【小説】 僕と悪魔と彼女…

幻田恋人

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第3話「サバトでの彼女との出逢い…」

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 僕は魅力的過ぎると言っていい女性に誘い込まれるようにして、田辺の部屋の玄関に招じ入れられた。

「田辺さん、お邪魔します…」
 僕は自分の部屋とほとんど変わらないはずの造りの部屋を、キョロキョロと見回した。だが、殺風景と言ってもいい僕の部屋と違い、壁紙から調度や家具の全てに金がかかってるような感じだった。
 でも…そういった全てがお世辞にも素晴らしいと言う訳では無く、あまり趣味がいいとは言えないな…と、僕は思った。
 これなら、殺風景な僕の部屋の方がまだ落ち着けると思う。そうなんだ、この部屋は何だか落ち着かないと言えた。
 
 ドアから入った途端とたん、何か甘いような不思議な香りがただよってきた。香でもいているのだろうか。その匂いをいでいると、少し頭がクラクラするように感じた。
 何だか、イヤな予感がした… 大麻たいまか何かだろうか…?
 グラスパーティー? 僕はひょっとして、ヤバい集まりに引き込まれたんじゃ…
 そう思いかけてた僕の背中が優しく押されて、あの魅力的な女性がまた耳元に色っぽい声でささやいてきた。

「どうしたの…? ずっとここに突っ立っている気? さあ、早く奥にお入りなさいな。みんな、お待ちかねよ…」 
 彼女の囁く声はとても性的に魅力を感じる声だった。僕の股間はまたうずき出してしまう。
 彼女は僕の背中にピッタリと身体を押し付けながら、僕をリビングの方へと押して行く。さっき見た彼女の豊満な胸が僕の背中に押し付けられる。
 とても柔らかい感触のモノがグイグイと押し付けられてくるんだ。ひょっとして、この人ノーブラなのか…?

「ピンポン、正解よ… ブラジャーなんてしてないわ…」

 彼女の囁きはタイミングと言い、ズバリ正確に言い当てた事と言い、まるで僕の考えを読み取ったかの様だった。答えながら僕の背後から伸ばされてきた彼女の右手が、また僕の股間のモノを握ってさすり始めた。

「童貞君の割には立派な息子さんね…」
そう囁いた彼女は僕の左の耳たぶを優しくんできた

「うっ…」
 僕のモノはかなり硬度を増してきた。僕は逃げようとしたが、彼女の右手は僕を放してはくれなかった。耳の中に舌を入れてめ回す彼女に僕の身体は、そのままリビングに押し進められて行った。
 いつの間にか僕の身体は、彼女の舌も右手も心地よいものとしてこばまない様になっていた。それどころか、彼女が続けてくれるのを望んでさえいた。
 ガマン汁と言われる液体が僕のモノの先端からあふれ出して、太ももの方へと伝い落ちるのが感じられた。
『ダメだ… このままだと射精しちゃう…』
 僕がそう思った途端とたん、彼女は右手と舌を使った愛撫を止めた。

「まだダメよ。我慢がまんして…」
 そう言って彼女は、僕の背中に押し付けていた自分の身体を離した。
 彼女の胸が右手が舌が…僕から離れていく。僕はホッとするよりも自分の感じていた快感の波が去って行くのが残念だった。
 勃起していた僕のモノは、握られていた彼女の右手の余韻よいんを惜しみながら硬さを失っていった。
僕は深く長いため息をついた。
 彼女は僕の顔を見つめて微笑むと、美しい口元からピンク色の長い舌を出して自分の唇をイヤらしく舐めながら言った。

「続きは、あ・と・で・ね…」

 僕は頭がクラクラしてきた。大げさに言っているのでは無く、本当に酔った様な気分になって来たのだ。ほろ酔いの様な自分の状態に僕は驚いた。
 これは、この漂う香のような匂いが原因なのか… それとも、彼女の魔性の様な魅力のせいなのか…?

