龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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守るべき者

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「見て! 星がすごく綺麗!」

マグノリアはそう言うと立ち上がった。

ドレスについた土埃をパンパンと叩くと、

「そろそろ行きましょう。

これ以上は此処に留まっていられないわ」

そう言うと、馬車の停留所目指して歩き始めた。

「あ、マグノリア待って!」

アーウィンはそう言うと、フードを深く被り直した。

「良し、準備は良いよ」

そう言うと、マグノリアの横へ小走りで行くと、

「それじゃ計画した通り僕は荷台に隠れるから
後はマグノリア一人で大丈夫?」

アーウィンはそう言うとマグノリアの手を取った。

マグノリアはアーウィンの手をギュッと握ると、

「大丈夫よ!

計画通り此処を出たら交代で手綱を引きましょう。

一気に帝国まで行くわよ!」

そう言ってニコッとほほえんだ。

デューデューを待つ間二人は上手くこの国から出ることが出来たら、
交代で手綱を受け持つことにし、
手綱を持たない方は仮眠を取りながら、
泊まらずに一気に帝国まで行くことにした。

そのうちデューデューも追い付くだろうとその時は読んでいた。

二人は馬車を受け取ると、最初の計画通りマグノリアが手綱を握り、
アーウィンは荷台に隠れた。

でも二人は呆気なく簡単に国を出ることが出来た。

「国に入る時って割と厳しいけど、
出る時って拍子抜けね。

あれだけ悩んで計画したのに普通に出ていけたわね。

身分証明の提示も無かったわ」

マグノリアがそう言うと、
アーウィンがチラッと荷台から顔を出した。

「ダメよ、未だ安心はできないから暫くは荷台に隠れてて!」

マグノリアに怒られると、

「じゃあ僕は少し仮眠を取るから翠を渡して。

翠と一緒に横になるよ。

マグノリアもだいぶ楽になると思うから」

アーウィンがそう言うと、
少しだけ横道に馬車を停めて翠をアーウィンに渡した。

アーウィンは翠を受け取ると、又スゴスゴと荷台に隠れた。

マグノリアは又御者席に戻ると、
馬を走らせた。

馬車はカラカラと音を立てて暗い道を進んでいた。

「お願いだから獣や魔獣達が出ませんように!」

少しビクビクとしながら手綱を握っていたけど、
取り敢えず、魔獣や獣よけの魔石を街で買い込んできていた。

魔力で熱を帯びさせると効果が出るもので、
魔力であったらどんな魔力でも良かったので、
アーウィンに魔力を注いでもらった。

初めてのことだったので、
その魔石が効くか効かないか分からなかったけど、
今の所何にも出会していないので、
恐らく効いていたのだろう。

マグノリアが空を見上げると、
満天の星で夜道は少し明るいくらいだった。

“あっ! 流れ星!”

マグノリアは流れ星を見つけると、

“どうか無事に帝国に着きますように!”

そう祈ろうとしたけど、
祈り終わる前に流れ星は消えて無くなってしまった。

“あ~ 残念! 

凄く貴重な体験だったのに~”

そう思っていると、
マグノリアは自分の馬車のカラカラという音と一緒に馬の蹄の音を聞いた。

“え?! 馬の蹄の音?!”

後ろを少し見てみても暗くてよく分からない。

“気のせいかしら?”

そう思っていると、
多くの馬の蹄の音がドンドン近づいて来た。

“違う! 気のせいじゃ無い!

この音は!」

マグノリアは手綱を緩め馬の尻をムチで叩いた。

「ごめんね。

疲れてるだろうけど少しだけ頑張って!」

馬に話しかけると、
馬はスピードを上げて走り出した。

でも幌馬車の速さと言えばそこまでスピードが出るわけでは無い。

マグノリア達の馬車はたちまち囲まれてしまった。

マグノリアは馬車を止めると、
周りを慎重に見回した。

“うそ! 彼らは先程いた国に居た兵達!

もしかしてこの兵達は私達が去った後からずっと付いて来ていたの?!”

マグノリアが気づいた時には時すでに遅しだった。

“もしかして私達はアーレンハイム公の掌の上で踊らされたって訳かしら……”

マグノリアはゴクリと唾を飲み込むと、

“アーウィン、出てこないで!”

