3 / 52
第3話 辞令
しおりを挟む
「サム! ここにいたのか!」
噂をすれば何とやらだ。
所長が目ざとく僕を見つけて、
スタスタと歩み寄って来た。
所長の顔には少しの焦りが見える。
恐らく、
“あの事”
を理事長に聞いたのだろう。
「所長、僕の事探してたんですよね?
今、スティーブにそう聞いたところだったんです」
僕がそう言ったのと同時に、
「サム、君、日本へ行くそうだね」
と来たので、
“やっぱり!”
と思った通りだった。
「今、上の方から通達があったんだ。
嫌に急だね。
今君に抜けられると困るんだけど……
日本行は君が希望したのかい?
僕の方には全然そう言った話は出ていなかったんだが……
所長の僕の許可なしに、
研究員を移動させるのはいかがなものかと思うんだが……
全く上は何を考えてるんだか……
現在進行中の研究もあるのに、
まったくどうしてくれるんだよ!
この研究にはサムが要るんだよー!」
そう言って所長が僕の肩に頭を垂れた。
スティーブも寝耳に水だったようで、
自分も日本へ行くと駄々をこねだした。
「ドクター・ディキンズが日本へ行くんだら、
私も行きます!」
そうきたので、僕は咄嗟に、
「は? 何言ってるの?
そんなことできる訳無いでしょ?」
と答えていた。
出来なくないわけではないだろうけど、
今回の僕の日本行は少し訳アリだった。
勿論そんなことはこの研究所の中には誰一人いない。
でも、スティーブも引き下がらない。
「ドクターが行けるんだったら、
私だって行けますよね?」
「あのね、これは遊びじゃなくて仕事だから!」
「じゃあ、私は仕事を辞めてドクターに付いて行きます!」
「それこそ、何でー?!だよ?
どうしてそんなに日本へ行くことにこだわるの?」
「日本へ行くことじゃなく、
私はドクター・ディキンズと仕事がしたいんです!
私はドクターから色々と学びたいんです!」
「いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、
此処にも沢山素晴らしい人はいるよ?」
「でも…… でも……」
スティーブのそんな終わりのない言い訳のループに
僕の事を気の毒に思ったのか、
「ほら、スティーブ、お前は俺と一緒に来い!」
そう言って所長は嫌がるスティーブを、
なんとか引っ張って連れて行ってくれた。
そして数歩、歩いたところで思い出したように、
「そう言えば、理事長がサムの事を探してたぞ!」
そう言って今だ僕の名を叫んでいるスティーブの頭を叩くと、
今度は耳を掴んで引っ張って行ってしまった。
角を曲がって姿が見えなくなってしまっでも、
スティーブの僕を呼ぶ声は、
まだ小さく木霊していた。
僕はくすっと小さく笑うと、
真剣な面持ちに切り替え、
ギュッと拳を握り締めると、
辺りを見回して誰もいないのを確認して、
理事長室へと早足で歩いて行った。
噂をすれば何とやらだ。
所長が目ざとく僕を見つけて、
スタスタと歩み寄って来た。
所長の顔には少しの焦りが見える。
恐らく、
“あの事”
を理事長に聞いたのだろう。
「所長、僕の事探してたんですよね?
今、スティーブにそう聞いたところだったんです」
僕がそう言ったのと同時に、
「サム、君、日本へ行くそうだね」
と来たので、
“やっぱり!”
と思った通りだった。
「今、上の方から通達があったんだ。
嫌に急だね。
今君に抜けられると困るんだけど……
日本行は君が希望したのかい?
僕の方には全然そう言った話は出ていなかったんだが……
所長の僕の許可なしに、
研究員を移動させるのはいかがなものかと思うんだが……
全く上は何を考えてるんだか……
現在進行中の研究もあるのに、
まったくどうしてくれるんだよ!
