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第4話「暴力団事務所壊滅、カブキ町に現れた化け物との激闘!」

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「…いかがです、所長?」
何度か風祭かざまつり聖子に問われた俺は、ハッと我を取り戻した。

「ああ… 間違いない、これは俺の旧友の鳳 成治おおとり せいじだ。年は取ってるが、この俺がヤツを見間違える訳が無い。」
 俺はパソコン画面上に、鮮明に引き延ばして映し出されたおおとりの顔を見続けながら聖子に答えた。

「では… 依頼人の川田氏から要請のあった捜索対象の川田明日香あすかが、この日時にこのラブホテルで千寿せんじゅ所長の親友だった鳳 成治おおとり せいじに同行していた事が判明しましたね。」
聖子は俺に確認する様に言った。

「ああ、その通りだ。二人がどういった経緯で知り合った仲かは知らんが、年の離れたカップルではあってもラブホテルに二人でいたんだ。赤の他人という事はあるまい。川田明日香あすかの失踪に鳳 成治おおとり せいじからんでることは間違いない。」

「その様ですわね。では、川田明日香あすかの行方が不明な現在の状況では、鳳 成治おおとり せいじを当たるのが最善の方法となりますね。」
 聖子の意見に俺は異存いぞんは無かった。だが、私情をはさむのが厳禁な俺の探偵稼業では、この場合に俺自身が失格となってしまうのを否定出来なかった。それは聖子も十分に分かっているはずだった。

「お前さんの言いたい事は痛いほど分かってるつもりだ。だが、今回の依頼が川田明日香あすかを両親の元に連れ戻す事である以上、明日香あすかの失踪の原因となったのが俺の旧友であったとしても、俺は手を抜くつもりもヤツに容赦ようしゃするつもりもまったく無い。
 これは俺の探偵としてのちっぽけなほこりにけてちかうよ。それでいいかい…?」
俺は聖子の目を真正面から見つめて言った。

「結構ですわ、千寿 理せんじゅ おさむ探偵事務所長さん。私は所長であるあなた専属の秘書ですから、今回の依頼の結果がどのように出ようともどこまでもお付き合いします。ですので、所長ご自身も覚悟を決めて仕事をなさって下さい。」
 俺にとっては、これ以上ない応援だった。聖子の手助けがあれば、俺に怖いものなど無かった。

「では、所長… 二人の足取りを追って見ましょう。ラブホテルの外に出た二人を、街中まちなかに仕掛けられた監視カメラの映像を切り替えながらリレーして追跡します。」
 聖子は驚くようなことを平気で言った。警察が犯罪者の追跡に使う手段だとは俺も知っていたが、民間人にそんな事が出来るのか…という疑問は、聖子に対しては考えるだけ無駄だった。
 何しろ無敵のスーパーハッカーなのだから、聖子の手にかかれば警察と同様の追跡などは何ほどの事もあるまい。そう思った俺は聖子に対してうなずいて見せた。

「それでは、開始しますね。」
 聖子はそう言うと、パソコンのキーを目まぐるしく叩き始めた。まるでピアノの演奏のように美しくなめらかな指使いだった。
 すると、パソコンの画面上には街中の監視カメラによって様々な角度で撮影された二人の姿が映し出され、次々と監視カメラが切り替わっていった。ある時は横から、またある時は背後からと二人は常にカメラの一部に映っている。
 たいしたものだ…俺は聖子のテクニックに見れながらも、二人の姿を映し出す画面に見入った。

 画面には俺の庭の様に見慣れたカブキ町のゴミゴミとした街並みが映る。どこを通っているのかは俺には全てわかった。見覚えのある風俗店が立ち並び、顔を見知った呼び込みの兄ちゃんや、立ちんぼのネエちゃんも映っていた。そんな連中の中を通り抜けた二人は大通りに出ると、手をげた鳳 成治おおとり せいじが流しのタクシーをつかまえて乗り込んだ。

後はタクシーの追跡だが、聖子はすぐに思い付いた事を俺に言った。
「所長、このタクシー会社の業務用パソコンにアクセスして、このタクシーの運行履歴を調べます。この時間この場所から乗せた客を、何処どこまで運んだか調べ上げます。」

