龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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時巡り

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いきなり目の前に落ちて来た物体に、
一瞬の何が起きたのか分からなかった。

チカチカとした目をパチクリとしていると
ダリルがその音で目覚め、直ぐに

「デューデュー様?!」

と叫んだ。

僕はハッとして落ちて来た物に近づき光を発した。

そしてようやくそこに転がって居る物が何なのかを把握した。

「デューデュー!」

それは傷つき、息も絶え絶えになったデューデューの姿だった。

「うそ! どうして!」

翼は敗れ、尾も切れ、腕や足も失っていた。

体は血まみれで、生きて居るのかさえも分からなかった。

「嫌だ……嫌だ……嘘でしょ! デューデュー、目をあけてよ!」

僕は泣き叫んでデューデューの体にしがみついた。

騒ぎを聞きつけたアーウィンとマグノリアが起き出してやって来た。

「デューデュー?!」

アーウィンが駆けつけた。

ダリルはデューデューの身体を調べていた。

「殿下、まだ息があります。

おそらく回復の術で」

余りにものショックで、
ダリルの言葉が頭に入ってこなかった。

僕はただ泣きじゃくるだけで、
デューデューにしがみついて離れようとしなかった。

ダリルはデューデューに抱きつき泣きじゃくる僕の頬を叩くと

「殿下、気をしっかりとお持ちください!

デューデュー様はまだ生きておられます。

手遅れになる前に早く回復の術を!」

そう言って居る側、アーウィンは既に回復の術を掛け始めていた。

「ジェイド早く! 僕の術だけでは間に合わない!

デューデューが段々冷たくなっていく!」


アーウィンがそう叫んでいるのに、
僕の耳には誰かが何かを叫んでいるようにしか聞こえなかった。

「殿下!」

もう一度ダリルに頬を叩かれ、
ようやく僕は我に返った。

「ジェイド、呆けてないで早く!」

アーウィンに怒鳴られ、僕は涙を拭いてデューデューに手を翳した。

手を翳しながらも、しゃっくりが込み上げて上手く集中できない。

「ジェイド、しっかりして!

デューデューの命は君の手に掛かってるんだよ!

何のために僕達は此処に来てまでずっと鍛錬を積んでいたの?!」

アーウィンに又怒鳴られ、
僕は再度気を取り直し、回復に集中した。

“お願い、治って! デューデュー、目を覚まして!”

僕は祈るような気持ちで回復の術を掛けた。

“落ち着け、落ち着け、僕は出来る!”

自分に言い聞かせるように深く深呼吸して目を閉じると、
指先に暖かい力を感じ始めた。

そして僕の手から金色の光が放たれると、
その光がデューデューを包み始めたかと思った瞬間、僕に異変が起こった。

僕の手からデューデューに流れていく魔力に僕までもが吸い込まれてしまったのだ。

“何? 魔力が暴走してる? コントロールが効かない!”

暴走してしまった魔力に、
コントロールが効かず意識が飛びそうになった。

「アーウィン! ダメ、僕の力が引っ張られる!

あ、凄い……僕の意識までデューデューに飲み込まれてしまう!

アーウィン僕の手を掴んでいて!」

必死に抵抗しようとしたけど、
僕の魔力はどんどんデューデューに吸い込まれていった。

“あ…意識が朦朧として来た…

回復魔法は……ちゃんと効いて…る…?”

段々と遠くなっていく意識の中、
マグノリアの叫ぶ声がした。

「みんな見て! ジェイドの目が!」

“え? 僕の目が……何?”

朧げにそう思った。

そしてアーウィンが一言。

「ジェイドの目が……龍の目になってる……」

“え…? 僕の目が…何?”

薄れていく意識の中、
急に僕の目の前にひと筋の光が差し、
朦朧としていた意識がはっきりとして来た。

“え? もしかして僕…魔力切れで死んじゃった?!

もしかして此処は天国?!”

急に目の前に広がった景色には濃い霧がかかり、
辺りには何も見えなかった。

すると向かい側から霧を割って自分に向かって歩いて来る者がいた。

「ジェイド…」

その人は僕の名前を呼ぶと、
その姿をハッキリと僕の目の前に現した。

「貴方は…!」

僕の目の前に現れた真っ白な人を見た僕は思わず自分の口を塞いだ。

「私の名はエレノア……」

“そうだ、彼女は夢の中に出て来たエレノアと呼ばれていた白い龍……”

彼女は真っ白だった。

真っ白な長い髪が靡いて真っ白な長いまつ毛がバサバサと瞬きした。

彼女の目だけが癒されるような緑色で僕はこの世のものとは思えない美し過ぎる彼女の姿に見入った。

もう一度彼女が

「ジェイド」

そう呼んで僕はハッとして我に返った。

「此処は何処?! デューデューは?!

僕、回復魔法を掛けてたはずなんだけど、
どうしてこんなところにいるの?!

僕は死んでしまったの?!

デューデューはどうなったの?!」

そう尋ねると、彼女は苦しそうな顔をして、

「彼は今、生と死の狭間に居ます。

お願い、彼を助けて!」

そう僕に訴えてきた。

「そうだよ! 僕デューデューに回復魔法を掛けてた所だったんだ!

どうして僕は此処に呼居るの?!

