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第10話「ニケ… 姿を撮影される」
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「北条課長、例の翼の少女が現れたようです。」
「今回はどこだ?」
報告を受けた北条智はすぐさま自分の執務室に出向いた。今日の北条は休暇だったのだが、彼は基本的に緊急事態では休暇返上で仕事をこなすことにしていた。仕事の虫なのである。
「昨日の成田空港での着陸事故に遭遇した乗客のスマホの動画と、やはり空港の監視カメラの映像にそれらしい人物が映っていました。」
内閣情報調査室特務零課の課長室で、出勤してきた北条が自分のデスクで部下の報告を聞いている。
「ほう… あの事故現場に翼の少女が現れたのか…。するとあの事故に何か関係しているのか…?」
「今のところは事故との関連性は不明です。」
「ふむ、とにかく動画を見せたまえ。」
「はっ、こちらです。」
部下が壁に据え付けてある大型モニターに動画を映し出した。一つは乗客がスマホで旅客機の窓から撮影した動画で、かなり不鮮明だったが飛行機の翼の上を歩く姿で、確かに折りたたんだ銀色の翼(?)を背中に背負った、セーラー服(?)の残骸とでもいうべきボロボロの服装を身にまとった人間に見えなくもない…という程度の動画である。人物の顔などは全く確認出来ない。これでは翼の少女どころか、年齢や風体等も含めてどういう人物なのかも全く分からないと言ってもよかった。
もう一つの映像は、成田国際空港から提供を受けた公式記録としての動画のコピーである。空港の監視カメラが撮影した動画で、ジェット機が空港滑走路に緊急着陸した直後の映像らしい。旅客機から煙が発生しているが、まだ消火用の放水はされていない。と、その時強い風が吹いたために画面中央部の左翼側の機体部分を覆っていた煙が、ほんの数秒間だが吹き飛ばされて見通しが良くなったのである。左翼付け根にあたる部分であり、本来は着陸脚が滑走路上に車輪を下ろしているべきはずだが、画面では中途半端な角度で止まっている。その真下に当たる部分に、たたずむ一人の人影が映っていた。
「拡大しろ!」
北条の命令で部下が人影の部分を拡大した。拡大するにつれて画質が荒くなるが、何とか判別できるのは、ボロボロになった服の残骸らしき布切れを身体にまとった、女性の体形をしているように…見える人物だった。顔は判別出来ないが、顔の上半分に銀色の面を被っているように見える。そして、右手には棒状の物を握り、左手には盾(?)の様な物を構えている。この人物は事故直後の旅客機付近で旧式な武器の様な物を持って何をしていたのだろうか…? その人物は周囲を見回すように、顔をゆっくりと左右に振ったようだ。その次の瞬間、人物は消失した。画面上に存在しなくなったのだ。
「巻き戻せ、もう一度今の部分を再生するんだ。」
部下が命じられるままに繰り返した。しかし、何度見ても同じシーンで人物が消失するのである。
「この動画は30f/sで撮影されています。つまり、1秒間に30フレーム記録されるんです。次にコマ送りで再生してみます。」
部下が北条に命令される前に、気を利かした行動を取った。
「よし、やってみろ。」
北条が満足そうに言う。彼は命令されたままを行なう者よりも、今の様に相手の先を読んで行動する者が好みだった。
コマ送りで再生される画像には人物が消失する瞬間に、ボウッと霞んだ影のような物が画面上方に消えた様に見えた。形は判別できないが、確かに人物のいた場所から影は上方に消えていくように見える。影はわずか1コマのみしか捉えられていなかった。これでは静止写真で1枚だけ撮影をして、その1枚がブレた写真だったという事と同じだ。
「これは…つまり1/30秒でも一瞬の影としか捉えられない速度で上方に人物が飛び去ったという事か…」
「さすがは課長です。私も何度考えても、そのように結論付けるしかありませんでした。」
「ふん…」
北条は上司にゴマをすったり、自分の推測を上司に対して簡単に口にするような奴は嫌いだった。この男のさっきの好感度はこれでゼロになった。だが、誰が考えても今の映像から得られる答えが同じなのは、言われるまでも無かった。
「瞬間的に加速して、空に飛び去る事が可能な人物…か。人間にそんなことが出来る訳がない。まるで特撮ヒーローだな。ふん… 謎がさらに深まっただけだな…」
北条はこの部下に対して、さらに命じた。
「ラボに言って今の動画の人物の写った部分を解析して画像の解像度を上げさせろ、もっと人物の特徴を判別できる程度にな。乗客のスマホについてもだ。早急に調べさせ結果を持ってこさせるんだ。」
「はっ!」
すぐに部下は部屋を出て行った。今のはいい… アイツは命令に対する反応が早いな。もう一度加点しておいてやろう…
北条の言ったラボとは科警研の様な研究所で、内閣情報調査室直属の施設である。こういった情報を解析するには専門的にも機能的にも一番適していると言えた。
