龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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後世へ

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アーウィンは現金が沢山入ったバッグを両手でギュッと抱き込むと真っ青になって

「今僕って1000万ロデオを現金で持ってるって事?!」

そう考えると恐ろしくなった。

でも直ぐに開き直って、

「あ、もしかして、この国ってやたらと物価が高いとか?!

だからお金の価値がサンクホルムとは違うとか?!」

そうアーウィンが言うと、

「いや、この国の物価はサンクホルムの2/3位だと思うが」

とデューデューが更に追い打ちをかけるように言った。

「ちょっと待って、ちょっと待って……

僕、今までこんな大金、持った事無いんだけど?!」

更にバッグを持つ手に力が入ると、

「う~ん、1000万ロデオが何~?」

丁度マグノリアが目を覚ました。

「あ、マグノリア、聞いてよ!

デューデューの鱗が売れたんだけど、
買い手の人、1万カヤールを払うって取り敢えず1000カヤールくれたんだ!

僕通貨が分からなくてハイハイってお金貰って来たんだけど、
こんなに高かったなんて!

どうしよう?!

こんな大金持ってたら強盗に遭うかも?!」

そう言って冷や汗を垂らしたようにオロオロとすると、

「あ~それで1000万ロデオね」

マグノリアが涼顔で言った。

「ねえ、どうすればいいの?!」

アーウィンが尋ねると、

「そんなの、銀行に入れるしかないけど、
そんな大金をポンと現金で払うってのも怪しいわね。

どんな人だったの?」

「それがさ、その人ダリルと同じで真っ黒な髪に真っ黒な瞳をしていたんだ。

だけど変な人で、デューデューの鱗にスリスリして足取り軽く帰っていったんだよ。

凄くダリルを連想させる人だったけどなんて言うか……兎に角、変な人だったんだ~」

アーウィンの見様見真似にマグノリアはクスッと小さく笑と、

「へー、そうなんだ。 ぜひ会って見たいわね」

そう言って伸びをした。

「会えるよ、会えるよ!

今夜残りのお金を貰いにいく約束してるんだけど……って、

え? 会って見たいって、マグノリア、具合は良いの?!

此処に来た時より随分顔色いいみたいだけど!」

「うん、此処は涼しいから少し眠ったらマシになったわ」

マグノリアがそう言うと、アーウィンの顔がパーっと明るくなった。

「良かった~!

マグノリアのそんな顔久しぶりに見たよ!」

「フフ、私もこんなに清々しいのは久しぶり!

でもこれも今だけかも……」

そう言って深呼吸をすると、アーウィンはマグノリアの手を取って、

「じゃあ、今のうちに病院へ行こう!

確か市場へ行く道筋にそれらしきところがあったと思うから。

その後でこれからの事は如何するか決めれば良いから」

そう言って少し急かしたようにした。

「分かったわ」

そう言うとマグノリアは立ち上がり腰回りについた砂をパンパンと払った。

アーウィンはマグノリアが自分でスッと動いてるのを見て、
少し安堵のため息を吐いた。

「じゃあ、僕の腕に捕まって。

気分がいいからって言っても油断は禁物だよ。

デューデューもちゃんと付いてきてね」

そう言うと、病院へ向けてゆっくりと歩き出した。

病院へ向けて暫く歩いていくと、

「あ、さっきのお兄さん!

売りたい物は売れたの?!」

丁度市場から帰ってくるスーと又かち合わせた。

「あ、スー! さっきは有難う!

凄く助かったよ。

売り物も良い値で売れたんだよ。

スーは買い物の帰り?」

アーウィンがそう言うと、マグノリアは

「こんな可愛い子といつ知り合ったのよ?」

とアーウィンの小腹を肘で突いた。

スーはアーウィンの横にいたマグノリアを見ると、

「お姉さんも初めまして。

私はスーです! この先でお母さんと宿屋を開いてるのよ!

今夜泊まるところが必要だったら是非うちに泊まってね!」

ニッコリとわらってそう言った。

「あらあら、小さいのに商売上手ね。

今夜はきっと泊まるところが必要だから、
是非寄らせて頂くわ」

スーの目線に合わせて優しくそう言うと、
スーはニカっと大きな笑みを見せて、

「約束よ!

じゃあ、私はお母さんが待ってるからもういくわね」

そう言って手を振った。

マグノリアは思い出したようにしてスーを呼び止めると、

「あ、ちょっと待って、この辺に病院は無いかしら?」

と尋ねた。

「病院だったら此処を先に行って1番最初の曲がり角の所に一つあるわよ!」

そう言ってスーがその方向を指さすと、

「あら、じゃあ近いわね。有難う!」

そう言って又手を振った。

「うん! また後でね!」

スーは大声でそう叫ぶと、小走りに駆けて行った。

「いつあんな可愛い子と知り合ったのよ?!