この研究にはサムが要るんだよー!」
そう言って所長が僕の肩に頭を垂れた。
スティーブも寝耳に水だったようで、
自分も日本へ行くと駄々をこねだした。
「ドクター・ディキンズが日本へ行くんだら、
私も行きます!」
そうきたので、僕は咄嗟に、
「は? 何言ってるの?
そんなことできる訳無いでしょ?」
と答えていた。
出来なくないわけではないだろうけど、
今回の僕の日本行は少し訳アリだった。
勿論そんなことはこの研究所の中には誰一人いない。
でも、スティーブも引き下がらない。
「ドクターが行けるんだったら、
私だって行けますよね?」
「あのね、これは遊びじゃなくて仕事だから!」
「じゃあ、私は仕事を辞めてドクターに付いて行きます!」
「それこそ、何でー?!だよ?
どうしてそんなに日本へ行くことにこだわるの?」
「日本へ行くことじゃなく、
私はドクター・ディキンズと仕事がしたいんです!
私はドクターから色々と学びたいんです!」
「いや、慕ってくれるのは嬉しいけど、
此処にも沢山素晴らしい人はいるよ?」
「でも…… でも……」
スティーブのそんな終わりのない言い訳のループに
僕の事を気の毒に思ったのか、
「ほら、スティーブ、お前は俺と一緒に来い!」
そう言って所長は嫌がるスティーブを、
なんとか引っ張って連れて行ってくれた。
そして数歩、歩いたところで思い出したように、
「そう言えば、理事長がサムの事を探してたぞ!」
そう言って今だ僕の名を叫んでいるスティーブの頭を叩くと、
今度は耳を掴んで引っ張って行ってしまった。
角を曲がって姿が見えなくなってしまっでも、
スティーブの僕を呼ぶ声は、
まだ小さく木霊していた。
僕はくすっと小さく笑うと、
真剣な面持ちに切り替え、
ギュッと拳を握り締めると、
辺りを見回して誰もいないのを確認して、
理事長室へと早足で歩いて行った。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
目が覚めたらαのアイドルだった
アシタカ
BL
高校教師だった。
三十路も半ば、彼女はいなかったが平凡で良い人生を送っていた。
ある真夏の日、倒れてから俺の人生は平凡なんかじゃなくなった__
オメガバースの世界?!
俺がアイドル?!
しかもメンバーからめちゃくちゃ構われるんだけど、
俺ら全員αだよな?!
「大好きだよ♡」
「お前のコーディネートは、俺が一生してやるよ。」
「ずっと俺が守ってあげるよ。リーダーだもん。」
____
(※以下の内容は本編に関係あったりなかったり)
____
ドラマCD化もされた今話題のBL漫画!
『トップアイドル目指してます!』
主人公の成宮麟太郎(β)が所属するグループ"SCREAM(スクリーム)"。
そんな俺らの(社長が勝手に決めた)ライバルは、"2人組"のトップアイドルユニット"Opera(オペラ)"。
持ち前のポジティブで乗り切る麟太郎の前に、そんなトップアイドルの1人がレギュラーを務める番組に出させてもらい……?
「面白いね。本当にトップアイドルになれると思ってるの?」
憧れのトップアイドルからの厳しい言葉と現実……
だけどたまに優しくて?
「そんなに危なっかしくて…怪我でもしたらどうする。全く、ほっとけないな…」
先輩、その笑顔を俺に見せていいんですか?!
____
『続!トップアイドル目指してます!』
憧れの人との仲が深まり、最近仕事も増えてきた!
言葉にはしてないけど、俺たち恋人ってことなのかな?
なんて幸せ真っ只中!暗雲が立ち込める?!
「何で何で何で???何でお前らは笑ってられるの?あいつのこと忘れて?過去の話にして終わりってか?ふざけんじゃねぇぞ!!!こんなβなんかとつるんでるから!!」
誰?!え?先輩のグループの元メンバー?
いやいやいや変わり過ぎでしょ!!
ーーーーーーーーーー
亀更新中、頑張ります。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる