龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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地龍との戦い

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ハンターが、地龍が町目掛けて猛突進していると言った途端、
その場が少しパニック状態になり始めた。

「地龍だと?! そんなバカな! 何故地龍が此処へ?!

地龍達は滅多に森の奥から出て来ないのに!」

「それも3匹だと?!

飛竜よりはその力は劣るが、

それでも1匹を狩るのは難しいんだぞ!」

「これでは冒険者の数が少なすぎる!

もう他に冒険者は居ないのか!」

そう言った声が広がる中、

「すみません。 完全に私達の調査不足です。

大半の上級冒険者達は、
森の中層部に最近できたダンジョンに潜っていて現在此処にはいません…」

ギルドの職員らしき人が唇を噛んで申し訳なさそうにそう言った。

「そんな……じゃあ此処にいるのは今日到着したばかりの少数冒険者のみか?!」

「それぞれのレベルはどうなっているだ?!」

一人の冒険者が尋ねると、

「私は今回が初めてのダンジョンでレベルはまだ10です!

私のパーティーメンバーも同じ様なものです……

私達は……使えま……せんよ……ね?」

と若そうな冒険者が申し訳なさそうにそう答えた。

「何だよ、役立たずかよ!」

誰かがそう言うと、

「じゃあ、お前のレベルは何だ!」

そう質問した者がいた。

「俺か? 俺のレベルは60だ!」

偉そうに答えたその者は確かに少し強そうには見えた。

「何だよ、たったの60かよ?

地龍のレベルは最低でも85はあるんだぞ!

それもHPが異常に高いんだ!

甲羅は硬いから剣を通さないし、
魔法も効きにくい!」

批判的な言葉が飛び交う中、

「だがデバフに弱いはずだ!

誰かデバフを扱う魔法使いはいるか?!」

別の冒険者が尋ねた。

すると3人の冒険者がおずおずと手を上げた。

デバフについて尋ねた冒険者は、

「一応聞くが、お前達のレベルは何だ?

レベルが低いとデバフも跳ね返すからな」

そう尋ねると、

「私はレベル55です!

私は65です!」

と次々と手を挙げて答えていく中、
一番若そうな者が、

「私は……すみません! 37です!」

と申し訳なさそうに答えた。

「37ではどうしようもないな……

後の奴らは……ギリギリ効くか効かないかだな……」

その冒険者がポツリと言うと、
レベル37の冒険者が、

「あ……あの……でも私は強化魔法も使えます!

強くはありませんが、助けにはなるはずです!」

と意気込んで答えた。

「おい、おい、レベル37の強化魔法?!

一体何の役に立つんだ?!

地龍相手には爪の先も守れないんじゃ無いのか?」

先にレベル60を名乗った冒険者はバカにした様な口調で
レベル37を揶揄った。

「今は仲間内でいざこざ起こしてる場合じゃ無いでしょ?!

無いよりはあった方がマシなんだから!

で? 貴方はどんな強化魔法が使えるの?」

女騎士が尋ねた。

「わ……私は速攻に特化したバフが使えます。

騎士様達は剣捌きや動きが早くなるし、
魔法使いは詠唱が早くなります!」

「それは貴重な魔法ね。

じゃあ、よろしく頼むわね」

彼女がそう言うと、レベル37は

「はい!」

と大声で答えた。

「それじゃ、皆の職業とレベルだが、
誰がどんな職業とレベルにあるんだ?!

私は見ての通り重騎士だ。

敵の攻撃は私が受け止める!

私はレベル90なので、十分その役目は果たせるはずだ!」

さっきの重騎士が先立って自分の役割を述べた。

「それで? 他の者は?!」

そう尋ねると、彼に続いて皆がそれぞれの役割を伝え始めた。

重騎士は辺りを見渡すと、

「この中にヒーラーは居ないのか?!」

そう尋ねた。

その場にいた者皆がお互いを見合った。

そしてお互いに首を振り合った。

「ヤバイな……

ヒーラー無しでは到底戦え無いぞ」

重騎士がそう言った途端、
辺りがザワザワとし始めた。

「あの……」

レベル10のパーティーメンバー達がオズオズと手を上げた。

「何か策があるのか?」

重騎士が尋ねると、

「私達はここに居ても全く役に立ちません。

だから、貴方が敵を惹きつけてる間、
私達がダンジョンへ行き上級冒険者達を呼んできます!

幸いにパーティーメンバーの一人は召喚師でアイを召喚し、
ダンジョンの中にいる冒険者へと飛ばして会話をすることができます!

その後はダンジョン入り口まで召喚すれば直ぐに戻って来れると思います!」

レベル10の冒険者がそう言うと、

“ほお……アイが飛ばせるとは中々将来が有望な召喚師の様だな……”

デューデューがそう呟いた。

“では私もアイツらが出る時に一緒に出ることとしようか……

先ずはまたあの重騎士の肩にでも……”

そう思うと、ス~っと重騎士の肩に下りた。

皆を纏めるのに忙しそうにしていた重騎士は、
今回はデューデューが肩の乗った事に全然気付かなかった。

「よし! レベル50以上の冒険者達は私に続け!

だが、私が良いと言うまでは決して攻撃を仕掛けるな!

死にたくなければな」

そう言い足すと、15名程の冒険者が重騎士に続いて門から璧外へ出た。

「バフが掛けれるものは今のうちにかけておくんだ!」

そう言うと、皆の先頭に立ち、

「準備の出来たものは私に続け!」

そう言うと、地龍に向けて走りだした。

「此処で止まれ!」

そう命令をした後自分だけ前へ出ると、

「良いか、決して私が良いと言うまでは手を出すんじゃ無いぞ」

そう言うと、地龍を迎え撃つ準備をした。

冒険者達が何とか自分達で地龍を打つ段取りがついたところで、

“どれ、助けたいのは山々だが私は此処で足止めされる訳にはいかないのだ。

私はこれでアーウィンとマグノリアの所へ帰らせて貰おうかな。

冒険者共、健闘を祈るぞ”

デューデューはそう呟くと、
重騎士の肩からス~っと離れて空に舞い上がった。

冒険者達に背を向け立ち去ろうとした時、

「な……地龍達は一体どこへいくんだ?!」

そう言った声が冒険者達の居る群れから聞こえてきた。

デューデューが

“は?”

と思い後ろを振り向くよりも早く、
勢い良く尻尾を掴まれた。

バーンという振動を感じると当時にデューデューは地龍によって地に投げ出された。

“なっ……矢張りこいつらの狙いは私だったのか?!”

デューデューはブルブルと頭を振ると、
地から立ち上がった。

向こうでは地龍を迎え撃とうと構えていた冒険者達がデューデューが吹き飛ばされた方を
呆気に取られた様にして凝視していた。

デューデューが気を取り直して飛びあがろうとすると、
地龍はデューデューの尻尾を又掴むと、
デューデューを投げつけた。

「何だ?! 一体どういう事だ?!

何故地龍らはこちらに来ないのだ!

それに地龍らは何をしているのだ?!」

重騎士が叫んだ。

デューデューは地龍を睨むと、

“もしかして私が見えてるのか?!”

そう思うと又立ち上がり飛びあがろうとした。

すると又地龍はデューデューが見えている様にその尻尾を掴むと、
今度は呆然と立ち憚る冒険者の中に投げ入れた。

幸いにデューデューは未だ身体を縮小したままだったので、
冒険者に被害は及ばなかったが、
それでもそのスポットにいたもの達は少なからずとも吹き飛ばされてしまった。

「なんだ?! 見えない何かがいるのか?!

地龍達はその者と戦っているのか?!」

経験のある冒険者達は直ぐにインビジブルな何かがいる事に気づいた。

急に冒険者の間に緊張が走った。

中には地龍達がインビシブルから自分達を守って戦っていると
勘違いする者までで始めた。

デューデューはグッと身構えると、

“間違いない……

少なくともあの先頭にいる個体には私が見えている様だな“

そう呟くと、地龍の方を向き身構えた。

デューデューが戦闘体制に入ったことを見ると、
先頭にいた地龍が足踏みをし始めた。

”間違いないな。

奴には私が見えている!

この体のままでは埒があかない……

冒険者達にも私の事がバレた様だし……“

デューデューはそう思うと、
素早く空中に飛び上がり本来の姿を現した。

途端に集まっていた冒険者達がデューデューを見るなり、

「うわー、飛龍だ!

一体どうなってるんだ!!

飛龍は地龍よりも厄介だぞ!」

集まって居た冒険者達がバラバラに散らばり始めた。

「地龍3匹の上に飛龍だなんて冗談じゃない!

俺は降ろさせてもらう!」

そう言ってその場を去ろうとする者や、

「に……逃げなければ……」

そう言って腰を抜かして地に座り込む者や、
パニックになり過ぎて最初の計画を忘れ、
勝手に攻撃を仕掛ける者がで始めた。

それも冒険者達はデューデュー目掛けて攻撃を始めた。

冒険者達はデューデューに向かって行く地龍を見ると、

「皆、地龍に続け!

標的は飛龍だ!」

そう言った掛け声で一斉にデューデューを攻撃し始めた。

デューデューは冒険者達の矢や魔法攻撃をひょいひょいと交わすと、
地龍に向かって飛び掛かった。

ただ重騎士とそのパーティーメンバーだけは、

「やめろ! 直ぐに攻撃をやめるんだ!」

そう叫んで冷静だった。

重騎士は周りを見回して命令を下している者を探した。

「狙いは飛龍だ!

短剣を使うものは後ろに回り込め!

