死にたがりの”ドール”が幸せを掴むまで

あやまみりぃ

文字の大きさ
上 下
41 / 41
番外編

アインの教育?

しおりを挟む
 ーー紫音の語学レベルに驚いた3日後。

 ライオネルからはもっと紫音を知りたい、紫音からは運動したい、アインからは一度紫音と手合わせしてみたい、ルイスからは紫音の実力を又聞きではなく自分で見て把握したいという4人の思惑が合致し、屋外の鍛練場の1つを4人で借りきっていた。

 対外的には、ライオネルの魔力実験という名目で借り、危険な為関係者以外敷地に立ち入る事を禁止にしていたが、実際は紫音の能力が不明……というか規格外な気がした為、外部への情報漏洩対策である。

 最初、過保護なライオネルは紫音が手合わせを行う事を良しとせず、もうちょっと体調が整ってからと言っていたが、紫音がライオネルの膝に乗りながら“無理をしないからダメ?”と上目遣いでライオネルにお願いした結果、現在に至る。

 ……頭の良い紫音はもうライオネルへのお願いの仕方を覚えたようである。

 普段温厚なアインだが、やはり騎士になる位であり、あまり自己主張しない為忘れられがちだが、ここ近年の武道大会では連続優勝していて、実力が国1番の護衛騎士である。自分が強くなる事への向上心や探究心、強い者への憧れ等もあり、紫音との手合せを楽しみにしていた。


 まずは、魔法なし、アインは刃を潰した剣と紫音は火かき棒を手にお互い10メートル程離れて向かい合う。

 そして、ライオネルが号令をかけ、激しい打ち合いが始まる








 事は無く


 ーートス……、ドサッ


「「は?」」

 一瞬で終わった。

 ライオネルとルイスは思わず間抜けな声を上げていた。

 2人が見たものは号令と共に紫音が消え、すぐ後にはアインの真横に立っており、首への手刀でアインを地に伏せさせていたという結果である。

 紫音は剣は重くて手に馴染まないからと火かき棒を選択していたが、恐らく最初から実力差が有りすぎる事が分かっていたのだろう。
 
 紫音の手刀も手加減されていたアインは目を瞬かせながら起き上がった。



 2試合目。


 全く話にならないので、少し条件を変えることになった。

 紫音はその場から動かず、アインからの攻撃を受けた後から、反撃可能と言うことにした。
 これは紫音の先手必勝の暗殺技術と俊敏性を封じ込めた形だ。

 そして、ライオネルが号令をかけ今度こそ激しい打ち合いが始まる









 事は無く

 ーータタタタッ、キンッ……、ドサッ


「「……」」


 またも打ち合いは一瞬で終わった。

 ライオネルとルイスは“もしかしたら”と思っていた為、今度は声を上げることは無かった。


 2人が見たものとは、アインが走り近付き剣を紫音に真っ向から振り下ろす。
 紫音はその場から動かず、火かき棒を頭上に斜めにかざし、アインの剣を流すように受けると火かき棒を持った手とは逆の手でアインの手首を掴み背中から落ちるようにアインを放り投げた。


「……空飛んだ」


 アインは衝撃のあまり、意味不明な事を言っている。



 3試合目。

 アインは魔法ありの全力で、紫音は相変わらず火かき棒で、2試合目の制限は取っ払いつつ、2人の向き合う場所を50メートル離れた地点にし、アインの魔法での遠距離攻撃も可能にした。

 そして、ライオネルが号令をかけ今度こそ激しい打ち合いが始まる








 事が出来た。


 と言っても、1分かからず終わってしまったが。。。


 ライオネルとルイスはもう紫音に対してジト目だった。
 彼らのアドバンテージでもある魔法を併用した手合せでこれである。
 アインは流石にショックを受けたようだったが、1番ショックを受けていたのは何を隠そう紫音である。


 ーー国1番の護衛騎士がこんな残念レベルなんて! 
 大切なライオネルを守る騎士がこのレベルなんて!!



 そして、この日から鬼上司紫音が降臨した。

「踏み込みが甘い」
「右足に重心かけすぎ」
「腰が入ってない」
「脇空きすぎ」
「どこ見てるんです」
「狙う場所分かってますか」
「ちゃんと頭使ってますか」

 的確なアドバイスはアインにとって凄くためになり良いのだが、5分程打ち合うと紫音から発せられる冷たい視線と言葉で“何度言えばわかるんですこのグズが”という副音声が聞こえてくるようになる。


 それから毎日きっかり30分紫音はアインに稽古をつけるようになり、アインは胃薬を使う量がちょっぴり増え、ライオネルは自身も手合わせしたかったが、あの紫音の冷たい視線に耐えられる気がしなくて断念し、ルイスはアインに渡す湿布や傷薬を毎日用意しなくてはならなくなった。


 ライオネルは紫音を怒らせない世の中を作らねばならないとかたく決心したのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

処理中です...