龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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翠の反抗期

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毎朝の日課をこなしている途中で、
父さんが狩りから帰ってきた。

バサっと言う翼の音で空を見ると、
弾丸の如く父さんが舞い降りてきた。

「今日はいつもより遅かったね?

獲物が見つからなかったの?」

何も持っていない父さんにそう尋ねると、
父さんは急いだ様にして、

「私はちょっとショウとスーの屋敷へ行ってくる」

そう言って何かゴソゴソとし出した。

「ついこの間行ったばかりなのにまた?」

そう尋ねても、父さんは忙しそうに何かの準備をしていた。

そんな父さんを僕は魔法の練習をしながら眺めていた。

僕が彼らの屋敷に運ばれてから、まだそんなに日も経ってない。

それなのに、父さんはまた彼らの屋敷へ行くことになった。

こんなに矢継ぎ早に彼らのうちに行くのは初めての事だ。

不思議に思い、

「何をしに行くの?」

と尋ねた。

父さんは準備ができた様で、
布で包んだ何かを大事そうに腕に中に抱くと、

「お前に使った植物が帝国でも育つか検証したいそうだ。

今朝狩りに行った時に根ごと掘ってきたから
枯れる前に届けなくてはならん」

そう言って腕の中に抱えた物を僕に見せた。

「え? あの時の植物って?

その腕の中にある物がそうなの?」

そう尋ねると、

「そうだ。お前が麻疹に掛かって死にかけた時に使った植物だ。

リリースノーと言うそうだ」

そう父さんが教えてくれた。

「リリー……スノー……?」

初めて聞く植物の名前だった。

「ああ、お前も覚えているとは思うが、
お前がショウの屋敷で意識が飛んでいた時に、
私が少し屋敷を離れた時があっただろう?

実を言うと、これを探しに行っていたんだ。

回復薬にするには花が必要らしいから、
ちょうどあの時は時期ハズレで見つかるか分からなかったが、
時間はかかったけど、辛うじて花の咲いていた一株を見つけたんだ。

余り市場には出回らないらしく、
とても貴重な植物だから奴らの屋敷で育ててみたいと言ったから
数株取ってきたんだ」

そう父さんが説明してくれた。

「そうだったんだ……」

僕がそう言うと、

「ではもう行くぞ。

これを届ける前に枯らすわけにはいかないからな」

父さんは急いだ様にそう言うと、
サッと龍の姿になった。

僕は慌てて、

「父さん、ちょ……、ちょっと待って!

ぼ……僕も連れて行って!」

急ぎ早にそう言うと、父さんは僕を一眺めして、

「ダメだ。

お前は此処にいろ」

そう言って返す言葉も与えないまま飛び去って行った。

「父さん! 待ってよ!

ねえ、せめて話でも!」

そう言って追いかけたけど、
父さんは瞬く間に空の彼方に見えなくなってしまった。

ちょうど断崖の所まで追いかけた僕は、
崖下を見下ろすと、
怒りをぶつける様にそこから飛び降りた。

“僕は! 父さんに! 頼らなくても! 1人で帝国まで行ってやるんだ!”

ブツブツと独り言の様にそう言いながら、
崖の断崖をピョンピョン飛び降りて行った。

崖下の地面に着陸した時に

“フ~”

と息を吐いて目の前を見た。

そこには、葉のついてない、
生きてるのか死んでるのか分からない様な木々達が
連なって立っていた。

その一本に飛び乗ると、木から木へ飛び移った。

その木々は果てしなく続いていたけど、
この道が帝国に続いている訳では無い。

いや、辿れば行けるのだろうが、
こんなに高い断崖から降りてきたのに、
この地からは未だ未だ下へ続く断崖がある。

僕が今いるところはその中腹にもならない。

僕はその木の一番テッペンまで登ると、
遠くを見つめた。

でも僕の目に映るのは、果てし無く続く荒野で、
僕が帝国に自分の力で行くのは、
夢のまた夢の様に思われたら、自然と涙が出てきた。

“どうして僕は此処から出れないんだ!

……あの子に会いたい……”

僕は暫く遠くを見たまま唇をかみしめて泣いた後、
袖で涙を拭くと、
今来た道を又、木々を伝って家への道を戻って行った。




~ショウ邸宅で~

デューデューはショウの邸宅の広い庭に着地すると、
ス~っと姿を現し人の姿に変わった。

龍舎の方からは、ショウの龍達がデューデューが来た事を察知し、
ギャーギャーと騒ぎ立てていた。

この騒ぎは、デューデューが来る時はいつもの事で、
裏を返せば龍達がデューデューに帰るように文句を言っているのだ。

そして龍達の騒ぎ声を一番に聞きつけて駆けてくるのが龍星だ。

デューデューは龍星の一番のお気に入りになっている。

タッタッタッと小さな素早い足音がしたかと思うと、

「デューデュー!

やっぱり君だったんだ!

父上の龍達が騒がしいからデューデューが来たと思ったんだ!」

そう言って駆けて来ると、
デューデューに飛び付いた。

デューデューは龍星をヒョイっと抱き上げると、

「ちゃんと剣の稽古はしてるのか?」

そう言って龍星を肩に乗せた。

「勿論だよ! 父上の騎士達にも褒めてもらったんだよ!