それにしてもピンクの髪って珍しいわね」

マグノリアがそう言ってスーの去って行った方を見つめていた。

「そうだな。 アーウィンの赤髪も珍しいが、お前達の国は殆どが金髪だな。

だが世の中には色んな色の人種がいるぞ」

そうデューデューが教えてくれた。

「そうよね、ダリルだって黒髪だったし、
ジェイドは銀髪だったものね」

「ああ、ダリルの髪の色は東の大陸の特徴だし、
ジェイドの髪は聖龍に寵愛を受けた者の証だ。

あれはエレノアと同じ色だからな」

デューデューがそう言うと、二人はジェイドとダリルを思い出して何だかしんみりとした。

少し沈黙が続いた中歩いてくと、スーが教えてくれたように最初の角に
小さな病院がひっそりと立っているのが見えた。

マグノリアは一早でその場所を見つけると、

「此処ね。 見た感じでは悪くは無いわね」

そう言って病院の入り口の有る角を曲がると、
入り口の前に立ってドアノブをじっと見つめた。

「如何したの? 開けないの?」

アーウィンが心配したようにマグノリアの様子を見つめると、
マグノリはブルっと小さく震えて、

「うーん、武者震い!

変な病気だったらって思うと……」

そう言うと、スーハー、スーハーと深呼吸した。

ゴクリと唾を飲み込んでドアを開けると受付には猫耳の少女が座っていた。

「あ、猫の耳! 可愛い~ あなた獣人なのね」

「はい。猫ミミ族のププです。今日は如何されましたか?」

「あの……今はちょっと元気そうなんですが、彼女、ずっと寝込んだままで……

何処が悪いのか分からないんです。 

体重も随分落ちてしまって……」

アーウィンがマグノリアをチラッとみながらそう言うと、

「では此方へどうぞ」

そう言って猫少女は直ぐに医者へと案内してくれた。

アーウィンも一緒に行こうとすると、ププに止められ、

「助手がつきますので、
ご主人は此処でお待ちください」

そう言われ真っ赤になりながら慌てて、

「いえ、僕は夫では……」

そう言いかけて、

「妻をよろしくお願いします!」

そう言って深々とお辞儀をした。

ププはニコリと微笑むと、

「はい、はい、大丈ですよ。

それでは直ぐにご主人もお呼び致しますので」

そう言うと、マグノリアを奥の部屋へと通した。

ロビーに誰も居なくなると、

“デューデュー、居る?”

そう囁いてデューデューがちゃんと一緒に居るか確認した。

”此処に居るぞ“

デューデューが小声で返事をすると、

“僕、怖い……

マグノリアが変な病気だったらどうしよう?!

マグノリアまで無くしたら、僕は一人で生きていけない…”

アーウィンが震えた声で呟くと、

“いや、そこは心配いらないと思うぞ。

それよりも…”

そう言いかけた時、

「ご主人様、お待たせしました~ 先生がお呼びです。

此方へいらして下さいますか?」

ププがアーウィンを呼びに来た。

“どうしよう……怖い……

デューデュー、一緒にきてね。

ちゃんと僕の後を着いて来てね”

そう呟くと、アーウィンは診察室へと入って行った。

アーウィンの目には一番にマグノリアが映った。

“え? マグノリア…… さっきよりも更に元気になってる?

頬に少し赤味が…”

アーウィンがそう思っていると先生が、

「ご主人様、おめでとう御座います」

ときたので、アーウィンは度肝を抜いた。

“へ? 何がおめでとう?!”

そう思っていると、後ろからデューデューが、

“やっぱりな”

と囁いた。

「何がやっぱりなの?!」

思わず声に出して言ったアーウィンに皆が一斉に注目した。

“ヤバッ!”

そう思いアーウィンは目を泳がせると、

「失礼、独り言です」

そう言って顔を手で覆った。

“マグノリアの一大事に僕は何をやってるんだ!”

そう自分を戒めていると、

「奥様はご懐妊です」

との先生の一言に顔を覆った手を離した。

「へ? ご懐妊? マグノリア、赤ちゃんが?」

アーウィンが目を見開いてそう繰り返すと、
マグノリアが照れながら、

「うん、そうだったみたい」

そう言って頭を掻いた。

「マグノリア!」

そう言ってアーウィンがマグノリアに抱きつくと、

「私ね、妊娠してるって聞いてから何だか不思議な気持ちがずっとしてて……

ジェイドとダリルを無くしたのに、今度はこうして新しい命が生まれる…

彼らの死は終わりではなく、こうやって後世に繋いで行ってるんだなって…… 

彼らの生きざまを伝えるために、私も何だか頑張らなきゃって…」

マグノリアはそう言って涙ぐんだ。

ジェイド達を無くしてずっと心の燈が消えたようにしていたのに、
マグノリアの妊娠は二人の心に新たな燈を生んだ出来事となった。

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