その時だった…
 僕の左耳に声が聞こえてきたのだ。でも彼女は僕の目の前にいる。じゃあ、この声は…?

「ばか、俺だよ。ザミエルだ。俺の声はお前にしか聞こえていないから心配するな。
 おい、大河… この部屋はお前にはヤバいぞ… 魔界の匂いがプンプンしやがる。これはサバトの匂いだぞ…」   
 ザミエルの呼びかけに僕はあせった。何言ってるんだコイツ…? 
 でも、ヤツの言う通りに目の前の女性には聞こえていない様だった。

「どうしたの…? 気分でも悪い? 後でスッキリさせてあげるから今は我慢しなさい、坊や。 分かった…?」
 自分の豊満な胸をみしだくようにしながら女性が言った。
 僕はザミエルの事は忘れて、期待と欲望に胸をふくらませながら頷いた。

 玄関からリビングまでのたった十数歩ほどの距離が随分と長く感じられたが、僕はようやくリビングにたどり着き中に入った。

 リビングに入った途端… 実際に物力的なプレッシャーの様に感じるほどの不快な気持ちに一瞬、僕は部屋を出ようかと思った。
 だが、そんな気持ちを吹き払う様な大声が部屋中に響き渡った…

「おう! 井畑、遅いぞ! 何やってんだ、お前? そうか…ジュン、お前井畑になんかしたんだろう? ハハハッ、この淫乱女が! まあいい… 井畑、そこに座れよ。」
 すでに酔っぱらっているような口調の田辺にうながされて、僕は彼の前のソファーに座った。

 長椅子に腰掛けた田辺は、自分の右側に座った一人の女性の肩に右腕を回して身体を彼女に押し付けていた。彼の左手はその女性の左太ももをで回していた。
 その女性は喜んでいる様では無く、嫌がって田辺から身を離そうと身体をよじるようにしているのが、僕には見ていて分かった。肩に回された田辺の右腕が彼女を逃がさない様に押さえつけている様だった。
 うつむいていた彼女が、助けを求めるように顔を上げて僕の方を見た。その顔を見た僕は衝撃を受けた…

 だって… その娘は僕がひそかにあこがれている女子じょしだったのだ…

 彼女の名前は『大場おおばエリカ』。僕と同じ大学に通う同学年の女子学生で、英文学部に在籍しているはずだ。
 大場エリカは僕と同じバスで大学まで通学しているんだ。彼女の方が僕よりも先にバスに乗っている。彼女が座席に座っていれば、僕は少し離れた場所に立って大学までのバスの車中でジッと彼女を見つめているのだ。
 彼女は最近の若い人では珍しく、スマホでは無くてカバーの付いた文庫本を読んでいる事が多い。
 いつも僕は自分達の降りる大学前の停留所にバスが着くまで、本を読む彼女の横顔をうっとりと見つめている。
 僕はいつしか、面と向かって話した事も無い大場エリカに恋をしていたのだった。
 もちろん、告白などしていないから、一方的な僕の片想いなんだけど…
 
 彼女は、やはり今どきの娘には珍しく派手な感じとは無縁で、それでも清潔で清楚な雰囲気の漂う美少女だった。
 透明感あふれる彼女は見た目ははかないように見えるけど、その優しいんだ眼差まなざしにはしっかりとした意志の強さが表れていた。
 その美しさに言い寄る男は多いだろうが、彼女は軽はずみに軟派な誘いに引っ掛かりはしない…そんな風に僕には思えた。
 自分がそう思い込みたいだけでは無く、なぜか僕は確信できたんだ。
 理由は自分でも分からないけど、大場エリカに対して僕は運命的なモノを感じてしまうんだ。

