龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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真実

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「翠、大丈夫か?」

そう心配そうに僕の顔を覗き込む父さんの顔を見た時、

”これは、誰だ?!“

そう思ってしまった僕は無意識に体が防衛したのか、
気付けば体の中で何かが膨れで爆発する様な感覚に囚われ、
気付けばその何かを父さんに向けて思いっきりぶつけていた。

眩しい金色の光に包まれた父さんはあまりにも眩く、
暫く目を向ける事が出来なかった。

体から熱が放たれた後の僕の体は段々と熱を覚ます様に落ち着き始めて来た。

途端、我に返った僕は父さんを見て悲鳴をあげた。

「父さん! ああああ、御免なさい! 御免なさい!

大丈夫?! 父さん! 返事をして!

ああ、僕はなんて事をしたんだ……」

そう言って父さんに手を伸ばそうとした途端、
その光は波が引く様にスーッと消え去り、
その中からは眩しさに腕で目を隠した父さんが現れた。

「父さん! 大丈夫?! どこも怪我はない?!」

父さんに飛びつき頬を両手で支えてその目を見つめた。

父さんは頬を支える僕の手首を掴むと、
そっと下に下ろした。

そしてジッと僕の瞳を見つめると、

「どんな夢を見ていたんだ?」

父さんは眉間に皺を寄せながらそう尋ねた。

僕は慌てて、

「夢?! そんな事よりも、父さんは大丈夫なの?!

ねえ、今のは何?!

僕がやったんだよね?!

父さんが金色に光ったんだけど、
あれは魔法なの?!

僕が父さんを攻撃したの?!」

そう尋ねると、
父さんは頷いた。

「そ……そんな……父さんを攻撃するなんて!

あああ、どうしよう!

そんなつもりは全然なかったんだ!」

そう言って僕はカタカタと震え出した。

父さんは僕の手を取ると、

「心配いらない。

ほら、私はどこも傷付いていない」

そう言って僕の目の前に両手を翳した。

僕は父さんの手を取ると、
袖をめくって傷一つ無い事を確認すると、
ホッと一息ついて、

「父さんは龍だから魔法が効かないの?!」

恐る恐るそう尋ねると、

「いや、そうでは無い。

お前が放ったのは回復魔法だ。

アンデッドでない限り、
回復魔法で他の者を傷付ける事はない」

父さんのそのセリフに、

“回復……魔法……?

もしかしてあの灰色の子龍を回復した時の……“

僕がそう呟くと、
父さんはピクッとした様にして、

「灰色の子龍?

もしかして灰色の子龍の夢を見ていたのか?」

父さんはその時初めて何かを感じた様にして僕に尋ねた。

僕は夢の事を思い出そうとしたけど、
との時の事は殆どの事をすでに忘れていて、
少しの事を断片的に思い出すだけだった。

僕は首を振ると、

「分からない……

ほとんど覚えていない……

でも僕は灰色の小さな龍に出会った」

そう言うと、父さんは目を閉じた。

僕はその時の父さんの表情を見て、
何か違和感を感じた。

だけどその違和感が何なのか分からなかった。

父さんはゆっくりと目を開くと、

「その灰色の小さな龍と出会って何があったんだ?」

そう尋ねた。

僕は思い出そうとその時の事を思い巡らせた。

でも思い出せなかった。

僕は首を振ると、

「……分からない……

思い出せないんだ。

だけど、誰かが灰色の子龍に回復魔法をかけてた……

彼は……ダメだ……

全然思い出せない……」

僕がそう言うと、父さんは、

「大丈夫だ。

無理に思い出そうとしなくても良い」

そう言って僕の頭を撫でた。

その時体がピクッと反応して思ってもいなかったのに、
僕は気がつくと、父さんの手をバシンと払っていた。

びっくりして僕を見る父さんに罪悪感を覚え、
俯き両手の拳をギュッと握りしめると、

「僕……父さんが僕の頭に触れた時、
一つの事を思い出したんだけど……

その小さな龍が言っていたんだ。

龍は人の子は産めないって……

そうだとすると、
父さんは……!

ねえ、それって本当なの?!」

僕が俯いたままそう尋ねると、
父さんはスッと立ち上がってその場を離れた。

「どこへ行くの?!」

ハッとして父さんの去った方を見ると、
父さんは洞窟の奥へ行き、
木の箱をゴソゴソとし始めると、
何かを底の方から取り出した。

何かを取り出した後父さんは僕の方を振り返ると、
父さんをずっと目で追っていた僕と目が合い、
気まずくなった僕は又サッと俯いた。

父さんが又、僕の横にやって来ると、そこに座った。

その途端、ビックとした様にして僕の肩が強張った。

今まで父さんに感じたことのない様な緊張感を覚え、
僕の握りしめた掌の中は汗でじっとりとしていた。

僕の心臓がドキドキと跳ねる中、
父さんは僕の手を取り、
掌の上に何かを置いた。

“えっ?! 何?!”

急に何かを渡され、それをジッと見ると、
それはアミュレットだった。

父さんはアミュレットを指さすと、

「よく見てみなさい」

そう言ってそこに掘られていた物を手でなぞった。

父さんのセリフに僕はアミュレットを目の前に近付けてよく見てみた。

そこには真っ白な龍と綺麗な真っ白い花が掘られていた。

「これは……白い龍と……」

そう言いかけると、

「その白い龍は聖龍だ」

そう父さんが教えてくれた。

「聖……龍……?」

そう返すと、父さんは頷いて、

「その下にあるのがお前のことを救ったリリースノーだ」

そう教えてくれた。

「これが……?」

そう言ってまじまじとアミュレットに掘られた
聖龍とリリースノーを眺めた。

「この下にある文字は……?」

その下には文字が彫ってあって、
僕には読む事が出来なかった。

僕がその文字を指でなぞっていると、

「それは古代文字で私にも読む事が出来ない。

だが、そのアミュレットはお前の母親のものだった」

そう言って父さんが教えてくれた。

「え? これが僕の母さんの?

