっかくお前が回復してくれたのに今度は腹の物を出させる気か?!」

父さんはそう言うと、短い翼で僕を突き放した。

「今日のジェイドってほんと変よね!

でも、調子が戻って来たんだったら、
アーレンハイム公にご挨拶に行きましょう!」

マグノリアがそう言った途端、
僕の全身がガタガタと震え出した。

「あらやだ、貴方、今度は震え出してどうしたの?」

マグノリアがそう尋ねても、
何故自分が震えているのか分からなかった。

「いや、分からない……

何故か急に……」

そう言うと、

「やっぱり今日のジェイドって変よね?

まあ、こう言う日もあるのか?!」

マグノリアが首を傾げると、

「殿下、本当に大丈夫ですか?」

そう言ってダリルが僕の手をギュッと握った。

ダリルが僕の手を握ると、
震えが嘘の様に止まった。

僕は自分の手を目の前に翳すと、

”あれ? 震えが止まった“

そう思ってダリルの顔を見ていると、

「ん? ダリルと一緒だと大丈夫そうね?

やっぱり愛の力かしら?」

そう言ってマグノリアは揶揄っていたけど、
僕は

”アーレンハイム公“

と言う言葉に神経が逆立つ様な感覚を覚えた。

”何故だ? 何故この名に反応するんだ?

僕は彼のこと好きなのではないのか?

それともまだ思い出して無い大切な事があるのか?“

そうぼやいていると、

「さあ、調子が戻ったのなら公のところへ挨拶に行くわよ!

私、少しお話ししたいことがあったのよ!」

マグノリアはそう言うと、僕のもう一方の手を取った。

「ほら、ダリルが居たら大丈夫でしょう!

さあ行くわよ!

デューデューはアーウィンと此処に居てね!」

マグノリアはそう言うと、僕の手を引いて有無も言わさず、
ズンズンと歩いて行った。

部屋を出ると、懐かしさでいっぱいの光景が広がった。

”間違いない。 

此処は僕が産まれて育った城だ……

匂いまでもが懐かしい“

そう思って僕はス~っと大きく息を吸った。

センチメンタルに浸っている僕をお構いなしに
マグノリアはズンズンと進んでいき、
遂には王の執務室の前へ来た。

その扉を見た途端、急に足がすくんで動かなくなった。

”間違いない……この扉は僕がずっと開けることの出来なかった扉だ!

そうだ……此処には叔父のアーレンハイム公が父と共にいるのだ!

でも何故此処から先に行けなかったのだ?

何故この先をこんなに怖いと思うんだ?!“

僕の前に聳え立つ扉を凝視していると、

「ジェイド?」

急に立ち止まった僕の手をマグノリアが引いた。

「どうしたの?」

マグノリアを見るとダリルも心配そうに僕を見ていた。

「あっ……いや……」

そう言って執務室の扉をもう一度見ると、
急に目眩と吐き気が押し寄せて来た。

僕はジリっと一歩下がると、

「ごめん、僕は此処へは入れない!」

そう言い残すと、
マグノリアとダリルの手を振り払って僕は今来た方向へと全力で走り出した。





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