死にたがりの”ドール”が幸せを掴むまで

本編

不機嫌なお茶会

「それで？」

　ライオネルは不機嫌そうにソファに座って事情を聞く。因みに紫音はライオネルの膝の上だ。ライオネルが、少しでも機嫌が良くなるようにアインが紫音を誘導して座らせた。
　怒り心頭だったライオネルが間男であるルイスにも事情を聞こうとする辺り、アインの目論見は成功と言えるだろう。

　一時はあわや魔力爆発が起こるかという事態で、アインは必死に止めつつ使いたくはない犯罪者用の魔力を封じる事が出来る封魔石を取り出し使おうとしたが、紫音の”ライ”という一言でライオネルは自分を取り戻し、事なきを得た。

　ルイスは事情をライオネルに説明するとともに試していた事を謝る。
「シオン君の本質を調べようと思って、やった事です。申し訳ございませんでした。シオン君もすみませんでした」
「いえ」
　謝罪に対してもあっさりした紫音の反応に他の3人が一瞬押し黙る。

「紫音は何故言われた通りにしたんだ？　命令だったからか？　嫌じゃなかったのか？」
　これはルイスが知りたかった事でもある為、一同は紫音の回答を静かに待つ。

　話を振られた紫音はライオネルではなく向かいに座っているルイスを見ながら答える。

「ライオネル様の信頼されているルイス様の呼び出しは、主人に近付く得体の知れない私を観察したいという思惑かと感じました。私はライオネル様の不利益にならず、ライオネル様の役に立つのであれば特に何も思わないので、私をどのように使っていただいても構いません。」

　紫音としては、ライオネルの役に立つのであれば、ライオネル自身でなくてもライオネルの周りの人が紫音を使うのでも良いのだ。
　聡そうなルイスであれば、従順にしていれば手っ取り早く”それ”伝わるかと思い、ルイスの言う事を聞いていたのだ。
　結局、先程のように態度で示すか今のように言葉で言うかの違いであり、相手に紫音の意思が伝わりさえすれば、主人の為にも非情になれそうなルイスは今後上手く紫音を使ってくれるだろうという思惑があった。

　紫音は話終えると、もうルイスには用はないとばかりに、ライオネルの胸板を見つつ、そっと頭を胸板に添えてみた。昔絵本で見た膝抱っこを思い出しどんな感じかやってみようと思っているのだ。

「「「……」」」

　なんとも言えない雰囲気が漂う中アインがライオネルに確認する。

「えーと、ライオネル様はシオン君をもう洗脳したんですか？」
「……そんな訳あるか」

　簡単にいえば紫音はライオネルの役に立つのであれば、どんな事でもやるし、誰が使っても良いし、使い捨てにしても良いと言っているのだ。

　紫音の思考を追っていたルイスも驚き、思わず呟いた。
「ここまで都合の良い人間が存在するなんて……」
「違う、紫音はまだ自我が育ってないだけだ！　お前らは使い潰すなよ！」

　ライオネルはくっ付いている紫音を引き剥がすとちゃんと目が見えるように紫音の前髪を雑に上げ

「紫音！　お前も軽々しく人に体を差し出すな。お仕置きするぞ！」
「どうぞ」

　ニコッと笑って即答する紫音に、ライオネルは頭を抱えた。

「ばっ！　そーいうことじゃない！」

　アインとルイスも、初めて前髪を上げた紫音の素顔を見て、想像以上の綺麗な顔立ちに驚いていた所に可愛らしい微笑みがあり“これは惚れるわ”と思った。



　そして、3人とも紫音が約束をせず誤魔化した事に気が付くことは無かった。