龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

文字の大きさ
上 下
44 / 123

愛が止まらない

しおりを挟む

「えーっと、ダリル?」

ダリルは黙ったまま僕の背中を抱きしめた。

「殿下は…私がどれくらい殿下に救われているかご存知ですか?」

そう言ってダリルは更に僕を強く抱きしめた。

僕はダリルの行動に少し戸惑った。

「え?  え? 何の事? 僕、何もしてないけど…?

逆に、僕がずっとダリルから貰ってばかりだけど…?」

そう言うと、ダリルは

「殿下、こちらに向きを変えて頂けませんか?」

そう言って僕がダリルの方を向いて座り直すと、
ダリルも正座し直した。

そしてスポンジで僕の顔を優しく拭き撫でると、
僕の両手を取った。

「殿下もご存知の通り、
私はこの性癖のせいで、ずっと自分を偽って生きて来ました。

時には自らの命を断とうと思った時もありました。

人との触れ合いも諦めていました。

こんな風に誰かの手を取る日が来るとは
夢にも思っていませんでした。

全て殿下が叶えて下さったのです」

そう言うと、彼は又涙ぐんだ。

「ダリルは大袈裟だな~

僕は本当に何もしてないよ?

唯、ダリルが変わらずに
僕のそばにいてくれる事だけが僕に取っては凄く嬉しいだけ」

そう言ってダリルの手を握り返すと、

「私はどうやって殿下にお返しをすれば……」

そう言って頭を下げた。

「やめてよ、そこまで言われると照れちゃうじゃ無い!

僕は世直し大臣でも何でも無いんだから!」

そう言って笑ったけど、
その時、ふっと頭をよぎった事があった。


「あ、じゃあさ、ねえ、ほら、前に僕が呼吸出来なくなった時、
ダリル、唇を重ねてくれたじゃない?

僕、もう一度アレがしたい」

そう言うと、彼は目を白黒させて僕を見た。

「え? それって…口付けですか?」

「うん、そう! あれ!

良くアーウィンが、言ってるんだ!

“マグノリアにキスしたい~”

って。

あれ、キスっても言うんだよね?」

「キス……そうですね、

王都の方ではそう言っているみたいですね。

え? でも、キスって私とですか?」

ダリルがキョトンとして尋ねた。

「うん、キス!」

「私と殿下がですか?」

ダリルが更に呆けた様にして尋ねた。

「ハハハ、しつこいなあ~

そんなに何度も聞かなくっても、そのキスだよ!

ねえ、僕にキスして。

ダリルとキスがしたい」

ダリルの頬に手を当ててもう一度言い直すと、

「私で宜しいのですか?」

そう言って眉を顰めた。

僕はダリルの頬をペチペチと軽く叩くと、

「言ったでしょ、

僕はダリルとしかそう言う事したく無いって」

そう力強く答えた。

「あの…どうして殿下は私と?

私が殿下と同じ様な趣向だからですか?」

更にダリルの眉がピクピクと反応した。

「違うよ。

だって、僕、小さい時からダリルには憧れてたもん」

そう言うと、

「私にですか?」

と今度はびっくり顔になった。

全くダリルは僕を飽きさせない。

「そうだよ。

ダリルの事知るまでは叔父上の事大好きだったんだけど…」

そう答えると

「アーレンハイム公ですか?」

と以外そうな顔をした。

あの頃の僕の叔父上好きは、
お城の役人公認だったのにダリルは知らなかった様だ。

「うん、叔父上はすごく強くてカッコよくて、優しくて、
キラキラして、太陽の様な人だってずっと思ってた」

「確かに公は大変お強いですよね。

騎士達にも人気が有りますし、
民にも慕われていますし…」

「そうだよね、僕はそんな叔父上が大好きだっんだ。

子供心に大きくなったら叔父上と結婚したいなって」

そう言うと、ダリルの顔が綻んだ。

「微笑ましいですね。

そう言えば初めて殿下にお会いした時も、
陛下より公の方でしたよね」

それから僕たちは少しの間、
初対面に感じたお互いの事を告白しあった。

「よくそんな事覚えてたね」

「はい、今となっては申し訳ないのですが、

“何だこのチビは?!”

