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要らない

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 ルルガノーシュの手を払った翌日、裕人が目覚めるとスッキリしていた。
 前日感じた絶望感等は殆どなくなっていた。

 やはり、意識を失っていた時に打たれたという不安感を煽るクスリの影響があったかもしれないなとぼんやり思った。


 ただ、そうは思っても、一度持った感情を完全に消す事は出来なかった。



 ルルガノーシュも裕人が誘拐されていた時にあった事を人族から全部聞いたと言っていた。


 ルルガノーシュが心配して会いに来てくれて嬉しいのに、こんな汚い体を持つ裕人が番である事が相応しいとは思えず、ルルガノーシュから夢で見たように”要らない”と言われてしまわないか心配になった。

 “嬉しいのに怖い”それがルルガノーシュにあった時に抱く感情だ。
 心配してくれてるのに、要らないと言われるのが怖くて、感情や思っている事をルルガノーシュや昼間来てくれるニコラスなど誰にも吐き出す事が出来なくなっていた。
 そうすると、どうしても上部だけの対応となりがちで、ルルガノーシュの笑顔が減り、辛そうな顔をしている事が多くなった。

 そして、ルルガノーシュの訪問が減っていく。


 現実にあった前世での事や今世での事が、毎夜かわるがわる夢に出てきて、何度も夜中に目覚めた。

 中々眠れない為、食欲が減り、体調を崩しがちになるとより、負の感情は膨らんだ。


 そして、5日目ついに1日のうち1回もルルガノーシュが来ない日が出来た。

 ルルガノーシュが去ってしまう日が“ついに来たか”と思いつつも、たまたま用があって来れてないだけかもしれないと無理矢理納得させたりもしたが、その次の日も来なかった。

 そして、その次の日もその次の日も一度も現れなかった。


 ーー捨てられた。


 ルルガノーシュはあんなに心配してくれていたのに、うまく返せなかった自分が悪い。
 そんな自分が必要ないと思われるのは当然だ。

 絶望感がひしひしとわく中、ルルガノーシュに要らないと言われたら、生きている価値があるのだろうかと考えるようになった。


♢♢♢


 体調不良が続き、日がな1日部屋に篭っている日々。
 離れの部屋のベットから体を起こすと隣接されている庭園が見え、よく手入れされている花々は荒んだ裕人の心を慰めてくれていた。

 庭園は王宮に招かれたものには公開されていて、裕人から姿は見えないが、窓を開けてみていると風が強い日には庭園を散策している人達の声が聞こえる事があった。
 
 その日も風が強い日だった。

 複数人の声が響いていた。裕人は何の気なしにぼうっとしていたが、自分の話題が出た事で意識をそちらに向けた。

「……披露宴から、神子様はお目見えしませんな」
「なんでも体調を崩されているからとか。人族は弱いといいますが本当ですな」
「ワシの娘を伴侶に選んでいただければ、丈夫な上、政務も出来、夜も満足させられたのに」
「ははは。まぁ神子様が亡くなられでもしない限り無理でしょうな」
「それよりも……」


 裕人は呆然とした。

 確かに、今は与えられるばかりで、何もしていない。
 神子の務めも伴侶の務めもせず、神子という肩書きだけで王宮に過ごしている。

 そして、1つの考えに囚われる。


 僕が邪魔なのではないかと。
 僕が消えれば次の神子が来るんじゃないかと。


 そう思ったら、動かずにはいられなかった。

 その日のお昼、果物が食べたいと言い、果物の皮を自分で剥いてみたいと果物ナイフも貰った。

 王宮の者は食欲が減っていた裕人が自分から食べたい者をリクエストした事に喜んでいた。


 そして、その夜メイドが沸かしてくれたお風呂の前で、果物ナイフで手首を切り、湯船に手首をつける。

 自分で自分を傷つけるのはやった事がなくて怖かったけど、ルルガノーシュの未来の為にと奮い立たせ傷付けたら、あっけなく切れた。



 ーー僕は消えます。次はもっと良い伴侶をルルガノーシュにお与えください。


 祈りながら、濡れるのも構わず風呂の蓋に頭をのせると、短くも幸せだった日々を思い返し目を閉じた。
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