「ああ… 頼むよ…」
 俺はただ見ているだけだった。聖子が次から次へと手段を講じて目当ての二人を追いつめていく。彼女は頼りになることこの上ない、まさしくスーパー秘書の面目躍如めんもくやくじょといったところか。

「所長、二人の行き先が分かりました。これは…大田区田園調布にある…安倍あべの神社ですね。」
 聖子の言った『安倍あべの神社』という言葉に俺は反応した。それは鳳 成治おおとり せいじの実家の裏にある、ヤツの親父さんが宮司ぐうじを務める陰陽道おんみょうどうの神社だった。
 ヤツは何でまた自分の実家に川田明日香あすかを連れて行ったんだろうか…?
俺は自分の知っている事を聖子に説明した。

「それは奇妙ですね… おおとりが課長として勤務する内閣情報調査室の特務零課とくむぜろかが絡んでいるのなら、相応の対応として川田明日香あすかを然るべき施設に収容するはずですよね。それがどうして自分の実家に…?」
聖子は俺が持ったのと同じ疑問を口にした。やはり彼女は優秀な秘書だ。

「そうなんだ、俺も安倍あべの神社にはガキの頃に行ったことが何度かある。鳳 成治おおとり せいじと遊びにな。しかし、この事実からしておおとりが川田明日香あすかを連れ回したのは、特務零課とくむぜろかの課長としての任務とは別に、ヤツが動いたんだとは考えられないか…?」
俺は聖子に自分の考えを伝え、彼女の答えを聞いてみた。

「そうですね… 恐らく所長の考えは正しいと思います。ただ、安倍あべの神社に川田明日香あすかを連れ込んで、鳳 成治おおとり せいじはどうするつもりなのかは想像もつきませんね。」

 聖子の戸惑とまどいは至極しごく当然なものだった。旧友の俺にだって鳳 成治おおとり せいじの考えが全く読めないのだから…
俺は座っていた椅子から立ち上がって聖子に告げた。

「まっ、考えてたってらちが明かないだろう。シズクが二人に出会ってから5日つんだ。あれからどうなったのかは分からないが、こうなったら安倍あべの神社を当たってみるしかあるまい。ここからは俺の出番だ。現場に行って見るさ、ガキの頃の懐かしい神社にな。」
俺はそう言って自分の上着と帽子を取り上げて身に着けた。

「私は鳳 成治おおとり せいじについて、もっと調べてみます。判明した情報に関しては、随時ずいじ所長のスマホに転送しますので。」
聖子は俺を見上げてそう言った。

「ああ、頼むよ。それじゃあ、俺は自分らしいやり方で依頼を解決しに行って来るか。」
 俺は聖子にかぶった帽子を持ち上げて笑顔でうなずいて見せた。そしてドアを開けて外に出た俺は、事務所のある『wind festivalかざまつり』ビルを後にした。

 俺はカブキ町内では車は使わない主義だから、徒歩とほで風俗街を歩いた。夜になるとけばけばしい看板が所狭しと並ぶこの街も、真昼間では大人しいもんだ。昼間から営業している店もあるのだが、この街は夜こそ真価を発揮する。

「あーら、オサムちゃんじゃないの。昼間っからどこ行くのヨ。アタシといい事しようよ、ねえン♡」
 これは、おかまバーのアケミだ。営業前なのでスッピンのままで俺の腕にからみついて来る。近くで見るとひげが濃いくせにっていないらしくて青々あおあおとしてやがる。オマケに上腕は俺の太ももくらいの太さがある、筋肉ムキムキのおかま野郎だ。スリムな俺よりずっとガタイがいい。

「今日は仕事で急いでるんだ、アケミ。また今度な…」
俺はアケミのぶっとい腕をやんわりと払って身体を離した。

「あんもう、今度キレイに髭剃ひげそって化粧しとくからウチの店にくんのヨ、アタシがオサムちゃんを可愛がってあげるからネン♡」
 アケミのヤツ、俺に投げキッスしてやがる… アイツはいいヤツなんだが、残念ながら…俺にそっちの趣味は無いんだ。

「オサムちゃーん、今夜ウチに来んのよう!」
「オサムちゃん、タダでいいから抱いてよう!」
「オサムー! 寄って行かねえかっ! 一緒に飲もうぜっ!」

 俺が通るといろんなヤツから声がかかった。ありがたい事に、俺はこの街では人気者らしい。女も男もオカマもオヤマも、この街の連中はみんな俺の仲間で身内のようなものだった。

