龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ダリルと初めてのケンカ

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ダリルがソワソワしている。

それはとても珍しいことだ。

何があっても今まで鉄仮面を崩したことが殆どない。

でも今はうつむき加減にキョドキョドしている。

僕は下からダリルの顔を覗き込んだ。

するとダリルがビックリして
又ベンチから落ちそうになった。

”どうしたの?

ダリルもさっきから変だよ?

おかしいね…… 

恋の話になったら皆変になるね?”

僕がそう言うと、ダリルは項垂れた。

”ハ~ 何故そんなに難しく考えるかなぁ~

僕はただ、一緒に恋をしようよって言ってるだけなのに、
なぜそんなに悩むの? ねえ?

本当に恋が楽しい物だったら一緒に経験しようよ!

きっと楽しい毎日が過ごせるよ”

僕は新しい遊びが出来た様で少しワクワクした。

ダリルは真剣な顔をすると、

”殿下、よく聞いてください。

私の説明が悪かったのかもしれませんが、
恋は遊びではありません。

恋は………しようと思っても、
簡単にできる物では無いのです”

そう言って一息置くと、

”それに……

殿下、良いですか? ちゃんと聞いて下さい。

これは凄く大切な事です”

と、真剣な顔をして言うので、
僕がコクコクと頷くと、

”殿下……恋というものは……

女性は男性に、
そして男性は女性にするものなのです”

と又、理解し難い事を言い始めた。

”どうして? どうして恋は男性が女性に、
女性が男性にするものなの?

どうして男性は男性に恋しちゃいけないの?

どうして? それはどうしてなの?”

”それが自然の摂理なのです”

”何? 自然の摂理って何?!”

”殿下、言いましたよね?

この話はまだ殿下には難しいって……

もうこの話は終わりましょう。

これだと、どこまで行っても平行線です。

殿下がもうちょっと大きくなられたら
自然と分かってくる事です”

”じゃあ、僕は大きくなるまで待たないといけないの?

じゃあ何故僕は今婚約しなくてはならないの?!”

”殿下、それは申し上げましたように、
王族というものは若い時から国を治める為の
準備をしなければいけないのです”

”でも国を治めるのは結婚しなくても出来るよね?

父上は母上がいなくても
立派に国を治めていらっしゃいます!”

”殿下、陛下はそれでよろしいのですが、
殿下はそれではダメなのです。

陛下には殿下がいらっしゃいますが、
殿下は結婚をしないと
お世継ぎが出来ないではありませんか!”

”それだよ!

どうして?

どうして僕とダリルでは赤ちゃんは出来ないの?

赤ちゃんはマグノリアと結婚しないと出来ないものなの?!”

ダリルは項垂れて手で顔を覆うと、

”そうでした、殿下は8歳でしたね。

そうでしたね。そこからですね……”

そう言って又ため息を吐いた。

”何なの? 

そこからって、
一体何の事を言ってるの?!

僕だけが知らない事なの?!

皆は知ってるの?

アーウィンも、マグノリアも知ってる事なの?!

どうして僕には、
はっきりと教えてくれないの?!”

ドンドン僕達の会話がヒートしてきた。

そこでアーウィンが少しウ~ンと唸ったので、
僕とダリルはハッとして口を継ぐんだ。

僕達はそのまま静止してアーウィンを見つめた。

このまま起きてしまうかと思ったけど、
アーウィンは少し体をずらしただけで
起きたりはしなかった。

アーウィンが少し動いたにもかかわらず、
マグノリアは微動だもせず、スースーと眠っている。

暫くそこには静粛が漂ったけど、

”失礼致しました。

つい我を忘れて殿下に声を上げてしまいまいした”

ダリルがしきりに謝るので、
僕はうつむいて黙り込んだ。

”殿下、これだけは覚えて於いて下さい。

殿下はすでに婚約をしておられます。

普通婚約をしている人や
結婚をしている人は
他の人に対して恋をしません”

その言葉に僕の体がピクリと反応した。

”え? それじゃ僕はダリルと恋は出来ないの?”

そう尋ねるとダリルは顔を伏せて黙り込んだ。

”ダリルが言ってるのってそう言う事でしょう?”

ダリルは少し間を置くと、
僕の目をしっかりと見て、

”何故私なのですか?

恋をしたかったら、
マグノリア殿下がいらっしゃるではありませんか。

マグノリア殿下はジェイド殿下の妃になられる方です。

恋をするには、うってつけのお方ではありませんか!”

ダリルのその言葉が僕の中で反芻した。

何度も、何度も繰り返した後、
僕の中で答えが出た。

”だって…… 僕……

マグノリアと恋がしたいとは思わない……

考えてもちっとも楽しいと思わないし、
ワクワクもしない”

”だから言ったではありませんか!

