龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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王都ーギルド

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神殿で起こった魔力流しに用いる水晶玉の粉砕は、
僕の中では納得しない形で終わった。

途中までは良かったが、
僕が割ってしまった水晶玉を、
バトンは古いものだったと言った。

でも、確かに僕は、
神殿の職員がひそひそと

”真新しい物だった”

と言っているのを聞いた。

本当の事は分からないけど、
ヒソヒソ話を聞いていなかった他のみんなは、
古いものだったということで納得したようだ。

僕は納得できないまま
神殿を後にした。

古いものだったと言われれば、
僕にはどうすることもできない。

他には何の確証もないから。

でも僕は本当に水晶玉には何もしていない。

そっとハンカチが頬を撫でるように触っただけだ。 

幸い害になることは何もなさそうなので、
水晶玉とアーウィンの魔力を無駄にしてしまったことだけが
痛手というところだった。

魔力は又溜まるし、
水晶玉も予備が腐るほどあるということだったので、
ここは不幸中の幸いとでも思っておこう。

これからは僕ももっと気を散漫させず、
身を引き締めて色んな事に対応していかなくては。

そう思わせた出来事だった。

さてここからが正念場だ。

とりあえず、今日の訪問予定の
スケジュールは立っている。

ギルドはもちろん今日のトリである。

僕は、好きな物は一番最後まで取っておくタイプ。

でも今日のスケジュールには
少しの思惑と期待があった。

それは、この王都を徒歩で回ること。

皆を疲れさせ、
最後のギルドでは疲れで頭が回っていない事。

そうすれば僕達からは気がそれているだろう。

護衛の騎士たちはドアの外に二人、
中に一人配置しておけば問題ない。

子供の悪だくみは本当に狡猾だ。

でも成功した試しがない……

精々逃げ足だけは早いというだけだ。

でも今日は失敗したくない。

これからの僕の行動に響くから。

その為に準備はしてきた。

きっと何とかなると思った。

ギルドの前に訪問する場所は4か所。

何と言ってもギルドの一つ前に立ち止まる
孤児院がカギを握っていた。

僕の読みでは、
子供たちのパワーに負けて、
大人たちがクタクタになることだ。

此処では是が非でも、
子供たちと遊び倒すことに専念しようと思っている。

もちろん、護衛達もだ。

そしてそんな孤児院訪問は
僕の読み通り、
大人たちは子供たちのパワーに負けてクタクタだった。

僕とアーウィンはあ互いにピースサインをして
デロデロになった大人たちを見まわした。

凄くスタミナがありそうな騎士たちでさえもデロデロだ。

やはり、いくら鍛錬を積んでると言っても、
大人相手の鍛錬と、
子供相手の振り回されは疲労の度合いが違うようだ。

特に子供を持ったことの無い若い騎士たちには。

もちろんそれはマギーにも当てはまった。

いつも僕を追いかけまわしているはずのマギーが、
やはりヘロヘロになっている。

僕はマギーにいかに僕が

”良い子”

であるかを自慢した。

僕はニヤニヤが隠せず、
アーウィンにわき腹をつつかれながら、

「では、最後のギルドに参りましょう!

皆さん、お疲れのようですが最後ですよ!

さあ、頑張っていきましょう」

と声をかけると、
皆げっそりとしたようにして僕を見た。

「ギルドは次に回しませんか?」

マギーの提案に皆、うん、うんと頷いた。

僕は慌てて、

「だめですよ!

今日を逃すと、今度は何時来られるかわかりません!

ギルドの皆様にも今日行くと伝えてありますので、
さあ、行きましょう!

皆が疲れているのであれば、
僕一人でだけも行きますよ!

皆さんはその辺のカフェで休んでいても全然かまいませんよ!」

ハラハラとしながらそう言うと、皆重い腰を上げた。

僕はまるでスキップをするように軽やかに
ギルドに向けて歩き始めた。

みなデロデロになりながら僕の後を付いてきたけど、
ギルドに着くころには少しシャキッとしていた。

”僕の読みが外れたか?”

