風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ)

幻田恋人

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第9話「不死身同士の戦い! 風俗探偵vs.ミノタウロス」

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「ファイヤーッ!」

 聖子の掛け声と同時に、『ロシナンテ』のPassenger seat助手席 キャノンから30mm機関砲の三連バースト砲撃が撃ち出された。
「ドンッドンッドンッ!!!」

 ねらいを外す事なく、PSキャノンから発射された三発の30mm徹甲てっこう弾がバリーの腹部に吸い込まれていく。
「ドスッ! ドシュッ! バシューッ!」
 三発目の30mm徹甲てっこう弾はバリーの背中をぶち抜いた後、後方へ飛び去った。バリーの身体は三発の着弾の運動エネルギーで数m吹っ飛び、地響きを立てて後ろ向きに地面にころがった。

「やったぜ… さすがは俺の『ロシナンテ』…」
 俺は安心と出血多量とで意識を失いかけた… だが視界の片隅にバリーの身体が動き始めたのがうつった途端とたん、目をクワッと見開いて意識を取り戻した。

「なんてこった… これでも、まだヤツは死なないってのか…?」俺は絶望した様につぶやいた。しかし、絶望して死んでなどいられるか。俺はスマートウォッチで聖子に命令した。「聖子君! PSキャノンをグレネードランチャーに切り替えろ! 使用擲弾てきだん火炎弾かえんだん装填そうてん、急げ!」

「了解、所長! PSGランチャーに火炎弾装填かえんだんそうてん! 装填そうてん完了!」聖子からの返事が返ったと同時に、俺は即座そくざに命令した。「撃てえっ!」

「ポンッ!」 少々マヌケな射出音と共にPSGランチャー(Passenger seat助手席 Grenade launcherグレネードランチャー)の擲弾てきだん発射筒から、火炎弾かえんだんがバリーに向けて発射された。
 そして、立ち上がりかけていたバリーの胸に火炎弾かえんだんが着弾し炸裂さくれつ炎上した。バリーの着ている黒のトレンチコートが激しく燃え上がる。

「ブモウウーッ!」
 さすがのバリーも燃え上がる自分の身体にあわてふためき、炎を消すべくころげまわった。

「よし、聖子君! 二撃目発射っ!」
俺は休むことなく、聖子に二撃目の火炎弾かえんだん発射を命じた。

「ポンッ!」
 うつぶせになってころげていたバリーの背中に、再び火炎弾かえんだんが着弾し炸裂さくれつ炎上した。

「ブモッ…ブモモウウッー!」
 バリーの身に着けていた黒の中折れ帽はとっくに脱げ落ちていたが、顔にグルグルに巻いていた大量の包帯も、黒のトレンチコートも火炎弾かえんだんの炎でほとんどが燃えてしまい、バリーの生身の全身が姿を現した。
 バリーは裸体の所々が火がくすぶって燃えたまま、ゆっくりと立ち上がった。

「駄目か… アイツはどうやっても倒せないのか… ゴフッ…」
 俺は力が尽きそうになり、大量の泡状の血を吐き出した。血のかかった左腕にはめていたスマートウォッチが目に入った俺は、一緒に左腕にはまっていた数珠じゅずに気が付いた。
「これは…榊原さかきばらアテナに渡された逆結界の数珠じゅず… 逆五芒星ごぼうせい… そうかっ! 分かったぞ!」
 俺は最後の力を振り絞り、右手で黒の数珠じゅずで作られた腕輪を引きちぎった。文字が刻まれた黒の数珠じゅず玉は四方に飛び散った。

その瞬間!
俺の全身が白くまばゆい光を発した。

「ぐおおおおうっ!」
俺の全身に月齢13日の満月のパワーが流入し、無限の力がみなぎってくる…
 俺の身体に変化が起こる… 獣人化現象ゾアントロピー(zoanthropy)だ。
「バキバキバキッ!」
 俺の口の中では発達したたくましい犬歯が伸びて牙へと変わり、両手両足の爪が硬く伸びていく。
 そして、俺の身体中の体毛が逆立さかだち、太く長く伸び始めた白い剛毛で全身がおおわれていった…

「ぐわおおおおううっ!」
 きばき出して大きくえた俺の顔全体が、白く濃いまゆひげおおわれていく…
 そして、顔と全身をおおった白い体毛に現れた黒いしまの模様… それはまさしく虎の模様もようだった!

