龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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アーウィンと再会

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僕は掌に乗る真っ黒な髪の房を見つめていた。

「殿下、馬車の用意ができたそうですよ」

マギーに呼ばれ、僕は掌にあるダリルの残してくれた黒髪を握りしめた。

そして拳にキスをすると彼の黒髪を御守り袋の中に入れた。

ダリルと同じように首からチェーンに吊るすと、
懐の中に入れてその上に手を置いた。

遠くを見つめ深呼吸をすると、

「今行きます!」

そう言うと、ブーツをキュッと整え立ち上がり、
寝室のドアに向かって歩いて行った。

ノブに手をかけドアを開けると閑散とした廊下を見渡した。

“よし!”

と自分に喝を入れると、廊下へ出た。

廊下は静かなもので、閉めた寝室のドアがパダリと大きな音を出して閉じた。

コツコツと自分の足音が響いて、そのまま走って
階段を駆け下りると、父が階段の下で僕が降りて来るのを待っていた。

父は僕を見ると目で合図した。

僕はコクリと頷くと、

「行って参ります」

そう言って頭を深く下げ挨拶をすると、
僕は正面に付けてある馬車に向かって颯爽と歩いて行った。

馬車の前には護衛騎士がドアを開け僕を待っていた。

「ジェイド殿下、おはよう御座います。

今日護衛の任に付きますジェレマヤです。

私の他4名が護衛に就かせていただきます」

そう言うと頭を上げた。

「今日は宜しくお願い致します」

そう挨拶すると、僕は馬車へ乗り込んだ。

馬車のドアがパタンと閉まると、フ~っと大きな溜息を吐き出した。

“いよいよだ”

そう思い小窓から外を覗き込んだ。

さっき挨拶をしたジェレマヤが馬車の横にピタリとくっついて馬に乗り上げた。

そして馬車はゆっくりと動き始めた。




アーウィンに向けて出した手紙は神殿側から受け入れられ、
僕は今日神殿へ足を運ぶ事となった。

城からは5人の聖騎士達が護衛として僕の馬車の後を付いてきた。

ガタガタと馬車が揺れて小窓から外を見ると、
ジェレマヤが小窓から僕を覗いて微笑んだ。

彼らは馬に乗り馬車を囲むように僕を護衛していた。

僕もジェレマヤに苦笑いすると顔を窓から離した。

お城は王都にあるので神殿までは目と鼻の先だ。

でもお城には城下町と呼ばれる言わば使用人や騎士達の宿舎がある。

王都へ出るにはこの城下町を抜けて正門から出ていく必要がある。

その距離が恐らく門を出てから神殿へ行く距離と余り変わらないような感じだろう。

僕は余り正門から出ていく事はないので此処を通るたびに城の敷居の広さに驚かされる。

馬車の小窓から塀が見え隠れしたと思ったら、馬車がもう一度ガクンと揺れて止まった。

それと同時に

「開門」

と言う声が聞こえたので、これからお城を出ると言うことがわかった。

お城から出るのは初めてではないにも関わらず、緊張で震えが止まらなかった。

瞳を閉じてフー、フーと息を整えた。

でも僕のそんな努力も虚しく、馬車は心を落ち着かせるよりも早く神殿へ着いた。

着いたのと同時に馬車の外からざわざわと声がして馬車のドアが開いた。

目を馬車の外にやると、馬車の前にはずらりと神官たちが並んでいた。

僕は先頭で深く頭を下げる赤毛の神官が目に入った。

“アーウィンだ!”