と一瞬思ったけど、それは杞憂に終わった。

ただ、ギルドの職員とあいさつを交わすためだけに、
シャキッとしただけだった。

一通りの形式的な挨拶が済み、
僕が中を見学したいと言ったら、
しぶしぶ許可をくれた。

ギルドの中は割と広く、
マギーやラルフはそこにあったテーブルに座り込んだ。

僕は受付の人や、
クエストなんかの依頼を見学したいと言ったら、
テーブルからも僕が見えるからと、
僕の好きにさせてくれた。

騎士たちはとりあえず、

”護衛”

として、計画通りギルドの中と外のドアのところに
配置することが出来た。

僕とアーウィンは見合ってハイファイブをした。

走って受付に行くと、
ウサギの耳をした女の子が挨拶をしてくれた。

「う、う、ウサギ耳?!」

僕が驚いて一歩退くと、
アーウィンが僕の口を塞いで当たりをキョロキョロとした。

ウサギ耳の女の子はクスッと笑うと、

「殿下は獣人は初めてですか?」

と尋ねた。

「獣人?」

僕は今まで獣人なんて言葉を聞いたことが無い。

「殿下、獣人については学んだことが無かったんですね。

私も失念していました」

そう言ってアーウィンが頭を下げた。

「大丈夫ですよ。

私は全然気にしていません」

そう言ってウサギ耳の女の子が
耳をピョコピョコさせながらが話しかけてきた。

「殿下、簡単に説明すると、
この世界には人間の他にも、
色んな種族が住んでいるのです。

今は時間関係で説明を省きますが、
彼女は人とは違う種族の出身です。

今日は獣人族の方には初めてお会いいたしましたが、
この王都にも獣人の方々は結構いらっしゃいますよ。

いつものお勉強会で説明させていただきますね」

アーウィンにそう言われ、
僕はマジマジと彼女の耳を見つめた。

彼女がそれに気付いて照れた様に耳を触るので、
僕はアーウィンに肘鉄を食わされた。

“殿下、他の人を余りジロジロと見るのは
失礼に当たりますよ”

アーウィンに囁かれ、

「御免なさい!

初めてだったからすごくビックリして!

でも可愛い…」

そうボソッと言うと、彼女は

「有難うございます。

殿下にそう言われてとても嬉しいです。

私はウサギ族のミラと申します。

よろしくお願い致します」

と顔を赤らめて一礼した。

ウサギ族の人は地獄耳のようだ。

僕も慌てて、

「先ほどは失礼致しました。

私はジェイドと申します。

人間です」

そう挨拶した事にまたアーウィンは
僕に肘鉄を食らわせて、

「殿下、ソロソロ……

”それに、『人間です』は余計です!”」

とささやかれた。

そんな僕たちのやり取りを
ミラはクスクスと笑って聞いていた。

僕は少し照れながら、
チラッと大人たちの方を見た。

ラルフが僕たちに気付いて、
手を挙げて、

“ここにいるよ。

大丈夫だよ”

と言う様にヒラヒラと振った。

大人たちが変わらずにテーブルに居るのを確認すると、

「ミラさん、私をギルドに登録して頂くことは可能ですか?」

と小さな声で尋ねた。

彼女は一間置いてから、

「あの…登録は何方でも出来るのですが、
13歳以下の未成年はご両親の許可が必要なのですが…

ジェイド様はまだ13歳になられてませんよね?」

と、予想もしていなかった事実を突きつけられた。

彼女がそう言った瞬間アーウィンも、

「あ、忘れてた。

そうだった!」

と。

僕はジロッとアーウィンを見ると、

「あの……じゃあ、鑑定士の方で、
只今鑑定可能な方はいらっしゃいますか?

