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第6話「どうしても南へ行きたいんだ…④『絶対、生き延びるんだ!』」
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「ダメだ… エンジンの音がおかしくなってきた。ガソリンスタンドまで、もう少しだっていうのに…」
運転している伸田 伸也が絶望したような声で、車内にいる全員が聞きたくなかった現実問題を告げた。
「もう…ガソリンが完全に無くなったのね、ノビタさん。」
伸田の恋人であり助手席に座る皆元 静香が、隣りで運転する伸田に向かって囁くような小さな声で言った。彼らのすぐ背後のセカンドシートにいる水木エリと、彼女の恋人で左腕を切断され失血で意識を喪失している幸田剛士に悪い話を聞かせたくなかったのだ。
彼ら4人の生存者と犠牲者となった須根尾 骨延の遺体が乗る車の屋根の上からは相変わらずギシギシという軋み音と、「パンッ!パンッ!パンッ!」という須根尾の恋人で山野ミチルという仲間の女性を犯し続ける音が鳴り止まずに続いていた。
だが、さっきまでフロントガラスの上部から覗いていた、ミチルの血まみれの顔と両手は屋根の上に引き上げられ、車内にいる者達の視界から消えていた。
ヒッチハイカーが自分の逞しい下半身をミチルの肉体に繰り返し打ちつける激しい打擲の音のみが吹雪の音に混ざって聞こえてくるだけで、先ほどまで上げられていたミチルの泣き声も苦し気な呻き声も今では聞こえなくなっていた。
「ミチルちゃん、大丈夫なのかしら… 声が聞こえなくなったけど…」
友人の身を案じた静香が不安に満ちた目で天井を見上げながらつぶやいた。
「分からない… 声がしなくなったのが、彼女が意識を失っただけならいいんだけど…」
口ではそういったものの、伸田はミチルの生存を絶望的だと思っていた。
『この厳冬の山中で裸にされたままの人間が、走行中の車の上で吹きっ晒しの吹雪の中を生きていられる筈がない…』
伸田だけでなく、静香にしろ剛士を介抱中のエリにしろ口にこそ出しはしなかったが、内心で思っている事は皆同じだった。誰もがミチルの生存は絶望的だと思ってはいても、その恐ろしい現実を自分で口にする事が怖かったのだ。
ミチルの恋人であり、伸田にとっては幼い頃からの親友でもあった須根尾の命を無残に奪ったヒッチハイカーが、彼に続いて恋人のミチルの命まで奪い去ったという悲しくも残酷な現実に目を瞑る訳にはいかないだろう。
しかし、今は自分を含めて生きている4人の生存を何よりも優先させなければならない。特に出血多量で刻一刻と衰弱《すいじゃく》しつつある剛士を、一刻も早く救急医療施設に運び込まなければならないのだ。剛士の命は、まさに風前の灯火だったのだから…
「とにかく…ヤツから逃げ切ってジャイアンツを病院に連れて行くためには乗り物が必要なんだ。この車のガス欠を何とかするか、他に走れる車を見つけなきゃならない。どっちにしても、炎上中のガソリンスタンドまで戻れば何とかなるかもしれない。
あのガソリンスタンドまでは下り坂だから、なるべくアクセルを踏み込まずに、このまま惰性で走れる所まで走らせてみる。」
カーブの多い山道を前方を見て慎重に運転しながら、伸田は助手席に座る静香に自分の考えを伝えた。
「それからどうするの? あのヒッチハイカーが、また襲って来るかも知れないわ…いえ、きっと襲ってくるわ。そう思って戦う準備をしておかないと。」
走行中の車の屋根の上でミチルを犯し続けるという蛮行を止めようとしない、常軌を逸しているとしか思えない狂ったヒッチハイカーに対する恐怖の最中にあっても、静香の目には微かではあったが戦う闘志のような強い光が垣間見えた。
伸田は、そんな勇敢な自分の恋人を心から誇らしく思った。
幼少時から臆病でグズでノロマだと言われ続けてきた自分の事をどんな時でも見捨てる事無く、いつも庇い励ましていてくれた女神のような存在…その慈愛に満ちた女性が信じられない事に、今では自分の恋人なのだ。
この愛する静香だけは、自分の命に代えても守らなければならないと伸田は心に誓った。
「ガタンガタン…プスン…プスン…」
伸田達の乗る車に、とうとうガス欠による限界が来たようだった。エンジンが死ぬ間際の喘鳴の様な憐れな音を発し始めていた。
伸田が運転する車は、先ほどようやくたどり着いたのに屋根に乗ったヒッチハイカーを振り落とすために遠ざかるしか無かったガソリンスタンドの付近まで再び戻って来たのだった。
黒煙を雪空に巻き上げ夜の山中を明々と照らしながら、まだ勢いよく燃え続けているガソリンスタンドまで100mほどの地点で国道はスタンドへ侵入する道へと分岐しているのだが、進入路に入ってわずか数mの地点で下り坂が終わり、後は平坦な道になる。その平坦な進入路に入った時点で遂にエンジンが終焉を迎え、惰性で続けていた車の走行も完全に止まってしまった。
「ここまでだ…」
ヒッチハイカーによって割られた後部と左中央部の2枚の窓から吹雪が入り込み、ヒーターの切れた車内は外気温と同程度まで冷え切っていたのだが、額に汗を浮かべた伸田が皆に告げた。
「いいえ… ここまでよく頑張って走ってくれたわ、車もノビタさんも。」
静香が両手で伸田の左手を握りしめながら、恋人である彼の健闘を称えた。
「そうだよ、ノビちゃんはよく頑張ってくれたよ…」
セカンドシートで、両腕に出血多量ですでに意識の無い恋人の剛士の身体をしっかりと抱きしめて自分の体温で温めてやりながら、エリが弱々しい微笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、シズちゃんにエリちゃん…
でも…ここからは、もうこの車は使えないんだ。それに、今も屋根にいるアイツを何とかしないと…」
そう言って伸田は天井を見上げた。
「パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!」
まだ裸の肉体同士を打ち付け合う卑猥な音が屋根越しに休む事無く聞こえ、停止した車体が激しい動きのためにギシギシと揺れている。
ヒッチハイカーは止まった車の屋根の上で、まだミチルの身体を犯し続けている様だった。走行中の車の屋根の上で裸に剥かれた姿で真正面から吹き付ける吹雪を直接浴び続けたミチルは、すでに寒さで凍死していてもおかしくはない。
つまりヒッチハイカーは、息絶えたミチルの死体を自分が満足するまで犯し続けているのだろう。自分本位の情け容赦の無い死姦だった…
前途ある青年の須根尾を惨殺し、その恋人のミチルまでを死に至らしめ、なおかつ彼女の遺体を自分の性欲を満たすためだけに冒涜し続けている… 意識の無い剛士を除いた全員がヒッチハイカーに対する怒りと悔しさで、それぞれに唇を噛んだり歯ぎしりをしながら寒さと共に憤りに身を震わせ続けていた。
「とにかく、ここで寒さと恐怖に震え続けていても仕方が無い。僕が歩いてガソリンスタンドまで行く。炎上してるけど、全部が燃えてる訳じゃない。そこで町まで連絡する手段と、みんなが避難出来る場所が無いか探して来るよ。
それに、可能なら僕がそのまま囮になって、この車からヤツを引き離す。エリちゃんとシズちゃんは車内でジャイアンツの事を頼んだよ。」
伸田が女性二人の顔を交互に見ながら自分の考えを告げた。
「ノビタさん、私も行くわ。」
静香が伸田の肩に手を載せ、彼の目を覗き込むように見つめて言った。
「だ、ダメだよ…シズちゃん。とても危険なんだ。」
伸田は静香の両肩を掴んで、寒さと不安のために蒼白になっているにもかかわらず美しい彼女の顔に向かって強く訴えた。
だが、伸田は静香の美しい瞳の中に断固として譲るつもりの無さそうな強い意志の光を見て取ると、幼い頃から彼女の性格を熟知しているだけに、それ以上の説得は無駄だと知って諦めざるを得なかった。
彼は幼少の頃からの付き合いに加え、恋人として他の誰よりも彼女の正義感と意志の強さを深く理解していたのだ。
自分の恋人である皆元静香という女性は一見儚げな美しさの外見とは裏腹に、一度自分が決めた正しいと思う事は他の誰が何を言っても曲げない強い意志の持ち主だったのだ。
「分かったよ… じゃあ、二人で行こう。エリちゃん、君一人になってしまうけど、ジャイアンツの事を頼めるかい?
