龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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これからの事

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「ねえ、私疑問に思ってるんだけど、
サンクホルムに産まれる銀髪に緑の目って
聖龍を受け継ぐ者の証じゃない?

それって王家からしか出ないでしょ?」

「うん、僕もそう聞いてる…」

「私、一応はサンクホルムを建国した王の姉の子孫ではあるんだけど、
血族的に言ったら他人に近い程遠いのね。

でもこれってその血を通して翠が聖龍を継ぐものとして
認められたって事で合ってるのかしら?」

マグノリアが不意にそう問うと、
アーウィンが焦り出した。

「そ…そ…それって翠がサンクホルム王国の王継承者って事?!

それヤバくない?!

アーレンハイム公に知れたら翠の命まで狙われるって事だよね?!

翠の髪染めた方が良くない?!」

アーウィンの慌てぶりにデューデューが、

「そんなに慌てるでない!

いくらアーレンハイムがお前達に子が出来たからと言って
ジェイドの生まれ変わりだとは思いもせんだろう……

だがその銀髪に緑の目はちと厄介だな」

と顔を顰めてそう言うと、

「でしょう?! でしょう?! でしょう?!」

とアーウィンが寝室をウロウロとし始めた。

「取り敢えず、サンクホルムへ行くのだけは絶対に避けましょう。

近くの国へ行くのも避けたほうがいいわね……

でもこれからの事を考えると、
ここに留まっておく訳にもいかないし……

如何するのが1番良いかしら?

何があっても翠だけは守り通さなければ……」

そう言ってマグノリアが考え込んだ。

「ねえデューデュー、そう言えば王の行方については何か分かった?」

アーウィンが思い出した様にしてデューデューに尋ねた。

「王か……分かったと言えば分かった様だが、
分からなかったと言えば、分からないな……」

デューデューがそう言うと、

「デューデューにしては歯切れの悪い返事ね」

マグノリアが少し揶揄った様にして言った。

「それって、もしかしたら王のいる場所が分かったかも知れないって事?」

アーウィンがそう尋ねると、

「うーむ、そうとも言えるな」

とデューデューが唸った様に答えた。

「取り敢えず、デューデューが得た情報を教えて」

マグノリアがそう言うと、
デューデューが少しずつ話し始めた。

「実を言うとな、
ここを出てまず最初に私はサンクホルムに寄ったのだ」

デューデューがそう言うと、
二人とも目を見開いて、

「え?! サンクホルムに寄った?!

何危ない事してるの!

幾ら透明になれるとは言っても、
今ではアーレンハイム公のお家元になってる国よ?!

見つかって又捉えられてたら如何するつもりだったの?!」

デューデューは二人に捲し立てられた。

「まあまあ、そう目くじらを立てずとも、
私は大丈夫だ」

そのセリフにマグノリアが

「そう言って前もアーレンハイム公に捕まったじゃない!

もう、そんな無茶はしないで!」

そう言ってデューデューに泣きつくと、

「分かった、分かった、もう無茶はしない。

それよりも、お前達はボノを覚えてるか?」

デューデューの問いに、

「ボノって庭師のボノ?」

アーウィンがすかさず尋ねた。

「そうだ、その庭師のボノだ」

そう言ってデューデューが頷くと、

「ボノが如何したの?

アーレンハイム公のスパイだったなんて言わないでしょうね?」

マグノリアがそう言うと、

「違う、違う、奴は賢者だったぞ」

と言う突然の告白に二人とも、

「えー!!

賢者って未だ居たの?!」

そう言って驚いた。

二人があまりにも驚いて大声を出した為、
翠が起きてしまった。

「フェッ~」

と泣き出した翠に、

「ちょっと待ってミルクの時間だから」

そう言ってアーウィンが席を立つと、
ベッドから抱えてマグノリアの所まで連れてきた。

マグノリアは翠を受け取りシャツを捲ると、
母乳を与え始めた。

「お……お前! 私の前で恥ずかしくはないのか?!」

狼狽えるデューデューに、

「へ? 授乳の事?!」

不思議そうに尋ねると、

「その様に肌をあらわにして、
その……何だ……丸見えではないか!」

慌てふためくデューデューを、

「キャハハ」

と笑い飛ばすと、

「これだから100越えの童貞は!