そう荷台に隠れていたアーウィンに囁くと、
マグノリアは馬車を降りた。

マグノリアが馬車から降りると、

「赤毛の神官は何処にいるんだ?!」

兵が尋ねた。

マグノリアは落ち着いた声で、

「一体誰の事を言っているのかしら?」

そう尋ねた。

「お前が赤毛の神官と行動を共にしていた事は既にバレている。

もしかして荷台に隠れてるのか?!」

兵はそう言うと、手を上げて子招くと、
他の兵に荷台を探るよう命令した。

“ダメだわ……見つかってしまう……”

マグノリアが横目で荷台をチラッと見ると、
数名の兵が荷台を探り始めた。

“せめて翠は……でもどうやって……

マグノリア、落ち着いて! 考えるのよ!”

マグノリアはどうにかして翠だけでも助けようと
知恵を絞って案を考えた。

でも、どう考えても皆が助かるような感じでは無い。

「隊長! 居ました!

矢張り荷台に隠れていました!」

翠を抱いたアーウィンが兵に引かれて荷台から出て来た。

マグノリアがアーウィンに駆け寄ろうとすると、
兵はマグノリアに剣を突きつけて、

「おっと、動くんじゃ無い!

お前の首が飛ぶぞ」

そう言ってマグノリアを脅した。

マグノリアは兵をきっと睨むと、

「貴方達は私がソレル王国の王女である事を知っているのですか?!

これは国際問題になりますよ!

貴方達はアーレンハイム公の兵士でしょう?

と言う事はサンクホルムのソレル王国に対する反逆ということよね?」

そう言うと、兵は笑い出して、

「ワハハハハ! お前達はここで死ぬんだ!

賊に襲われてな」

そう言ってマグノリアの首に剣でスーッと傷を入れた。

「マグノリア!」

アーウィンが叫ぶとマグノリアはアーウィンに手を差し伸べて、

「私だったら大丈夫よ」

そう言って首に当たった剣をスッと押しやった。

兵はマグノリアの顎をクイっと持ち上げると、

「フン! 威勢だけはいいな。

流石は王女と言ったところか?!」

そう言ってマグノリアの顎から手を離した。

兵は

「神官を連れて来い!」

そう言うと、アーウィンの腕を掴んでいた兵が
アーウィンをマグノリアの横に連れて来た。

「アーウィン、大丈夫?」

マグノリアが心配そうに尋ねると、

「僕は大丈夫だよ。

翠をお願い」

アーウィンはそう言うと、
マグノリアに翠を渡した。

流石にここ迄騒がしくなると、
翠も寝ていると言うわけにはいかない。

でも泣くことも驚くこともせず、
翠はマグノリアの顔を見るとニパ~っと笑った。

翠のそんな顔見るとマグノリアは安堵して深いため息を吐いた。

“翠は大丈夫ね”

そう思うと、もう一度兵の方を見た。

するとアーウィンが一歩前に出て、

「貴方達が探してるのは私でしょう?!

マグノリアと翠には手を出さないで!」

そう言って兵に交渉し始めた。

兵はアーウィンに笑いかけると、

「残念だったな。

皆生かしてはおくなと言う命令なんだ」

兵がそう言ってアーウィンに歩み寄ると、

「翠はまだ赤ん坊なんだぞ!」

アーウィンがそう叫ぶと、

「ふ~ん、赤ん坊ね……

そう言えば、その赤子に関しては何も聞いていないな。

まさか赤子まで産まれていたとはな!

まあ、私達は誰も生かしてはおくなと言う命令を受けてるからな、
その赤子も例外では無いな」

そう言うと、翠をチラッと見た。

マグノリアはグイッと翠のブランケットを深く翠に被せると、
翠をギュッと抱きしめた。

「所で……」

兵はそう言って歩き出すと、

「貴様らには灰色の龍が付いているそうだが、
その灰色の龍は今何処に?!」

そう言って立ち止まると、
アーウィンの顔を覗き込んだ。

アーウィンは顔を逸らすと、

「いつも一緒にいるわけでは無いから今は何処にいるか知らない」

そう言うとマグノリアをチラッと見た。

「フン、まあ龍の事は今はいい!

だかお前達は!」

兵はそう言うと剣を振り上げた。


「アーウィン!」

マグノリアが叫ぶと、兵の剣がアーウィンの肩を貫いた。

「ウッ」

と小さな呻き声をあげてアーウィンが肩を支え倒れ込むと、
急に肩の傷ついた部分が金色に光って傷が閉じた。

「え?!」

アーウィンが肩を抑えて居た手を離すと、
そこにはもう刺し傷は全く見当たらなかった。

アーウィンが腕を回すと、
先ほど刺されたのは嘘の様に普通に動いた。

「一体どうなってるんだ?!」

アーウィンが呟くと、

「キャハハ~

キャッキャ!

