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第4話「女神の覚醒… アテナとニケ」
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アテナは夫である竜太郎との運命的な出逢いに感じた時と同じように、娘くみの誕生に運命を感じていた。彼女にとっては自分がこの世に生まれ落ちた瞬間から、全て定められた運命であったのだ。
母国ギリシアでの竜太郎との出会いから結婚、そして娘くみの誕生までのすべての出来事が何かの意思によって定められていた、そんな思いをアテナは胸に感じていたのだった。
それはアテナにとって、不快な思いではなかった。それよりも自分に課せられた使命を、くみを生んだ事で達成出来たように感じていた。
自分は竜太郎と結ばれるべくして出会い、そしてくみは二人の子として生まれてくるべき命だったのだと、アテナは漠然とだが理解していたのだ。
********************
くみは両親に愛されて健やかに育った。自分の明るい栗色の髪と、日本人には無い澄んだ碧眼にコンプレックスを感じることなく、明るく元気に育っていった。くみは周囲の誰からも愛された。
だが、くみ自身とアテナと竜太郎夫婦が、世間に隠さねばならないことがあった。
くみは、ギリシア神話における「勝利の女神ニケ」の生まれ変わりだったのだ…
アテナがくみの異変に気付いたのは、くみの2歳の誕生日の事だった。
その日、アテナはくみを連れて外を散歩していた。アテナたちの住む町にはそれほど大きくはないが小山があった。その小山を回りながら上り下りする歩道がくみのお気に入りの散歩コースだったのだ。ここの散歩は結構な運動になる。その日2歳になったばかりのくみは、歩き疲れてベビーカーで眠っていた。アテナは昼寝をするくみを乗せたベビーカーと共に山の中腹にある、町を展望出来る休憩所で休んでいたのだ。アテナも休憩所にあるベンチに腰を掛けて、町の景色を眺めていた。彼女はここから見下ろす景色が好きだった。
そろそろ帰ろうかとアテナが立ち上がり、くみがまだ眠るベビーカーを押して坂道を下り始めた時に、運命の出来事が起こった。
山を下る坂道は緩いカーブを描きながら、山を回る様に走行している。アテナ達の歩く歩道はこの車道に沿って続いている。くみとアテナは休憩を終えて、自宅に帰るべく歩道を歩いて下っていた。
歩道を下る母娘の上の方から、改造車のエンジンらしい爆音が聞こえてきた。この道は走り屋達のコースとしても人気があったのだ。振り返ったアテナの目に、かなりのスピードを出してカーブを曲がりつつある一台の車が映った。
「だめっ… こっちへ来るっ!」
アテナには車が母娘めがけて突っ込んでくる様子が分かった。まるで予知のように、彼女の目にはっきりとその光景が映ったのだ。アテナはくみの乗るベビーカーを守るように、車との間に自分自身の身を置いた。猛スピードで迫る車がガードレールに激突し突き破った瞬間… それは起こった。
アテナが車に向かって差し出した左手が、まばゆい黄金色の光を発した… 光はアテナの全身を包み込んでいく。次の瞬間、アテナの左手は光り輝く黄金の盾を握っていた… 猛スピードで激突したはずの1トン以上もある自動車を、華奢なアテナが手に握る黄金の盾が、文字通り弾き飛ばした。
「イージス!」
黄金の盾を見つめたアテナは、自分でも意味不明の言葉を叫んでいた。
しかし、弾き飛ばされた車はその運動エネルギーを保ったまま角度を変えて、アテナの後方にあったくみの乗るベビーカーを車体に引っ掛けたのだ。そして車は、ガードレールと反対側にある柵をも突き破り崖下へと飛び出していった。引っ掛けられたベビーカーもろとも…
「くみーっ! いやああっ!」
母アテナの絶叫空しく、彼女の目の前でくみを乗せたベビーカーは落下していった…
「くみぃ… ああ… 私のくみ…」
アテナはその場にくずおれ、顔を手で覆い絶望の呻きを漏らした…
「ううう… 神様… あんまりです… どうしてこんな…」
くみを失った絶望に泣きむせぶアテナ…
と、その時…
「ママー!」
くみの声だ… アテナは驚いて声の方に目を向けた。
すると目の前に奇跡が起こっていた…
2歳の幼いくみが、母の方に手を伸ばしながら空中に浮かんでいた…
くみは飛んでいるのだ。
くみの背中には天使のような銀色の翼が生えていた。その翼を鳥のように羽ばたかせて、くみは飛んでいた…
アテナは娘くみの姿に驚愕して、叫び声をあげるかと思われたが、彼女の口から出たのは次の言葉だった。
「ニケ… あなたも覚醒したのね…」
アテナは微笑んで我が娘に手を差し伸べた。
己が娘であるくみの覚醒した姿を見た母のアテナ自身もまた、女神アテナとして覚醒したのだ。
くみがゆっくりと舞い降り、母の胸に飛び込んだ。
抱き合う母と娘…
アテナとニケ…
二人の女神の覚醒だった…
**************************
『次回予告』
くみとアテナに訪れた女神の覚醒…
その事実を夫である榊原竜太郎に打ち明けるアテナ。
家族の運命に夫婦はどう向き合っていくのか…?
