龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ショウ屋敷

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”帝国も随分変わったな……”

何十年ぶりかに訪れた帝国はデューデューの知る帝国とは少し風変りをしていた。

殆どの人には知られていないが、
帝国の北方にある火山の火口には龍の住処がある。

デューデューは子供の頃少しの間だけそこに住んでいたことがある。

デューデューは帝都の一番高い時計台に舞い降りると、
ショウの気を探すために感覚を研ぎ澄ませた。

”おや? これは龍達の気だな……

という事はショウの家は……あっちの方角だな”

デューデューは西の方角を向くと、
スーッと時計台から飛び去った。

風に乗って龍達の気を辿ると、
大きな貴族の屋敷に辿り着いた。

”ここだな。 

ふ~ん、ショウの割には立派な屋敷に住んでいるな”

デューデューは敷地内に入っていくと、
上空を数回旋回した。



“間違いないな。 

ショウやスーの気も感じ取れる……

だがどの部屋に居るのかまでは分からないな……

う~む…… 一体どうしたものか……

一部屋ずつ覗いてみるか?!”

やっと辿り着いた帝国のショウの屋敷でヂューデューは少し迷子になって居た。

ショウたちの部屋が見つからないのだ。

“うーん、この部屋でもないな……

一体何処が奴らの寝室なのだ?!”

デューデューにはショウたちの部屋を知る当てがなかったので、
灯りの付いている部屋を頼りに一つ一つの窓を覗いてみた。

”恐らく一階ではないな”

一階にいたのは使用人ばかりだった。

デューデューは二階を見上げると、
数部屋明かりが付いている事に気付いた。

”恐らく二階だな……

どれ、どれ、今頃ショウとスーは何をして……”

そう思いながら二階の明かりのついた一番端の部屋から当たっていくと、
一番最初の部屋でスーを見つけた。

“おっ! これはスーではないか?”

デューデューは少し部屋の中を見回して、

”ショウは…… 居ない様だな?”

と、その部屋にはスーしかいない事に気付いた。

スーは一人で床に座り込み、何か必死にやっていた。

デューデューはスーがやっていることを眺めながら、

”??? フ~ン? スーは何をしておるのだ?”

デューデューは窓の外からジーッとスーを観察した。

スーは体にピタリとくっついた服を着て、
床に座り足を組むと背筋を伸ばして両手を胸のところで合わせて居た。

目を閉じ瞑想したようにして、
大きく息を吸ったり吐いたりすると、
次は両手を横に垂直に伸ばし、
そして頭上へ向けてゆっくりと伸ばすと、
又息を大きく吸ったり吐いたりして居た。

”アレは何のポーズなんだ? 魔法の練習か?!“

初めて見る光景に、
デューデューが呆けた様にスーがやる事を見ていると、
いきなり寝室のドアがバーンと開いた。

半分白昼夢を見たような感覚になっていたデューデューは
その音で現実に引き戻された。

”おお、我としたことが、少し意識が飛んでしまっていたな。

きっと疲れているのだろう……

何しろ怒涛の日だったからな。

それにしても、やっとショウのお出ましだな。

ショウはこんな遅くまで仕事か?

龍達を追って居たツケが回ったのだな。

ケッケッケッ“

ヂューデューがそう思いながら笑っていると、
ショウは床で何やらしているスーに興奮した様に話した後、
窓の方を見て指さした。

そして正にデューデューが覗いていた窓まで走ってくると、
その窓をバーンと開けた。

「デューデュー様?!

遂に我が家においで下さったのですね!

お手紙を下さればお迎えに行きましたものを!」

そう言ってショウはデューデューに向かって腕を伸ばしたが、
デューデューはそんなショウを無視してス~っと姿を現すと、
一直線に部屋の中にいるスー目掛けて飛んで行った。

「まあ、デューデュー様!

こんな夜更けに如何なさったのですか?!

もしかしてお姉様とお兄様に赤ちゃんが産まれましたか?!」

床に座っていたスーはスッと立ち上がると、
デューデューに駆け寄ってきた。

「お前は床に座り一体何をしていたのだ?