必ず僕達が助けを呼んで、救援が来るまでの安全な避難場所を見つけて来る。」
静香と二人で炎上中のガソリンスタンドまで行く事を決意した伸田は、セカンドシートに座って恋人である剛士の意識の無い身体を抱いて温め続けるエリに尋ねた。
「ええ、剛士の事は私に任せて。その代わり、必ず二人で助けを呼んで来てちょうだい。私はここで剛士を守っているわ。今、彼を動かす訳にはいかないから…」
エリが伸田と静香を安心させるように決意を固めた微笑みを浮かべて大きく頷いた。伸田は、いざとなると男なんかよりも女性の方が強いという事を目の前にいる二人の女性に改めて思い知らされた。
「エリちゃん、武器らしい物はこれしか無いけど持っていてくれ。それに何かの時はこれを使って…」
そう言った伸田がグローブボックスから取り出した十得ナイフをエリに手渡した。それには刃渡り6㎝のナイフを始めとしてドライバーやコルク抜きが付いている。何も無いよりはましという気休め程度でしか無かったが…
そしてもう一つ、助手席の静香の足元にかがみ込んだ伸田は、車には装備を義務付けられている発煙筒を取り外すとエリの座るシートに置いた。これとて、着火した一瞬だけしかヒッチハイカーを怯ませる役に立たないかもしれない…そう思いながらも、伸田は車内に残して行く二人のために何かしておきたかったのだ。
「ありがと、ノビちゃん。2人とも本当に気を付けてね。あなた達は絶対に死なないで、私達2人のためにも。」
そう言ったエリは、二人に右手を伸ばした。そして伸田と静香と順に強く握手をした後、軽く手を振って二人にもう行くように促した。エリの目には涙が光っていた。気丈にも強い態度を見せてはいるが、彼女の不安な気持ちは察するに余りあった。伸田と静香は、エリを安心させようと二人揃って何度も大きく頷きながら手を振った。
運転席側のドアを静かに開けて、伸田と静香は順に車を出た。そして、そっと後ろ手でドアを閉めた二人はゆっくりと車を離れた。
「パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!」
十数m歩いた地点で伸田が振り返って見ると、忌まわしい事に屋根の上で下半身を丸出しにしたヒッチハイカーが全裸にしたミチルの遺体をバックから犯し続けている。伸田と静香にとって幸いだった事に、夢中で腰を振り続けるヒッチハイカーの背中がこちらに向けられていた。
ミチルには申し訳なかったが、ヤツが彼女の遺体に夢中で腰を振り続けている間は二人に注意が向かないと思われた。大切な仲間の遺体に対するヒッチハイカーの忌まわしい冒涜行為には強い憤りを覚える二人だったが、気付かれない様に注意しながら乗っていた車を後にして静かに歩き続けた。
伸田は炎上しているスタンドへの一本道を歩くのは避け、静香の手を取って道沿いの林に向かった。見通しのいい道路を行くと、車上にいるヒッチハイカーにすぐに見つかってしまう。
夜間の冬の山中を吹きすさぶ吹雪が入り込んで来る林の中を歩く二人だったが、炎上し続けるスタンドの炎のお陰で少しも寒くは無く、明るさに困る事も無かった。年の押し迫った12月下旬の冬の山中で、凍える事を心配しないで済む事が二人には何よりありがたかった。
「ノビタさん、見て!」
興奮した口調で呼びながら、静香が握っていた伸田の左手を引っ張った。振り返った伸田は、左手に握った自分のスマホの液晶画面をこちらに向けて興奮しているいる静香を見た。
「私のスマホ、『圏外』のままなんだけど、Wifiなら使えそうよ。」
今にも飛び上がりそうな勢いの弾んだ声で、嬉しそうに静香が言った。
「本当だ…」
静香のスマホの通信状態を示すアンテナが全開の状態で立っていた。
興奮した伸田は、慌てて自分のスマホも確認してみた。やはり、通信ネットワークは『圏外』の表示のままだったが、このガソリンスタンドが客向けサービスで行なっていると思われる無料Wifiスポットのアンテナは全開状態だった。
スタンドは炎上していたが、施設の全てが燃えている訳では無く、電気も生きていてWifiスポットも正常に稼働している様だった。
そして、ありがたい事に、そのWifiスポットはパスワード無しで誰でも利用出来るみたいだった
「そうか、ここはあのスタンドがサービスでやってる無料Wifiスポットのエリア内に含まれているんだ。きっとスタンド自体は有線で町と繋がってるんだよ。これならアプリを使って救急にも警察にも連絡出来るよ、シズちゃん。」
すでに須根尾とミチルという二人の犠牲者が出てしまっていたが、文字通りに困難な道をここまで来た伸田達二人にとっては、沈んでいた心に光が射した様な気分だった。
「警察にはシズちゃんが連絡してみてくれないか。
まず、友人二人を殺した連続殺人鬼に現在も狙われている事と、命の危機に瀕している重症の被害者がいる現状を警察に報せて、生存者の救援と救急隊を手配してもらうんだ。
僕は、この付近で避難出来そうな安全な所を探してみる。それにヤツに対抗出来るような武器もね。」
伸田がテキパキと自分に対して指示するのを、恋人の静香は可愛らしい口をポカンと開けて聞いていた。
幼い頃から自分が付いていないと、何をさせても危なっかしくてしょうが無かった男だったのに、今回の非常事態を経験した事によってグズでノロマだった伸田伸也は、一気にしっかりとした頼りがいのある青年へと変貌を遂げたのだ。静香にしてみれば、頼りなかった恋人が自分本来の能力に覚醒したように思えて嬉しかったのである。
こんな際に不謹慎だったが、伸田の男としての頼もしい変化を静香は恋人として好もしく思った。
「分かったわ、ノビタさん。」
自分を見つめながら静香が嬉しそうな声で返事をするのを、不思議そうな表情をした伸田が見返した。すると、静香の顔に愛らしい微笑が浮かんでいるので、訳の分からないながら伸田もつられて笑ってしまった。
「何だい?」
「ふふふ、何でもない。」
伸田の問いかけに静香は小さく笑って首を左右に振った。
林を抜けてスタンドへ向かう前に、伸田はエリ達を残して来た自分の車の方を振り返った。
「うっ! シズちゃん、車の屋根の上にヤツの姿が無い…」
「えっ?」
伸田の言葉に、自分でも車の方を見た静香も同じ光景を認めた。
「あの男…どこに行ったの? 酷いわ、何て事を… ミチルちゃんの身体が裸のまま車の横に放置されてる…」
静香の言った通りだった。ついさっきまで、ミチルの遺体を死姦し続けていたヒッチハイカーの姿は無く、無残にもミチルの遺体は遊ぶのに飽きた壊れた玩具の様に、全裸のまま凍てついた地面に捨てられていた。
「ああ、惨い事をしやがる… ミチルちゃんはスネオにお似合いの可愛くていい娘だったのに。恋人同士の二人が揃って、あんな残酷な殺され方をするなんて…