「しかし、あの翼の少女と同一人物だとすると今回の旅客機事故でどんな役割を果たしたのか… それに人間が自分の力だけで空を超高速で飛べるというのか…? そんな馬鹿げたことの出来るこいつは、一体何者なんだ…」
北条の興味がさらにかき立てられた。彼は、この人物の正体を明かしてやりたくて仕方が無くなっていた。
********************
同時刻、榊原家では主人の竜太郎とアテナ夫婦、娘のくみ、そしてくみの祖父である稀代の大陰陽師、安倍賢生の4人が、とある美味で有名な高級中華料理店で満漢全席を食していた。昨日の旅客機救出劇の成功を祝して、家族で祝賀会の宴席を設けていたのだ。もちろん、主役はニケこと榊原くみである。
「うーん、本当に美味しいねえ、ここの料理は…」
くみは料理を次から次へと平らげていた。彼女の食欲は他の3人が驚くほどの健啖ぶりだった。
「あなた、よくそんなに食べられるわね…」
アテナが呆れたように言った。
「まあまあ、アテナさんや。そう言わないでやっておくれ。くみのお陰でどれだけの人達の命が助かったことか。今日は、そのお祝いなんじゃから。くみや、気にせずにいくらでもお食べ。」
祖父の賢生が、くみに助け舟を出す。
「そうだよ、アテナ。僕もくみには感謝しきれない。僕や父さんが無事なのも、こうやって家族みんなで食事が出来ているのも、全部くみのお陰だよ。」
竜太郎もくみを庇う。竜太郎は額に大きな絆創膏と左腕に包帯を巻いていた。だが、怪我そのものは大したことは無く軽傷だった。老人である賢生の方が怪我もなくピンピンしているのが不思議であった。くみに関しては言うまでも無く、この元気いっぱいの食欲である。
「嫌だわ、あなたまで… 私だってくみの健闘を誰よりも称えているのよ。勘違いしないでちょうだい。ただね…くみ、食べ過ぎて太ってもママは知りませんからね。」
と、くみに対してアテナは微笑んで言った。とても愛に満ちた笑顔であった。ここにいる全員が、くみを愛おしみ誇りに思っていた。
くみは皆の愛を一心に受けている事に感謝し、自分に注がれた愛を、少しでも皆に対して返したい気持ちでいっぱいだったのだ。今、この瞬間が幸せで堪らないほどだった。昨日の自分の頑張りが報われた思いで嬉しかった。この素晴らしい家族のために命を懸けた事をくみは誇りに思った。
くみは、この幸せが永遠に続けばいいと願った…
**************************
『次回予告』
北条 智と鳳 成治
大学時代からの親友同士でもある特務零課の二人がニケの正体に迫る…
果たしてニケの秘密は暴かれてしまうのか…?
次回ニケ 第11話「北条 智と鳳 成治、作戦暗号名は『ニケ』」
にご期待下さい。
「今回はどこだ?」
報告を受けた北条智はすぐさま自分の執務室に出向いた。今日の北条は休暇だったのだが、彼は基本的に緊急事態では休暇返上で仕事をこなすことにしていた。仕事の虫なのである。
「昨日の成田空港での着陸事故に遭遇した乗客のスマホの動画と、やはり空港の監視カメラの映像にそれらしい人物が映っていました。」
内閣情報調査室特務零課の課長室で、出勤してきた北条が自分のデスクで部下の報告を聞いている。
「ほう… あの事故現場に翼の少女が現れたのか…。するとあの事故に何か関係しているのか…?」
「今のところは事故との関連性は不明です。」
「ふむ、とにかく動画を見せたまえ。」
「はっ、こちらです。」
部下が壁に据え付けてある大型モニターに動画を映し出した。一つは乗客がスマホで旅客機の窓から撮影した動画で、かなり不鮮明だったが飛行機の翼の上を歩く姿で、確かに折りたたんだ銀色の翼(?)を背中に背負った、セーラー服(?)の残骸とでもいうべきボロボロの服装を身にまとった人間に見えなくもない…という程度の動画である。人物の顔などは全く確認出来ない。これでは翼の少女どころか、年齢や風体等も含めてどういう人物なのかも全く分からないと言ってもよかった。
もう一つの映像は、成田国際空港から提供を受けた公式記録としての動画のコピーである。空港の監視カメラが撮影した動画で、ジェット機が空港滑走路に緊急着陸した直後の映像らしい。旅客機から煙が発生しているが、まだ消火用の放水はされていない。と、その時強い風が吹いたために画面中央部の左翼側の機体部分を覆っていた煙が、ほんの数秒間だが吹き飛ばされて見通しが良くなったのである。左翼付け根にあたる部分であり、本来は着陸脚が滑走路上に車輪を下ろしているべきはずだが、画面では中途半端な角度で止まっている。その真下に当たる部分に、たたずむ一人の人影が映っていた。
「拡大しろ!」