 しばらく歩いてると、突然ビルの二階の窓から男が窓ガラスをぶち破って、おれの2mほど先の道路に落ちてきた。まったく騒々そうぞうしいヤツだ。
 だが、落ちてきた男は顔が変形してつぶれていた。これは落ちたからつぶれたのじゃなく、頭をつぶされた後で二階から飛ばされてきたのだ。いったい何でなぐられたらこんな風に人間の頭がつぶれると言うんだ… 男は当然のように、倒れたまま動かなかった。即死だったろう…

 窓ガラスの割れた二階を見上げると、このあたりを仕切っている暴力団で海援組かいえんぐみの事務所だった。
 前に賭博とばくで警察のガサ入れがあったり、町のうわさでは覚せい剤の密売もやってかせいでいると評判だった。この街に迷惑をかける俺の嫌いな連中だった。俺は構成員のヤツらを何度かぶちのめしてやった。

 だが、今日の海援組かいえんぐみ事務所の様子は明らかにおかしかった。
 落ちてきた男は右手にドスをにぎったままだった。血はついていない様だが…となると相手は刺される前にこの男を殺したのだ。いったい二階で何が起こってるんだ…?

「化け物だあっ!」
「助けてくれえっ!」
「チャカだ、早くチャカで撃たねえかっ!」
二階から悲鳴と怒号が聞こえてきた… それに続いて…

「ドギューンッ!」「ドギユーンッ!」
アイツら、まっ昼間から街中まちなかのビルで拳銃を撃ちやがった。
 どうやら、組事務所はかなりヤバい状況の様だった。俺はほうって置けばいいものを、持ち前のお節介せっかい焼きの血が騒ぎだし、気が付くとビルに飛び込んで階段を二階へ駆け上がっていた。

「ぎやあっ!」
 俺の前には目を疑う光景が展開されていた。部屋の中央に、文字通りの化け物が全裸姿で仁王立ちに立っていたのだ。化け物は2mを越える巨体で全身の体表面は青一色いっしょくだった。つのこそ無かったが、まるで絵本に出てくる青鬼あおおにそのものだった。

 化け物は右手一本で若い組員の頭をにぎって軽々と持ち上げ、天井にその組員の背中を押し付けていた。持ち上げられた組員は左手で化け物の腕をきむしり、右手に持った拳銃で化け物を撃ちまくっている。だが化け物は数発の弾丸を至近距離から胸や腹に食らいながら、何も感じないかの様に立ち続けている。
 組員の撃っている拳銃はヤクザ御用達ごようたしでおなじみの中国製54式自動拳銃で、9mm弾を撃てるよう改良されているようだ…あんな物を至近距離で数発もらって普通の人間なら無事なはずが無かった。
そして…

「グシャッ!」
 胸が悪くなる嫌な音が聞こえた。化け物が組員の頭を右手だけでにぎりつぶしたのだ。

「うわあっ!タケシっ!」「よくもタケシをりやがったな!」「このバケモンがあっ!」
 口々に叫んだ3人の組員が手に手にナイフやドス、日本刀を持って化け物に突進した。
「グサッ!」「ブスッ!」「グシュッ!」
 3人は三方から化け物の身体にそれぞれの得物えもの深々ふかぶかと突き刺した。化け物は立ちつくくしたまま、三本の刃物が刺さった自分の身体と刺した連中の顔とを交互に見比べていた。そして信じられない事に、青鬼の様な顔で口元をゆがめてニヤリと笑ったのである。
 3人の組員達は次の瞬間、自分達の身に何が起こったのか知らないままに生きえていた。
 化け物がかこんでいた3人に向けて右腕を大きく振り回したのだ。巻き込まれた組員達は一人は頭を粉々こなごなに吹き飛ばされて、二人目は胴体を腹で両断されていた。そしてもう一人はすさまじい勢いで壁にたたきつけられて、頭が肩まで壁にめり込んでいた。