そうだ… 俺は虎人間だったのだ。これが真実の俺の姿!
「俺は不死身の白虎びゃっこだああっ!」
 叫び声と共に、バリーに負わされた俺の全身の傷が見る見るうちになおっていく… 折れた全身の骨と傷がすさまじい勢いで再生され修復されていった。
 肺や内臓に折れて突き刺さっていた数本の肋骨ろっこつも全部元に戻り、破裂していた内臓も修復された。これらの再生と修復はわずか数秒で完了した。

獣人化現象ゾアントロピー賦活化ふかつかされた細胞の再生は、俺に恍惚こうこつ感をもたらす。
 俺は射精する瞬間の様な表情を浮かべて大量のよだれを垂らしながら、自分が倒すべき敵を見た…

バリー… 驚いたことにヤツもまた再生をげていた。
 火傷やけどあとも、三連バースト弾で開けられた腹の穴の痕跡こんせきすら微塵みじんも残さない、修復されたたくましい筋肉のヨロイで包まれた灰色の巨体…
 そして… 帽子と包帯の無くなったヤツの顔を見た俺は、楽しくて笑いが止まらなかった。

バリーの正体は俺と同じく獣人だった…
しかし、ヤツの頭部はおすの水牛のそれだった。
 たくましく太く、そして湾曲した大きなつのを持つ水牛の頭部を持ったそいつの正体こそ…

「ミノタウロス…」
 俺は…考えた訳でも誰かに教えられた訳でも無く、自然にその言葉をつぶやいていた。

それ以上の言葉は、二体の獣人と化した二人には必要無かった。
「ぐわおおおおっ!」
「ブモオオオオッ!」
俺達は雄叫おたけびを上げて、互いに相手に向かって真っすぐに突進した。


       ********************


「何だ… あれは…? 千寿せんじゅは獣人だったのか…?」
 千寿 理せんじゅ おさむの旧友である鳳 成治おおとり せいじ茫然ぼうぜんとして旧友の獣人化現象ゾアントロピーを見つめていた。

「うむ… あれは、まぎれもない白虎びゃっこじゃな… 神獣じゃよ。」
 式神しきがみ狛犬こまいぬ達が倒された後、いつの間にか榊原さかきばら家の家屋の方に移動していた安倍賢生あべの けんせいが、息子である成治せいじに対して言った。

「神獣の白虎びゃっこ… では、彼が四神獣の一つである白虎びゃっこだったのですね… お義父とうさま…」
榊原さかきばらアテナが隣に立った賢生けんせいに聞いた。

「そうじゃよ、アテナさん。白虎びゃっこは妖怪や魔の世界のモノではない。四象ししょうの一つで西をつかさどる神獣…とされておる。
 わしも、まさか本物を目にする事になるとは思わなんだが… じゃが、彼奴あやつ白虎びゃっこそのものでは無く、半分は人間の様じゃな…
 わしがアテナさんに渡した逆結界の腕輪で、今まで真の力を封じ込められていたのじゃ。
 しかし、あのもう一体の牛頭ごずの方は… あれはわしにはさっぱり分からんわい…」
賢生けんせいが首をひねって言った。

「お義父とうさま、あれはミノタウロス… ギリシア神話に登場する伝説の牛頭人身の怪物ですわ。でも、なぜアレがこの現代の日本に現れたのかは私にも分かりません…」
美しいまゆをひそめてアテナが賢生けんせいに説明した。

「とにかく、俺には何の事かさっぱり分からないが… あの戦っている化け物どもは二人とも川田明日香あすかを目当てにここへ来たのには間違いない。彼女を渡すわけには絶対にいかない。」
鳳 成治おおとり せいじが誰に言うともなく、固い決意を込めてつぶやいた。


