龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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否応無に過行く今日と言う日

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デューデューが隣国に閉じ込められていた頃、
アーウィンとマグノリアは港町の市場で、
大きな商船から次々と下ろされる商品を眺めていた。

「大きな船よね……

一体どこの国から来たのかしら?」

マグノリアがぽつりと言った。

そこには少し哀愁が含まれているようで、
アーウィンの胸を少し締め付けた。

それと言うのは、マグノリアの国でも、
このような港町があるのを思い出したからだ。

「あのさ、言いたく無かったら言わなくて良いけど、
ソレル王国も島国だから港町があるよね?

こんな感じで商船がやって来てたの?

マグノリアは見たことがある?

それとも余りお城からは出なかったのかな?」

アーウィンが思い出した様にして遠慮気味に尋ねた。

マグノリアは商船から忙しそうに降りてくる商人たちをボーッとした様に
眺めながら、

「うん、いっぱい商船はやってきてたよ。

ソレル王国は島国だけど結構大きな島だったから、
港町もこの10倍くらいは賑わっていたかな?

王都は港からは離れていたけど、
離宮が港町の近くにあったから、
夏場は良く尋ねたんだ」

マグノリアが懐かしそうにそう言うと、

「ソレル王国に戻りたい?」

アーウィンがポツリとそう尋ねた。

マグノリアがビックリした様にしてアーウィンを見ると、

「取り敢えず今の所、
表面化ではマグノリアの事は公になってないじゃ無い?

僕の独断なんだけど、安全の為にもマグノリアは翠と一緒に
ソレル王国で匿ってもらった方がいいんじゃ無いかなって…

僕一人だったらきっと何とか出来ると思うから……

こうやって宿が見つからなくても野営とかも出来るし、
食べるものが無くても木の実や野草、山草なんかも食べれるし……
デューデューが一緒にいてくれたら賊なんかに会っても割と安全だろうし……」

アーウィンがそう言い終わるとマグノリアは怒り出した。

「アーウィン、何言ってるの!

私たちは離れたらダメよ。

私に国へ帰れって言うんだったらアーウィンも一緒だよ。

それが出来なかったら私もアーウィンと残る!

ねえ、覚えていて、今は何処へ行っても安全では無いの!

ソレル王国も例外では無いのよ?

アーレンハイム公は私がソレル王国出身だって知ってるし、
実際に帰ってみないと分からないけど、
王国には分からない方法で絶対手をまわしてると思う。

それこそ帰ったらホイホイと捕まってしまうわ。

アーレンハイム公の目的は世界制服よ。

ソレル王国なんて直ぐに飲み込まれてしまうわ。

私はそれよりもアーウィンと一緒に危ない架け橋を渡る事を選ぶわ。

国に帰ってそのままアーウィンと永遠に会えなくなるかもしれないなんて、
絶対耐えられない!」

マグノリアはそう言うと、アーウィンの肩に顔を落とした。

「マグノリアごめん。

僕は君と翠だけは守りたかったんだ」

アーウィンが泣きそうな声でそう言うと、

「分かってるわ。

私だって同じ気持ちなのよ。

アーウィンと翠だけは私も守りたいの!」

マグノリアがそう言うと、アーウィンはマグノリアの肩で
声を殺して泣いた。

「それにさ、私達は生き延びて翠の為にダリルを見つけてあげないと!

折角ジェイドが転生魔法を掛けてまたこの世に来てくれたんだから!

絶対ダリルも何処かに居るはずよ!

それを知ってるのは私達だけなんだから!

彼らのあの時の想いを無駄にしない様にしましょう」

マグノリアがそう言うと、
アーウィンはマグノリアの肩に伏せたままで

「うん、うん、そうだね。

ジェイドとダリルの想いも大切にしなきゃね」

そう言って頷いた。

「そうよ、ジェイドは私達を信頼していたから
私達の元へ戻って来てくれたのよ。

今は何も思い出さないかもだけど、
見て、この太々しさ!

私達だったら絶対彼のことを守るって確信してるのよ!

その期待には応えないとね!」

マグノリアはそう言うと、
アーウィンの頭を撫でた。

アーウィンがようやくマグノリアの肩から顔を上げると、

「ほら、しっかりとフードを被り直して。

前髪が乱れてるわよ。

いい男が台無しね」

マグノリアはそう言うと、
そっとアーウィンの髪の乱れを治しフードを引いた。

アーウィンは海に沈み行く太陽を見つめると、

「取り乱してごめん。

どうにもならない状況に少し弱気になってた。

僕はもう大丈夫だよ」

そう言うと、

「それにしてもデューデュー遅いね。

この辺りを散策してるだけだと思ってたんだけど、
もう日が暮れちゃうね。

日が暮れる前には戻ってくると思ったけど、
何処まで行ってるんだろう……

宿にはいけないし……どうしたら良いんだろう……」

アーウィンが困惑した様にそう言うと、

「取り敢えずは暗くなるのを待って馬車を取りに行きましょう。

暗くなると余り目立たなくなるから……

でも今夜泊まるところよね……

デューデューが何か情報を持って帰ってくると良いんだけど、
こうも遅くなると少し心配になるわね。

もしデューデューが何らかの理由で
今夜は戻って来れない事も視野に入れておいた方が良いわね」

マグノリアがそう言うと、

「じゃあ、今夜はどうする?