 その運命的な予感は、変な意味で当たっていた訳だ。そんな憧れの彼女とこんな場所で、この様な出逢い方をするなんて…

 僕は嫌がっている大場エリカを、何とか田辺から助けようと考えた。

「あ、大場さんじゃないですか? こ、こんな所で会うなんて田辺さんとはお知り合いなんですか?」
 この室内にいた三人の視線が一斉に僕に向けられるのを感じた。
 大場エリカ自身も一瞬、不思議そうな顔で僕を見た。彼女は僕をどこかで見かけたくらいならあるかもしれないけど、僕の事なんて全然関心も無かっただろうから。

 田辺が僕と大場エリカを交互に不信そうに見た瞬間、彼の手がゆるんだのだろう。その一瞬のスキを逃さずに大場エリカは田辺の横から逃れて立ち上がると、僕の方へ逃げて来た。そして、僕の後ろへ回り込んだ。
 僕は、そのまま田辺と彼女の間に立ちふさがるようにした。
 臆病な僕だけど、大場エリカのためだと思うと不思議と怖くは無かった。

 田辺は一瞬すごい形相ぎょうそうで僕達二人をにらんだけど、すぐに無理して引きつった笑顔を作って僕に話しかけてきた。

「何だ、井畑。お前、エリカちゃんと知り合いなのか…?」
 面白くなさそうな感情が見え見えの田辺の声音と表情だ。この男、どうやら芝居というものが出来無いらしい。

「まあ、二人とも座れよ。エリカちゃん、冗談だからさあ… そんなに俺の事、毛嫌いしないでよ。俺、傷付いちゃうなあ…」
 どう見ても傷付いている顔では無さそうだ。田辺の大場エリカの全身を舐め回すように見るいやらしい目は、淫猥いんわいそのものだったからだ。
 その辺を隠す芝居が出来ないのか、隠す気が毛頭ないのか定かではないが、第三者の僕が同性として見ていても気味が悪いほどなのだ。

果たして田辺はこんな男だっただろうか…?
 いや、僕の知る限りでは田辺は女好きだけど…ここまで卑猥ひわいな男では無かったはずだ。
何かがおかしい…
 僕は、さっきザミエルの言った言葉が頭をよぎった。

『おい、大河… この部屋はお前にはヤバいぞ… 魔界の匂いがプンプンしやがる。これはサバトの匂いだぞ…』

 田辺にしろ…魅力的だが僕に対して執拗しつように卑猥な行為を繰り返して来た美女にしても、何か…この部屋の住人は変だ。
 この頭がクラクラする感覚と関係があるのだろうか…?
 ザミエルの言ったサバトって、いったい何なんだ…?

「ぼうや… サバトなんて言葉をよく知ってるねえ…」

僕は背後から話しかけられてギクッとした。
 後ろを振り返ると、田辺にジュンと呼ばれた例の魅力的な女性がすぐ背後に立っている。
 大場エリカは田辺から身を隠すように僕の後ろ側にいたが、ジュンからも逃げるように僕の左側に回り込み、田辺とジュンを交互に警戒するように見ている。
 そして、大場エリカは僕の左腕に両腕をからめるようにすがり付いてきた。

「井畑君… 私、怖いの…」

 初めて憧れの大場エリカが僕に対して口をきいてくれた。
 彼女の胸に僕の左腕が押し付けられたけど、ジュンの時のように股間が反応する事は無かった。
 彼女はおびえているんだ。僕がまもってあげなきゃ…

 でも… 何で僕の考えている事がこのジュンに分かったんだろう?
 この部屋に入る前に、ノーブラを思い浮かべた僕の思考を読み取ったかのような発言と言い、まるでザミエルみたいじゃないか…

「ザミエル…? 何だい、そりゃ?」

 僕が考えるのとほぼ同時にジュンが口を開いた。
 もう間違いなかった。ジュンは僕の考えを読んでいるんだ…
 という事は、この女もザミエルと同類…? 悪魔なのか?
 それに、この部屋の主である田辺はどうなんだ…?
 サバトって何なんだよ、いったい?

 僕は大場エリカの両手に自分の右手を重ねて、安心させるように力を込めて彼女の手を握った。

こんな時に、ザミエルは何をしてるんだ…?
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