そうだ、エリちゃんとジャイアンツは大丈夫なんだろうか…?」
伸田の頭に恐ろしい想像が浮かび、同じ様に不安げな表情で自分を見つめる静香の顔を見返した。すると、彼女の目にも自分と同様の恐怖の色が浮かんでいた。
「シズちゃん… とにかく僕達はヤツに用心しながら、さっき言った事を実行するしかない。行こう!」
伸田は不安そうな静香を励ますように力強い声で言った。
「分かったわ、ノビタさん。行きましょう。
あの可哀想な二人の恋人達は、必ず丁重に弔ってあげましょうね…」
そう言いながら自分達の車に背を向けた静香の目には涙が光っていた。
「ああ、もちろんだよ。」
力強く頷き返した伸田は、心優しい恋人のほっそりとした左手をしっかりと握りしめ、用心して何度も周囲を見回すと、炎上の続くスタンドの敷地内で燃えていない安全な場所を求めて歩き始めた。
「ダメだ… ガソリンスタンドの事務所は大半が燃えちゃってる。近寄る事も無理そうだ。」
伸田は静香の手を引きながら、燃え盛る炎に衣服や身体を焼かれない程度に安全な距離を保ったまま、炎上するスタンドの周辺を用心しながら歩いた。
「ノビタさん、私思ったんだけど… このガソリンスタンドが爆発炎上したのって、事故じゃなくてヒッチハイカーの仕業なんじゃ…」
静香が伸田の手を握る自分の手に力を込めて言った。
伸田も静香の手を握り返し、辺りを見回した後に彼女の顔に目を合わせて答えた。
「僕も同じ事を考えてたんだよ、シズちゃん。これはきっとアイツがやったんだ。おそらく、僕達に車へガソリンを補給させないためだろう。アイツは僕達を逃がさないつもりなんだ…
それにしたって、このスタンドにだって誰か人がいただろうに… 何て事をしやがるんだ。人の命なんて何とも思ってないのか? ヤツは本当に狂ってる… ひょっとして真正のサイコパスか何かじゃ…?
くっそう! 忌まわしい、狂った殺人鬼め!」
話している内に興奮してきた伸田の顔を静香が自分に向けさせ、彼を強く抱きしめて言った。
「落ち着いて、ノビタさん。怒りに興奮して自分を身失なっちゃダメ…こんな時こそ冷静にならなくちゃ。
今日のノビタさん… いつもと違って、とても素敵よ。その調子で必ず私の事を守ってね。」
静香の言葉で、伸田は昂っていた自分の気持ちが鎮まり、落ち着いて来るのを感じた。そして愛する自分の恋人の美しい顔をまじまじと見つめながら思った。
『シズちゃんだって、すごく怖いはずなんだ。怖くてたまらないはずだ。なのに彼女は、僕を落ち着かせようと気丈な態度で振舞って優しい言葉をかけてくれている… ホントに素晴らしい女性だ。』
伸田は一度深呼吸をした後、静香に笑顔を向けて言った。
「ありがとう、シズちゃん… もう大丈夫だよ。君のおかげで気分が落ち着いたよ。僕らが生き抜くためには、落ち着いて冷静に行動しなきゃダメなんだよね。」
静香は嬉しそうにコクンと小さく頷いた。
気丈な面を見せる静香だって、自分達の現状が怖くてたまらないはずなのだ。 気丈な面を見せていた静香も、本当のところは怖くて仕方が無かったのだろう。伸田に強く押し付けて来た彼女の華奢な身体は、小刻みに震えていた。 そんな静香を伸田は力いっぱい抱きしめた。二人の恋人達は抱き合う事でほんの束の間だったが、愛しい相手の身体の温かさに触れて互いに安心感を覚える事が出来た。
「シズちゃん、あれを見て…」
そっと静香を自分の身体から離し、伸田は彼女の後ろを指差した。
「えっ、何…?」
後ろを振り返った静香は、燃え盛るスタンド炎に隠れて自分達から見え難い場所に立っている倉庫が目に入った。
「あれは倉庫かな…? あそこへ行って見よう。」
伸田の言葉に静香は頷いた。
倉庫は炎上している地点からから少し離れた場所にあるのと難燃性の材質が使われているためだろう、今も類焼を免れていた。二人は倉庫に向かって慎重に近付いて行った。
何かの作業途中だったのか、倉庫の前面にあるシャッターは閉じられてはおらず、大人が優に立って通れるくらいの高さに開かれていたため、中の様子を容易に覗く事が出来た。
そこには、たくさんの車のタイヤが積まれていたり、整備に使う様々な工具や機械が所狭しと置かれていた。このガソリンスタンドの倉庫を兼ねた整備工場の様な役割の場所らしい。
倉庫の中は天井の照明で明々と照らされていた。タイヤを全て取り外され整備中の車が一台止められていた。
「この車で逃げ出せればよかったのに…」
車のボディーを撫でながら、静香が残念そうにつぶやいた。
「大丈夫だよ、シズちゃん。僕の車もガソリンさえ入れれば、また走れるんだから。でも、ガソリン給油用の機械の『計量機』は最初に爆発で吹っ飛んだみたいだ…
あっ、これは武器に使えそうだ。」
そう言って伸田は、整備中の車の傍の地面に置かれていたタイヤレバーを拾い上げた。長さは1m弱で2㎏程も重量のあるバールに似た金属製の棒だった。それは形状と言い丈夫さと言い、十分に手頃な武器となり得る工具だと言えた。
だが、160cmで50㎏未満の華奢な女性である静香には、武器として扱うのは難しいと言えた。
伸田は長さが50㎝程で重量も700g程度で、持ち手部分も持ちやすく頑丈でしっかりとしたトルクレンチを、静香用の手頃な武器として選んで手渡してた。これなら女性でも振り回せる。
伸田はもう一本、手頃なサイズのスパナをズボンのベルトに差し込んだ。
「よし、取りあえず武器は手に入れた。何もないよりはましだ。
さあ、シズちゃんは倉庫の隅に隠れて警察に連絡してくれ。僕は給油するためのガソリンを探してみる。それに一度、僕達の車の様子を見て来るよ。」
そう言って伸田は静香の顎に手をかけて上を向かせ、彼女の形のいい唇にキスをした。静香からも唇を押し付けて来て、二人はどちらからともなく舌を相手の口内に差し込んで互いに絡ませ合った。
少しの間、二人は抱き合ったまま互いの唾液を交換し合った。こんな状況であるにも拘らず硬くなった伸田の股間を静香は愛おしそうに撫でさすった。それに応える様に伸田も静香の尻の割れ目を右手の指先でなぞっていき、彼女の敏感な部分を優しく愛撫した。
こんな状況で不謹慎だと思えるが、愛し合う二人は慣れ親しんだ互いの身体を求めあう事で、自分達の生への執着心を高めようとしているのだった。目の前の恐怖に打ち勝つために、愛するパートナーの身体を求めたいと思う人間の心理だろうか…
「ああぁ…」
静香が切ない声を上げた。
だが、伸田は硬く勃起して静香の右手の愛撫に委ねていた自分の股間を、強い意志の力で後ろに身を引く事で彼女から離した。
「こんな状況で何だけど、正直に言うと今すぐにでもシズちゃんを抱きたい… でも、今は我慢するよ。必ず生き延びて、ちゃんとしたベッドで心ゆくまで愛し合おう。」