次回ニケ 第5話「アテナと竜太郎…二人の思い」
にご期待下さい。
母国ギリシアでの竜太郎との出会いから結婚、そして娘くみの誕生までのすべての出来事が何かの意思によって定められていた、そんな思いをアテナは胸に感じていたのだった。
それはアテナにとって、不快な思いではなかった。それよりも自分に課せられた使命を、くみを生んだ事で達成出来たように感じていた。
自分は竜太郎と結ばれるべくして出会い、そしてくみは二人の子として生まれてくるべき命だったのだと、アテナは漠然とだが理解していたのだ。
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くみは両親に愛されて健やかに育った。自分の明るい栗色の髪と、日本人には無い澄んだ碧眼にコンプレックスを感じることなく、明るく元気に育っていった。くみは周囲の誰からも愛された。
だが、くみ自身とアテナと竜太郎夫婦が、世間に隠さねばならないことがあった。
くみは、ギリシア神話における「勝利の女神ニケ」の生まれ変わりだったのだ…
アテナがくみの異変に気付いたのは、くみの2歳の誕生日の事だった。
その日、アテナはくみを連れて外を散歩していた。アテナたちの住む町にはそれほど大きくはないが小山があった。その小山を回りながら上り下りする歩道がくみのお気に入りの散歩コースだったのだ。ここの散歩は結構な運動になる。その日2歳になったばかりのくみは、歩き疲れてベビーカーで眠っていた。アテナは昼寝をするくみを乗せたベビーカーと共に山の中腹にある、町を展望出来る休憩所で休んでいたのだ。アテナも休憩所にあるベンチに腰を掛けて、町の景色を眺めていた。彼女はここから見下ろす景色が好きだった。
そろそろ帰ろうかとアテナが立ち上がり、くみがまだ眠るベビーカーを押して坂道を下り始めた時に、運命の出来事が起こった。
山を下る坂道は緩いカーブを描きながら、山を回る様に走行している。アテナ達の歩く歩道はこの車道に沿って続いている。くみとアテナは休憩を終えて、自宅に帰るべく歩道を歩いて下っていた。
歩道を下る母娘の上の方から、改造車のエンジンらしい爆音が聞こえてきた。この道は走り屋達のコースとしても人気があったのだ。振り返ったアテナの目に、かなりのスピードを出してカーブを曲がりつつある一台の車が映った。
「だめっ… こっちへ来るっ!」
アテナには車が母娘めがけて突っ込んでくる様子が分かった。まるで予知のように、彼女の目にはっきりとその光景が映ったのだ。アテナはくみの乗るベビーカーを守るように、車との間に自分自身の身を置いた。猛スピードで迫る車がガードレールに激突し突き破った瞬間… それは起こった。
アテナが車に向かって差し出した左手が、まばゆい黄金色の光を発した… 光はアテナの全身を包み込んでいく。次の瞬間、アテナの左手は光り輝く黄金の盾を握っていた… 猛スピードで激突したはずの1トン以上もある自動車を、華奢なアテナが手に握る黄金の盾が、文字通り弾き飛ばした。
「イージス!」
黄金の盾を見つめたアテナは、自分でも意味不明の言葉を叫んでいた。
しかし、弾き飛ばされた車はその運動エネルギーを保ったまま角度を変えて、アテナの後方にあったくみの乗るベビーカーを車体に引っ掛けたのだ。そして車は、ガードレールと反対側にある柵をも突き破り崖下へと飛び出していった。引っ掛けられたベビーカーもろとも…
「くみーっ! いやああっ!」
母アテナの絶叫空しく、彼女の目の前でくみを乗せたベビーカーは落下していった…
「くみぃ… ああ… 私のくみ…」
アテナはその場にくずおれ、顔を手で覆い絶望の呻きを漏らした…
「ううう… 神様… あんまりです… どうしてこんな…」
くみを失った絶望に泣きむせぶアテナ…
と、その時…
「ママー!」
くみの声だ… アテナは驚いて声の方に目を向けた。
すると目の前に奇跡が起こっていた…
2歳の幼いくみが、母の方に手を伸ばしながら空中に浮かんでいた…
くみは飛んでいるのだ。
くみの背中には天使のような銀色の翼が生えていた。その翼を鳥のように羽ばたかせて、くみは飛んでいた…
アテナは娘くみの姿に驚愕して、叫び声をあげるかと思われたが、彼女の口から出たのは次の言葉だった。
「ニケ… あなたも覚醒したのね…」
アテナは微笑んで我が娘に手を差し伸べた。
己が娘であるくみの覚醒した姿を見た母のアテナ自身もまた、女神アテナとして覚醒したのだ。
くみがゆっくりと舞い降り、母の胸に飛び込んだ。
抱き合う母と娘…
アテナとニケ…
二人の女神の覚醒だった…
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『次回予告』
くみとアテナに訪れた女神の覚醒…
その事実を夫である榊原竜太郎に打ち明けるアテナ。
家族の運命に夫婦はどう向き合っていくのか…?
次回ニケ 第5話「アテナと竜太郎…二人の思い」
にご期待下さい。
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