龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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回り始めた歯車

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僕はアーウィンの胸で泣きじゃくるマグノリアを見ながら
アーウィンの手を取ると、

「僕、ダリルの所に行ってくる。

訓練場に居るはずだから、見つけて此処に連れてくる。

アーウィンはマグノリアについていて。

彼女には今は君が必要だから」

そう言うと、アーウィンは

「分かった。 此処で待ってるから気を付けて。

公はもう気づいて動き出してると言っても過言では無いと思うから」

そう言って僕の手を強く握りしめた。

僕は強く頷くと、寝室のドアを開けて左右を見渡した。

何時もの事なのに、誰もいない廊下が少し不気味に感じられた。

僕は気を引き締めると訓練場へ向かって歩き出した。

一階まで降りてくると、流石に使用人たちが忙しそうにバタバタとしていたけど、
僕は彼らの間をすり抜けて訓練場の方へと向けて進んでいった。

近くまで来た時に訓練場がザワザワしている事に気付いた。

僕は走って行って近づくと、入り口の所に立っていた騎士に挨拶した。

「騒がしいようですが、何かあったのですか?」

騎士は僕をみると、

「おおーこれは、これは殿下。

お久しぶりでございます!

お変わりはありませんか?」

と首を下げて挨拶をしてきた。

「ご苦労様です。

ダリルを探しているのですが、
中へ行っても良いですか?」

そう尋ねると、

「殿下、ダリル様は今此方にはいらっしゃいません。

先程幾人かの騎士たちと陛下のところへ上られました」

そう言うので、

「父上の所へですか?」

そう尋ね返すと、

「はい、アーレンハイム公が突然尋ねて来られて
幾人かの騎士達とダリル様を連れて行かれました。

きっと前から噂のあった聖騎士の事に付いてですね!」

その騎士は興奮した様にしてそう言った。

“え?! また叔父上?!”

もう此処までくると叔父が一枚噛んでいる事に間違いなかった。

「聖騎士……ですか?」

これまで聖騎士と言う職はこの国には無かった。

「はい! 前々から騎士達の間では噂になっていました。

今度聖騎士の職が騎士達の中から選ばれ、
聖騎士になれた者は貴族の爵位が与えられるのです。

既に貴族である者には独立した爵位が与えらえ土地が頂けるそうです!」

その騎士がウットリとしたようにしてそう話すので、
僕はやられたと思った。

そんな条件を出したら反対する人なんていない筈だ。

「彼らは陛下のところへ行ったのですね?」

そう確認すると、僕は父の政務室へ向けて走り出した。

心臓がバクバクと脈打って、嫌な予感しかしなかった。

“ダリル! ダリル!”

僕はずっと心の中で彼の名を呼び続けた。

お城の中に入り目の前の階段を上り詰めると、
丁度父の執務室のドアが開いた。

僕が金縛りにあったように立ち止まると、
中からゾロゾロと騎士達と国の主要人物達が執務室から出てきた。

一人、又一人と僕に会釈をしながら騎士達が通り過ぎて行った。

“ダリルは?!”

ハラハラとしながらその流れを見つめていると
人より頭一つ出た黒髪が目に入った。

「ダリル!」

そう叫ぶと目の前に立ち憚った人がいた。

ハッとしてその人物を見ると、

「おー、ジェイド殿下!

もうお噂はお聞きになりましたか?!」

そう言ってキラキラとした金色の髪を靡かせた叔父が
ニコニコとして僕の顔を覗き込んだ。

一歩下がり何も答えず叔父の顔を睨みつけると、

「殿下に取ってダリルと離れるのは寂しいでしょうが、
此れはダリルにとっても良い機会なのです。

殿下も祝福して下さいますよね?」

そう僕の耳に囁き微笑むと、
ダリルの方を向いた。

「ダリル!」

叔父はダリルを呼ぶと、

「もう噂を聞きつけた殿下が激励にいらっしゃってますよ」

そう言うと、

「まあ、短い間ではありますが、
束の間のお別れを惜しんで下さい」

又僕の耳に囁き、敬礼をした後、颯爽と人混みに紛れ見えなくなってしまった。

僕は叔父の後ろ姿を見送りながら拳を握りしめた。

「殿下…」

ダリルが心配そうに僕を呼んだ。

僕はダリルの方を見ると、ダリルに掴み掛かった。

「ダリル、聖騎士になったって言うのは本当なの?」

そう尋ねるとダリルは唇を噛んで俯いた。

「本当なんだ……」

ダリルの態度でその答えが分かった。

僕は掴み掛かった拳に力を入れ、

「でもどうして……? ダリルは僕の騎士じゃ無かったの?!

あの誓いは!」

そう言うと、ダリルは眉を顰めた。

そこに父が執務室から出てきて、

「ジェイド、此処で叫んでいても何も解決はしない。

先ずは私の部屋へ入りなさい」

そう言って僕の肩にポンと手を置いた。

「父上! どうして?! どうしてこう言う事が起こっているのですか?!