安全に馬車を停めれるところが有れば、
荷台で寝ても良いんだけど、
見つかれば直ぐに捕まっちゃうよね。

規定位置でない場所に止めた馬車なんて、
中を探して下さいって言ってるものだからね」

アーウィンがそう言うと、
二人は真剣に考え込んでしまった。

「幸い、人通りは未だ未だ途切れないから、
暗くなっても大丈夫だとは思うけど、
それでも限界はあるからね……

もう少し待ってデューデューが戻って来なかったら
馬車を受け取りに行って、
帰り行く人に紛れて此処を出た方がいいわね」

マグノリアがそう言うと、

「じゃあ、その後は?

僕達、身分証明証はあるけど、
きっと検問所でブラックリストに載ってると思うから
この国からは出れないと思うんだよね」

アーウィンがそう答えてまた二人は考え込んだ。

「そうだわ! 手配書が公になってるのは
アーウィンだけなのよね?

もし私の名が検問所でリストアップされてなければ、
どうにかして抜け出せないかしら?

翠は私が帯で抱えて、
馬車の手綱を取るわ。

アーウィンは荷台の中に隠れてるって言うのはどうかしら?」

「う~ん、いい考えかもしれないけど、
もしもの時はどうするの?

とても幌馬車では逃げきれないし、
翠もいるんだよ?」

「そうね、もしもの時はソレル王国の名を出すわ。

覚えてる? 私、一国の王女なの」

「それ、どうやって証明するの?」

アーウィンが気弱そうに尋ねると、

「本当はね使いたく無かったんだけど、
これを見て」

そう言ってマグノリアは懐からアミュレットを取り出した。

「これって君がお祖母様から貰ったって言った
聖龍の彫り物だよね?

これがどう役に立つの?」

アーウィンがそう尋ねると、
マグノリアが短剣を取り出して人差し指をピッと切った。

人差し指からは血が滴り始め、
マグノリアが血をアミュレットの裏面に落とすと、
アミュレットに血が滲んで広がった。

かと思うと、アミュレットが金色に光出して、
紋章が浮かび上がった。

「これは……?」

驚いた顔でアーウィンが尋ねると、

「ソレル王国の王家の紋章よ」

マグノリアがそう言ってアミュレットをアーウィンの目の前に翳した。

「す……凄い!

一体どう言う仕組み?」

「このアミュレットには魔法がかけてあるの!

初代の王妃……サンクホルムの王女だった初代王妃は魔法が使えたみたい……

だからね、聖龍様の彫られたアミュレットの裏に
ソレル王家の証である紋章を自分の血で描いてそれに魔法を掛けたの。

王妃の血の子孫は血を捧げる事によりその紋章が浮かび上がるってね。

普通王家の紋章はね、何処の国でも偽造できない様に必ず魔法がかけられてるの。

だから偽造しようとすると、
燃え出す様な仕組みになっているのよ。

国境にいる検問者は必ずその事を知っているわ。

だからこれで私がソレル王国の姫だと言う事は証明できるわ」

マグノリアがそう言うと、

「じゃあ……翠も出来るって事なの?」

「勿論よ! 魂はジェイドだけど、
その身は私と貴方が創造した血で生かされてるからね!

彼は立派なソレル王国の血を引く王子よ。

それにサンクホルムの血も濃く受け継いだこの子は、
きっとサンクホルムの紋章も
この子がサンクホルムの後継者である事を証明してくれるはずよ」

マグノリアはそう言うと、アミュレットを又懐に戻した。

「そうか、じゃあもしデューデューが日没まで戻って来なかったら
この国を脱出する計画を実行しよう」

アーウィンがそう言うと、
二人はもう直ぐ沈んでしまうであろう太陽を見つめた。



その頃デューデューは、

“ム~ これはまずい事になった!”

そう呟いて辺りをグルグルと飛び交っていた。

封鎖された検問所はすでに封鎖されているので、
結界が張られている。

それに飛び込んで此処を出られると言う保証は無い。

運悪くすると、結界に弾かれて気を失ってしまうかもしれない。

そうなると、透明の状態を維持出来るかわからない。

デューデューは冒険者達の波に紛れて南の検問所まで行った。

検問所の前にはこの国に滞在していた冒険者が
勢揃いしたのでは無いかと言うくら集まっていた。

先ほど検問所で見たハンターらしき冒険者が、
サーチを使っているらしく、
敵の情報を読み取っていた。

“こいつのレベルから行くと、
恐らく私はこいつのサーチに引掛から無いだろう……”

そう思っていると、

「嘘だろ……何故この魔獣がこんなところに……」

みるみるそのハンターの顔色が変わり出した。

“ふーん……スキルとしては悪く無いな……

しかしこいつらが此処にいるとは驚きだな……

それも1…2…3…匹は確実にいるな……

これでは私もコイツらに勝てるかは分からないな……

それに隠れて逃げるのも不可能かもしれない……

姿は見えど、気は感じているはずだ……

アイツらにはもう私が此処にいることが分かっているな……

もしかして私の気に触発されて巣から出てきたのか?!

そう言えば帝国には龍達が住んでると言っていたな。

コイツらは恐らく帝国近くの森に巣を作っていた地龍達だろう……

森は広いのに良く此処まで気が読めたな……

あ~そうか……今は繁殖のシーズンか……

きっと番を探して森を彷徨っているところで
私の気を拾ってライバル視して襲いに来たのだな……

と言う事はコイツらはオスか……

オスが3匹……きっと近くにメスもいるはずだ……

と言う事は地龍が少なくとも4匹か?!

益々ヤバい状況だな……”

デューデューがブツブツと独り言の様に状況を把握していると、

「地龍です! 地龍が3匹こちらに向かって猛突進してきています!」

ハンターがそう叫んだ。

途端、冒険者達の中に緊張が走った。


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