龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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再開の夜

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その日の公務を終え、寝室に戻る頃には陽もどっぷりと暮れ、
外は真っ暗で月の光だけがあたりを僅かだけ照らし出していた。

”ヤバイ、ヤバイ、すっかり遅くなっちゃったよ!

全く、早く部屋に戻りたいときに限って
マギーのやつ最近お小言が多いんだから!”

夜には帰ってくると言ったマグノリアの為、僕は急いで寝室に戻った。

ドアを勢いよくバンと開けると、マグノリアは既にデューデューの助けを得て、
僕の寝室で王都から買ってきたという菓子を食べていた。

凄く慌てて戻って来たのに、僕はその姿を見て拍子抜けした。

ドアの所で釘付けになってその光景を見ていると、
デューデューにしつこい様に抱き着いている人物が目に入った。

デューデューがバタバタとしたようにして、

「アーウィン、離れるのだ!」

そう言って首を振った瞬間、
真っ赤に燃えるような髪がデューデューの影から揺らいだ。

「アーウィン?」

僕がそう呼ぶと、真っ赤な目をしたアーウィンが顔を上げた。

「ジェイド!」

アーウィンはそう叫ぶと、僕に抱き着いて来た。

「もう来てたんだ!

後でデューデューに迎えに行ってもらおうと思ってたんだけど……

一体何事?」

アーウィンに飛び掛かられた体をよろめかせながら尋ねると、

「デューデュが! デューデューが!」

そう言ってグスグスと鼻を啜るアーウィンが
何かを言いたそうにして口をパクパクとさせた。

でも興奮しているのか、慌ててるのか、うまく言葉にできない。

まあ、アーウィンの言おうとしてることは分かるけど、
何だか見ただけではマグノリアとの再会よりも
デューデューとの再会に感動しているようだ。

「アーウィンって薄情よね!

私との再会よりも、デューデューとの再会の方が嬉しいみたい!」

そう言ってマグノリアも僕と同じ意見の様だ。

「いや、だってマグノリアとは今朝感動の再開をしたじゃない!

僕は神官たちにバレないかヒヤヒヤだったんだから!

それもあんなに綺麗だった髪まで切って……」

そう言ってアーウィンは短くなったマグノリアの髪に触れた。

マグノリアは短くなった髪に触れると、

「良いのよ。髪なんてすぐに伸びるし、
それよりも今はあなたたちの近くにいる事の方が大事だから」

そう言ってお菓子のくずの付いた手をパンパンと払うと、

「これ見て見て!

王都で買ってきたのよ!

男の子の服だけど割とかわいいでしょ?」

そう言って今日王都で買ってきたものを僕達に見せてくれた。

「あ、そう言えば父上がね、これを発行してくれたんだ」

そう言って僕はお城への出入り許可証をマグノリアに渡した。

「これは何? え? モクレン? 私の名前?」

そう言って受け取ると、

「うん、マグノリアってするわけにいかなかったから、
モクレンっていう名前を使わせてもらったんだ。

それ、東の大陸でいうマグノリアの花だよ。

恐らくここでその名前を知っている人はいないから、
誰にもバレないと思う。

実を言うと父上はもうマグノリアの事は知ってたらしくて……

多分父上の隠密が報告したんだと思う……

あ、今までアーウィンが使っていた部屋を使いなさいって。

城の皆には新しく来た見習い騎士って言っておくって!」

そう言うと、彼女は目を丸々として、

「じゃあ、もう国王陛下にバレてるって事?!

ギャー終わった!」

そう言って頭を抱えた。

「大丈夫だよ。 父上は何も知らなかった事になってるし、
アーウィンが神殿を抜け出しここに忍び込んでも知らんふりするみたい。

だから、大丈夫! 父上は信頼できる人だから!」

そう言うと、アーウィンまで、

「ギャー!!! 僕の事もバレてるの?!」

と騒ぎ出した。

僕は頭をポリポリと指先で掻くと、

「あ~ いや、アーウィンの事はもう前もって言っておいたんだ。

マグノリアの事がばれてるから、
アーウィンの事もすぐに見つかるって思ってね。

だったら捕まって大事になる前に先に言っちゃえみたいな?

ま~ それも安心して。 父上には予想の範囲内だと思うから」

そう言うと、アーウィンの指にはまる指輪に目が留まった。

「アーウィンのそれ、指輪?

どうしたの? 今まで指輪なんてしてなかったよね?」

僕が尋ねると、アーウィンは指輪を抜いて、

「そうなんだ。 これ、代々の最高大神官が付けてたみたいなんだけど、
僕が新しく召されて先代から譲り受けたものなんだ。

ほら、ここに綺麗な女の人が彫ってある」

そう言って僕に渡した。

「どれどれ……」

そう言って指輪を行け取った途端、
指輪がカーッと光を放った。

「ウワ~!!!」

僕がビックリして指輪を投げやると、
指輪はコロコロと転がって僕の元へと戻って来た。

皆はその始終を固まったようにして見ていた。

「聖龍の加護を持ったジェイドと共鳴しあうのは当たり前の事だな」

そう言って未だマグノリアの買って来た菓子を食べていたデューデューが
不意に口を開いた。

「え? 聖龍の加護って…… これは聖龍にまつわる指輪なの?」

僕が尋ねると、

「ああ、私には最初からその指輪が光っていたのが見えたぞ。

その指輪には回復の護符がかかっている。

身に着けていると、回復の力が増すんだ。

おそらく聖龍から献上されたものだろう」

そう言ってデューデューが説明をした。

僕は足元に転がって来た指輪を拾うと、
宙に翳してまじまじと見入った。

「本当だ…… この人、エレノアに似てるような気がする……

でも今度は光らなかったね。

今光ったので何か変わったのかな?