鑑定料はちゃんとお祓い致します」

アーウィンがすかさずそう言ったので、
僕はコクコクコクと素早く頷いた。

ミラはギルド内を見渡すと、

「少々お待ち下さい」

そう言って、一人の女の人の所へと歩いて行った。

ミラが彼女に何か耳打ちをすると、
彼女は僕達に向けて手を振った。

僕が頭を下げると、
彼女は立ち上がり僕達に向かって歩いて来た。

「鑑定が必要なのはどちら?」

彼女の問いに僕は一歩前に出て

「お手数をおかけします。

私はジェイドと申します。

私の鑑定をして頂けませんか?

ちゃんと鑑定料はお支払いいたします」

そう言うと、

「鑑定料なんて、良いよ、良いよ。

あんた、この国の王子様なんだろ?」

そう言って彼女は僕を見て

「ステイタス」

と一言言った。

「あーあなたやっぱりこの国の王子様だったのね。

護衛や立ち振る舞いなんか見ててそう思ってた。

私は隣の国から来たロザリナと言う鑑定士よ」

「ロザリナさん……

僕が王子だって鑑定に出てるんですか?」

「そうよ。

まあ、あなたの髪の色を見れば分かりきってるけど、
やっぱり銀髪なのね」

「お隣の国でもそのことは伝わって居るのですか?」

「そうよ、この大陸に住む者は皆知ってるんじゃ無い?

なんでも聖龍の加護のためなんでしょ?

あ、あなた今5歳なのね。

5歳の割には大人びてるのね。

やっぱり王家の血のせいかしらね。

帝王学を小さい時から学ぶんでしょう?」

「そうなんです!

でも僕はそれが嫌で、嫌で、
冒険者の素質があるか見て貰いたいて思って…」

そう言うと彼女はハハハと笑っていた。

「あの……僕に魔法が使えたりとかって有りますか?!」

ドキドキとして尋ねた。

彼女は小さく

“うーん”

とうなった後、

「悪いけど、
魔法の素質は無さそうよ。

でも、魔法の素質がないからって、
冒険者になれないわけじゃ無いから!」

「じゃあ、私は次の王になる以外は
何も特別な事は無いと言うことですか?」

そう尋ねると彼女は首を振って

「悪いね。

きやすめかもしれないけど、
レベルの高い鑑定士だったら
もっと見えるかもしれないよ?

どうする?

自分の鑑定見てみる?」

彼女のその問いに、

「え?私でも見れるのですか?」

とびっくりして尋ねた。

「そうだよ。ほら、私の手を取ってごらん」

そう言われ、彼女の手を取った。

「今から魔力を流すから、
ステータスって自分で言ってみて」

そういわれ、ドキドキとしながら

「ステータス」

というと、僕の目の前に
四角い版のようなものが映し出された。

「これが私の鑑定結果ですか?!」

「そうだよ。

見ての通り、魔法については何もないでしょ?

すまないね」

彼女はもう一度僕に誤った。

「お気遣いありがとうございます

ロザリナ様が謝ることはございません。

僕の鑑定を見せて頂いてありがとうございました」

お礼を言うと、
僕はギルドを後にした。

鑑定結果は分かり切っていたけど、
ショックだった。

本当にショックで、
口を利くことも出来なかった。

余りにもがっかりしすぎて、
帰り道は通夜の様だった。

足取りも重く、口数も少なく、
多分大人たちは僕も疲れ切ったと思っていただろう。

アーウィンは理由を知っていたので、
しきりに僕を励ましていた。

丁度通りかかった通りにベンチがあったので、

「殿下、お疲れになったでしょう。

殿下は此処で休んでおいて下さい。

私がひと足先に神殿へ戻り馬車を此処までお連れ致します」

マギーの提案に

「お願いします」

と答えベンチに座った。

魔法の才が無いのは分かっていた事だけど、
現実を突きつけられると
やっぱりグッと来る。

余りの気落ちでもう一歩も歩きたくなかった。

僕はマギーが去っていく方を見ながら
深いため息を吐いた。

その時数軒先の出店から
キラキラと僕の目を奪う光が発せられている事に気付いた。





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