アーウィンは王都に追いやられ、マグノリアは国へ帰し、今度は……ダリルですか!」

僕が父につかみ掛かるとダリルがその手を止めた。

「殿下、先ずは陛下が仰られるように中へ入りましょう」

見回すと、まだ辺りに残っていた騎士達が僕達の事を一斉に見ていた。

僕は掴んだ父の服から手を離した。

僕は全てのことが悔しくて拳を握りしめてそこに立っていた。

「殿下!」

ダリルの声に俯くと、父に付いて執務室の中へと入った。

ドアが閉められると、

「父上、全て説明して下さい!

此れはどう言うことですか?!」

僕は怒りの籠った声で父に尋ねた。

父は僕たちを見ると、

「まあ、二人とも座りなさい」

そう言ってソファーへと僕たちを誘った。

僕が父の前に腰掛けると、ダリルは以前のように

「私は此処で結構です」

そう言って僕の後ろに立った。

「お茶は……?」

そう尋ねる父に僕は首を振った。

「早く説明してくだい!」

父を急かすと、先ず父は、

「ダリル、ジェイドを支えてくれて感謝している。

ダリルの態度からお前達には良い主従関係が築けていると分かる」

そう言うと、ソファーにもたれ掛かり目を閉じた。

僕はテーブルをバンと叩いて手をつくと、

「父上、僕の周りで急激に色んなことが変わってきているのですが、
何故、叔父上がその事を仕切って居るのですか?

それは父の仕事では無いのですか?」

僕が憤り質問すると父は立ち上がり執務机へ向けて歩き出した。

そして机の前に山積みにされている書類を抱えると、
それを持ってきて僕の前に置いた。

僕は山のように重なった書類をチラッと見下ろすと、

「これは何ですか?」

そう尋ねた。

父は疲れたような顔をすると、

「先ずはこれを読んでみなさい」

そう一言言って又ソファーにもたれ掛かると目を閉じた。

僕がパラパラと書類を捲ると、そこには

“調査書”

と言う言葉で始まり信じられないことが色々と書かれていた。

先ず、森に現れたメルデーナが魔神の守り神とされていた事。

そのメルデーナが古の時から大賢者を取り入れていると言う事。

メルデーナの他に後3人の守り神がいる事。

メルデーナは既に魔神を復活させようと動き始めている事。

その証拠が森で起こった出来事。

メルデーナに続き、後の3神も直ぐに動き出すであろう事。

彼らを倒さなければ魔神が復活してしまうという事。

そしてこの守り神達は其々このサンクホルムの国の何処かに
その場所へ続く門があると言う事。

そして彼らを倒した後伝説の黒龍が現れ魔神を召喚する事。

その為我々は黒龍も倒さなければいけない事。

そのような事が事細かに記されていた。


「これは……何ですか?

この情報は一体何処から?!

全くの逆では有りませんか!」

そう叫ぶと僕の手が震え出した。

父はふ~っとため息を吐くと、

「その情報は今朝ジュークが国の主要人物達を引き連れて持ってきたものだ。

いきなり皆の前で自分が長い年月をかけて国中から古文書を集め、
伝え話を聞き込み、調査した事柄だと言って皆を説き始めた。

もう全ては手が回してあって私は何もする事ができなかった……

ジュークの主張を証明する事になった極め付けが、メルデーナの出現だ。

彼女が本当は魔神の復活を封印している守り神の一人で、
実は呪われていた事なんて証明できない。

出来るはずがない。

彼女はプッツリと姿を隠してしまった。

他の守り神達も所在が分からない。

今私達にある事実はメルデーナが現れて城の騎士達を襲ったと言うことだけだ…

ジュークのこの調査書はメルデーナの事実だけで証明されたようなものだ。

ジュークはその功績を讃えられその司令官に任命された……

この事は全ての国の主要人物に認められ認可されたものだ…

全ては軍事事項で進められる。

私にはこの件に対しては主導権が持てない……

事は既にメルデーナや他の神々の討伐へと動き出している!」

そう言って父はテーブルを力強く叩いた。

「ではアーウィンの新しい召は……」

「全ての回復魔法が使える者は神殿へ召し抱えられる訳だが、
アーウィンはその魔力の高さが認められて最高大神官に召される事が決まった」

「叔父上はどうしてアーウィンの魔力を知っていたのですか?!」

「アーウィンの魔力には元々高いものがあった。

神殿の皆はその事は既に知っている。

ジュークはそれを利用したのだろう」

「じゃあ、マグノリアは?!」

「恐らくこれからこの国で起ころうとしている事を向こうの国に漏らしたのだろう。

向こうからこの婚約はなかった事にと破棄を申し出てきた」

「そして今度はダリルですか?!」

僕は手を握りしめて強い言葉で尋ねた。

「ジュークはダリルの実力を知っている。

いや、ジュークばかりか騎士団の皆がその実力は認めている。

その力を国の危機にジェイドを守る為だけに留める訳にはいかないとなったのだろう……

それで此処ぞとばかりに前から話が出ていた聖騎士の任命を今……」

「父上の権威で止める事は出来なかったのですか?!」

「ジェイドよ、我が国は絶対王政では無い。

王である私が私的理由で事を縛る訳にはいかないのだ。

それはお前も分かっている筈だ」

そう父に言われ僕は唇を噛み締めた。






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