じゃあこれは……」

「ああ、お前の母親の形見だ」

父さんがそう言うと、
僕はそのアミュレットを胸に抱きしめて、
そしてまた、まじまじと見つめた。

“これが母さんの……”

そしてその上に刻まれた物を指でそっとなぞっていると、
父さんが話し始めた。

「そのアミュレットを受け取る少し前に、
小国の姫と大国の最高神官が恋に落ちて行方知れずとなった」

僕は

”何故急にそんな事を話すのだろう?“

そう思って父さんを見上げた。

”小国の姫って……それって王女って事だよね?

それに神官って…… 神官ってまず結婚できるの?!

それも小国の姫と大国の神官って国が違うもの同士?!

その二人が駆け落ち?!

どうやって二人は出会ったんだろう?!ってか、
何故そんな話を今……?!“

そう思っていると、

「そのアミュレットの彫り物は王家の家紋だ」

父さんがそう言うので、

”え?! 何故母さんが王家の家紋入りのアミュレットを?!

それって……父さんの言っていた駆け落ちした姫って母さんの事?!“

そう思っていると、

「その家紋はその姫の国の物ではないが、
最高神官がいた国の王家の紋章だ」

そう言われ、頭がこんがらがって来た。

”え? 何故その大国の紋章が入ったアミュレットを母さんが持っていたの?!

もしかしてその神官が僕の本当の父親?!

あのアミュレットは母さんが僕の本当の父親から貰った物?!“

そう思っていると、

「それから……」

そう言って僕に一つの指輪を差し出した。

「これは……?」

父さんから指輪を受け取りまじまじと見入ると、
そこには太陽を両手に掲げた女の人の像が彫ってあった。

何気なくその指輪を指にはめてみると、
そこから全身に暖かい何かが流れ始めた。

そして指輪が金色に光出すと、
その光を放出した。

僕がびっくりして指輪を指から勢いよく抜くと、
指輪は僕の指から滑り落ちて、
カランカランと音を立てて父さんの方へと転がって行った。

父さんは指輪を拾うと、

「やはりお前は女神に愛されているんだな」

そう言って指輪を僕に手のひらにそっと乗せた。

僕は指輪をギュッと握りしめると、

「ねえ父さん、やはりって何?

父さんは何を知ってるの?!

僕が女神に愛されてるってどう言う意味?!」

そう尋ねると、かれは哀しそうな切なそうな顔をして僕を見た。

“どうして僕をそんな顔をしてみるの?!”

僕まで切なくて悲しくなって来た。

「翠、その指輪をよく見るんだ」

父さんにそう言われ、僕は又指輪を見つめた。

父さんは一息おくと、

「それはお前の本当の父親から託された物だ」

そう言われ、僕は父さんを見た。

「太陽を掲げし乙女は創世の女神……

全てを包み、愛し、癒すと言われている……

そしてアミュレットに彫ってある白い龍、聖龍は
その女神の化身と言われている……」

そう言うと、又一つ間を置いて、

「その指輪は……大国の最高神官のみが持っていると言う指輪だ……

それにその指輪には女神の加護が掛かっている」

そう言って教えてくれた。

僕は指輪を見つめると、

「これ、最高神官が持つべき物なら、
今の最高神官に返すべきじゃないの?!」

僕がそう言うと、

「その指輪は自分が支えるべきものを選ぶ。

今までその指輪を使いこなした神官はお前の父親を含め、
誰も存在していない。

それに此処に指輪があるって事はお前が選ばれたって事だろう。

実際に光ったしな」

父さんはそう言うと、
僕の掌をギュッと握りしめた。

「ねえ、指輪に選ばれるってどう言う意味?

僕は神官になるべきなの?!

それに、母さんは王女だったの?!」

僕がそう尋ねると、
父さんは

「さあなあ」

そう言って静かに微笑んだ。

「このアミュレットと指輪はきっとお前の道標となるだろう。

だが決して他の者に見せるんじゃない」

父さんはそう言うと、もう一度僕の手をギュッと握りしめた。

僕は段々とこれらの物を持つことに不安を覚え始めた。

「ねえ、どうして他に人に見せちゃダメなの?

これは本当に僕が持っていてもいい物なの?!」

不安げに尋ねると、

「これらはお前の物だ。

お前の未来を案じ、
お前の両親が死の間際にお前に渡す様に私に託した物だ。

だがそれらを悪用しようとする者はきっと出てくる。

そうすると、お前の身に危険が及ぶ可能性だって出てくる」

そう言うと父さんは遠い目をした。

きっと母さんと本当の父さんの事を瞑想しているのだろう。

僕は唇を噛み締めると、

「じゃあ、やっぱり父さんは……」

そう言うと、

「翠、 すっと黙っていて悪かった。

時を見て話そうとは思っていたんだ。

だが私は翠を本当の息子の様に愛してる。

それにお前の本当の父親も、母親も、
お前の事を心から愛していた。

お前が本当のことを知っても、
私の気持ちは変わらない。

お前は私に取って、
本当の息子だ」

父さんがそう言い終わると、
僕は父さんに抱きついて泣いた。

その頃、

“あの子”

の事を忘れ始めた僕は、
逆に父さんが本当の父親ではないと言う事知って、
段々と父さんの事を一人の男性として意識する様になり始めていた。

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