       ********************


 俺達はがっぷり四つに組んで獣人相撲ずもうを…取らなかった。俺は脳みそまで獣人化したわけではない。
 俺は身長180cmに70kgそこそこのスリムな白虎びゃっこで、片やバリーは身長2m60cmに体重も200kgオーバーのバケモノ牛野郎だ。
 不死身の獣人同士でも、こんなにガタイのハンデがあるんだ。まともに組み合うにはが悪すぎる。俺は一計を考えた。
 俺は自分を牛若丸うしわかまるに、バリーを弁慶べんけいに見立てて空中殺法をり出す事にしたのだ。

 突進してくるバリーに対し、俺は自分の考えた策を実行する地点までヤツを誘った。そして頃合ころあいを見計らって俺からもヤツに突進した。
 お互いの地響きを立てての突進の末、激突する寸前に俺はバリーの角を両手でつかんで大地を力一杯った。器械体操の鞍馬あんばの要領だ。
 俺自らの突進からの跳躍にバリーが角で俺を上に突き上げようとする力も加わり、俺の身体は体操選手のように軽々と上空へとね上がった。
 ね上がった先には俺の計算通り、さっきバリーが俺を叩きつけた庭木の大木があった。俺は目を付けていた大木に張り出した大ぶりの枝に飛びつき、鉄棒の様に身体を大車輪で回転させながら自分の飛んでいく方向をバリーへと向けて微妙に修正した。
 鉄棒での大車輪の回転エネルギーがさらに加わった俺は、バリーの背中に体重と落下速度を加えた両爪先蹴つまさきげりを一気にお見舞いしてやった。
「喰らえ! 化け物っ!」

「ブモオオオッ!!」
 今度はさっきの千寿 理せんじゅ おさむとしてのりではない。重力加速度にプラスして、白虎びゃっことしての俺の桁外けたはずれの超人パワーを加えた両爪先蹴つまさきげりだ。しかも、俺の爪先つまさきには必殺の鉄板が仕込んである。
 俺の両爪先つまさきは、見事にバリーの背中から厚い胸板までを文字通りつらぬいた。ヤツの胸からは俺の両足の爪先つまさきかかとまで「コンニチハ」と顔をのぞかせていた。
 だが、俺は再びヤツの強靭きょうじんな筋肉に両足をとらわれるを二度と犯すつもりはなかった。 俺は結果に満足することなく、すぐさまバリーの肩に両手をかけて踏ん張り、突き抜けた両足をヤツの身体から引き抜いた。

 そして両脚の引き抜きぎわに、俺はたくましく太いヤツの左のつのの付け根にカブリついた。

「ブッ、ブモウーッ! ブモーッ!」
 バリーは途轍とてつもない激痛が走ったようだ。激しい絶叫を上げながら、必死に巨体を激しくり動かして俺を振り落とそうとする。
 だが、俺も怪力なら負けはしなかった。ヤツの左のつのをつかみながら、噛みついた牙を決して離さずに砕けよとばかりにみしめた。

「バキ、バキッ、バキバキバキッ!」
 獣人化した俺のたくましく発達した白虎びゃっこあごと牙でくだけぬ物など、この世に存在しなかった。

「メキッメキメキッ! ブチブチッー!」
俺はみ砕きながら、怪力でバリーの頭から左のつのをもぎ取った。

「ブッ、ブモオオオッ… ゴフッ、グボッ!」
 今度はバリーが絶叫を上げながら大量の血の泡を吹き出した。
 当たり前だ…俺の両足は確実にヤツの心臓と肺をつらぬき、頭からは角の一本を根元から食いちぎったのだ。俺は引きちぎったヤツのつのを遠くへ放り投げた。

「さあ、これでも再生するか…? ミノタウロスさんよ…」
俺はそう言いながらも油断はしなかった。注意深くヤツの様子をうかがう…

「ズシーンッ!」
すごい地響きを立てて、バリーの身体が地面に倒れ込んだ。
さすがのヤツも立っている事は出来ない様だった。
「ブッ、ブモモウーッ! グフッゴボボッ!」
 そして両手で俺につのをもぎ取られた左の頭部を押さえて血を吐き、わめき散らしながら地面でのたうち回った。