龍如きに恥ずかしがってたらこの子は守れないわ!」

と、マグノリアは早くも肝っ玉母さんになって居た。

アーウィンも隣で、

「大丈夫だよデューデュー、
僕もね、ジェイドがマグノリアの母乳を飲んでるって思うと何だか複雑でさ……」

との告白に、今度はマグノリアまでも真っ赤になって、

「ちょっと! 変なこと考えないでよ!

この子はジェイドだけど、
それはこの子の持つ魂であって、
この子の体は私と貴方の愛の結晶なのよ!

紛れもない私たちの赤ちゃんなの!!」

そう言ってアーウィンに側にあった枕を投げかけた。

アーウィンは枕を拾うと、

「ごめん、ごめん、マグノリアの言う通りだよ。

でも、僕が言ったような気持ちも無きにしも非ずなんだからね。

まあ、早く言えばヤキモチです。 ごめんなさい」

そう言ってマグノリアの隣に座り彼女の頬にキスをした。

アーウィンは

”ンキュ、ンキュ、ンキュ“

と一生懸命ほっぺを動かしミルクを飲む翠を見つめると、
翠が愛しくて堪らなくなった。

「ねえ、デューデュー、それでボノは?

賢者なんでしょ? 彼はアーレンハイム公側なの?」

一生懸命ミルクを飲む翠の頬を撫でながらアーウィンが尋ねた。

「いや、違う。

あれはジェイドを助けられなかった事を悔いて居た。

だがジェイドが転生した事を知った奴は賢者の塔を探しに行った」

「賢者の塔? そんな物があったんだ」

「私も知らなかったが、ボノがそう言ったからあるのだろう。

きっと見つけて翠のところへ戻って来るだろう」

「そうなると力強いね。

そう言うふうに少しずつ一緒に戦ってくれる人が見つかれば……」

そう言ってアーウィンが拳を握ると、

「それとな、私はラルフと話をしてきたぞ」

そう言うデューデューに、

「え?! ラルフと?!

彼は無事だった?!」

アーウィンはラルフと言う名を聞いてスクッと立ち上がった。

「アイツは無事だ。

ただ、幽閉された様に神殿に閉じ込められて居たと言うか…

神殿は新しい王都に建てられ、今ある神殿にはラルフしか居なかった。

アイツは捨て置かれたと言って居たが、
きっとアイツはあそこで大丈夫だ。

あそこで大人しくしていれば、命の危険などは無いだろう」

「そうか、良かった!

ずっと気になってたんだ」

そう言ってアーウィンは泣き出した。

「そしてな、ラルフが言ったんだが、
王が失踪する前に東の大陸について調べて居たと。

だから私はその後、東の大陸があった所に行ってきたんだ」

「東大陸って海に沈んだって所でしょう?」

マグノリアが尋ねると、
デューデューが頷いた。

「実を言うとな、あれは完全に沈んでいた訳では無いのだ。

恐らく東の大陸にあった一番高い山だと思うが
頂上が海面上に岩場の様に浮いて居た」

そうデューデューが言うと、
二人共驚いた様に目を見開いた。

「じゃあ、デューデューはそこに降りる事が出来たんだ」

アーウィンが尋ねると、

「ああ、降りるには降りれたが、
あの辺り一体は結界が張ってある…

それに私は海底から攻撃されたのだ」

そう答えるデューデューに

「えー!! 海底?!」

二人は又ビックリして大声を出した。

「シーッ! 二人共声が大きい!