恋は遊びじゃないって!”

”分かってる、分かってるよ!

でも、ちっともマグノリアと
恋がしたいって思わないんだもん!”

”それでは殿下がもう少し大きくなってからでも
良いではありませんか?”

”じゃあ、ダリルは僕が大きくなるまで待ってくれるの?

僕が大きくなったら、
僕と恋をしてくれるの?!”

僕があまりにもしつこく言いすぎたのか、
ダリルは少し呆れたように、

”申し訳ありません。

今はこの話はやめておきましょう”

そう言ってため息を吐いた。

僕は益々この結婚に納得がいかなくなった。

もう半分は意地のような感じになってきている。

”殿下はマグノリア殿下と恋をするように努力して下さい”

”そんな、だってマグノリアは恋がしたいんだよ?

それはきっとボクにじゃ無い。

ボクだって恋がしたいのはマグノリアにじゃ無い。

僕はダリルと恋をしてみたい!”

”殿下、私は先ほど、男性は男性に恋は出来ないと
申したではありませんか!

もう本当にこの話は辞めましょう。

余り駄々をこねるのはお止めになって下さい”

”どうして?! どうして僕はダリルと恋をしちゃいけないの?!

どうして?!”

最後は僕の心の叫びのようになっていた。

そして僕のその声にアーウィンが目を覚ましてしまった。

「どうしたの二人共大きな声を出して?

ダリル様がジェイドに声を荒げるって珍しいね」

僕はグッときて、
起きてそう言うアーウィンとダリルを交互に見ると、

「しばし失礼します。

僕がいない間の事はよろしくお願いします。

直ぐに戻ります」

そう言って立ち上がると、

「殿下、勝手なことをしてもらわれては困ります。

一体どちらにお行きになるのですか?!」

そう言うダリルを振り切って、
僕はガゼボを後にした。

暗くて誰も周りに居ないことを良いことに、
僕はお城の裏へ回ると、
誰もいないことを確認して塀を飛び越えた。

”真っ暗だ……”

お城の裏手は森になっているので明かりが無い。

”でも僕は出来る!”

つい最近、僕は暗がりの中でもあたりが見える事に気付いた。

魔力が目に集中すると、
昼間のそれとは色が違うけど、
暗い中でも物事がはっきりと見えるようになった。

僕は

”デューデュー、デューデュー、来て!”

そう頭で念じながら森の中を走った。

身体強化に慣れた僕の体は、
かなり速く走れるようになった。

このあたりの魔物や魔獣は
大抵戦わずに振り切ることが出来る。

”デューデュー!”

そう念じたと同時に
僕の真上から翼の羽ばたきの音が聞こえた。

「デューデュー!」

そう叫ぶと、

デューデューが周りの木々をなぎ倒しながら地に降りてきた。

「デューデュー?

デューデューなの?」

「ジェイドが呼んだんだろ?

どうした? 今日は婚約発表ではなかったのか?」

「デューデューだ!」

そう言って僕はデューデューに飛びついてその首に手をまわした。

「デューデュー、又大きくなったんだ」

「後一月もすれば完全に成長体になるだろう」

そうデューデューに言われ、

「良かったね、ちゃんと普通の龍になれてよかったね」

そう言ってその首に抱き着いた。

その時、後ろの方で

「ウ~ッ」

と唸るような声がした。

「デューデューは暗くても目が見えるの?」

僕が尋ねると、

「龍にとって昼も夜も関係ない。

夜は全体が形のある影のようになるが、
ちゃんと見えるぞ。

それに龍は透明のスキルを持ったものも見える。

私たちは今オオカミに囲まれているぞ。

どうするか?

逃げるか? それとも戦うか?」

そうデューデューに言われ、

「そう言えばデューデューが戦うところ見たことないけど、
デューデューって強いの?」

そう尋ねた。

「もう幼体ではないからな。

無敵ではないがオオカミなどには
束になってかかってこられても負けん」

自慢げにそう言うデューデューの戦いを見て見たかったけど、
今はお城を抜け出してきている身。

龍がここで戦うと、きっとお城にも余波が伝わってしまう。

そう思った僕は、

「ここで戦うと、きっとお城に異変が分かってしまう……」

そう言うと、

「じゃあ、私の背に乗れ」

そう言ってデューデューは首をクイッと振った。

「え? 乗ってもいいの?

デューデューって人を乗せることが出来るの?!」

「違うだろ。 誰でも乗せるわけないだろう!