俺はこのすさまじい殺戮さつりくの光景を見て、ただ茫然ぼうぜんとしていた訳ではない。
 俺は即座そくざにズボンのポケットに入れてあった小銭入れから、入っていた硬貨を全て取り出して左手に握りしめた。そして右手と均等な数に分けてにぎり、まず右手の親指と人差し指ではさんだ十円玉を強靭きょうじんな親指の爪先つめさきを使って、化け物に向けてはじき飛ばした。
 銃弾のような勢いで飛んで行った十円玉硬貨は俺のねらい通り、化け物の左目に見事に硬貨全体が突き刺さった。不死身らしい化け物も、さすがに左目を押さえて叫び声を上げた。
「グワオッー!」

いけるぞ…
 俺は今度は左手の親指で同様に十円玉をはじき飛ばして、今度は化け物の右目をつぶした。これには、さしもの化け物も両手で顔を押さえてわめらしながら膝をついた。

 俺が使ったわざは『指弾しだん』である。中国武術で用いられる技だが、俺の強靭きょうじんな親指でり出される指弾しだんは拳銃並みの威力を持つ。自動車のボディーなどは易々やすやすと貫通させられる。しかも俺は基本は右きだが、両手とも強力な指弾しだんはなつことが出来るのだ。
 つまり、俺は拳銃など無くても硬貨さえあれば人だって殺せるのだ。だから俺は電子マネーなどは使わない。いつもニコニコ現金払いで、釣銭つりせんジャラジャラは大歓迎さ。
 警察に見られたら俺の両手と小銭入れは、銃刀法違反で取りまられる事だろう。

 冗談はさておき、これで化け物は両目が見えなくなったはずだ。俺はゆっくりと化け物に近付いた。化け物は俺の接近を待っていたかのように、3人の組員を一瞬で殺戮さつりくした右腕を長いリーチを生かして、目にも止まらぬ速さで振り回した。
 俺は化け物の攻撃よりも素早く左あしで床をって飛び上がり、化け物の攻撃をかわしながら、大きく振り回した右足を化け物の頭部にたたき込んだ。これも中国武術のり技である『旋風脚せんぷうきゃく』だった。
「グジャッ!」
 嫌な感触だった… 俺の旋風脚せんぷうきゃくは見事に決まり、化け物の頭の半分が粉々にはじけ飛び、ヤツの頭蓋ずがい骨の破片と脳漿のうしょうを派手にまき散らした。俺の靴は攻撃用に鉄板が仕込んである特注品だ。必殺の攻撃武器となる。コンクリート製の電柱だってへし折ってしまう。

 さすがに、俺の必殺の旋風脚せんぷうきゃく上顎うわあごから上の頭部を失った怪物は、倒れ伏して二度と動かなかった。
 すると、どうした事だ… 化け物の2mを越えていた青鬼あおおにの様な身体が縮み始め、通常サイズの肌色はだいろをした男の身体に変化した。
 いや…元に戻ったと言うのが正しいのかも知れない。おそらく、この化け物は元々人間だったのだろう… 死んだ事で元に戻ったのだ。

 しかし、危なかった… 俺だから倒せたが警官隊などがけつけていたなら、大混乱を起こして下手へたをすると全滅していたかも知れなかった。

 ふうう… 俺は訳が分からないままに、吐息といきをついて組事務所を見回した。まさに惨劇さんげきだった。組事務所にいた全員が命を落としたのだろう… と俺が思ったその時、部屋の中で「ガタガタッ」と音がした。この事務所の組長の物らしい机の方からだった。
 俺は硬貨を両手に握りしめていつでも『指弾しだん』を撃てるようにしながら、ゆっくりと机を回り込んだ。すると、引き出された椅子の奥に人が一人ふるえながら隠れていた。どうやら女の様だった。

「机に隠れているヤツ… 出てこい、ゆっくりとだ…」俺は指弾しだんを机に向けて構え、隠れている女に呼びかけた。

 ガタガタと机をらしながら女が尻から先に出てきた。女の服は引きちぎられてボロボロだった。可哀かわいそうにショーツはいていなかった。みひとつ無い、形のいい尻は若い女のモノだった。ゆっくりと出てきた女の身体は、恐怖のためか激しくふるえていた。歯の根も合わないのだろう…女の歯はカチカチカチと鳴り続けていた。

そして半裸はんらの全身を現した女を見た俺は、衝撃を受けた。
 なんと… 机から出てきた女は、午前中ずっと俺の事務所にいたシズクだったのだ。
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