矢と魔法攻撃を行うものは射程距離ギリギリまで下がるんだ!

デバフがかけれるものは掛かるまでかけ続けるんだ!」

そう言って命令を下して居たのはレベル60の冒険者だった。

重騎士はレベル60の所にツカツカと近づいて行くと、

『パーン』

と頬を殴った。

「何をするんだ! 

リード権を取られた腹いせか?!」

レベル60は殴られた頬を腕で拭ってペッと唾を吐くと、
重騎士に掴み掛かった。

重騎士はレベル60の胸ぐらを掴むと、

「お前には分からないのか!

あの飛龍こそが私たちを守っているという事が!」

そう言って言葉を投げかけた。

「何を言ってるんだ!

あの飛龍は少なくとも姿を隠して我々の中に隠れて居た!

地龍がそれに気付いて私達を助けに来たのがお前には分からないのか!」

レベル60は全く逆のことを言って二人は言い合いになった。

二人の喧嘩を見て怯んだ冒険者達は躊躇して攻撃を辞めた。

「お前達、攻撃をやめるんじゃ無い!

飛龍を撃つのだ!

死にたいのか!」

そう言うレベル60に従いまた皆が一斉にデューデューを攻撃始めた。

「やめろと言ってるのがお前には分からないのか!

見ろ! あの飛龍は私達を避ける様に戦っている!

それどころか地龍達を此処から離れた所へ誘導しようとしている!

今直ぐに飛龍に対する攻撃を止めるんだ!」

重騎士がそう言って冒険者達に前に出ると、
攻撃が一斉に止んだ。

明らかに冒険者達の中には動揺が見える。

「我々はどうしたら良いんだ?!」

そう言った中、デューデューが投げた地龍が冒険者に向かって飛んで来た。

皆が真っ青になり金縛りにあった様にそこに立ち尽くす中、
デューデューは機敏に動くと、
飛んで来た地龍を自分の体で受け止めた。

「見ろ! あの飛龍は私達を逆に守っている!」

重騎士はそう言うと、地龍の体当たりを受けたデューデューの元へ行き、

「飛龍よ、手助け致す!」

そう言ってデューデューの隣に立ち憚った。

デューデューは重騎士を見ると、

「済まない。

なるべく其方らには被害が行かない様にしよう」

そう言うと、重騎士は話をしたデューデューを驚いて見た。

「貴方はただの飛龍ですか?!」

重騎士はデューデューにそう尋ねると、

「私は何の変哲もない普通の灰色の龍だ。

だが其方らの敵ではない」

デューデューはそう言うと、空中高く飛んだ。

重騎士は冒険者達の前に太刀憚ると、

「飛龍を狙うものは私を殺してからその屍の上を歩いて行け!」

そう言うと、飛龍の前に飛び出てデューデューと共に戦い始めた。

重騎士がタウントを掛けると、
地龍達は重騎士目掛けて駆け出した。

「飛龍よ! 私がコイツらの攻撃を受けます!

貴方は攻撃に集中して下さい!」

重騎士に続いて他の冒険者達もデューデューに加勢し始めた。

戦いは割と長く続き、
最後の1匹が死ぬ頃には、
魔法使い達のマナも底をつき、
そこら辺には倒れ込んだ魔法使い達が溢れかえって居た。

重騎士も頑張ってギリギリまで地龍の攻撃を受けてくれたが、
結局は鎧がボロボロになり、
それ以上は地龍の攻撃を受けるのは無理だった。

結局最後はデューデューによって幕を閉じたが、
ヒーラーが居なかったにも関わらず、
皆んなボロボロになりながらも、
冒険者側には誰一人として死者は出なかった。

皆がその場に倒れ込み

『ゼイゼイ』

としている中、重騎士だけはしっかりと足を地に着け
デューデューの前に立って居た。

「………」

「………」

お互い言葉も無く、互いをただ見つめあって居た。

「話せる龍が居るとは知りませんでした……」

重騎士が沈黙を破った。

「………」

デューデューは静かに彼の話を聞いて居た。

「あの……私はサンクホルム出身の冒険者で重騎士のダグと言います」

重騎士がそう言うとデューデューがピクッとした。

重騎士は暫く口を閉じると又、

「貴方の傷の手当てをさせていただけませんか?!」

と手を差し伸べた。

最後を殆ど単独で制覇したデューデューはボロボロだった。

デューデューはピクッとして顔を重騎士から逸らすと、

「必要無い」

そう言って翼を広げて羽ばたき始めた。

デューデューの翼捌きに突風が吹き上げる中、

「また貴方に会えますか?!」

重騎士はそう叫んだ。

デューデューが

「いや、私は……」

そう言いかけた時、

「デューデュー!

デューデュー! 来て!」

と叫ぶマグノリアの声がデューデューの頭の中に響いた。



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