その時、大声で俺に呼びかける者がいた。
「白虎よう! そやつの身体に逆五芒星ごぼうせいしるし何処どこかにあるはずじゃ!それを探すのじゃ!」
振り返ると榊原家の軒下にたたずむ三人の姿があった。
 俺の旧友鳳 成治おおとり せいじに、ヤツの義姉である榊原さかきばらアテナ、そして今大声で俺に呼びかけてきた安倍賢生あべの けんせいの三人だった。
あいつら、戦いの一部始終を見てやがったのか… まあいい…

 俺はジイさんに言われた通りに、倒れたバリーの身体に逆結界のしるしを探そうとした。すると、その時だった…

「させるかよ、トラ野郎っ!」
叫び声がしたと同時に俺の右手に何かがすごい勢いで巻き付いてきた。
 それはライラの手にしたむちだった。俺の右腕に巻き付いたむちをよく見ると、皮でまれた表面に金属製の鋭く細かい刃がびっしりと無数に埋め込まれていた。
 この鞭を、ライラの目にも止まらない高速の鞭捌むちさばきで身体に喰らったら、文字通りズタズタに切り裂かれるだろう。
いや、四肢ならば簡単に切断されてしまうに違いなかった。

しかし、ライラにとっては相手が悪かった…
 今の俺は、最強無敵の獣人である不死身の白虎びゃっこだったのだ。ライラのむちに巻き付かれ切りかれた俺の腕はすぐに再生し傷がふさがった。俺にとっては痛くもかゆくもなかった。
 俺は右手に巻き付いているむちを軽く引っ張った。俺にとってはほんの軽くだ。

「キャアッ!」
 意外に可愛い悲鳴が聞こえると、むちはライラの手を離れて俺の手元へ飛んで来た。
「バキバキッメキメキメキ! ブチブチッ!」
 俺は白虎びゃっこ強靭きょうじんあごと歯を使って、ライラのむちを使えないぐらいに破壊してバラバラに引きちぎってやった。
 これで少しはオイタが止むだろう。もっともライラの美しくずるがしこい顔は、そうは言っていない様だったが…

 俺はそれ以上はライラを無視して、バリーの身体に逆五芒星ごぼうせいの印を探す事を再開した。
 何てことだ… もうバリーの背中から胸に俺の貫通させた穴がふさがり始めていた。まったく、コイツの不死身さ加減は俺に匹敵しやがる…
 だが、不思議な事に…ヤツの頭からもぎ取った左のつのだけは再生しない様だった。
 俺はその事実を不可解に思いながらも、必死にバリーの身体中をまさぐって探し続けた。

「あった…」
 それはバリーの左足首に巻かれていた。俺がつけていたのと同じ様な黒玉の数珠じゅずをつなぎ合わせたアンクレットだった。
数珠じゅずの表面には、俺には読めない文字と逆五芒星ごぼうせいの記号がきざみ込まれていた。

「やめろーっ!」
ライラの悲痛な叫び声があたりにひびき渡った。

俺は躊躇ためらうことなく、バリーのアンクレットを引きちぎった。
 すると、目に見えるほどの速度でふさがろうとしていたバリーの胸に開いた穴の再生修復がまった。
 バリーの顔に目をやった俺は、ヤツのグレーをした目にともっていた命の炎が完全に消えるのを見た。
 本当にようやく… あの無敵のタフさをほこったミノタウロスのバリーが死んだのだ。俺は心底、安堵あんどのため息をついた。こんな野郎には満月以外で絶対に出会いたくは無かった。

「バリーッ! ううう… よ、よくも… よくも、バリーを…」
 いつのまにか俺の横にライラが立っていた。この俺に気配を感じさせる前に忍び寄るとは、この女…

 ライラはバリーのそばにひざまずき、あやしくも美しいほほを涙で濡らしていた。この女は残虐ざんぎゃくだが、見とれるほど本当に美しかった…
 ライラは何を思ったかバリーの残った右のつのを左手でつかみ、手刀にした自身の右手でバリーの首を切断した。
 あれほどの強靭きょうじんな筋肉のヨロイをまとっていたバリーの首を、ライラは易々やすやすと素手の右手一本で切断してしまったのだ。