北条の命令で部下が人影の部分を拡大した。拡大するにつれて画質が荒くなるが、何とか判別できるのは、ボロボロになった服の残骸らしき布切れを身体にまとった、女性の体形をしているように…見える人物だった。顔は判別出来ないが、顔の上半分に銀色の面を被っているように見える。そして、右手には棒状の物を握り、左手には盾(?)の様な物を構えている。この人物は事故直後の旅客機付近で旧式な武器の様な物を持って何をしていたのだろうか…? その人物は周囲を見回すように、顔をゆっくりと左右に振ったようだ。その次の瞬間、人物は消失した。画面上に存在しなくなったのだ。
「巻き戻せ、もう一度今の部分を再生するんだ。」
部下が命じられるままに繰り返した。しかし、何度見ても同じシーンで人物が消失するのである。
「この動画は30f/sで撮影されています。つまり、1秒間に30フレーム記録されるんです。次にコマ送りで再生してみます。」
部下が北条に命令される前に、気を利かした行動を取った。
「よし、やってみろ。」
北条が満足そうに言う。彼は命令されたままを行なう者よりも、今の様に相手の先を読んで行動する者が好みだった。
コマ送りで再生される画像には人物が消失する瞬間に、ボウッと霞んだ影のような物が画面上方に消えた様に見えた。形は判別できないが、確かに人物のいた場所から影は上方に消えていくように見える。影はわずか1コマのみしか捉えられていなかった。これでは静止写真で1枚だけ撮影をして、その1枚がブレた写真だったという事と同じだ。
「これは…つまり1/30秒でも一瞬の影としか捉えられない速度で上方に人物が飛び去ったという事か…」
「さすがは課長です。私も何度考えても、そのように結論付けるしかありませんでした。」
「ふん…」
北条は上司にゴマをすったり、自分の推測を上司に対して簡単に口にするような奴は嫌いだった。この男のさっきの好感度はこれでゼロになった。だが、誰が考えても今の映像から得られる答えが同じなのは、言われるまでも無かった。
「瞬間的に加速して、空に飛び去る事が可能な人物…か。人間にそんなことが出来る訳がない。まるで特撮ヒーローだな。ふん… 謎がさらに深まっただけだな…」
北条はこの部下に対して、さらに命じた。
「ラボに言って今の動画の人物の写った部分を解析して画像の解像度を上げさせろ、もっと人物の特徴を判別できる程度にな。乗客のスマホについてもだ。早急に調べさせ結果を持ってこさせるんだ。」
「はっ!」
すぐに部下は部屋を出て行った。今のはいい… アイツは命令に対する反応が早いな。もう一度加点しておいてやろう…
北条の言ったラボとは科警研の様な研究所で、内閣情報調査室直属の施設である。こういった情報を解析するには専門的にも機能的にも一番適していると言えた。
「しかし、あの翼の少女と同一人物だとすると今回の旅客機事故でどんな役割を果たしたのか… それに人間が自分の力だけで空を超高速で飛べるというのか…? そんな馬鹿げたことの出来るこいつは、一体何者なんだ…」
北条の興味がさらにかき立てられた。彼は、この人物の正体を明かしてやりたくて仕方が無くなっていた。
********************
同時刻、榊原家では主人の竜太郎とアテナ夫婦、娘のくみ、そしてくみの祖父である稀代の大陰陽師、安倍賢生の4人が、とある美味で有名な高級中華料理店で満漢全席を食していた。昨日の旅客機救出劇の成功を祝して、家族で祝賀会の宴席を設けていたのだ。もちろん、主役はニケこと榊原くみである。
「うーん、本当に美味しいねえ、ここの料理は…」
くみは料理を次から次へと平らげていた。彼女の食欲は他の3人が驚くほどの健啖ぶりだった。
「あなた、よくそんなに食べられるわね…」
アテナが呆れたように言った。
「まあまあ、アテナさんや。そう言わないでやっておくれ。くみのお陰でどれだけの人達の命が助かったことか。今日は、そのお祝いなんじゃから。くみや、気にせずにいくらでもお食べ。」
祖父の賢生が、くみに助け舟を出す。
「そうだよ、アテナ。僕もくみには感謝しきれない。僕や父さんが無事なのも、こうやって家族みんなで食事が出来ているのも、全部くみのお陰だよ。」
竜太郎もくみを庇う。竜太郎は額に大きな絆創膏と左腕に包帯を巻いていた。だが、怪我そのものは大したことは無く軽傷だった。老人である賢生の方が怪我もなくピンピンしているのが不思議であった。くみに関しては言うまでも無く、この元気いっぱいの食欲である。
「嫌だわ、あなたまで… 私だってくみの健闘を誰よりも称えているのよ。勘違いしないでちょうだい。ただね…くみ、食べ過ぎて太ってもママは知りませんからね。」
と、くみに対してアテナは微笑んで言った。とても愛に満ちた笑顔であった。ここにいる全員が、くみを愛おしみ誇りに思っていた。
くみは皆の愛を一心に受けている事に感謝し、自分に注がれた愛を、少しでも皆に対して返したい気持ちでいっぱいだったのだ。今、この瞬間が幸せで堪らないほどだった。昨日の自分の頑張りが報われた思いで嬉しかった。この素晴らしい家族のために命を懸けた事をくみは誇りに思った。
くみは、この幸せが永遠に続けばいいと願った…
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