僕には剣の才能があるんだって!」

龍星がそう言うと、

「そうか、そうか、これからも剣の稽古は怠るんじゃ無いぞ?」

そう言ってデューデューは笑った。

龍星はデューデューの頭に抱きつくと、

「ねえ、今日はどれくらい此処に居れるの?

いつになったらデューデューの背中に乗せて空を飛んでくれるの?!

何時も今度、今度って言って、全然してくれない!

今日は出来る? ねえ、今日は時間あるの?!」

そう言ってデューデューの頭をギュッと抱きしめた。

デューデューは困ったように

「すまない、今日もあまり時間は無いんだ。

なにせ、翠を一人残してきてるからな」

そう言うと、

「もう!! 何時も翠、翠って!

だったら翠も此処に連れてくれば良いじゃ無い!

デューデューは僕と翠のどっちが好きなの?!」

と、子供ならではの質問でデューデューを困らせた。

流石のデューデューも、人の子に接するのは翠以外初めてで、
得意という訳では無い。

翠は本当の息子のように育てているので、
責任と義務を持って接する事ができるけど、
他の子はまだどうやって接していけば良いのか良く分からない。

「あー、そのー」

と、柄にもなく言い淀んでいると、

「デューデュー様! 

いらっしゃるとお教えくださればお出迎え致しますのに!」

そう言いながらスーが、一足遅れてパタパタと庭に駆けてきた。

“助かった!”

そう思っていると、
スーに続いて龍輝がスーの後ろから、
隠れる様にピョンピョンと飛ぶようにして付いてきた。

デューデューの所まで辿り着いたスーがハアハアと肩で息をしながら

“フ~”

っと一呼吸し呼吸を整えると、一礼して、

「おはよう御座います。

生憎ショウは今朝早くから王宮に呼び出され、
留守にしておりますの。

何か急ぎのご用でしたか?」

スーがそう尋ねると、

「いや、今日はショウに会いに来たのでは無い。

ほら、今朝採れたばかりのリリースノーの苗だ。

前に此処で栽培してみたいから欲しいと言っていただろう」

そう言ってデューデューは懐からリリースノーの苗を取り出してスーに渡した。 

スーはそれを受け取ると嬉しそうに、

「まあ、覚えていらしたのですね。

有難うございます。

この花は私の故郷でも見かけませんので、
とても興味が有ったのです!

私は早速庭師の所までこれを届けて参りますので、
デューデュー様は客間へおいで下さい。

焼きたてのクッキーがありますので、
是非食べていらして下さい!

直ぐにお茶もお持ち致します!」

スーはそう言うと、デューデューの肩に乗っている龍星の尻を叩いて、

「龍星、何時迄もデューデュー様の肩に乗って無いで、
デューデュー様を客間までご案内しなさい!

それに貴方はちゃんとデューデュー様にご挨拶はしたの?!

またいつもの様にデューデュー様に飛び掛かったんでは無いでしょうね?!」

そう言うと、スーの後ろに隠れていた龍輝を前に押しやって、

「龍輝もほら、デューデュー様にちゃんとご挨拶して!

貴方は私の背後にばかり隠れていても一人前の男になれませんよ!」

スーがそう言うと、

「デュ……デューデュー様、ご機嫌よう……」

龍輝は小さな声でオドオドしたようにペコッと頭を下げると、
目を泳がせた。

そして庭師の所へ向かうスーを捉えると、

“あっ!”

と言ってスーを追って走り去った。

龍輝の走り去る姿を見た龍星が、

「イ~ッ!! あいつヤダ!ヤダ!

男のくせにあんなにウジウジして、
いつも母上の後ろに隠れてるんだ!

剣を持たせれば泣き出すし、
夜も母上と父上のベッドに入らないと眠れないんだよ!

本当に僕と双子かって?!

きっと父上と母上が捨て子を見つけて来て、
僕と双子って言って育ててるんだ!」

そう言いながらデューデューの頭をポカポカと叩いた。

逞しい母となったスーに圧倒されていたデューデューは、
そんな龍星にハハハと笑うと、

「いや、お前達は間違いなく兄弟だな。

これだけ似ている他人はいないだろう?

それに東の大陸の血を受け継いだお前達はどちらもショウの様に
真っ黒な髪に真っ黒な瞳をしているでは無いか!

その色は此処では珍しいんだぞ?

ショウとお前達以外は滅多に見ないだろ?

それが紛れもない兄弟だという事を証明しているな!」

デューデューがそういうと、
龍星はプク~ッと膨れた。

「ハ~ なんでアイツは女の子じゃなかったんだろう!

あの性格で男にしておくなんて、男に対する冒涜だよな!

髪も目も僕と同じで真っ黒で!

母上に似れば少しは印象も違ったんだろうけど、
アイツがかっこいい黒だなんて勿体無いよね!」

龍星が本気なのか冗談なのか分からない様な口調でそういうと、
デューデューは少し苦笑いをして真面目な顔をすると、

「龍星、一つ聞いてもいいか?」

そう言って龍星を肩から下ろすと、
腕に抱き上げ目線を合わせた。

「ん~ 何?」

龍星がそう言って首を傾げると、
デューデューはゆっくりと、

「翠が倒れて此処へきた日、
お前は翠に会いに翠が寝ている部屋までやって来たか?」

そう言って龍星に尋ねた。








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