毅然とした伸田の言葉に潤んだ瞳で見返す静香も、ため息を吐きながらコクンと頷いて見せた。
頼もしく変貌した伸田の男らしい態度に、静香は自分の股間が濡れて来たのを感じた。私も今すぐこの男と愛し合いたい…彼女は心からそう思った。
「よし。じゃあ、さっき言った手順で行動しよう。いいね。」
そう言って名残惜しそうに静香から身体を離した伸田は、キョロキョロと辺りを見回して物音を立てない様に静かに歩き始めた。
愛する伸田の後姿を見送った静香は、倉庫の隅に身を隠すようにして座り込み、ショルダーバッグからスマホを取り出し急いで110番をコールした。
幸いにもすぐに電話は繋がり、こちらを安心させる様な相手の落ち着いた声が聞こえて来た。
『はい、こちら警察110番です。 事件ですか、事故ですか。』
その声を聞いて安心のあまり泣きそうになった静香は、出来るだけ興奮しない様にと心の中で自分に言い聞かせながら、可能な限り落ち着いた口調で話し始めた
「もしもし、事件です。緊急事態なんです…
私の友人が二人殺されて、もう一人が重傷で今にも死にそうなんです。ヒッチハイカーを装った殺人鬼がまだ私達のそばにいます…すぐに助けに来て下さい…」
そこまで警察に告げた静香は言葉を切って息を呑み込んだ。なぜなら、自分の目の前の床に突然ゴロゴロゴロと何かが転がって来たのだ。
目の前に転がって来たその物体を認識した瞬間…静香は、けたたましい叫び声を上げていた…
「ひいいぃーっ! きゃあああーっ!」
静香の目の前で止まった物体には黒い髪が生え、目があり鼻と口もあった。
それはヒッチハイカーに切断され、行方の分からなくなっていた幼馴染の須根尾の生首だった… そして、その光を失い濁った色をした二つの目が静香をジッと見つめていた。
『もしもし! どうしました? 何があったんです! もしもしっ!』
さらに恐怖の叫び声を上げそうになる自分の口を必死で左手で押さえた静香は、大声で問いかけ続ける相手の声を黙らせるべくスマホを切った。首を放り投げて来たヒッチハイカーが近くにいるのだ。聞かれるとまずい…
『ひどい、何て事を… スネオさんの首… アイツが来たんだわ…』
静香は怖くて目を閉じたいのに、こちらを見つめている様な須根尾の恐怖に見開いた目から視線を外せなかった。声を上げる訳にいかない彼女は、口を押えたまま涙を浮かべて強く心に祈った。
『ノビタさん、助けて…』
********
自分を安心させるために鋼鉄製で頑丈なタイヤレバーを両手にしっかりと握りしめ、伸田は周囲を用心しながら倉庫から事務所を隔てた反対側を探し始めた。そちら側にも、燃えていないプレハブ造りの小さな建物がある。
建物の横の壁には赤いペンキで『』と書かれていた。職員や来客用のトイレなのだろう。粗末な造りだったが、山の中のガソリンスタンドではこんなものか…そう思った伸田はタイヤレバーを構えながらトイレの中を恐る恐る覗き見たが、清掃の行き届いていなくてうすよご以外に怪しい様子は無かった。
トイレの横には業務用の大きなゴミ箱が設置され、中には産業廃棄物が捨てられている。その隣に大型のバイクが一台と古い原付バイクが一台止めてあった。どちらもキーは挿さっていなかったが、壊れたり廃車という訳では無く、従業員の乗り物の様だ。二台のバイクを見て伸田の頭に考えが浮かんだ。
「そうだ。どこにあるか分からない取り置きのガソリンを探すよりも、このバイクからガソリンを抜き取ればいいじゃないか。さっきの整備中の車からもガソリンが手に入るかもしれないぞ。道具さえあれば可能だ。
少しずつでもガソリンを集められれば、もう一度僕の車を動かせる。もう、シズちゃんは警察に連絡してくれただろうな…とにかく、いったん彼女にいる倉庫に戻ろう。」
考えながら小さな声で独り言をつぶやき、伸田が静香のいる倉庫へ戻ろうとした時だった。
「ひいいぃーっ! きゃあああーっ!」
今出て来たばかりの倉庫から、女の甲高い悲鳴がほとばしった。
「あれは、シズちゃんの声… しまった! ヤツが彼女を!」
伸田は右手にタイヤレバーを強く握りしめ、吹き荒れる吹雪の中を倉庫へ向かって全速力で走った。
急いで火災に照らされた倉庫に戻った伸田伸也は入り口から中の光景を見た途端、茫然としてその場に立ち尽くした。
さっきは気付かなかったが、倉庫の天井には鉄骨で出来たレールが取り付けられており、そのレールを使って倉庫内を様々な方向へと天井を走行させて物品を移動させるためのクレーンらしい。
重量のある物品を吊り下げるフックの取り付けられたワイヤーは滑車を経由し、電動ウィンチへと繋がっている。
そして今、伸田の目の前でクレーンのフックにぶら下げられ、入り口から吹き込む風にブランブランと大きく揺れているのは…手首で縛られた両腕を上にして吊り下げられた全裸の女性の遺体だった。
しかも… その遺体は華奢な肩のすぐ上で首が切断され、雪の様に真っ白な裸体を首の切断部分から流れた血が真っ赤に染めていた。
「う、ううう… ま、まさか…そ、そんな… い、イヤだ… シズちゃん… 静香ーっ!うわああああーっ!」
持っていたタイヤレバーを床に落とした伸田は、両手で顔面を覆い、狂った様な叫び声を上げた。
悲痛な伸田の絶叫は倉庫の中に響き渡り、開口部から外にまで漏れ聞こえるほど大きな声だったが、すぐに外で燃え盛る炎と吹き荒れる吹雪の音にかき消されていった…
【次回に続く…】
運転している伸田 伸也が絶望したような声で、車内にいる全員が聞きたくなかった現実問題を告げた。
「もう…ガソリンが完全に無くなったのね、ノビタさん。」
伸田の恋人であり助手席に座る皆元 静香が、隣りで運転する伸田に向かって囁くような小さな声で言った。彼らのすぐ背後のセカンドシートにいる水木エリと、彼女の恋人で左腕を切断され失血で意識を喪失している幸田剛士に悪い話を聞かせたくなかったのだ。
彼ら4人の生存者と犠牲者となった須根尾 骨延の遺体が乗る車の屋根の上からは相変わらずギシギシという軋み音と、「パンッ!パンッ!パンッ!」という須根尾の恋人で山野ミチルという仲間の女性を犯し続ける音が鳴り止まずに続いていた。
だが、さっきまでフロントガラスの上部から覗いていた、ミチルの血まみれの顔と両手は屋根の上に引き上げられ、車内にいる者達の視界から消えていた。
ヒッチハイカーが自分の逞しい下半身をミチルの肉体に繰り返し打ちつける激しい打擲の音のみが吹雪の音に混ざって聞こえてくるだけで、先ほどまで上げられていたミチルの泣き声も苦し気な呻き声も今では聞こえなくなっていた。
「ミチルちゃん、大丈夫なのかしら… 声が聞こえなくなったけど…」