それにその奇抜な服装は何だ?」

デューデューがそう尋ねると、
スーは自分の服装を見ながら、

「デューデュー様、聞いてください!

実を言うと、私達にも赤ちゃんができたんです!」

スーの知らせにデューデューは

”知ってたがな“

と思いながらも、

「そうか! それはめでたいな!」

そう言って一応は喜ぶフリをした。

スーは一礼し、

「有難うございます!」

ニコニコとしてそうお礼を言うと、

「実はですね、ショウが持っていた東大陸の本に、
ヨガというものがありまして、
妊娠をした人がやると安産になるとありましたので
真似をしていたのでございます。

この衣装もその本の中にありまして、
ヨガパンツと言うものらしいです。

伸縮が自在でとても動きやすいんですよ。

東の大陸には此処と違った文化があった様ですね。

今は東大陸の本を楽しく読ませていただいてます」

そう嬉しそうに言うスーに、

「東大陸の本か……

お前が読んだ東大陸の本に、かつて東大陸に賢者が存在していたとかは無かったか?」

と今回の経験を元にデューデューは尋ねてみた。

スーは頭を捻ると、

「賢者と言う言葉は出てきませんでしたが、
面白い名前で……何と言いましたっけ?

えーっと、お……おん……陰……陽……?」

スーがどもりながらそういうと、

「あ~ 陰陽師ですね」

そう言ってショウが横から話しかけた。

「陰陽師?

陰陽師はいいが、
なぜお前は私が此処にいる事が分かったのだ?

いつもサーチをかけている訳ではないだろう?」

横から話しかけてきたショウにデューデューがそう尋ねると、

「あ~ 実を言うとですね、私は毎晩お休みを言いに龍達の厩舎を尋ねるのですよ。

今夜は何時になく龍達が興奮していたんです。

だから何事だろうとサーチをかけたら、
何と、デューデュー様が探知に掛かったでは有りませんか!

その時の私の胸の高まりが分かりますか?!」

そう言ってショウはデューデューに手を差し伸べた。

デューデューが翼でショウの手をベシッと叩くと、

「あ~ 本当に夢の様です!

ついに! ついに、いらしたのですね!

この日をどんなに待ちわびていた事でしょう!

こんなに早く実現するとは!

丁度ナナとデューデュー様の話をしていたところだったのですが、

デューデュー様の来訪を知り、
私は泣く泣くナナを置いて急いで邸宅の方へ戻ってまいりました」

シヨウが興奮しながら答えた。

デューデューはそんなショウの胸の高まりを無視すると、

「そうだ、私はお前の龍達に少し尋ねたい事があるんだった。

それが此処へ来た理由だ。

明日話してもいいだろうか?」

デューデューがそう尋ねると、ショウは更に興奮した様にして、

「デューデュー様は龍達と会話が出来るのですね!

そうか、そうですね、基本デューデュー様は龍ですからね。

デューデュー様は人の言葉が話せるので、その事をすっかりと忘れていました。

私の龍達と会話ですか! それは楽しみです!

是非ナナを紹介いたしましょう!

もしナナを気に入って下されば!」

そう興奮しながら言うショウの言葉の先が分かっていたデューデューは、
ショウの頭を向こうに押しやるとスーに、

「スーはその陰陽師やらという者が記してある本を今持ってるのか?」

と尋ねた。

「いえ、本は図書室の方にありますが、
持って来ましょうか? お読みになられますか?」

スーがそう尋ねた。

幸い人はすべて同じ言語を話していたので、話す言葉は理解できたが、
デューデューは未だ人の言葉を自由に読めるほど文字に詳しい訳では無かった。

「いや、私は人の言葉が上手く読めない。 

ショウ、お前が説明してくれ。

その陰陽師とは一体何だ?」

デューデューはそうショウに尋ねた。

ショウは頭をひねらすと、

「それが、私も良くわからないのですが、
術を使ったとありまして、
紙で作った式神と言うものを行使していた様です。

それが魔法の類になるのか、
スキルになるのかは分かりません。

ですが、古の東大陸で妖を退治したとありますので、
陰陽師は悪い者では無かった様に思われます……」

そう言って肩を窄めた。

「妖? 東の大陸には妖なる者が居たのか?」

デューデューがそう尋ねると、

「デューデュー様は妖をご存じですか?

