魂の番〜生まれた世界が違った為に不幸だったらしいのですが、転生先では幸せになれますか?〜

あやまみりぃ

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苛立ち(ルルガノーシュ視点)

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 ーー裕人の捜索を開始した翌日の執務室。

 “北の門番が気絶させられていた”という報告以来目ぼしいものが無く、日が過ぎていった。

 神子が拐われた事は最低限の人員のみが知る状況に抑えられたが、“狼族らしきヒトに北門番が気絶させられていた”という事は、城外で発生していた事の為、情報は瞬く間に広まってしまった。

 和平条約2周年の前に、狼族への疑惑が浮上してきた形だ。

 狼族に反政府派が存在するように、獅子族にも反狼族派は貴族にもいる。

 事が大きくなれば、ルルガノーシュの一存だけでは、狼族への敵意を抑える事は難しいだろう。

 今神子が誘拐されたとバレれば、疑惑の目は確実に狼族に向いてしまう。

 その為、神子が誘拐された旨は最小限の人員のみ知る事になり、それは最小限の人員で捜索をしなければならない事を意味していた。

 ルルガノーシュは裕人が居ない不安で寝られなくなった寝不足の頭を振り、ぎりりと歯軋りを立てる。

「何故足取りの痕跡が無いのだ……」

 普通は、誘拐後数時間であれば、微かにでも裕人の匂いが残っており、足取りを追うのは難しく無い。それも、嗅覚がするどいラット族の者に追わせたにも関わらず部屋以外から裕人の匂いは感じられなかったという。
 直前まで部屋にいたニコラスやメイド達を全て言い当てたラット族の能力は間違いがないだろう。
 ただ、その日は食べていない筈の菓子のような“甘い匂いがした”というが気になる所ではあるが、その微かな甘い匂いは辿る事が出来なかった。

「陛下、こちらはまだ調査中で公式のものでは無いのですが、体臭を消す香水があるという話は以前に噂になった事がありまして、その香水を使えば人族の場合は完全に無臭になり、獣人族であれば、種族によって菓子の匂いや果物の匂い等甘い匂いになる事があるそうです。ただ、効力は2、3時間程と短いですが。元は獣人の匂いアレルギー持ちの第二王女の為に、人族が開発した香水のようです。ただこちらは5年前の話で、成長された王女のアレルギーは落ち着いているため、その後生産がされているか等はまだ分かりません」

 クロードの進言に、ルルガノーシュはぎろりと睨む。

「さっさと調査しろ」
「……陛下お口が悪いですよ。それにそんなに眉間に皺を寄せてたら、せっかく隠蔽した神子不在がバレてしまいますよ。本当に狼族が関わっているのか、関わっていないのか微妙なラインなので、和平条約2周年記念式典の準備は滞りなく進めてください。この時期を選んでくる事からも戦争を再開したい反政府派の狼族の仕業か、戦争を勃発させたい周辺国の罠かと思いますが。まぁ、私個人の意見としては、いくらユタ王が国内の勢力を抑え切れていないとしても、ここまであからさまな事から、後者のような気はしますが」

 クロードの言葉にルルガノーシュも頷く。
 ユタ王は少し甘い部分もあるが無能ではない。それに非公式ではあるが国内の件は前回ほぼ片付いたと言っていたのだ。ルルガノーシュもクロードの意見の通りだと思った。
 今迄はどうも思わなかった戦争も、今は何としても回避したい。その為にも裕人を見つけ筒がなく和平条約2周年記念式典を行わなければならない。

「クロード、ヒロの捜索頼んだぞ」


♢♢♢


 ルルガノーシュの希望もクロードの捜索も虚しく、日々は刻々と過ぎていく。

 魂の番とは不思議で、裕人がこの世界でまだ生きている事は分かる。

 ただ、執務が終わった後、出迎えてくれる裕人が居らず、1人で寝るベットが酷く寂しく感じる。

 まだ出会って数ヶ月だというのに、既にいなくてはならない存在なんだと実感する。

 ーーヒロ、今何処にいるんだ。早く俺の隣に帰って来てくれないとまた進み始めていた時間が止まってしまいそうなんだ……。


 そして、和平条約2周年記念式典の前日の朝、人族の少年が倒れていた報がルルガノーシュに知らされ、警備の詰所に運ばれている事を聞き及ぶと、高速で着替えて、全速力で詰所へ向かった。


♢♢♢


 ーー警備の詰所。

 ルルガノーシュは王城から最速で警備の詰所へ駆け抜けた。
 詰所に着くと案内等されなくても、裕人の匂いと気配で部屋がわかった為そのまま早足で進む。

 ーーバンッ

 乱暴にドアを開けてベットに居たのは、あちこちアザだらけ、精液塗れで明らかに凌辱後と分かる全裸の裕人だった。

「これは……どういう事だ」

 狭い部屋にルルガノーシュの威圧が広がる。

「ひっ、ひ、被害、じょ、状況を、か、確認して、まし、た」

 ルルガノーシュは裕人が何故この状況になっているか、無事とは言い難い状態に、今まで楽観していた自分への苛立ちも混ざった怒りが爆発していただけだが、この警備員は“何故手当てしていないのか”という意味でとったようだ。

 ルルガノーシュは意識を失っている裕人を毛布で包むと、抱き抱えて城内に戻った。
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