友人の身を案じた静香が不安に満ちた目で天井を見上げながらつぶやいた。
「分からない… 声がしなくなったのが、彼女が意識を失っただけならいいんだけど…」
口ではそういったものの、伸田はミチルの生存を絶望的だと思っていた。
『この厳冬の山中で裸にされたままの人間が、走行中の車の上で吹きっ晒しの吹雪の中を生きていられる筈がない…』
伸田だけでなく、静香にしろ剛士を介抱中のエリにしろ口にこそ出しはしなかったが、内心で思っている事は皆同じだった。誰もがミチルの生存は絶望的だと思ってはいても、その恐ろしい現実を自分で口にする事が怖かったのだ。
ミチルの恋人であり、伸田にとっては幼い頃からの親友でもあった須根尾の命を無残に奪ったヒッチハイカーが、彼に続いて恋人のミチルの命まで奪い去ったという悲しくも残酷な現実に目を瞑る訳にはいかないだろう。
しかし、今は自分を含めて生きている4人の生存を何よりも優先させなければならない。特に出血多量で刻一刻と衰弱《すいじゃく》しつつある剛士を、一刻も早く救急医療施設に運び込まなければならないのだ。剛士の命は、まさに風前の灯火だったのだから…
「とにかく…ヤツから逃げ切ってジャイアンツを病院に連れて行くためには乗り物が必要なんだ。この車のガス欠を何とかするか、他に走れる車を見つけなきゃならない。どっちにしても、炎上中のガソリンスタンドまで戻れば何とかなるかもしれない。
あのガソリンスタンドまでは下り坂だから、なるべくアクセルを踏み込まずに、このまま惰性で走れる所まで走らせてみる。」
カーブの多い山道を前方を見て慎重に運転しながら、伸田は助手席に座る静香に自分の考えを伝えた。
「それからどうするの? あのヒッチハイカーが、また襲って来るかも知れないわ…いえ、きっと襲ってくるわ。そう思って戦う準備をしておかないと。」
走行中の車の屋根の上でミチルを犯し続けるという蛮行を止めようとしない、常軌を逸しているとしか思えない狂ったヒッチハイカーに対する恐怖の最中にあっても、静香の目には微かではあったが戦う闘志のような強い光が垣間見えた。
伸田は、そんな勇敢な自分の恋人を心から誇らしく思った。
幼少時から臆病でグズでノロマだと言われ続けてきた自分の事をどんな時でも見捨てる事無く、いつも庇い励ましていてくれた女神のような存在…その慈愛に満ちた女性が信じられない事に、今では自分の恋人なのだ。
この愛する静香だけは、自分の命に代えても守らなければならないと伸田は心に誓った。
「ガタンガタン…プスン…プスン…」
伸田達の乗る車に、とうとうガス欠による限界が来たようだった。エンジンが死ぬ間際の喘鳴の様な憐れな音を発し始めていた。
伸田が運転する車は、先ほどようやくたどり着いたのに屋根に乗ったヒッチハイカーを振り落とすために遠ざかるしか無かったガソリンスタンドの付近まで再び戻って来たのだった。
黒煙を雪空に巻き上げ夜の山中を明々と照らしながら、まだ勢いよく燃え続けているガソリンスタンドまで100mほどの地点で国道はスタンドへ侵入する道へと分岐しているのだが、進入路に入ってわずか数mの地点で下り坂が終わり、後は平坦な道になる。その平坦な進入路に入った時点で遂にエンジンが終焉を迎え、惰性で続けていた車の走行も完全に止まってしまった。
「ここまでだ…」
ヒッチハイカーによって割られた後部と左中央部の2枚の窓から吹雪が入り込み、ヒーターの切れた車内は外気温と同程度まで冷え切っていたのだが、額に汗を浮かべた伸田が皆に告げた。
「いいえ… ここまでよく頑張って走ってくれたわ、車もノビタさんも。」
静香が両手で伸田の左手を握りしめながら、恋人である彼の健闘を称えた。
「そうだよ、ノビちゃんはよく頑張ってくれたよ…」
セカンドシートで、両腕に出血多量ですでに意識の無い恋人の剛士の身体をしっかりと抱きしめて自分の体温で温めてやりながら、エリが弱々しい微笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、シズちゃんにエリちゃん…
でも…ここからは、もうこの車は使えないんだ。それに、今も屋根にいるアイツを何とかしないと…」
そう言って伸田は天井を見上げた。
「パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!」
まだ裸の肉体同士を打ち付け合う卑猥な音が屋根越しに休む事無く聞こえ、停止した車体が激しい動きのためにギシギシと揺れている。
ヒッチハイカーは止まった車の屋根の上で、まだミチルの身体を犯し続けている様だった。走行中の車の屋根の上で裸に剥かれた姿で真正面から吹き付ける吹雪を直接浴び続けたミチルは、すでに寒さで凍死していてもおかしくはない。
つまりヒッチハイカーは、息絶えたミチルの死体を自分が満足するまで犯し続けているのだろう。自分本位の情け容赦の無い死姦だった…
前途ある青年の須根尾を惨殺し、その恋人のミチルまでを死に至らしめ、なおかつ彼女の遺体を自分の性欲を満たすためだけに冒涜し続けている… 意識の無い剛士を除いた全員がヒッチハイカーに対する怒りと悔しさで、それぞれに唇を噛んだり歯ぎしりをしながら寒さと共に憤りに身を震わせ続けていた。
「とにかく、ここで寒さと恐怖に震え続けていても仕方が無い。僕が歩いてガソリンスタンドまで行く。炎上してるけど、全部が燃えてる訳じゃない。そこで町まで連絡する手段と、みんなが避難出来る場所が無いか探して来るよ。
それに、可能なら僕がそのまま囮になって、この車からヤツを引き離す。エリちゃんとシズちゃんは車内でジャイアンツの事を頼んだよ。」
伸田が女性二人の顔を交互に見ながら自分の考えを告げた。
「ノビタさん、私も行くわ。」
静香が伸田の肩に手を載せ、彼の目を覗き込むように見つめて言った。
「だ、ダメだよ…シズちゃん。とても危険なんだ。」
伸田は静香の両肩を掴んで、寒さと不安のために蒼白になっているにもかかわらず美しい彼女の顔に向かって強く訴えた。
だが、伸田は静香の美しい瞳の中に断固として譲るつもりの無さそうな強い意志の光を見て取ると、幼い頃から彼女の性格を熟知しているだけに、それ以上の説得は無駄だと知って諦めざるを得なかった。
彼は幼少の頃からの付き合いに加え、恋人として他の誰よりも彼女の正義感と意志の強さを深く理解していたのだ。
自分の恋人である皆元静香という女性は一見儚げな美しさの外見とは裏腹に、一度自分が決めた正しいと思う事は他の誰が何を言っても曲げない強い意志の持ち主だったのだ。
「分かったよ… じゃあ、二人で行こう。エリちゃん、君一人になってしまうけど、ジャイアンツの事を頼めるかい?