僕はデューデューの側にいなきゃいけないのに!」

そう彼女に言うと、彼女は僕に手を翳し、

「大丈夫です。 

此処に居る貴方は精神体で本体の貴方は
今アーウィンと彼に回復を掛けて居る所です。

辛うじて彼を生きながらえさせていますが、
2人の力を合わせても彼を完全に回復させることはできない……」

そう言って僕を見つめた。

「じゃあ、どうしたら?!」

「私の力を授けます」

彼女はそう言った。

「貴方の…力?」

彼女は頷くと、

「私の力は生あるもの全てを司る力。

生身の貴方が使うと反動で貴方に何か起きるかもしれません……

でも、それでも彼を助けて欲しいのです!」

彼女は真剣な顔をして僕の手を取った。

「そのような力が有るのであれば、なぜ貴方がしないのですか?!」

そう言うと彼女は涙ぐんで俯いた。

「私も又、精神体なのです。

私の本体は檻に囚われ身動きができません。

私の力は精神体では使うことが出来ないのです。

でも、私の加護を持つ者には一時的にこの力を授ける事が出来ます。

お願いします。 それは加護を持つ貴方でないと出来ないことなのです。

今は貴方に頼むしかないのです!

お願いします。 何があっても貴方の命の保証はします!」

彼女の切な願に、

「分かりました。

デューデューは僕の大切な友達です。

僕が貴方の代わりに彼を助ける事が出来るのであれば!

でもなぜデューデューに此処までして貴方が?

他の龍達にもそうなのですか?

貴方は聖龍ですよね?!」

そう尋ねると、彼女は悲しそうに微笑んで

「彼も又、眠りの中にいるのです……」

そう一言言うと、

「もうあまり時間がありません。

さあ、私の力を受け取ってください」

そう言うと、いきなり僕の手を取った彼女の手が金色に光、
彼女の手から物凄い圧の魔力が流れて来た。

そしてそれがデューデューに流れていくのを感じると、
僕は又違う場面の中にいた。

「エレノア? 何処? エレノア!」

僕の目の前にはもう彼女の姿は無かった。

でも一言僕の耳に、

「ジェイド、頼みましたよ」

そう彼女の声が聞こえて来た。

辺りを見回すと、
僕は見覚えのある場所に立っていた。

“あれ? 此処は……”

僕は奥の部屋へと走って進んだ。

奥に部屋には小さな灰色の龍が鎖に繋がれぐったりとして横たわっていた。

“あの子龍は……デューデュー?!”

その子龍は初めて会った時のデューデューにそっくりだった。

僕は近づいて、

「デューデューなの?!

待って、今助けるから!」

そう言って鎖を掴もうとしたけど、
鎖は僕の手をスッポリとすり抜けてしまった。

“え?”

僕は自分の手を凝視した。

気がつくと、向こう側が透けて居る。

“僕はまだ精神体のままなんだ……

もしかしてこれがエレノアの言っていた何か起こるかもしれないってやつ?”

僕は辺りを見回してどにかやってデューデューを助けることが出来ないか模索してみた。

でも部屋は殺伐として殺風景で何処をどうしても彼を助ける術はなかった。

“何故なんだ。 どうしてデューデューを?!

まだこんなに小さいのに?!”

そう思って居ると、向こうから人の話し声と足音が聞こえて来た。

“ヤバイ! 隠れなきゃ!”

そう思ってキョロキョロ周りを見回しても、何処にも隠れる場所がない。

オロオロとして居る間にその人達は部屋に入って来た。

”万事休す!“

そう思って壁際に立ったけど、
その人達には僕が見えてないようだ。

僕はそっと忍足で彼らの後ろに立つと、
1人の方に手を掛けた。

でもやはり僕に手はスポッとその人をすり抜けてしまった。

僕は前に回り込み、彼らの目の前に出て顔を彼らの顔にグッと近付けた。

それでも彼らは僕にお構いなしで、僕はそこに居ないかのように話して居る。

考えればそうかもしれない……

だって此処は禁断の間……

それも7年も前の。

“一体これはどう言うことだ?

僕の精神体だけが過去に戻って居る?”

そうとしか考えられなかった。

幸い僕の精神体は此処に居るけど、
向こうからすると実在しない存在。

僕は今やって来た2人をジーッと監視していた。

“見たことのない顔だ……

なぜ彼らが此処に入れたのだろう?”

そう考えて居ると、
彼らが僕を突き抜けてデューデューを蹴り始めた。

“なっ! 何をするんだ!

デューデュー!”

そう言っても、相手には声も届かなければ、
姿も見れない。

僕はどうにかして彼らを止めようとしたけど、
僕の体は彼らをすり抜けるだけで、
止めるどころかデューデューの盾になることもできなかった。

“落ち着け、これは現実じゃない、これは現実じゃない!“

自分に言い聞かせて居ると、
また別の人の足音と話し声が聞こえて来た。

”あれ? この声は……“

その声を聞いた途端ブワッと全身に鳥肌が立った。

“嘘……”

僕は金縛りにあったようにその場に立ち尽くした。

”違う! 彼じゃない! 絶対違う!

これは声が似てるだけだ!“

そう自分に言い聞かせた。

段々と近づいて来る声は間違いなくあの人のものだ。

話し方も、その癖も、声の調子も全て彼のものだ……

違うと思おうとすればするだけ、否定できなくなる。

僕の全身がガクガクと震え出した。

話し声が段々近くなって、その声が僕の後ろに来た時に、
僕は一気に後ろを振り返った。

”!!!“

彼は、固まり愕然とする僕を通して一目デューデューを見ると、

「間違いないようだな」

そう言って僕の中をすり抜けていった。

“うそ……嘘だ……”

僕の目から涙が溢れ始めた。

“どうして貴方が……”

デューデューを監禁していた人物が分かり、
僕は膝を床について泣き叫び始めた。


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