つい最近まで一緒にいたのに、もう何年も会っていなかったような気がした。

僕は込み上げる気持ちを押し殺して馬車から降りた。

アーウィンは一歩前へ出ると、

「ジェイド殿下、ようこそ神殿へお越しくださいました。

神官たち一同、殿下の来殿をお待ちしておりました」

そう言って神官達が跪いた。

僕は平静を装って、

「お出迎え有難うございます。

今日はよろしくお願い致します」

そう言うと、アーウィンが顔を上げて僕の横に並んだ。

僕達に続き騎士と神官たちもゾロゾロと後をついてきた。

神殿の中へ入ると、

「少しの間だけ新最高大神官とお話をしても構いませんか?」

そう尋ねるとアーウィンは、

「それでは私の執務室までどうぞ、こちらです。

護衛の騎士様たちも此方へ。

神官達は殿下の準備が終わるまで持ち場にてお待ち下さい」

そう言うと僕達を奥の部屋へと通した。

アーウィンが、

「騎士様達はドアの外でお待ち下さい」

そう言うと、

「私達は殿下の元を離れることが出来ません」

と、騎士達は抵抗した。

「私の部屋には防御術が掛けられています。

ご心配には及びません」

そう言うと、僕も、

「私は大丈夫です。

ドアの外で待機していて下さい。

長くはなりません」

そう言うと、騎士達は渋々とドアの所で待機した。

部屋へ入ると僕は、いの一番にアーウィンに抱きついた。

僕は自分が意識しているよりもアーウィンが恋しかったようだ。

アーウィンに抱きつくと、涙が後から後から溢れて止まらなかった。

「ジェイド、大丈夫?」

アーウィンは囁くと、少し辺りをキョロキョロとした。

僕は涙を拭きながら、アーウィンは何をしているのだろうと思った。

アーウィンの事を訝しげに見ると、

「多分此処は大丈夫と思うけど、
最近ずっと僕の事を監視しているような視線を感じるんだ」

アーウィンが声を潜めて僕に囁いた。

思わず

「えっ?!」

と叫びそうになって口を両手で押さえ、僕も辺りをキョロキョロと見回した。

「監視されてるような視線を感じるって……どう言う意味?」

そう尋ねると、

「そのままの意味だよ。

僕はやっぱりジェイドに近い人間だからか、絶対誰かに監視されてる。

もう僕達の事はバレてるって言って間違いないね。

今の所は何もして来ないけどね。

所でお城の方はどう? 何も変わった事はない?」

アーウィンに尋ねられ、

「実を言うと、思い出したことがあるんだ。

それを確かめたくて……

ねえ、マリオンっていつもは何処にいるの?」

僕がそう尋ねると、アーウィンは首を傾げて、

「それがさ、変なんだよ。

彼は中央管理局の局長だから基本は此処なんだけど、
あれ以来見てないんだ……

神官達に聞いても、マリオンなんて知らないって…そんな筈ないのに…

誰も中央管理局の局長のことなんて知らないんだ。

ジェイドも変だと思わない?」

アーウィンにそう言われ、

「実はさ、僕が襲われた夜の事覚えてる?」

そう尋ねると、

「うん、僕が王都にいた時のことだよね?」

と覚えていたので話は早かった。

「その夜に、遺体が一つ消えたって事は話したよね?

ほら、僕のクローゼットの中で襲われている所をダリルが返り討ちしたけど、
その賊の遺体が綺麗さっぱり消えたって言うやつ」

そう言うと、アーウィンはコクリと頷いた。

「それでさ、最近思い出した事があるんだけど、その賊がマリオンにそっくりだったんだ」

そう言うと、アーウィンも驚いたような顔をして、

「え? マリオンに? でもマリオンは生きてるよ?

死ぬような傷を負ったような感じもしないんだけど……」

そう言ってアーウィンが首を傾げた。

「僕だってどうやって死んだ人が生き返ったのかはわからないけど、
もしかしたらまだ息があったのかもしれない。

向こうには大賢者がついてるから、もしかしたらマリオンをすんでのところで召喚して
回復魔法をかけたのかもしれない……

100%って訳ではないんだけど、出来れば今日マリオンに会ってそれを確認したかったんだけど、
マリオン、此処には居ないんだね…」

「うん、僕の感だけど、もしかしたらマリオンはもう
僕達の前には現れないかもしれない……

あれから一度も見てないし、
僕を此処に縛りつけるっていう目的は一応果たせたからさ……」

そう言うとアーウィンは黙り込んだ。

「大丈夫、大丈夫!

勿論、確認はしたかったけど、居ないんだったら仕方ない。

そのことも十分想定内にあったから。

アーウィンにその事を伝えられただけでも僕の目的は果たせたから。

だからアーウィンも十分気をつけて!

多分、僕の成人の儀迄はもう会えないと思うから。

所でアーウィンはマグノリアと連絡取ってる?」

そう尋ねると、アーウィンは首を振った。

「そっか」

そう言うと、僕達は2人して黙り込んだ。

「あ、でもさ、取り敢えずは僕の成人の儀でマグノリアも招待するから……

そしたらまたみんなで集まろうよ……」

そう言うと、

「うん、出来たら良いね。

ダリル様も来れたら……」

そう言いかけてアーウィンが口を閉じた。

「僕は大丈夫! 気にしないで。

そろそろ行こう。 余り長話をしてると皆変に思うから」

そう言うと僕達は部屋を出た。

僕達にとっては形だけの祝福の儀を終えると、
僕は帰路についた。

何だか今日がアーウィンを見る最後の日のような気がして、
僕は帰り際何度も、何度も僕に頭を下げて見送るアーウィンを振り返った。

アーウィンが見えなくなると、また僕の膝の上に涙がこぼれ落ちた。

“大丈夫、アーウィンにはまた会える。

僕の成人の儀が直ぐにあるから、
またその時会える!”

自分にそう言い聞かせ、なんとか気持ちを落ち着かせた。

城に着くと、直ぐに父のところへ行き、
今日の報告をした。

「ジェイド、余り無茶はしないように」

父はそう言うと、僕の顔を心配そうに覗き込んだ。

「私は大丈夫です。

父上も、十分お気をつけ下さい」

そう言うと、父の部屋を後にした。

自分の寝室に帰った頃はすっかり日も暮れて外は暗くなっていた。

部屋の明かりをつけると、窓をコツン、コツンと叩く音がした。

”へ? 風の音?“

僕は窓のところへ行き外を見渡した。

暗くてよく見えなかったけど、
別に何も辺りに は無かった。

ふ~っとため息を吐くと、寝る準備に取り掛かろうとした時に、
またコツン、コツンと窓を叩く音がした。

”風は吹いて無かったよな? 

もしかしてまたマリオン?! それとも別の賊?!

いや、それだったら窓を叩くはずが無い“

そう思うと、また窓まで行き、今度は窓を開けて辺りを見回した。

その瞬間僕の横を突風が吹き抜け、何かが横を通り過ぎ部屋の中に入ってきた。

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