僕がこの指輪の力を吸い取ったってないよね?」

そう言いながらアーウィンにその指輪を渡した。

アーウィンはその指輪を受け取ると、
眉間にしわを寄せた。

「どうしたの?」

僕がすぐに気付いて尋ねた。

「いや、この指輪から物凄い魔力を感じる。

それもすごく温かい……あの日エレノアの魔力を借りた時のような……」

「それはそうだ。ジェイドに共鳴して本来の力を戻したのだからな」

デューデューが隣でそう言った。

「え? 本来の力を戻したって……」

「恐らく一番最初に受け取った人間は聖龍と共に戦った神官だったのだろう。

そして代々受け継がれていく間に神官の質が落ちて
指輪の効力も消えていったというところだろうな」

デューデューがそう言うと、アーウィンが心配そうな顔をして、

「これ、僕が持っていてもいいのかな?

本来だったらジェイドが持っているべきじゃ……」

そう言って僕に指輪を渡そうとした。

「いや、アーウィンが持っていて正解だ。

それは神官の物だ。

ジェイドが持っていてもそこまで効果は無いだろう。

ジェイドの共鳴した後アーウィンが手にできるのだったら、
その指輪はアーウィンを持ち主と認めたことだ。

それでなかったら、指輪はジェイドから離れないはずだ」

デューデューにそう言われ、

「僕、この指輪にふさわしい神官になるよ!」

アーウィンは涙ながらにそう答えた。

すると横でマグノリアが首にかけていたものを取り外した。

「それは何?」

僕が尋ねると、

「これも見て!」

そう言って、首にかけた一つのアミュレットを取り出した。

マグノリアはそのアミュレットを僕の手に渡すと、

「あれ? それは光らないんだね」

そう言ってがっかりとした顔をした。

マグノリアが意味深な態度をとるので、
そのアミュレットをよく見て見ると、
真ん中に真っ白な龍とスノーリリーの花が彫ってあった。

「これ聖龍? それとスノーリリーの花だよね?

何か書いてあるけど読めない……

これはどうしたの?」

マグノリアに尋ねると、

「これは私がジェイドに嫁ぐって決まった時、お婆様に頂いたの。

この国の建国王のお姉さまが私の国に嫁ぐときに持っていらしたの。

だからこれも何か特別なものかと思って……」

そう言って僕の手の中にあるアミュレットを見つめた。

「いや、これ、光るとか、光らないの前に
凄い護符の魔力を感じるよ?

多分このアミュレットに込められた護符はその時から色あせてないと思う。

ねえ、デューデュー、そうでしょう?」

僕がデューデューに話を振ると、

「ジェイドの言うとおりだ。

そのアミュレットには守りの護符が付いている。

呪いや魔を退ける効果がある」

デューデューがそう言うと、マグノリアの顔がパーッと明るくなった。

「やっぱり! 絶対何かあると思った!

だってお婆様は堅実な聖龍様の信者だったもの!

私がジェイドに嫁ぐって分かった時、一番喜んだのはお婆様だったもの!

まあ、婚約破棄にはなっちゃったけどね」

そう言ってマグノリアが複雑そうな顔をした。

「じゃあ、僕との婚約破棄にはお婆様も悲しんだんじゃないの?」

「うん、それはそうなんだけど、私、お婆様にはすべて話したんだ。

この国で経験した事、デューデューの事、そしてアーウィンを愛してしまった事」

僕が眉間にしわを寄せると、

「でも大丈夫よ! お婆様は信頼できる人なの。

絶対誰にも言わないわ。 

彼女は私の気持ちを理解してくれて私の事を祝福してくれたわ!

心残りなのはお婆様にお別れが言えなかった事ね。

でもきっとお婆様はこのことが分かっていたと思う。

返そうと思ったこのアミュレットを
いつまでも肌身離さずもってなさいっいって私の手に握り絞めさせてくれたの」

そう言ってマグノリアは涙ぐんだ。

「そんなに大切な物だったら無くさないようにしないと!」

そう言ってアミュレット返すと、

「うん、私、何も城からは持って来なかったけど、
これだけは絶対肌身離さず、ずっと持ってたの!

凄くうれしい!」

そう言ってマグノリアは大切そうにそのアミュレットをまた首にかけた。

「凄いね、何だか僕達、聖龍に呼び寄せられたって感じだよね。

きっと僕達だったら、力を合わせたら聖龍を見つけ出して、
呪われたメルデーナも呪いから解き放ってあげられるよ!」

そう言って皆でワーワーとこれからの意気込みを話していると、
僕の寝室をノックする音がした。

僕達は皆ギクッとしたようにドアの方を振り向いた。

”ヤバイ、僕達、興奮しすぎて声が大きくなっていたのかもしれない!

デューデューは姿を消して、マグノリアとアーウィンはクローゼットの端に隠れて!

絶対音なんか出しちゃだめだよ。

出来れば息も止めて! 僕が何とかごまかすから!”

そう言うと、

”息なんて止めれるわけないでしょ! 

それこそ死んじゃうわよ!”

マグノリアがキーキー言いながらアーウィンに手を引かれて
クローゼットに連れていかれた。

僕はみんながそれぞれの場に落ち着いたのを確認すると、
ドアの所まで行き、

「どなたですか?」

そう尋ねた。

向こうからは、

「……」

と言っているようだけど、良く聞こえなかった。

”こんな夜更けに誰だろう……

まさか刺客じゃないよね?

いや、刺客だったらドアなんてノックしないか”

そう思い、そーっとドアを開け、
そこに立つ人物を見て僕はその人に飛びついた。

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