私は妖についてあまり良く知りません……」

ショウがデューデューにそう尋ねた。

「いや、私も妖については良く知らない……

ただ、妖と呼ばれる魔物が居たとだけ……

それよりも、お前は沈んだ東大陸に
今でも人が住んでいると言う事を聞いた事があるか?」

デューデューがそう尋ねると、

「デューデュー様、人は海底では生きていけません。

デューデュー様の言った様な話は今まで聞いた事が有りません。

私も大陸が沈んだ時にそこに居たわけではありませんが、
普通に考えて人は水の中では呼吸が出来ません。

そのような魔法が存在している可能性はありますが、
このように長い間持続させて水中呼吸の魔法を使うのは不可能と思われます。

それに人は長い間肌を水に触れさせておくことが出来ません」

ショウはそう言って眉間に皺を寄せた。

デューデューは何かを考えたようにして

”そうか……”

と呟いた。

「もしかして東の大陸に行かれたのですか?」

ショウが訝しげにそう尋ねると、デューデューはショウを見上げた。

「実を言うと私は今まで東の大陸があった所に居たのだ。

その時私は海底から攻撃を受けた。

沈んだ大陸に誰か居るのは確かだ。

それにあそこには結界が張られている。

恐らく結界の中は此処と変わらない生活が出来ていると思う」

デューデューは正直にそう答えた。

「まさか! それは大陸が沈んだ時に誰かが瞬時に結界を張って
未だそれを維持していると言う事でしょうか?!」

ショウがビックリしてそう言うと、

「基本的にはそうなるのだが、
分からないから私も聞いているのだ」

デューデューがショウをジロッと睨んでそう答えた。

「そうですね、失礼いたしました。

沈んだ大陸の現状況は私にも分かりませんが、
もしかしたら先ほど話した陰陽師が関係しているのかもしれません…

彼らは結界を張ることも出来たそうです……

それに彼らの術は魔法とは恐らく種が違うと思われます。

デューデュ様はその結界に触れて見られましたか?」

ショウがそう尋ねるとデューデューが納得した様にして、

「そうだとすると辻褄が合うな。

私は魔法だと思い、何度も結界を破ろうとしたが出来なかった。

恐らくアレは魔法で出来たものではないのだろう……

陰陽師か……厄介な奴らにならなければ良いのだが……」

そう言うと、デューデューはフア~っと欠伸をした。

「おお、デューデュー様、東の大陸へ行かれたのであればお疲れでしょう、
お部屋をご用意いたしますので、
今夜はゆっくりとお休み下さい。

明日改めて私の龍達を紹介致しましょう」

ショウが気を使ってそう言うと、

「いや、私は部屋の隅っこで休ませて貰えればそれで良い。

そうだな、ここが……」

そう言うと、ベッドの下に潜り込んだ。

ベッドの下は丁度洞穴のようになっていて、
デューデューの隠れ家を連想させた。

ショウはベッドの下を覗き込むと、

「デューデュー様、ベッドの上にいらっしゃいますか?

むさ苦しい所でもよければ、私達は構いませんよ?

スーもかまわないよね?」

ショウがスーに尋ねると、

「ええ、ベッドの上の方が気持ちいいですよ?」

とスーもベッドの上へ来るように誘ってくれた。

デューデューはチラッとショウを見ると、

「いや、私は此処で良い。

ベッドの上はマグノリアの所と決めているのでな」

デューデューはそう言うと、
頭を胸に丸め込んで目を閉じた。

ショウは少し寂しそうに、

「そうですか……

ではごゆっくりとお休みください」

そう言うと、自分の毛布にもぐりこんだ。


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