そう思った物でした」

「ハハ、僕も打ち明けると、
その時は凄くダリルの事怖いと思った。

だって僕の事睨んでると思ったんだもん。

もう、ダリルの事が怖くて、怖くて、
叔父上にしがみついたんだよね。

この人、何でこんなに怖いんだろうって!

まあ、今になれば笑い話なんだけどね!」

そう言うとダリルは苦笑いしながら、

「あーあの頃はまだ信じれる人が陛下しかいませんでしたので…」

と気まずそうに答えた。

「そう言えばダリルって貴族から色々言われてたんだよね?」

思い出した様にそう言うとダリルは静かになった。

きっとあの頃の嫌な事を思い出しているのかもしれない。

周りから聞こえてくる声を拾い集めると、
ダリルはかなり貴族達に嫌がらせをされていた様だ。

元を返せば平民の上に、
孤児院出身のダリルに実力で勝てなかったからの妬みや恨みだ。

ほんと、宮廷騎士が聞いて呆れる。

僕は繕う様にして、

「でも、僕は今はダリルの事が1番好きだよ。

僕はダリルがすごく強い事知ってるし、
何でも完璧にこなすし、
凄くかっこいいし……

完全無欠みたいな顔してるのに
僕にはいろんなところ見せてくれるし……

弱い所も、本当は直ぐに泣いちゃう所も、
心配性な所も、口の端を上げて静かに笑う所も、
男の人が好きなことも、やすけべな顔だって!」

そう言うと、ダリルはガクッと頭を垂れて、

「そう言われると、私って救いようの無い人間の様ですね…?」

そう言って苦笑いした。

「ハハハ、そうじゃ無いよ」

そう言うと、ダリルの頬を掴んで顔をグイッと持ち上げると、
僕の目線と合わせた。

僕はダリルの目をしっかりと見ると、

「僕はダリルが僕にだけそんな所を見せてくれるのが凄く嬉しい。

ダリルの夜に溶けた様な真っ黒な髪や、
吸い込まれそうな黒い瞳、
濡れた様なまつ毛も好き。

鼻の形だって凄く綺麗だし、
唇だって、触れたら凄く柔らかそう……

ダリルのアレだってオスって感じで
考えただけで……」

そこまで言うと彼は真っ赤になって僕の口を塞いだ。

僕はダリルの僕の口を塞いだ手のひらにキスをすると、
その手を取って握りしめると、

「だからダリルのその唇に触れてみたい……」

そう言って指先で彼の唇をなぞった。

「殿下は私で宜しいんですか?

私は平民ですよ?

それも孤児院の出です…」

「そんなの関係ないよ!

ダリルはダリルだよ。

僕に取ってはかけがえの無い人だし!

もしダリルが僕で良ければだけど……」

そう言って彼の頬に手を置くと、
彼はそっと僕に近付いて軽く唇を重ねた。

それは小鳥の啄みの様なキスだったけど、
僕にはかなりの破壊力だった。

思わず僕の目から大粒の涙が溢れた。



「ダリルが好き。凄くダリルが好き。

お願いだから、僕が王子だからって僕を拒まないで。

でも僕が王子だから受け入れなきゃっても思わないで。

僕をジェイドとして、1人の男として僕を見て」

そう言うと、ダリルはもう一度僕にキスをした。

今度は貪る様なキスでダリルは何度も僕の唇を啄んでは吸って、
吸っては離れて、離れては啄んでを繰り返した。

「ダリル! ダリル!」

そう言って抱きつくと、

「何だ。お前達、やっとくっついたのか?!」

そう言ってデューデューが洞窟へやって来た。



「デューデュー?!」

僕はドキッとしてパッとダリルから離れた。

デューデューに見られた事が恥ずかしくて、
照れ隠しに髪をサッと整えてダリルの肩に隠れた。

「何を照れておる?!