 そして、血のしたたるバリーの首を胸に抱きしめたライラは俺の方に向き直り、うらみと激しい憎悪で燃えた瞳で俺をにらみつけながら言った。

「おのれ…白虎びゃっこ… このうらみは決して忘れない… この借りは必ず何倍にもして返してくれる… 忘れるな!」
言い終わったライラの姿は消えていた、バリーの首と共に…

「本当に恐ろしいのは、バリーよりもライラの方かもしれないな…」
俺は風にただよううライラの香りをぎながらつぶやいた。

俺は落とし前を付けるために、先ほどの三人の前に一気に跳躍ちょうやくした。
今の俺には20mくらいなら助走無しでもべるのを証明して見せた。

 三人は一瞬で俺が目の前に現れたのに、たじろいだ様だ。俺はまだ白虎の姿のままだった。

「さて… アテナさん、逆結界の腕輪とやらの落とし前を付けさせてもらおうか。」
 俺は他の二人には目もくれずに榊原さかきばらアテナの前に立ち、その神々こうごうしいばかりに美しい顔をにらみつけた。
 だが驚いた事に、この俺の魔獣の様な白虎びゃっこの姿でにらみつけられても、榊原さかきばらアテナは一瞬たりとも青くんだ美しい目をらさずに、真っぐに俺の目を見つめていた。
しかも彼女は震えもしていなかった。

 これには俺の方がたじろいでしまった。
『この女… 美しいばかりじゃないぞ… ただ者じゃない…』
 だが、俺もここで引くわけにはいかない。俺は自分より小柄こがらな女を、じっと見下ろした。

「まあまあ、待て待て… 白虎びゃっこよ、あの腕輪うでわはわしの差し金なんじゃ。アテナさんはわしに頼まれてお前さんに渡しただけじゃよ。」
 鳳 成治おおとり せいじの親父が、あわてて俺と榊原さかきばらアテナの間に割って入って来た。
 正直言うと、俺はじいさんのおかげで『助かった…』と思った。この美しい白人女はどうにも調子が狂っちまう… 俺はこの手の女は苦手だった。

 俺は本心を表情に出さずに老人の方に向き直り、おどかすつもりでうなり声を上げてやった。
「何だと、ジジイ… てめえが俺に孫悟空そんごくうっかみたいなもんを付けさせやがったのか!」
 俺は自分より二回りも小さな老人に向かって本物の虎のきばき出して怒鳴りつけたが、自分が下級生にカツアゲをしてる不良学生になった様で、曲がった事の大嫌いな俺は内心では気分が滅入りそうだった。

 だが、おかしな事にこの老人も平気な顔をしてやがる。俺が文字通りの化け物ヅラでおどしても、この家族は一向に平気な様だった。誰も怖がってくれないお化け屋敷の幽霊ゆうれいの気分だ。
 アホらしくなった俺は白虎びゃっこの変身を解き、人間である千寿 理せんじゅ おさむの姿に戻った。

「お前さん達は、俺の獣人の姿が怖くないのか?」
 俺の質問におおとりの親父は始めは鼻で笑っていたが、だんだんと笑い声が大きくなり、大笑いに変わっていった。

「はっはっはっは! こりゃいい… これはけっさくじゃ! うっひっひ… ああ、腹が痛い… プックックック!」
このじいさん、本気で涙が出るほど笑ってやがる…

「何がそんなにおかしいんだ…? じいさん、気でも狂ったか?」
 俺は助けを求めるような顔つきになって、鳳 成治おおとり せいじ榊原さかきばらアテナの二人を交互に見た。
二人は少しだけ笑って肩をすくめている。

 しばらくして、じいさんの笑いが治まってきた。そして完全に治まってから、この老陰陽師おんみょうじは話し始めた。





《次回予告》
 激しい死闘の末、自らも不死身の獣人と化して強敵ミノタウロスを倒した風俗探偵、千寿 理せんじゅ おさむ
彼に仕掛けられた逆結界について、大陰陽師おんみょうじ安倍賢生あべの けんせいが真実を語り出す。
次回、第10話「探偵に仕掛けられた逆結界とは…」にご期待下さい。
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