必ず僕達が助けを呼んで、救援が来るまでの安全な避難場所を見つけて来る。」
静香と二人で炎上中のガソリンスタンドまで行く事を決意した伸田は、セカンドシートに座って恋人である剛士の意識の無い身体を抱いて温め続けるエリに尋ねた。
「ええ、剛士の事は私に任せて。その代わり、必ず二人で助けを呼んで来てちょうだい。私はここで剛士を守っているわ。今、彼を動かす訳にはいかないから…」
エリが伸田と静香を安心させるように決意を固めた微笑みを浮かべて大きく頷いた。伸田は、いざとなると男なんかよりも女性の方が強いという事を目の前にいる二人の女性に改めて思い知らされた。
「エリちゃん、武器らしい物はこれしか無いけど持っていてくれ。それに何かの時はこれを使って…」
そう言った伸田がグローブボックスから取り出した十得ナイフをエリに手渡した。それには刃渡り6㎝のナイフを始めとしてドライバーやコルク抜きが付いている。何も無いよりはましという気休め程度でしか無かったが…
そしてもう一つ、助手席の静香の足元にかがみ込んだ伸田は、車には装備を義務付けられている発煙筒を取り外すとエリの座るシートに置いた。これとて、着火した一瞬だけしかヒッチハイカーを怯ませる役に立たないかもしれない…そう思いながらも、伸田は車内に残して行く二人のために何かしておきたかったのだ。
「ありがと、ノビちゃん。2人とも本当に気を付けてね。あなた達は絶対に死なないで、私達2人のためにも。」
そう言ったエリは、二人に右手を伸ばした。そして伸田と静香と順に強く握手をした後、軽く手を振って二人にもう行くように促した。エリの目には涙が光っていた。気丈にも強い態度を見せてはいるが、彼女の不安な気持ちは察するに余りあった。伸田と静香は、エリを安心させようと二人揃って何度も大きく頷きながら手を振った。
運転席側のドアを静かに開けて、伸田と静香は順に車を出た。そして、そっと後ろ手でドアを閉めた二人はゆっくりと車を離れた。
「パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!」
十数m歩いた地点で伸田が振り返って見ると、忌まわしい事に屋根の上で下半身を丸出しにしたヒッチハイカーが全裸にしたミチルの遺体をバックから犯し続けている。伸田と静香にとって幸いだった事に、夢中で腰を振り続けるヒッチハイカーの背中がこちらに向けられていた。
ミチルには申し訳なかったが、ヤツが彼女の遺体に夢中で腰を振り続けている間は二人に注意が向かないと思われた。大切な仲間の遺体に対するヒッチハイカーの忌まわしい冒涜行為には強い憤りを覚える二人だったが、気付かれない様に注意しながら乗っていた車を後にして静かに歩き続けた。
伸田は炎上しているスタンドへの一本道を歩くのは避け、静香の手を取って道沿いの林に向かった。見通しのいい道路を行くと、車上にいるヒッチハイカーにすぐに見つかってしまう。
夜間の冬の山中を吹きすさぶ吹雪が入り込んで来る林の中を歩く二人だったが、炎上し続けるスタンドの炎のお陰で少しも寒くは無く、明るさに困る事も無かった。年の押し迫った12月下旬の冬の山中で、凍える事を心配しないで済む事が二人には何よりありがたかった。
「ノビタさん、見て!」
興奮した口調で呼びながら、静香が握っていた伸田の左手を引っ張った。振り返った伸田は、左手に握った自分のスマホの液晶画面をこちらに向けて興奮しているいる静香を見た。
「私のスマホ、『圏外』のままなんだけど、Wifiなら使えそうよ。」
今にも飛び上がりそうな勢いの弾んだ声で、嬉しそうに静香が言った。
「本当だ…」
静香のスマホの通信状態を示すアンテナが全開の状態で立っていた。
興奮した伸田は、慌てて自分のスマホも確認してみた。やはり、通信ネットワークは『圏外』の表示のままだったが、このガソリンスタンドが客向けサービスで行なっていると思われる無料Wifiスポットのアンテナは全開状態だった。
スタンドは炎上していたが、施設の全てが燃えている訳では無く、電気も生きていてWifiスポットも正常に稼働している様だった。
そして、ありがたい事に、そのWifiスポットはパスワード無しで誰でも利用出来るみたいだった
「そうか、ここはあのスタンドがサービスでやってる無料Wifiスポットのエリア内に含まれているんだ。きっとスタンド自体は有線で町と繋がってるんだよ。これならアプリを使って救急にも警察にも連絡出来るよ、シズちゃん。」
すでに須根尾とミチルという二人の犠牲者が出てしまっていたが、文字通りに困難な道をここまで来た伸田達二人にとっては、沈んでいた心に光が射した様な気分だった。
「警察にはシズちゃんが連絡してみてくれないか。
まず、友人二人を殺した連続殺人鬼に現在も狙われている事と、命の危機に瀕している重症の被害者がいる現状を警察に報せて、生存者の救援と救急隊を手配してもらうんだ。
僕は、この付近で避難出来そうな安全な所を探してみる。それにヤツに対抗出来るような武器もね。」
伸田がテキパキと自分に対して指示するのを、恋人の静香は可愛らしい口をポカンと開けて聞いていた。
幼い頃から自分が付いていないと、何をさせても危なっかしくてしょうが無かった男だったのに、今回の非常事態を経験した事によってグズでノロマだった伸田伸也は、一気にしっかりとした頼りがいのある青年へと変貌を遂げたのだ。静香にしてみれば、頼りなかった恋人が自分本来の能力に覚醒したように思えて嬉しかったのである。
こんな際に不謹慎だったが、伸田の男としての頼もしい変化を静香は恋人として好もしく思った。
「分かったわ、ノビタさん。」
自分を見つめながら静香が嬉しそうな声で返事をするのを、不思議そうな表情をした伸田が見返した。すると、静香の顔に愛らしい微笑が浮かんでいるので、訳の分からないながら伸田もつられて笑ってしまった。
「何だい?」
「ふふふ、何でもない。」
伸田の問いかけに静香は小さく笑って首を左右に振った。
林を抜けてスタンドへ向かう前に、伸田はエリ達を残して来た自分の車の方を振り返った。
「うっ! シズちゃん、車の屋根の上にヤツの姿が無い…」
「えっ?」
伸田の言葉に、自分でも車の方を見た静香も同じ光景を認めた。
「あの男…どこに行ったの? 酷いわ、何て事を… ミチルちゃんの身体が裸のまま車の横に放置されてる…」