又翠が起きるぞ」

デューデューはお腹いっぱいになり、
マグノリアの腕の中で寝落ちした翠を見ながらそう言った後、

「私はそこで推理したのだ。

恐らく海底に居るのは隠密達だ」

その答えに二人は又しても大声を出しそうになり、
手で口を押さえた。

「隠密達?!

じゃあ、デューデューは隠密達が海底で生活してると思ってるの?!」

マグノリアが驚いた様にそう尋ねると、

「あそこには隠密達の里がある筈だ。

私の推理としては、
隠密達は元々王家に仕えた者達で、
恐らく奴らの信仰は王家の象徴である黒龍だ。

王家と隠密、黒龍は何らかの繋がりがあったと思う。

ショウは生き残った者は皆他の大陸へ逃げたと言ったが、
恐らく隠密達は王家の者を逃した後、
封印をした王家の者とあそこに残った筈だ。

その時に黒龍が小規模で奴らの周りを守るために結界を張ったのだと思う。

それに……私はあそこでジェイドと同じ魔力を感じた。

あれは聖龍の魔力だ。

結界の中は聖龍の魔力で守られて居るはずだ。

だから結界の中に取り残された隠密達はそこに里を作ったに違いない。

誰も来ない、誰も知らない。

大陸は沈んで滅んだと思われているのだからな。

里を作るにはもってこいだ。

そして年月が過ぎ、恐らく結界の間を自由に行き来する術を見つけたのだろう」

「その推理があたってたら凄いわね。

でも結界ってそんなに長く持つものなの?」

「黒龍が張って、聖龍が加護を与えて居るのならばな」

「デューデューは王がそこに居るのではって思ってるのね」

「そう言うことになるな」

「あーだから 

”分かったと言えば分かった様だが、
分からなかったと言えば、分からない“

だったのね」

マグノリアがそう言うと、
デューデューは頷いた。

「じゃあ、陛下がもしあそこに居るとすると、
彼らが陛下を戻さないのはわかる様な気がする……

取り敢えずは今は陛下が聖龍の現し身な訳じゃ無い?

この世の中の事が彼らに分かってるんだったら、
そりゃ手放さないでょう?

きっと黒龍の現し身の者も必死で探してるんじゃ無い?」

マグノリアがそう言うと、
アーウィンも、

「そうか、黒龍の現し身の者の事すっかり忘れてたけど、
そう言えば黒龍にも居たんだよね?

一体誰なんだろう?

東の大陸の王家の血を引く誰かかな?

今はバラバラになって皆行方が分からないんだよね?

もしかして既にあの海底で隠密達に守られているのかな?

だから聖龍の現身である王もそこに居るとか……

でも黒龍も聖龍もどこに居るか分からないし…

ねえ、ショウの龍達にそれっぽいこと聞いた?」

そうデューデューに尋ねた。

デューデューは眉間に皺を寄せた様な顰めっ面をすると、

「アイツの龍の事は尋ねるな!

アホばかりで何の役にも立たん!」

そう言って機嫌を損ねた。

「フフフ、ま~た言ってる!」

マグノリアがそう言って笑うと、
デューデューが思い出したように、

「そう言えば、ナナが、
黒龍は封印が終わって魔力を使い果たした後、
繭になったって言ってたな」

そう言うと、

「繭?!って蛾とかがなる?

でも繭って……もしかして魔力を回復する為?」

「そうだと思うが、その後ナナは
黒龍が繭に包まれると、聖龍が繭を持ち去ったと言っていたぞ。

これはその場にいた龍達が目撃して
それが言い伝えられて居る様だから恐らく真実だろう……」

デューデューがそう言うと、

「そうか……私達は龍達とは会話出来ないけど、
是非ナナに会ってみたいわね。

ねえ、次の隠れ家は帝国っていうのはどうかしら?

ショウ達はおそらく私達の事もう既に分かってるようだし、
ショウ達に助けを求めても良いと思うの……どう?

翠の首がすわったらここを出ようと思うのだけど……」

そう言ってマグノリアが新しい提案を出した。
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