私が乗せるのはお前とアーウィンだけだ。

命を助けてもらったからな」

そう言ってデューデューは腰を低くすると、
頭を僕の前に下げた。

「本当に乗ってもいいの?

落としたりしない?」

「早く乗れ!」

そう言ってデューデューは頭の先で僕を救い上げると、
ポーンと自分の背に僕を投げやった。

「ヒ~ッ!」

もう既に恐ろしくて腰が抜けそうだ。

「絶対、絶対、落とさないでね?」

僕がそう言うと、

「奴ら、かかってくるぞ。

舌をかまないように口を塞いでいろ」

そう言うと、オオカミが束になって
僕達に飛びかかるのと同時にデューデューが飛び上がった。

僕は必死にデューデューの首を抱きしめた。

下を見下ろすと、
デューデューが降り立ったところが滅茶苦茶になぎ倒されている。

「再生させたいけど、
今やったらお城に知れちゃうね。

明日明るい時にまた戻ってくるよ。

行って」

そう言うと、デューデューはバサッと一羽ばたきして、
体を平行にし進み始めた。

龍の飛行はスピードが凄い。

風が顔に当たって息が出来ない。

「デューデュー、スピードを落として!

息が出来ない!」

そう言うと、デューデューはクルッと空中で転がって
風を感じると、その風に乗った。

「凄い! 龍ってこんな事が出来るんだ!」

調子に乗ったデューデューが

「こんな事も出来るぞ」

と、空中回転をしたり、
凄い勢いで落ちて行ったかと思えば、
急高速で上にあがったりと波のように動き出した。

「ギャー落ちる、落ちる!」

僕が騒ぐと、デューデューは

「ハハハハハ」

と大笑いして岩ばかりの渓谷に降り立った。

僕はデューデューの背から飛び降りると、
当たりを見回した。

「ここは?」

そう尋ねると、

「私の家だ」

そう言って、直ぐそばにあった
岩の中にある大きな洞穴の中に入って行った。

当たりは静かで、虫の声さえも聞こえない。

周りも岩ばかりで草一つさえも生えていない。

「もしかしてデューデューって群れと離れてから
ずっとここで暮らしてるの?」

そう言うと彼は岩の上に頭を下ろして

「慣れれば都さ。

煩わしいこと全てから解放されて割と悪くない」

デューデューのそのセリフが強がりに聞こえて
僕は涙が出て止まらなかった。

「ジェイドは泣き虫なのか?」

デューデューが大きな眼だけを動かして僕を見た。

「違うよ! ねえ、デューデュー、
僕も一緒にここに住んじゃダメ?」

そう言うと、デューデューは

”ハ~ッ?”

というような顔をした。

「何かあったのか?

婚約者はどうだった?」

デューデューにそう尋ねられ、
僕はデューデューの隣に座り、
彼の首にもたれ掛かった。

「ねえ、聞いてもいい?

龍ってさ……」

そう言うと、デューデューは、

”何だ?”

というような顔をした。

「龍って、恋するの?!」

そう尋ねると、デューデューは吹きだした。

「恋? なんだ急に?

お前、そんな事にこだわってるのか?

もしかして婚約者と何かあったのか?」

「う~ん、人間にも色々あるんだよ」

「フン、なんだ? 話してみろ、その色々って」

「え? 聞いてくれるの?」

僕が興奮したように尋ねると、

「話したくなければ」別にいいぞ」

「あ、話します! 話させていただきます!

実を言うとね、ちょっとダリルと恋について
言い合っちゃってね、ダリルは

”恋は素晴らしい、
とても大切だって”

そう言うんだけど、
僕には良くわからなくて……

それにアーウィンも婚約者のマグノリアも
恋がしたい~って……

ねえ、デューデューは恋って知ってる?」

そう尋ねると、デューデューは目を閉じた。

「ねえ、デューデュー、聞いてるの?

デューデューが言えって言ったから言ったんだよ!」

そう言ってデューデューの頬をペチペチと叩くと、

「聞いてるよ。

少し考えていた」

そう言ってまた目を閉じた。

「ねえ、何を考えてるの?

恋について?

龍も恋をするの?!」

僕が矢継ぎ早に尋ねると、

「お前は少し黙っていろ。

私は仲間と離れて100年近くたってるんだ。

今、色々と思い出してるところだ!」

そう言われ僕はハ~ッとため息を吐いた。

僕もしばらく目を閉じてデューデューの答えを待った。

「ねえ、ま~だ~?

僕、眠っちゃうよ~?」

そう言っている内に、
又寝落ちてしまった。

夜もかなり更けた頃、

”ジェイド、起きろ。

ダリルの声が聞こえる”

そう言うデューデューの声で目が覚めた。

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