静香の言った通りだった。ついさっきまで、ミチルの遺体を死姦し続けていたヒッチハイカーの姿は無く、無残にもミチルの遺体は遊ぶのに飽きた壊れた玩具の様に、全裸のまま凍てついた地面に捨てられていた。
「ああ、惨い事をしやがる… ミチルちゃんはスネオにお似合いの可愛くていい娘だったのに。恋人同士の二人が揃って、あんな残酷な殺され方をするなんて…
そうだ、エリちゃんとジャイアンツは大丈夫なんだろうか…?」
伸田の頭に恐ろしい想像が浮かび、同じ様に不安げな表情で自分を見つめる静香の顔を見返した。すると、彼女の目にも自分と同様の恐怖の色が浮かんでいた。
「シズちゃん… とにかく僕達はヤツに用心しながら、さっき言った事を実行するしかない。行こう!」
伸田は不安そうな静香を励ますように力強い声で言った。
「分かったわ、ノビタさん。行きましょう。
あの可哀想な二人の恋人達は、必ず丁重に弔ってあげましょうね…」
そう言いながら自分達の車に背を向けた静香の目には涙が光っていた。
「ああ、もちろんだよ。」
力強く頷き返した伸田は、心優しい恋人のほっそりとした左手をしっかりと握りしめ、用心して何度も周囲を見回すと、炎上の続くスタンドの敷地内で燃えていない安全な場所を求めて歩き始めた。
「ダメだ… ガソリンスタンドの事務所は大半が燃えちゃってる。近寄る事も無理そうだ。」
伸田は静香の手を引きながら、燃え盛る炎に衣服や身体を焼かれない程度に安全な距離を保ったまま、炎上するスタンドの周辺を用心しながら歩いた。
「ノビタさん、私思ったんだけど… このガソリンスタンドが爆発炎上したのって、事故じゃなくてヒッチハイカーの仕業なんじゃ…」
静香が伸田の手を握る自分の手に力を込めて言った。
伸田も静香の手を握り返し、辺りを見回した後に彼女の顔に目を合わせて答えた。
「僕も同じ事を考えてたんだよ、シズちゃん。これはきっとアイツがやったんだ。おそらく、僕達に車へガソリンを補給させないためだろう。アイツは僕達を逃がさないつもりなんだ…
それにしたって、このスタンドにだって誰か人がいただろうに… 何て事をしやがるんだ。人の命なんて何とも思ってないのか? ヤツは本当に狂ってる… ひょっとして真正のサイコパスか何かじゃ…?
くっそう! 忌まわしい、狂った殺人鬼め!」
話している内に興奮してきた伸田の顔を静香が自分に向けさせ、彼を強く抱きしめて言った。
「落ち着いて、ノビタさん。怒りに興奮して自分を身失なっちゃダメ…こんな時こそ冷静にならなくちゃ。
今日のノビタさん… いつもと違って、とても素敵よ。その調子で必ず私の事を守ってね。」
静香の言葉で、伸田は昂っていた自分の気持ちが鎮まり、落ち着いて来るのを感じた。そして愛する自分の恋人の美しい顔をまじまじと見つめながら思った。
『シズちゃんだって、すごく怖いはずなんだ。怖くてたまらないはずだ。なのに彼女は、僕を落ち着かせようと気丈な態度で振舞って優しい言葉をかけてくれている… ホントに素晴らしい女性だ。』
伸田は一度深呼吸をした後、静香に笑顔を向けて言った。
「ありがとう、シズちゃん… もう大丈夫だよ。君のおかげで気分が落ち着いたよ。僕らが生き抜くためには、落ち着いて冷静に行動しなきゃダメなんだよね。」
静香は嬉しそうにコクンと小さく頷いた。
気丈な面を見せる静香だって、自分達の現状が怖くてたまらないはずなのだ。 気丈な面を見せていた静香も、本当のところは怖くて仕方が無かったのだろう。伸田に強く押し付けて来た彼女の華奢な身体は、小刻みに震えていた。 そんな静香を伸田は力いっぱい抱きしめた。二人の恋人達は抱き合う事でほんの束の間だったが、愛しい相手の身体の温かさに触れて互いに安心感を覚える事が出来た。
「シズちゃん、あれを見て…」
そっと静香を自分の身体から離し、伸田は彼女の後ろを指差した。
「えっ、何…?」
後ろを振り返った静香は、燃え盛るスタンド炎に隠れて自分達から見え難い場所に立っている倉庫が目に入った。
「あれは倉庫かな…? あそこへ行って見よう。」
伸田の言葉に静香は頷いた。
倉庫は炎上している地点からから少し離れた場所にあるのと難燃性の材質が使われているためだろう、今も類焼を免れていた。二人は倉庫に向かって慎重に近付いて行った。
何かの作業途中だったのか、倉庫の前面にあるシャッターは閉じられてはおらず、大人が優に立って通れるくらいの高さに開かれていたため、中の様子を容易に覗く事が出来た。
そこには、たくさんの車のタイヤが積まれていたり、整備に使う様々な工具や機械が所狭しと置かれていた。このガソリンスタンドの倉庫を兼ねた整備工場の様な役割の場所らしい。
倉庫の中は天井の照明で明々と照らされていた。タイヤを全て取り外され整備中の車が一台止められていた。
「この車で逃げ出せればよかったのに…」
車のボディーを撫でながら、静香が残念そうにつぶやいた。
「大丈夫だよ、シズちゃん。僕の車もガソリンさえ入れれば、また走れるんだから。でも、ガソリン給油用の機械の『計量機』は最初に爆発で吹っ飛んだみたいだ…
あっ、これは武器に使えそうだ。」
そう言って伸田は、整備中の車の傍の地面に置かれていたタイヤレバーを拾い上げた。長さは1m弱で2㎏程も重量のあるバールに似た金属製の棒だった。それは形状と言い丈夫さと言い、十分に手頃な武器となり得る工具だと言えた。
だが、160cmで50㎏未満の華奢な女性である静香には、武器として扱うのは難しいと言えた。
伸田は長さが50㎝程で重量も700g程度で、持ち手部分も持ちやすく頑丈でしっかりとしたトルクレンチを、静香用の手頃な武器として選んで手渡してた。これなら女性でも振り回せる。
伸田はもう一本、手頃なサイズのスパナをズボンのベルトに差し込んだ。
「よし、取りあえず武器は手に入れた。何もないよりはましだ。
さあ、シズちゃんは倉庫の隅に隠れて警察に連絡してくれ。僕は給油するためのガソリンを探してみる。それに一度、僕達の車の様子を見て来るよ。」
そう言って伸田は静香の顎に手をかけて上を向かせ、彼女の形のいい唇にキスをした。静香からも唇を押し付けて来て、二人はどちらからともなく舌を相手の口内に差し込んで互いに絡ませ合った。