ダーダー!」

そう言って翠がアーウィンに向かって手を差し伸べて居た。


「待って、これ……翠?

もしかしてもう回復魔法が使えるの?!」

翠の手には金色の光が輪を描いて
その光の粒がキラキラと手の周りを回って居た。

その光景を見たマグノリアが、

「アーウィン、もしかしたら私達大丈夫かも……」

マグノリアがそう言おうとした時、
マグノリアの頭がズキっと痛んで、
あの日にレイクスに言われたセリフが頭に突き刺さった。


ただふと思い出したとか、
何と無くとか、その様な感じではなかった。

まるでレイクスが目の前にいて、
もう一度その言葉をマグノリアに発している様だった。

“大切な物を捨てる覚悟をしなさい“

その言葉がマグノリアの頭の中で何度も何度も反芻された。

マグノリアは

”あ~ 今が決断の時なんだ!“ 

そう言って目を閉じた。

そしてアーウィンを見ると、
首を振った。

“いや……翠と離れるなんて嫌!”

マグノリアはそう目でアーウィンに語った。

アーウィンはそんなマグノリアに頷くと、
マグノリアは仕切りに首を振った。

アーウィンはマグノリアの肩を掴むと、

「マグノリア、今だ! 呼べ!」

そう言うとマグノリアはワナワナと唇を震わせて
息をお腹いっぱいに吸うと、

「デューデュー!

デューデュー!

来て!」

そう叫んだ。

兵はマグノリアに剣を向けると、

「デューデュー……

それが灰色の龍の名前か?!

矢張り灰色の龍はお前達が隠していたんだな」

そう言うとアーウィンの方を見て、
構えた剣でアーウィンを貫いた。

「嫌ー!! アーウィン!!
しっかりして!」

ぐったりとしたアーウィンにマグノリアが
庇うように覆い被さった。

そんな中で翠はおもちゃででも遊ぶように
アーウィンに回復魔法をかけた。

マグノリアはそれを見ると、

「お願い翠……辞めて……

あなたの力がバレてしまう……」

マグノリアがそう言うや否やゴオオオオーっと風が唸るような音がして
灰色の龍が現れた。

タイムングよく現れたデューデューに気を取られた兵達は
翠がやった事なんて目に入ってなかった。

「龍が現れたぞ!

皆、戦闘体制に付け!」

兵がそう叫ぶと、
弓兵隊が一斉にデューデューに向けて弓を引いた。

デューデューがマグノリアの前にドシンと着陸すると、

その翼を広げて矢がマグノリアに当たるのを避けた。

だが、兵の放った矢は次々とデューデューの柔らかい翼に刺さった。

「デューデュー、翠を救って!

翠を……ジェイドの魂を持つこの子を守って!

翠を連れて早くここを離れて!

そしてこれを!」

マグノリアはそう言うと、翠の首にアミュレットと
アーウィンの神官の指輪を掛けると翠をデューデューに渡した。

「このアミュレットを私達を探す道標にして!」

マグノリアがそう言うと、
デューデューは優しく翠を手のひらに掴み
マグノリアをじっと見た。

マグノリアの瞳からはとめどなく涙が溢れ、
もうそれ以上声にはならなかった。

マグノリアが唇を噛み締めると呼吸を整えて、

「人がいけない所へ行って翠を隠して!

誰の目にもつかない所へ翠を連れて行って!」

そう叫んだ。

「しかしお前達は誰が!」

デューデューがそう言うと、
マグノリアは瞳を閉じ大粒に涙をツーっと一粒流すと、

「私達はもうダメよ。

だから翠だけでも!

行って!

早く!」

マグノリアがデューデューに怒鳴ると、
デューデューはもう一度マグノリアを見つめて、
何かを諦めたようにすると、空中に舞い上がった。

「翠、愛してるわ。

デューデュー、貴方もよ。

どうか翠に伝えて、どんなに私達が彼を愛していたか!」

マグノリアがそう言い終わるとデューデューは光の速さでその場を去った。

マグノリアは見えなくなるデューデューと翠を見つめながら、

”又会いましょう……“

そう呟いてアーウィンの手をギュッと握った。

アーウィンはマグノリアの手を握り返すと、
息も絶え絶えに、

「マグノリア、必ず、君を見つける!

ダリルもデューデューも、

そしてジェイドの魂を持つ僕らの愛する翠も!

準備は良い? 僕の手を握って離ないで!」

アーウィンはそう言うと、転生の術を発動させた。

それと同時に兵達は二人を剣で刺し貫いた。
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