龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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時戻し…なの?

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ジューク・アーレンハイムはジェイドとダリルから剣を抜くと、
そこに横たわる二人を見下ろした。

「公、殿下のご遺体は如何されますか?」

そばにいた男が尋ねた。

「捨て置け、どうせ獣の餌にでもなるのが落ちさ」

「それではこの城は?」

ジューク・アーレンハイムは男を睨みつけると、

「ここは私の城ではない」

そう言うと、男は

「いらぬことを申しました」

そう言って膝をついた。

ジューク・アーレンハイムは男を見下ろすと、

「お前はランカスを探せ。

城の住人達を誘導しているはずだ。

アイツは王の犬だが国内外情勢においての知識に長けている。

これからの私の国に対しても役立って貰わなくてはな。

それと、王が行方不明だと言う事と王子が城の襲撃で生命を落とした事を民に公表させろ。

変わって私がこの国の王座に就く」

「それではアーレンハイム陛下の城はどの様に?」

「新しい城は王都の北にある森を切り開いて造れ」

「承知いたしました。

この城はいかがなされますか?」

「この場所は手を付けずに置く。

昔の賢者達が色々と触っているからな。

それと大賢者には私の龍の行方を追わせろ。

同時にアーウィンとマグノリアにも追っ手を掛けろ」

「見つかった暁には?」

「逃げられれば敵わんからな、
見張りをつけて泳がせておけ。

その時が来たら狩る事としよう」

「御意」

「あ~、それと大賢者はいつもの場所に戻しておけ。

マリオンに魔法陣の追加強化を施しておくよう伝えるのを忘れないように」

「はっ!」

男は深くお辞儀をすると、その場を離れた。

ジューク・アーレンハイムはもう一度そこに横たわるジェイドとダリルを見下ろすと、
暫く無言でその場に立ち尽くした。

そして彼らの遺体へ近づき跪くと、ジェイドの髪を撫で拳を握り絞め唇を噛むと、
スッと立ち上がり彼らに背を向けると、その場を後にした。




その頃アーウィンとマグノリアは何とかデューデューの隠れ家までやってきていた。

マグノリアは息をスーハー、スーハーと
吸ったり吐いたりを繰り返し、

「アーウィン、ジェイド、ダリル、デューデュー、私はマグノリア……」

とブツブツ、ブツブツ繰り返していた。

「マグノリア、何してるの?」

アーウィンがそう尋ねると、

「ジェイドがね、いつ時戻しの術をかけても良い様に、
名前を繰り返してるの。

もしかしたら時戻しがあった時にそのまま名前を唱えてるかもしれないじゃない?」

何とも、マグノリアらしい発想だ。

「お城は今どうなってるのかしら?

ジェイドはまだ無事かしら?」

マグノリアがお城の方角を見ながらそうつぶやいた。

「さっきまで見えていたオレンジの光はもう見えなくなってるね?」

アーウィンのセリフに、マグノリアは

「もうお城への攻撃は終わったのかしら?

それだとジェイドは?」

そう言って二人共デューデューの方を見た。

デューデューはずっと目を閉じて何か考えるようにしていたけど、
急にピクッと体を反応させて目をカッと見開いた。

「デューデュー、どうしたの?

何か感じたの?」

マグノリアの問いに、

「今ジェイドとダリルが死んだ」

そうデューデューが言った。

「え? ダリル? どうしてダリルが?

ちょっと待って、ジェイドが死んだって事はもう時戻しが終わったってこと?

それとも時間差で来るってこと?

私たち、まだ時戻しされてないわよね?

ね? アーウィン、私の事覚えてる?」

そうマグノリアが言うと、アーウィンはマグノリアを見て、

「多分……まだ時戻しは起きていない……」

放心したようにしてそう言った。

「え? それじゃ、時戻しの術は失敗したってこと?

え? うそでしょ?

時間差でやってくるのよね?

ね? デューデュー? あなたなら、何か分かるでしょ?」

そうデューデューに尋ねた。

デューデューは二人を見ると、

「私には分からない。

分かるのはジェイドとダリルが死んだという事だけだ」

そう言ってお城の方を見た。

「ちょっと、ちょっと、待ってよ。

ダリルもジェイドと一緒に居たってこと?

噓でしょ? アーウィン、貴方も時戻しの術が出来るのよね?

ねえ、どうにかしてその術を発動できないの?!

もうジェイドは助けられないの?!

彼が大丈夫っていうから私達……」

そう言ってマグノリアが泣き出した。

「私は城がどうなっているのか様子を見てくる。

お前達は私が戻るまでここでじっとしていろ」

そう言ってデューデューが姿を消し飛び去った。

マグノリアとアーウィンが大人しく待っている間、
デューデューはお城の上を旋回していた。

”龍達の姿はもう見えないな?”