少しの間、二人は抱き合ったまま互いの唾液を交換し合った。こんな状況であるにも拘らず硬くなった伸田の股間を静香は愛おしそうに撫でさすった。それに応える様に伸田も静香の尻の割れ目を右手の指先でなぞっていき、彼女の敏感な部分を優しく愛撫した。
こんな状況で不謹慎だと思えるが、愛し合う二人は慣れ親しんだ互いの身体を求めあう事で、自分達の生への執着心を高めようとしているのだった。目の前の恐怖に打ち勝つために、愛するパートナーの身体を求めたいと思う人間の心理だろうか…
「ああぁ…」
静香が切ない声を上げた。
だが、伸田は硬く勃起して静香の右手の愛撫に委ねていた自分の股間を、強い意志の力で後ろに身を引く事で彼女から離した。
「こんな状況で何だけど、正直に言うと今すぐにでもシズちゃんを抱きたい… でも、今は我慢するよ。必ず生き延びて、ちゃんとしたベッドで心ゆくまで愛し合おう。」
毅然とした伸田の言葉に潤んだ瞳で見返す静香も、ため息を吐きながらコクンと頷いて見せた。
頼もしく変貌した伸田の男らしい態度に、静香は自分の股間が濡れて来たのを感じた。私も今すぐこの男と愛し合いたい…彼女は心からそう思った。
「よし。じゃあ、さっき言った手順で行動しよう。いいね。」
そう言って名残惜しそうに静香から身体を離した伸田は、キョロキョロと辺りを見回して物音を立てない様に静かに歩き始めた。
愛する伸田の後姿を見送った静香は、倉庫の隅に身を隠すようにして座り込み、ショルダーバッグからスマホを取り出し急いで110番をコールした。
幸いにもすぐに電話は繋がり、こちらを安心させる様な相手の落ち着いた声が聞こえて来た。
『はい、こちら警察110番です。 事件ですか、事故ですか。』
その声を聞いて安心のあまり泣きそうになった静香は、出来るだけ興奮しない様にと心の中で自分に言い聞かせながら、可能な限り落ち着いた口調で話し始めた
「もしもし、事件です。緊急事態なんです…
私の友人が二人殺されて、もう一人が重傷で今にも死にそうなんです。ヒッチハイカーを装った殺人鬼がまだ私達のそばにいます…すぐに助けに来て下さい…」
そこまで警察に告げた静香は言葉を切って息を呑み込んだ。なぜなら、自分の目の前の床に突然ゴロゴロゴロと何かが転がって来たのだ。
目の前に転がって来たその物体を認識した瞬間…静香は、けたたましい叫び声を上げていた…
「ひいいぃーっ! きゃあああーっ!」
静香の目の前で止まった物体には黒い髪が生え、目があり鼻と口もあった。
それはヒッチハイカーに切断され、行方の分からなくなっていた幼馴染の須根尾の生首だった… そして、その光を失い濁った色をした二つの目が静香をジッと見つめていた。
『もしもし! どうしました? 何があったんです! もしもしっ!』
さらに恐怖の叫び声を上げそうになる自分の口を必死で左手で押さえた静香は、大声で問いかけ続ける相手の声を黙らせるべくスマホを切った。首を放り投げて来たヒッチハイカーが近くにいるのだ。聞かれるとまずい…
『ひどい、何て事を… スネオさんの首… アイツが来たんだわ…』
静香は怖くて目を閉じたいのに、こちらを見つめている様な須根尾の恐怖に見開いた目から視線を外せなかった。声を上げる訳にいかない彼女は、口を押えたまま涙を浮かべて強く心に祈った。
『ノビタさん、助けて…』
********
自分を安心させるために鋼鉄製で頑丈なタイヤレバーを両手にしっかりと握りしめ、伸田は周囲を用心しながら倉庫から事務所を隔てた反対側を探し始めた。そちら側にも、燃えていないプレハブ造りの小さな建物がある。
建物の横の壁には赤いペンキで『』と書かれていた。職員や来客用のトイレなのだろう。粗末な造りだったが、山の中のガソリンスタンドではこんなものか…そう思った伸田はタイヤレバーを構えながらトイレの中を恐る恐る覗き見たが、清掃の行き届いていなくてうすよご以外に怪しい様子は無かった。
トイレの横には業務用の大きなゴミ箱が設置され、中には産業廃棄物が捨てられている。その隣に大型のバイクが一台と古い原付バイクが一台止めてあった。どちらもキーは挿さっていなかったが、壊れたり廃車という訳では無く、従業員の乗り物の様だ。二台のバイクを見て伸田の頭に考えが浮かんだ。
「そうだ。どこにあるか分からない取り置きのガソリンを探すよりも、このバイクからガソリンを抜き取ればいいじゃないか。さっきの整備中の車からもガソリンが手に入るかもしれないぞ。道具さえあれば可能だ。
少しずつでもガソリンを集められれば、もう一度僕の車を動かせる。もう、シズちゃんは警察に連絡してくれただろうな…とにかく、いったん彼女にいる倉庫に戻ろう。」
考えながら小さな声で独り言をつぶやき、伸田が静香のいる倉庫へ戻ろうとした時だった。
「ひいいぃーっ! きゃあああーっ!」
今出て来たばかりの倉庫から、女の甲高い悲鳴がほとばしった。
「あれは、シズちゃんの声… しまった! ヤツが彼女を!」
伸田は右手にタイヤレバーを強く握りしめ、吹き荒れる吹雪の中を倉庫へ向かって全速力で走った。
急いで火災に照らされた倉庫に戻った伸田伸也は入り口から中の光景を見た途端、茫然としてその場に立ち尽くした。
さっきは気付かなかったが、倉庫の天井には鉄骨で出来たレールが取り付けられており、そのレールを使って倉庫内を様々な方向へと天井を走行させて物品を移動させるためのクレーンらしい。
重量のある物品を吊り下げるフックの取り付けられたワイヤーは滑車を経由し、電動ウィンチへと繋がっている。
そして今、伸田の目の前でクレーンのフックにぶら下げられ、入り口から吹き込む風にブランブランと大きく揺れているのは…手首で縛られた両腕を上にして吊り下げられた全裸の女性の遺体だった。
しかも… その遺体は華奢な肩のすぐ上で首が切断され、雪の様に真っ白な裸体を首の切断部分から流れた血が真っ赤に染めていた。
「う、ううう… ま、まさか…そ、そんな… い、イヤだ… シズちゃん… 静香ーっ!うわああああーっ!」
持っていたタイヤレバーを床に落とした伸田は、両手で顔面を覆い、狂った様な叫び声を上げた。
悲痛な伸田の絶叫は倉庫の中に響き渡り、開口部から外にまで漏れ聞こえるほど大きな声だったが、すぐに外で燃え盛る炎と吹き荒れる吹雪の音にかき消されていった…
【次回に続く…】
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