交尾はしないのか?」

デューデューの一言に僕は飛び上がった様にして、

「こ……交尾?!

交尾って交尾だよね?!」

と大声を出した。

「うるさい。大声を出さなくとも聞こえる!

大体お前は何を訳の分からないことを言って居る。

交尾とは交尾だ。何を説明することがある?

それをそんなに驚いて、全く人間と言うのは分からん」

そうブツブツと言い始めた。

「いや、デューデュー、そこはもうちょっと情緒を持たせるところだから。

それに人間は人前で、こ……交尾はしないから!」

そう言うと、今度はその矛先がダリルに向いた。

「ダリルもメスを勝ち取ったらばマーキングぐらいはするものだぞ」

僕は恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だった。

やっとキスに漕ぎ着けた所だったのに、
交尾にマーキング?!

「ま……マーキング?! 何それ?!

それにメスって……僕?!

僕、男だよ?!」

そう言うのにデューデューに取っては違うらしい。

「いや、ジェイド、お前はメスだ。

お前はダリルを組み敷くつもりか?!」

「へ? 組み敷く?!」

「そうだろう、交尾をするときはオスがメスを組み敷くものだ。

メスはそれに大人しく従っていればいいのだ!」

何なのだこの龍は?

やたらとグイグイと来る。

龍とはこんなものなのか?!

龍には情緒は無いのか?!

「は?は?は~?

龍の交尾はそれでいいかもしれないけど、
人間は違うんだよ!!!!!

それにマーキングなんかもしないから!

ねえ、ダリルも何か言ってよ!

誰かこの龍黙らせて!」

そう言うと、ダリルは僕の全身を見て

”マーキングか……”

と呟いていた。

”ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、この龍ヤバイよ……”

まさかデューデューがここまでグイグイ来るとは思わなかった。

どうにかやってデューデューを黙らせようと思っていた時に、

「あれ? みんなでどうしたの?

朝食の準備が出来たから、
デューデュに呼びに行ってもらったけどなかなか来ないから、
マグノリアがお腹すかせてブーブー言ってるよ?」

とアーウィンが天の助けでやって来た。

関係ないが、さすが神官!

僕はすかさず、

「そうだよ! ほら、早くご飯食べよ!

僕昨夜は夕食抜いたから、お腹ペコペコだよ!」

そう言って何とか話を逸らそうとしたけど、
デューデューが後ろで何やらヒソヒソとアーウィンに内緒話をしていた。

「ぅ~ ジェイド~ ジェイドもついに大人の階段を上ったんだ!」

そう言ってアーウィンが後ろから抱き着いて来た。

「は? 大人の階段を上ったって何?!」

「え? だってダリル様と良い仲になったんでしょ?!」

と何を勘違いしたのかアーウィンは、
僕とダリルがそう言う仲になったと思っているらしい。

「いや、なって無いから!

アプローチしてたら君たちが邪魔しに来たの!」

そう言うとアーウィンはホッペを丸くして、

「えーダリル様、もうジェイドの事貰ってくださいよ~

やっぱり男同士は嫌ですか?!」

アーウィンのセリフに、
僕はダリルがこのことを隠したがっていたことを思い出した。

余りにもここでの生活が世間離れしているから忘れていた。

僕は慌てて否定しようとした。

「違うんだ、アーウィン!

これは僕の一方的な片思いで!」

そう言うと、

「ジェイド殿下、もういいんです。

アーウィン様とマグノリア殿下には知っていてほしいので」

ダリルがそう言うと、アーウィンがポカンとして僕達を交互に見た。

「でもまずはマグノリア殿下が暴れ出す前に朝食に致しましょう」

そんなダリルの提案にアーウィンは

「ハハ、ダリル様分かってるね~!」

そうおちゃらかしていたけど、
僕は内心ドキドキだった。

しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

気だるげの公爵令息が変わった理由。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:1,016

異世界でショッピングモールを経営しよう

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:11,490pt お気に入り:1,762

処理中です...