デューデューは上空に何もいないことを確認すると、
城へと舞い降りた。

城の正面ではジューク・アーレンハイムの部下たちが、
城の住人達をまとめ上げていた。

”捕虜にするわけではなさそうだな……”

デューデューは幼体に姿を変えると、
波風を立てない様にス~っと地上に降り纏められた住人達に近づいた。

耳を澄ますと、指示を与えていた騎士が、

「未確認軍団から今夜城は攻撃を受けた。

ジェイド殿下はそれで命を落とされ王は行方不明だ。
恐らく連れ去られたか、既に絶命されているものと思われる。

これより、この国はアーレンハイム公が国王となり治められる。

城の住人達には仮施設が準備されている。

生活に必要なものは至急新王より配給される故、
今は不便だろうが今夜は皆騎士に従い各々指示の元、速やかに移動するように。

これからこの城は立ち入り禁止区域となる」

などと説明をしていた。

”なるほどな……”

デューデューはそうつぶやくと、城の中へと入って行った。

崩れた壁を避けながら進んでいくと、

「君はこれからも宰相として新しい国に仕えるように……

勿論、家族が皆健やかに生活したいのであれば私に従うより選択の異は無いよな」

アーレンハイムに捕らえられたランカスが、苦痛に満ちた顔で彼の言葉聞いていた。

”家族を人質に取られたな”

デューデューは又そう呟くと、さらに先に進んだ。

崩れた壁をもう一度超えると、
そこに横たわるもう既に冷たくなってしまったジェイドとダリルを見つけた。

”そうか、お前はすんでの所でジェイドを助けに来たのだな……

そこまでしてお前はジェイドの事を思っていたんだな”

デューデューは呟くと、二人を掴んで持ち運べる大きさに姿を変え、
二人をしっかりとつかむと、誰の目にもつかない様に城を離れた。

デューデューの隠れ家ではマグノリアとアーウィンが今か今かとデューデューの帰りを待っていた。

「あっ! あれ、デューデューじゃない?!」

真っ暗な夜空にもかかわらず、マグノリアが真っ先に遠くから飛んでくるデューデューを見つけた。

二人は崖っぷちまで走って行くと、祈るような気持ちでデューデューに向かって手を振った。

デューデューがス~ッと地に着陸すると、
掴んでいたジェイドとダリルをそっと地におろした。

二人を見てマグノリアは目を伏せ顔を背けた。

アーウィンは二人に駆け寄ると、回復魔法をかけ始めた。

「アーウィン、何をしておるのだ?」

デューデューが尋ねた。

アーウィンはデューデューを見上げると、

「もしかしたらまだ間に合うかもしれない!」

そう言って回復魔法をかけ続けた。

「無理だ。二人はもう既に死んでいる」

そう言うデューデューに、

「だって……、だって……

また会おうって…… 僕達が分かるように合言葉を作ろうって……

どうして? どうして時戻しが発動しなかったの?!

もしかして魔法を発する余裕がないくらいに早く息絶えてしまったの?!」

アーウィンは泣きながらまだ回復魔法をかけていた。

マグノリアはアーウィンの横に膝をつくと、

「二人共痛かったでしょ?」

そう言って泣きながらダリルに突き刺さった矢を抜き始めた。

そして矢を抜き終え二人を綺麗に拭きあげると、
二人を抱きしめ、

「助けられなくてごめんね。

本当にごめんね。

今までありがとう」

そう言ってギュッと抱きしめた。

「アーウィン、もう認めようよ。

二人はもう戻ってこない……

きっと時戻しは失敗したんだよ。

せめて二人は一緒に埋めてあげよう?」

そう言うと、

「デューデュー、二人を密林の入り口まで運んでくれる?

あそこだと土が深くまで掘れると思うから……」

デューデューに向かって頼んだ。

「では私がそこに深い穴を掘ろう」

デューデューはそう言うと、二人を又そっと掴み密林の入り口まで飛んで行った。

マグノリアとアーウィンもデューデューを追い密林まで走った。

デューデューは皆が良く密林へ行くときに使った小道のわきに深い穴を掘り、
そこにジェイドとダリルを横たえた。

「二人を埋める前にちょっと待ってて」

マグノリアはそう言い残すと、
アーウィンを連れて密林へ花を摘みに行った。

密林にはいつも花が咲いているので、
見つけるのは難しくなかった。

二人はジェイドとダリルに向かって両手いっぱいの花を投げ入れると、
投げキスをした。

デューデューが後ろ足で土を蹴り二人に掛けると、
どんどん二人の姿が土に隠れて見えなくなった。

盛り上げられた土を手でポンポンと整えると、
マグノリアは土にうつ伏せて、

「ジェイド、ダリル、こんな所でごめんね。

私が毎日新しいお花を持ってくるから悲しまないでね。

本当に、本当に二人が大好きだったよ」

そう言って大声で泣き始めた。

アーウィンはそこに立ったまま声を殺して泣いた。

「お前たちはこれからどうするのだ?」

デューデューの問いに、

「私たちは多分お尋ね者になってるだろうからもうどこにも帰れない……

これからこの国がどう変わるのか分からない、アーレンハイム公がこれからどう出てくるのか分からない。

私達はジェイドやダリルなしにどう戦えばいいのか分からない。

でも彼の計画を知っているのは私達だけ。

どうにかしなきゃいけないけど、落ち着くまでデューデューの所に居てもいい?

二人のお墓も此処にある事だし、今は沢山お花を摘んで一緒に居たいから」

そう言うと、

「お前たちは私の家族も同然だ。

好きなだけいると良い」

デューデューの好意に、マグノリアとアーウィンは暫くデューデューの隠れ家に住むことを決めた。


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